ラブコメの主人公を評価する前に   作:冴木甲士

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第10話 暮石三葉について

 殺してやりたい。

 奴に対しては、何度そう思ったことか。

 

 赤石と文化祭用の映画撮影で出掛けたところで鉢合わせたとき。

 夏休みにプールで遊んだとき。

 グランピングに行ったとき。

 年末年始を過ごしたとき。

 

 二年生の頃の種々のイベントで接点を持ち、こちらの真意を悟られないように会話を交わしたこともある。

 その度にとめどない殺意が滝のように胸中に流れ落ちてきて、それでも何とか理性で抑え込んで奴との交流を二年生の間は保ってきた。

 

 今や、積年の鬱憤を晴らす時がやって来た。

 殺すことは一旦置いておくとしても、ただで済ますつもりは、絶対になかった。

 

 暮石三葉を、追い落とす。

 

 

 

 

 

 

 宮城にとって暮石は、原作において最も嫌悪していたキャラクターだった。

 

 暮石は二年生の時の文化祭において初めて交流を持った赤石のクラスメイトであり、赤石が八谷を救った件を通じて赤石に興味を持ち、交友を重ねてきた。

 既に触れた通り、二年の修了式にて鳥飼の主張を鵜呑みにする形で赤石を無実の罪により糾弾してからは赤石と断交し、三年の卒業式の少し前で霧島から証拠の動画を渡された後に謝罪してほぼ強引に赤石と寄りを戻した。

 その後の卒業旅行で赤石に告白し、謝罪のとき以上の強引さで赤石に迫り交際が成就。赤石は暮石を彼女とした状態で大学入学まで迎える、というのが原作の筋書きだった。

 

 暮石は普段なら無害な人間であるが、こと赤石が関わると作中随一の狂った邪悪な性格を発揮している。

 

 まず、暮石は赤石のことを根本的に信じていない。

 鳥飼が起こした例の事件に対して赤石が鳥飼に迫ったものと信じ込んだり、八谷への赤石の感情を邪推したりと赤石への猜疑心が強いところを原作で随所に見せていた。

 前者の事件にても結局自分から真相を確かめる行動を起こさず、霧島から決定的な証拠が出るまでは赤石への疑いを残している有様だった。

 その癖自身が赤石に疑われた際には赤石に制裁じみたことをした上で「疑われる方も、辛いんだからね!」と赤石を責めていた。自身の行動を平然と棚に上げる暮石の鉄面皮な(さま)が宮城には印象的だった。

 

 次に、暮石は自身の言動に何ら責任を取らない人物だった。

 赤石とずっと友達であり赤石のことを信じて裏切らないという旨の発言をしていたが、修了式にて見事なまでに赤石を裏切り、率先して赤石を貶めていた。

 また、告白の際にも遊びやキープでいいからという条件を自ら提示し交際を始めた二日後に、その条件を一方的に撤回しようとしていた。赤石自身キープというような適当なことを受け付けない性格ではあったが、さすがにこのときは暮石の自分勝手さをたしなめたほどだった。

 ちなみに修了式でやったことへの謝罪の折にも、暮石は赤石に許してもらうことを望み支離滅裂な弁明を繰り出している。発言を一貫するという心構えが暮石には端から無いのであろう。

 

 何より、暮石は好きとしている相手を守ることはまずなく、むしろ自分の意に沿わないなら相手を攻撃するという性格だった。

 修了式において暮石が赤石に「気持ち悪いよ」と言い放ち、鳥飼を犯そうとしたという「罪」を周知したのは、暮石が好きな相手だった赤石が自分以外の女に迫っていたと認識し、自分を選ばなかったことを理不尽に恨んだからだった。

 恋愛に関して何かと癖の強い女性キャラクターが多い原作ではあるが、好きな相手を積極的に害そうとするのは宮城が読み進めた時点においては、唯一この暮石ぐらいであった。

 

 総じて、暮石は極めて自己中心的なタイプだった。

 鳥飼は原作において赤石の性格を「自分本位で身勝手」な「腐った性根」と評した描写があるが、宮城にとっては鳥飼の幼馴染である暮石の方が、よほどその評価にふさわしいと思えた。

 

 

 

 

 

 

 鳥飼の罪が新聞や裏掲示板サイトで暴露された翌日。

 

 宮城が赤石の教室を訪ねると、赤石が手紙を読んでいた。

 

「お、どうしたそれ?」

「果たし状らしい」

「今の時代にか?」

 

 赤石が宮城に手紙を見せた。

 

『今日の昼休み、別棟の空き教室で』

 

 宮城にとっては原作でも見たことのある文が書かれていた。

 手紙の端には「暮石」と、差出人らしき人物の名前もあった。

 

「今朝、下駄箱に入ってたんだよ」

「……行く、のか?」

「とりあえず行って来ようかと」

「やめとけ」

 

 宮城が、赤石を制止する。

 

「どうせろくな用事じゃない」

「行ってみなきゃわからねえだろ」

「こんなタイミングで呼び出すってことは大方謝罪するためだろうな」

「なら真っ当な用事だろ」

「お前が無実と決定的に証明された後でする謝罪でもか?」

「……」

 

 赤石が、黙る。

 

「あいつが赤石を真っ先に疑って、お前が鳥飼を犯そうとしたって広めたんだよな?」

「まあな」

「そんな奴が今の今まで近寄りもせず無実の証拠が上がった途端に『疑ってごめんなさい。これからは前と同じように仲良くしましょう』なんて言ってきたらお前受け入れるのか? 俺なら金輪際(こんりんざい)関わりたくないが」

「言われてみないことには何とも」

「あと謝罪だとしたらお前を目立たない場所に呼び出すのもおかしいぞ。お前に濡れ衣を着せたときはクラスメイト達の揃った教室でやっておいて、自分が謝るときには人目のつかない場所でやろうとするってことだからな。あいつがまずこの教室へ足を運んで赤石に会いに行くのが筋だろ」

「別に謝罪の用事とは限らないだろ」

「謝罪じゃないならなおさらだ。あいつが赤石にしてきたことを考えれば、一体何を仕掛けてくるかわかったもんじゃないぞ。例えばあいつの友達だった鳥飼がこうして弾劾されてるのを赤石に逆恨みしてるのかもしれない。その恨みを晴らすべく赤石に妙な真似をしてくるかもしれない。そうじゃなくても、何かしら面倒な事態になる、て思わないか? そんな藪蛇になるよりは、ひとまず無視した方がいいと俺は思うんだが」

 

「……お前、もしかして暮石が嫌いなのか?」

 

 赤石の質問に、宮城は意外の感がした。

 少々暮石のことを悪く言い過ぎたか。

 

「当たり前だろ。あれだけ仲良かった友達をあっさり裏切るようなの」

 

 しかしもう状況が状況であるし隠す必要もないと、宮城は正直に答えた。

 

「そうか」

 

 赤石は、そう返事した。

 

「ま、昼休みの時間が潰れるのも嫌だしやめるか」

 

 赤石は、手紙をしまった。

 宮城はひとまず安心した。

 

 

 

 

 

 

 昼休みに別の場所で赤石と宮城と他の友達が過ごした、その日の放課後。

 

「赤石君!」

 

 暮石が、赤石のいるクラスの教室に入ってきた。

 赤石の席の隣には、赤石と雑談する宮城が、いた。

 

 放課後も迎えたばかりであり、まだ近くには結構な数の、生徒達がいた。

 

 

 

 

 

 

 来ると、思っていたよ。

 

 お前とはここで、けりをつけなきゃな。

 

 宮城の正念場が、始まる。

 

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