ラブコメの主人公を評価する前に   作:冴木甲士

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第13話 退学について

 赤石達が卒業旅行の計画を高梨の別荘で進めた日。

 櫻井は、八谷の件をめぐって赤石に決闘を申し込んだ。

 

 普段状況に応じてそれなりに言葉を選んでいる赤石だったが、卒業して櫻井との対峙もここで最後にするつもりだったのか、今までにないぐらいの長広舌で櫻井の生き様を全否定した。

 宮城にとってはこの上なく適切な櫻井の評価に思えたが、櫻井はどうやら納得が行かなかったらしい。櫻井は逆上して赤石に襲い掛かるが、子供騙しじみた手に引っかかって赤石を取り逃がす。櫻井は赤石を追ってる最中、赤石から周りの一般人に聞こえるような大声で櫻井が犯罪者であることを示唆する発言をされ、旗色が悪くなって手を引いた。

 そんな、主人公に喧嘩を売るも無様に負けて退散する小悪党にしか見えない櫻井が、その直後に別所で暴行事件を起こした。

 

「こいつが! こいつが全部おかしいんだろうが!」

 

 櫻井は、叫ぶ。

 

「自分がおかしいことを、自覚しろよ!」

 

 頭のおかしいことを、ひたすら叫ぶ。

 

 原作に少しも(たが)わない行動をする櫻井の様子を、宮城は遠巻きにスマホで撮影していた。

 

 

 

 

 

 

 宮城は、翌日に鈴ノ宮高校の校長室を訪ねた。

 本来ならこの学校にはもう用は無いはずだが、宮城が校長に

 

「櫻井の件で、どうしても学校、特に校長先生へ申しておかなければならないことがございます」

 

 とアポイントメントを取り、こうして初めて校長室の中に宮城は入った。

 

「やあ。元気かね、宮城君」

「おかげさまで。先日は卒業証書を頂き、どうもありがとうございました」

「いや、お礼を言われるようなことではないよ」

 

 さて、と校長は本題を切り出す。

 

「早速だが、櫻井君のことで何の話があるんだい?」

「まずはこちらをご確認いただければと」

 

 宮城は、昨日の櫻井の様子を収めた動画を、校長に見せた。

 

「……これは?」

「昨日、櫻井が路上で一般の方に暴行を働いておりました。私はたまたまその場に居合わせ、必要と思い急遽証拠として撮影したものです」

「……」

 

 校長は、絶句した。

 

「つきましては、誠に恐縮ながら進言いたしたいことがございます」

「進言?」

 

「この事件を機に、櫻井聡助を退学にすべきかと存じます」

 

「……!」

 

 校長は、再び言葉を失う。

 

「もう彼は卒業した身だぞ」

「高校における卒業生の在籍期間は今月の末日まで。厳密には卒業した状態ではないはずです」

 

 インターネットにて偶然に得た知識だが、宮城は櫻井への対処にあたり利用しようとしていた。

 

「櫻井は去年の修了式でテロ行為をした罰として停学となっておりました。前科がある上に、去年の赤石への暴行事件をはじめ、様々な悪行を働いた噂がいくつかの証拠とともに生徒達の間で広まっております。学校としてはそのような生徒を正式に卒業させるよりも、懲戒として退学処分を下す方が妥当かと」

「学校の心配をしてくれてありがとう。でもね、そういうことは生徒の君が口を出すことではなく、私達教師が責任持って判断することなんだよ」

「私が懸念しているのは、このようなデータもあることです」

「ん?」

 

 宮城が、スマホからとある録音データを再生する。

 

『そこで! 私は君たちが転校しないよう、充実した学園ライフを送れるように、君たちの学園生活をサポートする、一人の男を招集したのさ!』

 

「!」

 

『家事をやらせれば日本一、細かい所に気が付き、先生たちからの人気はとどまるところを知らない! 究極の器用貧乏とは、櫻井聡助君、君のことだ!』

 

 それは、宮城や櫻井が一年のとき。

 学校のイメージアップに稀代の問題児である櫻井を起用しようとしていた、校長の話を録音したデータだった。

 

「なぜ、そんなものが……」

「霧島、という生徒を覚えておいでですか?」

「! まさか、彼が……」

 

 実際には霧島ではなく宮城が自ら録音したもの。

 しかし、校長は宮城の言葉から早合点した。

 当時櫻井の友達を装っていた霧島も櫻井が校長に呼び出されているのを当然知っていたこと、それと卒業式での霧島の所業から霧島がやったことと誤認したようだ。

 

 特に訂正せず、宮城は話を進める。

 

「今や櫻井は同学年の女子のほとんど全てから怨恨を持たれております。いつ誰が櫻井の所業を不特定多数の方々が閲覧するサイトで告発するか予測いたしかねる状況です。このデータも、私以外の誰かの手に渡っているかもしれません。そうなれば、せめてもの報いにと櫻井を恨む者が早まった真似をする恐れもあるでしょう。今この学校にできることは、櫻井に相応の制裁を下し、毅然とした姿勢をお見せになることと愚考いたします。私も、恩のある母校や校長先生がいわれのない悪評に晒されるのを防ぎたいのです」

 

 どうかご検討を、と宮城は対面している校長にうやうやしく頭を下げた。

 

 卒業式において暴露された、櫻井の修学旅行における女湯侵入の疑惑は生徒達の記憶に新しい。

 想定される被害者が櫻井と同学年の女子全員である以上、櫻井が彼女達に恨まれているのは覆しようのない事実だった。

 そんな彼女達に、霧島が櫻井と校長の癒着を匂わせるようなデータを渡しているかもしれない、と校長が邪推したらどうするか。

 

「……君の気持ちは理解した。この件はひとまず私の所で預かろう」

 

 校長は、それで宮城を帰した。

 

 

 

 

 

 

 数日後、櫻井は鈴ノ宮高校を卒業改め退学となった。

 櫻井が卒業式後に起こした暴行事件が、直接の理由だった。

 高校卒業の資格を失った櫻井は、今春の大学への進学が必然的に不可能となった。

 

 卒業証書授与後の退学処分という、鈴ノ宮高校史上初の処遇を受けた櫻井の噂は瞬く間に卒業生および在校生へ広まり、生徒達、特に櫻井の元同級生の女子達の嘲笑を誘った。

 

 行方知れずとなった霧島も、この結末を知ったら抱腹絶倒することだろう。

 

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