ラブコメの主人公を評価する前に   作:冴木甲士

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第5話 八谷恭子について

 宮城が赤石と親しい女性キャラクターで特に気に入っている三人のうちの一人が船頭であることは、先に述べた。

 残る二人のうちの一人は、八谷恭子である。

 

 八谷は原作当初において櫻井に好意をもって取り巻く美少女達の一人であった。

 櫻井との交際を成就するために赤石に協力を頼んだ縁で赤石と交流するようになり、物語が進むにつれて次第に櫻井から赤石へと心変わりするようになる。

 赤石に告白した、数少ないキャラクターでもあった。

 

 八谷は人の行動を評価することに長けていた。

 八谷が赤石のことをまだよく知らない頃に二人である事情から外出したとき、絡んできた不良達へ赤石が大人しくお金を渡して容赦をお願いしたことがあった。

 当の赤石はその行動を自嘲していたが、八谷はその行動の真意を自分達を守るためだと見ていた。

 赤石達にとって戦うよりも、逃げるよりも、より安全を確保しやすい選択をしたのだと判断した。

 その後も赤石は八谷のいじめに対し、自らが突然狂ったようにクラスメイト達を弾劾する姿を見て、八谷から赤石へ標的を変えるためにそうしたのだと看破していた。

 

 次に八谷において特筆すべきは、逆境の中でも何度も立ち上がれる芯の強さだと宮城は考えている。

 文化祭の前後で心の荒れていた赤石と喧嘩したときでも、自分から行動して仲直りに持ち込む。

 赤石に告白して袖にされ、以後しばらく断交した後に赤石と再び接する機会が巡り、赤石へ誓いを立てた上で復縁を願い出る。

 赤石の影響で大いに消極的となり、人の顔色を窺うかのような性格に変わり、赤石と一緒にいることに苦悩を感じても赤石から離れようとしない。

 (赤石にも言えるが)そこらの人物であればおおよそ耐えきれない状況でも、八谷は諦めず向き合っていた。

 

 その一面で、八谷の抱えている優しさが時に彼女を苦しめることがあった。

 宮城の見たところ、八谷は作中随一の優しい人物である。

 赤石が八谷の告白を受けて赤石が心中を吐露したときに、八谷はただひたすらに赤石を苦しめていたことに心を痛め謝罪を繰り返し、そのために赤石との交流が一時途絶えていた。ちなみにその後で八谷の親衛隊を名乗る男子達が櫻井や赤石への報復を申し出たときに八谷は「他の人に迷惑をかけるのは止めてください。もう私のせいで他人が傷つくところは見たくないんです」と懇願している。

 八谷をいじめていた主犯格であった平田が後に孤立し、新たな友達が欲しいからという理由で八谷に謝罪したときには平田を許し、以降休み時間で一緒に過ごすようになった。

 これだけでも相当に懐の深いと宮城は感じているが、皮肉なことにその優しさが次の事態も招いている。

 

 赤石と結ばれるために櫻井を利用していたことに八谷は罪悪感を覚え、櫻井への興味を完全に失った後でも櫻井を強く突き放すことができなかった。

 他に櫻井と縁を切った元取り巻き達は大体櫻井を強く拒絶している。その中で八谷だけはまともに話ができてしまうのにつけこむかのごとく、櫻井は積極的に八谷へアプローチをしていた(なお、そのときの櫻井は水城と交際中である)。

 赤石の前で櫻井を拒絶するチャンスは何度とあったのに、八谷はそれをことごとく見送ってしまい、赤石に誤解を与えたまま高校卒業を迎えることになる。

 八谷は自分のその行動を「弱かったから」と表現していたが、本当に弱い人間が他者をあそこまで慮り、八谷と同じ状況にあって自分のやりたいことを貫けるわけはないのだと、宮城は今なお思っている。

 

 

 

 

 

 

 三年の、夏休み前。

 

 授業の終わった空き教室を、宮城は外から見ていた。

 

「私も北秀院、行くから!」

 

 その教室には、赤石と、八谷が残っていた。

 赤石と同じ志望校を目指すことを、八谷が宣言したところだった。

 

 修了式のときの船頭に続き、ここだけは見たいというシーンだったので、宮城は赤石達に心の中で謝罪しつつ遠くから眺めていた。

 

「だから、同じ大学に行ったら、仲直り、してほしいの」

 

「私、この一年頑張るから! 赤石が嫌そうなことしないから! だから! だから! もう一度だけ、私のことを信用してほしいの!」

 

 八谷は、誓う。

 赤石を苦しめないことを。

 

「好きにしてくれ」

 

 赤石はぶっきらぼうにそう言って、八谷を受け入れた。

 赤石の性格を考えれば、嫌なときははっきりと「消えろ」「放っておいてくれ」と一蹴するはずだった。

 

 二人に見つからないよう、宮城はさっさとその場を離れた。

 このところの学校生活の居心地の悪さを吹き飛ばす、心温まる情景だった。

 

 近いうちに宮城の気に入っている最後の一人が、赤石とともに原作で最も好きだったシーンを現出するであろうという期待に、宮城は胸を膨らませていた。

 

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