ラブコメの主人公を評価する前に   作:冴木甲士

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第6話 上麦白波について

 この原作を少年向けの漫画に置き換えた場合、主人公として最もふさわしいのは誰か。

 櫻井はしばしば作中で「ラブコメの主人公」と赤石から揶揄されているが、宮城にすれば論外である。

 この原作の主人公はもちろん赤石であり、素質は確かにある。

 しかし、宮城は赤石以上に主人公らしいキャラクターを別に見出していた。

 上麦白波(うえむぎしらは)という、赤石の友人の一人であった。

 

 上麦こそが、八谷や船頭に続く、宮城お気に入りの女性キャラクターの最後の一人である。

 上麦は元来交流範囲が狭く、幼馴染しか信用しないという閉鎖的な性格であり、二年の夏頃に赤石と交流を始めたときも「話しかけないで」と素っ気ない態度を取っていた。

 赤石と共通の友人である高梨をとある一件で救ったときに赤石を見直し、以降は赤石と急速に距離を縮めていく。

 淡々とした言葉少なめの口調が特徴的で、船頭と同様に思ったことがすぐ口に出るタイプであり、赤石との独特なテンポで会話を交わすシーンは宮城にとって原作で特に好きな箇所だった。

 

 二年の三学期、ある事件を機に鳥飼と決定的に敵対した赤石は、鳥飼の幼馴染である上麦とも交流を拒絶し、しばらく二人の間に断絶が生まれた。

 上麦はそれでも決して諦めることなく、高梨を介して、または自分一人で赤石の元へ出向いて関係修復を模索し、赤石と鳥飼の間に起こった事件のあらましを赤石から聞き、赤石から「鳥飼を思い出して嫌なんだよ」との言葉を受けて一旦上麦は身を引く。

 そして、その後の場面。

 

 

 

 

 

 

 八月の上旬、宮城はある教室に足を運んでいた。

 夏季特別講習の行われていた教室から、三年の生徒が使う昇降口までの経路に面した教室の一つ。

 

「あと数カ月違う。これから先、白波と赤石一生付き合っていく」

 

 上麦が赤石と再び交流を取り戻した舞台だった。

 

「白波、赤石信用した。変えない。あかね、反省しない。絶交した」

 

 このシーンを、どれほど待っていたことか。

 

「白波、赤石と仲直りする」

 

 上麦の言葉に、赤石は

 

「裏切らないうちは仲良くするよ」

 

 ようやく上麦との交流を再開した。

 原作において好きでたまらなかった場面が目の前で繰り広げられた感慨に、宮城は恍惚としていた。

 

 

 

 

 

 

 当時鳥飼が赤石に対して起こした事件は物的証拠が全く世に出回っておらず、基本的には鳥飼や赤石の主張からでしか事件の内容を追うことはできなかった。

 多くの生徒が力の無い女性(・・・・・・)である鳥飼の主張を信じ赤石を悪とみなす風潮が校内にはびこっていた中、上麦は赤石の方を信頼。反省の意を丸っきり見せなかった鳥飼と縁を切って赤石との復縁を望んだ。

 上麦は人の言動についてほぼ常に公明正大な見方をしており、幼少のときからずっと仲良くしてきた鳥飼相手でも言動に不審な点があれば鋭く疑い、真相を全て正直に話していた赤石の方を信用した。

 そして上麦は赤石に宣言した通り、鳥飼が赤石に謝罪するまで鳥飼および鳥飼と親しい他の幼馴染とも絶縁することになる。

 

 また、二年までの上麦は自己中心的な行動が多々あった。

 マスコットのように愛くるしい見た目により幼馴染達や赤石などから施しを受けることが当たり前になっていて、上麦本人もそれに思う様甘える形だった。

 三年になってからの上麦は別人のように頼もしい性格になった。

 赤石と関係を修復して以降の上麦は、同じく赤石と仲違いしていた高梨との仲を取り持ち、後には友人を楽しませるためにと卒業旅行の幹事を買って出るようになる。

 人から与えられるばかりでなく、二年のときならば独り占めしていたであろうソフトクリームを赤石や須田に分けたり、時期は遅れたがバレンタインのチョコを赤石に贈ることもしていた。

 

「白波の赤石、乱暴するな」

 

 極めつけは八谷の件で櫻井が赤石に因縁をつけ、赤石の胸倉を掴み決闘を持ち掛けたときのこと。

 上麦が先の言葉とともにタックルで櫻井を攻撃し、赤石を守ろうとした。

 膂力は当然男性の櫻井の方が遥かに上回っているわけだが、上麦は恐れることなく赤石を害そうとする櫻井という「敵」に対して敢然と立ち向かった。

 

 上麦の経歴を整理すると、王道物の少年向け漫画の主人公さながらの行動であると宮城は認識していた。

 

 

 

 

 

 

 ……これまでの三人と赤石の関係を振り返って、つくづく思う。

 

 赤石はなぜ八谷、上麦、船頭のうちの誰かを、恋人に選ばなかったのか。

 どうしてあんな、名を呼ぶことさえ憚られる鬼畜の告白を、受け入れてしまったのか。

 

 経緯は、理解している。

 八谷の告白を断ったときや、上麦の赤石への感情を推測したときの、赤石の心情は原作で十分に目を通している。

 

 だからと言って、一介の読者として納得が行くかどうかは、別の問題だった。

 

 当時の展開を追っていた宮城からすれば、赤石が抜け出すことのできない生き地獄へ吸い込まれていくようにしか、思えなかった。

 

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