異世界転移、地雷持ち。   作:匿名

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何だかんだで週一投稿してるや

多分続かない


地雷持ちでも、成長中

 

 ランクアップです。

 

 冒険者は魔物を狩って魔石を回収することで、初めてルーキーとして扱われるのだそうだ。

 

 あれから、10日ほど経った。

 大半は平原で活動を続けていたが、試験的に西のペトラス川の向こう側にある森へ行った。

 

 ゲルグから程近いこともあり、浅瀬はかなり人の手が入っていて、野生生物を一体も見つけられなかったので、その日以降は平原での活動に戻した。

 

 ひたすらに採取と狩猟を重ねた。

 疲労も凄まじいことなり一日寝込んだ。反省。

 

 あいも変わらず、魔法の発動は全く進歩なしだが、魔力の操作は少しだけ上手くなった…………気がする。

 というのも、身体に循環するように魔力を操作していたら、スキルが生えたのだ。

 

 【筋力増強】

 転移前にキャラクリ画面で見たスキルだ。

 その時は筋力を高めるぐらいしか記載はなかった。

 

 魔力を体に流すことで取得できたのであれば、魔力で肉体を強化していると考えられる。

 その考えのもと、魔力を腕や脚に集中させたりした結果、他にもスキルが生えたのは大成果と言えるだろう。

 

 【豪腕】【韋駄天】

 武器を振るう時や走る直前などに意識して、魔力を集めたら上手くいった。共に魔力を限定的に集中させることで、通常より剛腕になったり、敏捷力が高くなる。

 

 しかし、今のところどれも戦闘で使うことは控えている。驚いたり、焦ったりしたらスキルに流れている魔力が暴走気味になるのだ。

 スキルとして確立しているので、魔力の動きは安定していると思うが戦闘という繊細な行動中に使うことは憚られる。 

 いや、ホーン・ラビット相手ぐらいには使っても、問題ないとは思うけれども。

 安全マージンということだ。

 

 あ、ランクアップについては平原でコボルトと遭遇し、討伐したことで上がった。

 

 今まで角ウサギしか出会ってなかったため、初遭遇時は驚いた。

 とは言っても、戦う相手が二足歩行になったことで、むしろやりやすくなった面もある。大きさも人間の子どもぐらいだ。

 前世で培った人間相手の技術が、一部通用したのが大きかったと言える。

 

 武器なんて持っていない、子供のパンチ程度の威力しか持たない攻撃を、軽くいなし続けて隙をついて首を斬る。

 

 それで解体して体内にある魔石を取り出し、ギルドに売却しに行ったらランクアップしてもらったというわけだ。

 

 最大で10まである冒険者ランクで現在は1。

 それまではランク0のルーキー未満として扱われるらしい。

 

 そんな訳で、魔法や魔力操作の訓練を積みながら冒険者らしく、採取と狩猟に明け暮れていたというわけだ。

 

 そして今――――

 

「それで森の深層から帰ってきたと?」

 

「そうなんでぇ。一人でも全然余裕だったが、食費とか諸々がなぁ」

 

 先輩冒険者に絡まれたので酒を奢りながら、森の深層について情報を絞っている最中だ。

 

 この冒険者――フレディというらしい――は新人冒険者に絡んで、酒を奢らせる代わりにゲルグ周辺での冒険者のイロハを教える、なんてことをしているらしい。

 

 俺としても、情報は大切なので聞ける時に聞いておきたかった。

 

「やはりマジックバッグの類は必要ですか」

 

「おうともさ。だが、ここは殆ど辺境と変わらないからなぁ。偶に流れてくることもあるが高けぇんだ」

 

 森の深層に限らず、街から日単位で離れる場所での活動となると、食料や野営の準備など、手間が非常にかかるらしい。

 

 ソロになるとマジックバッグと呼ばれる、容量拡大、重量軽減、時間遅延が組み込まれた魔法のバッグが必要不可欠らしい。

 

「それでは中層はどんな感じなのですか?」

 

 新しく運ばれた酒を手渡しながら、さらなる情報を集めていく。

 

「中層かぁ。ここの冒険者はある程度成長すると、他所に行っちまうから挑戦する奴が少ないんだわ。だからあんまり人もいねぇ、行けるなら稼げると思うぜ?」

 

 ふむ、いいことを聞いたな。

 1回森に行った時は浅瀬で戻ってきたが、今度は準備を整えて中層に向かってもいいかもしれない。

 

「俺としては中層よりかは、川での活動をオススメしてぇな」

 

「川というとペトラス川?」

 

「そうそう、もうじき寒くなってくるだろ? だから、モンスター・イールや魚、それに水棲の植物が高く売れるのよ。その分寒中対策は必要だから、収支でみればトントンぐらいになっちまうかもだけどな」

 

 なるほど、川か。

 防具が充実してきたら考えてもいいかもしれないな。

 

「そうですか、助かりましたよフレディさん」

 

「気にすんなよー、こっちも酒が飲めて満足なんだからよー」

 

 酔いが回っているのか語尾が間延びし始めたフレディ。

 もう聞きたいことはないと判断し、料金だけ置いて宿へと帰る。

 

 ふーむ。森の中層と川か。

 そろそろ、平原以外を活動拠点にしたいと思っていたからありがたいな。

 平原でも十分に金は集まるのだが、もっと稼ぐとなると少し物足りない。

 それに野生生物が弱い。

 

 

 

 推定デメリットである身体機能の弱体化を、この世界に標準搭載されている肉体レベル――キャラレベル――で補えるだけ補いたいと思っている。

 

 

 その為により多くの魔物を倒す必要がある。

 平原は初心者狩場というのもあり、魔石を持たない普通の生物しか居ない。魔物が居たとしても非常に弱いコボルトくらいだろう。

 

 多く倒すとなれば必然、森の中層に挑むべきだ。

 

「取り敢えず角ウサギ相手に、戦闘でも【韋駄天】とかのスキルを使えるように慣らしておくか」

 

 森の中層という、俺にとって未知の領域となる場所には、ある程度仕上げた状態で挑みたい。

 魔法の使用は無理でも、魔力を活用するスキル群の扱いを問題ないぐらいにはしておきたい。

 

「明日は採取よりも戦闘を優先するか」

 

 狩猟用の袋を多めに用意しないとな。

 

 明日に備え、一日の終わりを感じながら就寝についた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 森の中層にやって来た。

 フレディから情報を集った日から少し経った。スキルの慣らしや装備の新調、ギルドの資料室で森について説明されてる本を読み終えた俺は、ペトラス川の向かい側に広がる森の中層に来ていた。

 

 この森の中層や深層と言われているが実際は少し異なる。ギルドの資料によると、この森は国の外にまで広がっており、いわゆる未開拓領域に繋がっているらしい。

 

 その都合で、深層と呼ばれている場所も森からしてみれば本当に深部なのかもハッキリとしていない。

 

 ゲルグから何時間、何日距離が離れているかで、中層に深層と区別しているようだった。

 

 

「…………コレが目印か」

 

 ゲルグから小走り(休憩込)3時間程で到達する地点に一際大きな木が生えていた。

 

 資料で見た通りだ。

 この大樹が浅瀬と中層の境目になる場所らしい。

 

 そして、ここから先がほとんど人の手が入っていない自然の領域となる。 

 

「さて、今日は日帰り。時間もないから早めに環境へ慣れないとな」

 

 【索敵】の範囲に反応はない。

 中層と言ってもまだ入口、もう少し奥に行く必要があるみたいだ。

 そう考え索敵を継続しながら歩き続けると、ようやく敵性存在がヒットした。

 

 ふむ、弱い。平原の角ウサギよりは強いが、コボルトと同等程度か。

 

「行ってみるか」

 

 弱くともこの森ではファーストエネミーだ。

 

 【索敵】の導きに従い、歩くこと数十秒。

 目的の存在が見えてきた。

 

 小柄な身体に青緑の体表、醜いとしか表現できない顔つき。

 

 まず間違いなくゴブリンと言われる魔物だろう。

 逸れなのだろうか、周囲に他の生物はおらず視界に映る一体のゴブリンしかいない。

 

「群れが居ないのは好都合…………いたとしても大丈夫だとは思うが」

 

 戦闘訓練も兼ねているので、わざと気づかれるように足音を立てながら近づく。

 

 鈍いと言われるゴブリンも流石に気が付いたか、キィキィ喚きながら手に持ったこん棒のようなものをこちらへと向ける。

 

「さて、ゴブリンであるが森の戦闘は初めてだ。油断なくいかせてもらうぞ」

 

 20万レア近く消費して手に入れた、黄鉄の穂先と鉄の斧刃が取り付けられた斧槍をクルリと回して、目の前のゴブリンへと構える。

 

 互いに睨み合うこと数瞬、先に動き出したのはゴブリンからだった。

 こん棒を大きく振り上げ、短い足を回して走り寄ってくる。

 

 徐々に距離が縮まり、後ろに引っ張った武器を鈍重に振り下ろすゴブリンを正面に捉えて、構えた斧槍を動かす。

 その重さに似合わず滑らかに動いた斧槍は、こん棒の側面へ的確に当たり、目標がズレて流れるように俺の真横に叩きつけられる。

 

 一般的な受け流しだ。

 ある程度の技量があれば誰でもできる防御技ではあるが、知性の低いゴブリン相手には効果覿面らしい。

 

 俺の頭をかち割ろうと叩きつけたのに、実際には掠りもしていないのだから。

 その動揺のままに動こうともしないゴブリンに対して、再度構えた斧槍の穂先を脳天へと突き穿つ。

 

 普遍的な生物共通の重要機関である脳を破壊する一撃は、当然ながらひ弱なゴブリンを殺すには十分すぎるモノだった。

 

 森の中の初陣はあっさりと終わりを告げた。

 

「まぁ、ゴブリン相手ならこんなものか。十全にとはいかんがある程度、扱えるようになった身体強化系のスキルを試したかったんだけどな」

 

 魔物の中でも最弱の一角。仕方ないのだろう。

 

 特にこれといった逡巡なく戦闘は終わったが、まだやることはある。

 

「魔石は取らないとな」

 

 ゴブリンは魔石以外に価値はなく、その魔石も250レアと非常に低い。

 平原の時と同じような稼ぎをするのであれば、最低でも150体は討伐しないといけない。

 

 雑魚であるが労力に見合わないだろう。

 

 そんなことを考えながら、頭蓋にナイフを入れ【解体】を発動させながら、海馬辺りにある魔石を取り出した。

 

「これで250レア…………割に合わんな」

 

 取り出した魔石を眺めながら嘆息をつく。

 

 所要時間こそ少ないが取り出す手間を考えると、

釣り合ってない。

 

 

 ゴブリンの死体を放置した後(ある程度は森の生物がお掃除してくれる)は、森の奥に進みながら時折遭遇するゴブリンを狩っていった。大半は二体以上で徒党を組んでおり、初遭遇時の一体のみは珍しい方だった。

 

 ゴブリンが二体や三体に増えようが、武人として前世より培われている殺気感知があるので背後からの攻撃だろうと躱すことは容易だった。

 これは別にスキルじゃない。いずれはスキルとして確立するだろうが、いまは元から生物として備わっている感覚を頼っているだけだ。

 

 それに【索敵】も使っているので奇襲などもなく、何匹相手だろうと見つけたら倒しに行くのを四半日ほど続けていた。

 

 ◇◇◇

 

 朝早くからこの森に来たが、それでも徐々に木々の隙間から漏れ出る日光が夕焼けに染まり始めているのが伝わってくる。

 

 そろそろ潮時か。

 稼ぎで見れば到底足りないが、それでも平原の時とは比べ物にならないぐらい狩ったと思う。

 魔石以外に回収物もないのでかなり身軽だ。これなら走って帰れる。

 

 そういう風に考えていた時ほど、予想外はやってくるんだろうな。

 

「ん? この反応は…………」

 

 今まで遭遇してきた中で一番強い反応だった。

 

 しかも、俺の存在に気がついているのか、ゆっくりとこちらに迫ってきている。

 

 …………逃げるか? いや、素性が分からん。

 どんな奴なのかだけでも確認しておくか。

 

 相手はゆっくりと向かって来ている。

 ここで急に動けば無駄に刺激してしまうので、俺もゆっくりと斧槍が振りやすい周囲から木々が離れている場所へと移動する。

 

 それに合わせて敵性存在も動いてくるのが分かる。

 

 ――――数秒後、見えた姿は巨大な熊だった。

 

 のしのしと歩く姿は強者のそれ。

 

「デカ……いなぁ。確かヴァイプ・ベアーだったか? 【看破】【鑑定】」

 

 資料に載っていた森の生物分布に確か、そんな名前があったはず。

 

 『ヴァイプ・ベアー 状態:健康』

 

 『ヴァイプ・ベアー 森に生息する熊

  皮が高価。肉も珍しくはあるが美味しくはない』

 

 間違いなさそうだな。

 

 それにしても、立ち姿で3メートルぐらいになるだろうか。 

 流石の俺もこの大きさは初めて見たぞ。

 

 これは逃げるのは無理だな。

 俺の知ってるクマの生態は、犬並みに嗅覚に優れているってのと、短時間なら時速50km近く出ることぐらいだが、それでも十分に脅威的だ。

 

 それに、今のはあっち(前世)基準の話。

 この体格ならもっと速いかもしれない。

 

 そう考えると、ここで倒す以外に道はない。

 延々と追いかけられる可能性もあるのだから、というより、現状体力の無い俺が全速力で走り切れる距離なんてたかが知れている。

 

 それに――――

 

「異世界らしくなってきたな?」

 

 今までは何かと理由をつけて堅実に生きてきた。

 この異世界でだ。

 

 俺も男子だ。武人だ。

 逃げれる可能性の低いこの場に限っては、無理無茶無謀を抑える必要はない。

 

 

 …………久々に血が滾ってくる。

 

 

 手に持っていた斧槍の切っ先を、殺気とともに眼の前の獣へと向ける。

 

 ふと、ヴァイプ・ベアーの足が止まる。

 

 武器を自身へ向けられたこと、そして獣の本能で殺気を感じたのだろう。

 先ほどまでのような弱肉強食の世界、その上位者としての余裕は既になく、俺のことを"餌"から"殺すべき敵"と認識したのだ。

 

 今まで四足歩行だったヴァイプ・ベアーは、両の腕を持ち上げ立ち上がる。

 そして威嚇するかのように鈍い声を上げる。

 

 背丈3m、横も腕を広げればもっとありそうだ。地に響く重低音も相まって恐ろしい限りだ。

 

 でも、二足歩行の今は好都合。

 

「この世界で初の強敵……がどうかは分からんが。どこまでやれるか、試させてもらおうか」

 

 斧槍を両手で構えたまま走り接近する。

 

 近づいてくる俺に対して、ヴァイプ・ベアーは立ったまま腕を振り、横薙ぎに攻撃してくる。

 

「……っ……まずは様子見から」

 

 姿勢を低くしながらの突進を、より深くまで沈み込ませて、伏せに近い体勢にすることで、頭の上を腕が通過していく。

 

 まだ相手がどれほど強いのか分からないので、攻撃は受けない。今の突進も回避を前提にしているので、苦もなく避けれた。

 

 伏せから起き上がり、片腕を振り伸ばしきった状態のヴァイプ・ベアーの首めがけて、穂先を突き出す。

 

 それを見かねたのか、相手はもう片方の腕を伸ばしきった腕とクロスさせるように、先程とは逆方向からの横薙ぎを繰り出した。

 

 攻撃の予備動作が見えたので首は諦め、さっと身を引く。

 

「っと……案外、速いな。相応の筋肉はついてると?」

 

 攻撃モーションこそ、大振りで予備動作が激しいので分かりやすいが、筋力にもの言わせた攻撃速度が凄まじい。

 

「横薙ぎは回避一択だな」

 

 一連の動きから、腕を横に振るう攻撃への対処を決める。

 

 そして次は、最初からある程度近づいた状態で戦闘を続行した。この距離なら横薙ぎをしようとすれば、一気に懐に入り込んで刃を当てる事が出来る。

 

 ヴァイプ・ベアーもそれが分かっているのか、先程までのような大振りはなく小さな攻撃を頻発していた。パンチなり、噛み付きなり、様々だ。

 

 しかしそれも長くは続かない。

 痺れを切らしたヴァイプ・ベアーは、おもむろにその巨腕を高く振り上げ、俺めがけて振り下ろしてきた。

 

 当然、今までと違う動作に警戒していたので当たるはずもない。

 ドシンと強く叩きつけた攻撃を、余裕を持って大きく外側に回避した。

 こっち側に避ければ、もう片方の腕からの攻撃がしづらくなる。

 

 そんな隙があれば結果として────

 

 ヴァイプ・ベアーの顔を突くように斧槍を前へ出す。

 顔面コース間違いなしだったが、流石の野生生物。鈍重ながらも首を傾けることで、口から耳にかけて大きく裂かれる程度で済んだ。

 穂先には当たらなかったが斧刃部分で裂けたのだ。

 

「手ごたえあり、でも致命傷には至らんか」

 

 これまでの攻防で、一番の重傷なのは変わらない。今までとは比較にならない程の大きな雄たけびか悲鳴か分からないような叫び声をあげるヴァイプ・ベアー。

 

「もう少しか…………ん? いや、待てよ。ちょっと試してみたいことが出来た」

 

 戦闘中にもかかわらず、ふと頭をよぎった可能性に思考を割かれる。

 

 ヴァイプ・ベアーはこちらを警戒してか、物凄い形相で睨みつけているが動こうとしない。

 

 数秒の間、お互い動くことはなかった。俺は考え事、相手は警戒してだろうか。

 それでも、もうじき決着がつく。

 

 斧槍を()()で握りしめ最初と同じように走り出す。

 ヴァイプ・ベアーも近づかれるのを嫌ってか、上に振りかぶった巨腕を俺めがけて叩きつける。

 対するは、ゴブリンの時みたく斧槍の柄の部分を腕の側面に押し当て、逸らすように腕の到達地点をずらした。完全に逸らすことはできないまでも、攻撃を凌ぐことぐらいはできると判断してのことだ。

 

 攻撃事態は問題なく、ギリギリではあるが【豪腕】や【筋力増強】を用いることで逸らせた。しかし至近距離の地面を叩きつけることで生じた揺れは、俺の体幹をスキルでサポートされないらしく見事に崩した。

 

「……っ!……こんな時にでもデメリットか」

 

 ひ弱な身体では、前世の肉体ですら持ちこたえれたであろう今の衝撃に耐えきれなかった。

 それでも攻撃をやめる理由にはならない。止まっているのは攻撃を外した相手も同じ。

 体勢を立て直し、突貫する。

 

 大きく切り裂かれた顔。

 口の様に閉じられず晒される露出する内部を見つけ、俺はもう片方の手に持っていた木の枝を傷口に刺しこんだ。

 

 痛覚を刺激する行為。これだけでも十分にダメージを与えられるが、仕留めるならばもうひと工夫いる。

 傷口を刺激され、悲鳴を上げるヴァイプ・ベアーを横目に見ながら、とある魔法を発動する。

 

「『加重(ヘビー・ウェイト)』!!!」

 

 刺し込まれた木の枝に魔法と莫大な量の魔力が流し込まれる。

 

 瞬間────ボンッ

 

 木の枝に込められた魔法『加重』。

 時空魔法に分類されるそれのレベルは1相当。

 

 本来は失敗なんてするはずのない初歩的な魔法。

 しかし、俺からすれば超難易度だ。制御を放棄すればどうなるか。

 

 魔力の制御を手放し、際限なく流し込まれる魔力に木の枝はとうとう耐えきれなくなり、結果として小さな魔力爆発を引き起こした。

 これが攻撃魔法やレベル7や8相当の補助魔法の魔力爆発なら、周囲を盛大に巻き込んだ大爆発間違いなしなのだが、そこを見誤る俺ではない。

 

 ヴァイプ・ベアーの頭の中のみを的確に破壊しつくす程度の魔力爆発に収まった。

 脳を失い、足に力が入らなくなったのか、勢いよく膝から崩れ落ちた。

 

 夕焼けの光が残る森の中で、【索敵】を発動しながら乱れた呼吸を正す。

 

「…………よし、成功と言っていいだろう。攻撃に転用した魔力爆発」

 

 戦闘中に思いつき、実践した即興の攻撃方法。

 それまでの過程が若干危なかったが、概ね成功だろう。

 

 しかし、その感慨にふける余裕はなさそうだ。

 

 漏れ出ている光が徐々に暗くなってきている。

 日の光が無くなった状態で解体なんてできるはずもない。

 

 急いでヴァイプ・ベアーの解体を済まさなければ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それから暗くなってくる空間の中、なんとか換金で高価である皮と胆嚢を剥ぎ取り、安価であるが肉も解体していく。

 月明かりだけが頼りとなった頃にようやく終わった。

 幸いなことに他生物がやって来ることはなく、解体に集中することができたので比較的早く済ませることが出来た。

 

 そして、行く途中で付けていた目印を辿りながら、外が真っ暗闇の中ゲルグへ帰還することが出来た。

 遅くギルドに戻ったことで、いつも担当してくれる受付嬢――ケトラ嬢が心配してくれた。

 

 まぁ、いつもは夕方過ぎぐらいには帰還していたのに、今日は夜もいいところだ。仕方ないだろう。

 

「これの換金を頼む」

 

「これは……魔石ですね。大きさ的にゴブリンでしょうか? 確認しますね」

 

 ゴブリンの魔石が大量に入った袋を手渡す。

 受付に並んでいる冒険者が少ないからか、ゆっくりと確認しているようだ。

 

「それで、どうしてこんなに遅くなったのですか?」

 

「もう少し稼ぎが欲しいと思ってね、西の森に挑戦してみたんだ。傷こそ負ってないけど、時間調整を間違えた」

 

「ゴブリンの魔石ですから推測してましたが、森に行かれてたのですね。新人でも早い方は登録後、2.3日で森に行かれる人が多いんです。そして、そういう方に限って早死にされるんですよね」

 

 実体験からか、居なくなっていった新人を思い出すかのように深いため息を吐き、魔石を確認しながら教えてくれる。

 

「確認しました、32個。換金しますと8000レアですね」

 

 やはり安い。というより、ゴブリンが割に合わない。

 今度から見かけたら狩るぐらいで、基本放置でもいいかな。

 

「あ、その顔……やっぱり割に合わないですよね、ゴブリン。積極的でなくてもいいので、時折狩って頂けると助かります。コロニーなどが出来てしまったら大変ですから」

 

 俺の考えが顔に出ていたのか、ケトラ嬢はそのように言ってくる。確かに20匹単位とかで群れられたら面倒だな。

 

「分かりました。機会があればそうします」

 

「お願いしますね……それと、今回はゴブリンだけですか?」

 

「いや、というよりもこんなに遅くなってしまったのは、帰還間際にこいつに出会ってしまったからだな」

 

 懐から袋に入ったヴァイプ・ベアーの剥ぎ取った部位を取り出す。ケトラ嬢は渡した袋を開き中を確認する。

 

「この毛皮、もしかしてヴァイプ・ベアーですか?」

 

「そうだな、ちょっと危なかったが問題なく倒せた」

 

「流石です。普通の新人さんなら死んじゃってますよ」

 

 そんな事をけろっと言ってくる。

 確かに、あのデカさだと遭遇した時点で人生終了だな。

 

「…………はい、確認出来ました。胆嚢と肉も合わせて17000レアですね。顔の部分以外、綺麗ですからいいお値段です」

 

 魔石代と合わせて25000レアか。

 やっぱり割に合わんな。特にヴァイプ・ベアーに遭遇したらその時点で袋が一杯だろうし。稼ぎも減りそうだ。

 

「ありがとう。これからは森で活動するから、遅くなる日が増えるかもしれない」

 

「分かりました。無茶をなさらず頑張ってくださいね、命あっての物種ですから」

 

 報酬を受け取った後は、真っ直ぐに宿へと帰った。

 宿屋の店主も帰るのが遅くなった為、心配してくれていたようだ。

 

 いつもの部屋に戻りベッドに腰掛ける。

 ここまで来てようやく一日の終わりを実感する。

 

「……稼ぎは不味いが、得たものは大きかったな」

 

 今日の振り返りだ。

 まず、戦闘経験。ゴブリン相手とは言え、合計で30体を超える数を一日で倒した。合間にしっかりと休息を挟めば問題なかった。

 ヴァイプ・ベアーという前世よりも巨大な生物のと戦闘も出来たことは僥倖だろう。

 

 五体満足で帰れたのもデカい。

 もう少し安全マージンのハードルを下げても良さそうだな。

 

「野営もしてみたいが…………問題は魔法だな」

 

 魔法が使えるようになれば、水も出せる、灯りも出せる。時空魔法も万能だ。

 

 今回のデメリットを活かした攻撃は中々良かった。

 しかし、いつまでも扱いきれないというのはよろしくない。早く使いこなしたい。

 

 

 はぁ、先は長いな。

 

 

 そんな考えでちょっと長い一日が終わりを迎えた。

 

 

 あ、【斧槍術】と【索敵】のレベル上がった。

 

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