好きと言わせてくれない   作:布団は友達

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そろそろヴィクトリア編入るかなぁ。


我の手?まあ、大きいんじゃない?

 

 

 side:Medic

 

 

 クロージャさんの様子がおかしい。

 そんな話を聞いて、思い当たる節しかない。

 私は通りがかりに購買部を覗いて、聞こえてきた声に思わず体が強張ってしまった。

 

『我が姫よ。これはここで良いのか?』

 

「背が高いと助かるねー。さすがはレイ君」

 

『今なら求婚しても良い感じか?』

 

「仕事しろー」

 

 すらりとした長駆のロボットが箱を運搬している。

 レイ君――と呼称されたその機体は、頭部にサルカズの証と思しき一対の角があった。

 それ以外は、まだカバーも何も無い剥き出しの基盤等で試運転の物だと判別が付く。

 購買部にはクロージャさんだけでなく、アーミヤさんもいる。

 悲痛な眼差しで、ロボットを仰ぎ見ていた。

 

「どーよ、アーミヤちゃんっ?」

 

「どう、とは……?」

 

「正式名称『Lycoris−ⅱ』! あたしの私財を全部使った最高傑作……まだ色々と手を加えないといけないところ多いんだけど、戦闘用ドローンとしての機能も搭載しててさ。正にレイ君って感じでしょ!」

 

「あ、はは……そうでしょうか……でも、似てるかもしれませんね」

 

「まだまだだよ。だってさ――」

 

『おお、ようこそCEO! 我らの愛の巣、購買部へ!』

 

 諸手を広げてロボットがアーミヤさんを歓迎する。

 そのままクロージャさんの両肩に手を乗せ――る前にクロージャさん本人に払われた。

 

 

「ほら。――レイ君は絶対あたしには触らないから」

 

 

 冷たい声でクロージャさんがそう言うと、ロボットが機体を忙しなく奇妙な形に駆動させ始める。

 

『手厳しいッ! でもそんな所に萌えるのだ』

 

「ほら、本物ならもう少し気持ち悪い感じの事言いそうだし。そもそもレイ君は求婚していい感じ?なんてタイミングも場も相手も配慮せず求婚するしね」

 

「せ、戦闘機能を搭載しているとありましたが、具体的にはどのような事が可能なんですか? 試験的な事は――」

 

「え、戦わせるつもりは無いよ?」

 

「……?」

 

「……え? いやいやアーミヤちゃん、レイ君を戦場に出すわけないじゃんっ」

 

「あ、はい……そうですね?」

 

 アーミヤさんが困惑している。

 傍から聞いている私ですら理解が追いつかない。

 

「戦場は論外だし。それに未完成なんだから、無理させたくないよ」

 

「そう、ですね。未完成、確かに……Lycorisさんの手はもう少し大きくて、温かいですもんね」

 

「えっ、アーミヤちゃん……触った事あるの……?」

 

「え、あっと……」

 

 気まずい沈黙。

 クロージャさんはじっとアーミヤさんを見詰める。本人に悪意は無いんだろうけど、不思議なほどに迫力があった。

 アーミヤさんは焦ったように目を泳がせ始める。

 

「あの、アーミヤさん。お話が……」

 

 割って入れる空気ではないけど、眦を決して私はアーミヤさんに話しかけた。

 こちらに向いた彼女の表情に安堵の色が滲む。

 それから慌ててこちらにコータスの耳を揺らして駆けて来る姿をクロージャさんは少しだけ見送ると、ロボットの手へと視線を落として黙ってしまった。

 

 私の所に来たアーミヤさんと購買部を離れる。

 

「すみません。先ほどは助かりました」

 

「いえ、そんな……」

 

「まさか、Lycorisさんを模した……動揺してしまって、あのまま会話が続けられたかどうか分からなかったです」

 

「……クロージャさんもまだ手探りですので、今後も続くんでしょうか」

 

「Lycorisさんは、生前から意外と秘密の多い方でした。いなくなってから、彼を知らない事ばかりに気付くのは私だけではないみたいで……特に深く関わっていたであろうクロージャさんはその分だけ受け止めきれず、ああいった形で悲しみや現実への拒絶が発露してしまっているのかもしれません」

 

「謎……」

 

 たしかに、Lycorisさんは謎が多い。

 特に、身体情報に関してはそうだ。

 Lycorisさんは、絶対に検査を受けてくれません。

 ケルシー先生も彼の情報に関しては他スタッフに対しても規制を施していて、閲覧を試みた者たちの悉くが挫ける程の厳重な管理の下に保護されている。

 感染の有無も不明。

 直接交渉しても本人には断られ、または有耶無耶にされる。

 

 親しいオペレーターですら状態は把握できないが、一部……RadianさんやLogosさんは彼の変化に敏く、その都度本人を問い糺している姿をしばしば見かける。

 

 そう、謎の多い印象だ。

 医療オペレーターにとっても……私個人にとっても。

 

 初めて会った時、事前にLycorisさんは手当たり次第に女性を口説くという悪評を耳にしていたので、私の態度は幾分か警戒が表れていたと思う。

 しかし、件の彼はそんな印象とは真逆で、むしろ私を見るなり……。

 

『そなた……名は?』

 

『は、初めまして。私は医療オペレーターのMedic――』

 

『そうではない。そなたを表す真の名だ』

 

『それは……えっと……』

 

 初対面の人間に本名を明かすのは躊躇われた。

 素性を知った悪意ある者からの攻撃から守る為のコードネームである。

 

『そなたの血縁に、カズデルへ赴いた兵士は?』

 

『い、いません……』

 

『……他人の空似、か。すまぬ、取り乱したようだ』

 

『??』

 

 苦しげに呟いたLycorisさんは、それ以上は何も言わずに早足で去った。

 取り残された私といい、近くで見ていた同僚は何事か始終理解できず首を傾げる事しかできなかった。

 

 それからというもの、Lycorisさんは私を見かける度に必ず話しかけてくる。

 話題の内容は極々普通の物だ。

 今日の体調だったり、今朝は何を食べたか、仕事は辛くないか、ロドスが現在運航中の土地に纏わる話などだ。

 話し方や態度が親戚のおじさんみたいで、すっかり最初の頃の警戒心は抜け落ちてしまっていた。

 

『Medicよ。今日は外でこの花を見つけた、そなたが好きであったろう?』

 

『……? そんなお話しましたっけ?』

 

『む?』

 

『そういえば私、Lycorisさんと花の話はした事無いですね』

 

『――――』

 

 Lycorisさんは一瞬固まり、手元の花を見る。

 

『そう、だな。どうやらそなたと別の人間を混同していたようだ』

 

『………Lycorisさん?』

 

『本当にすまぬ。……取り返しなど、付く筈も無いのに』

 

 その長身が小さく萎んでしまったかのようだった。

 Lycorisさんはトボトボと花を持って帰ってしまって、正解ではないにせよ、私は特に何も言わずに受け取れば良かったのではないかと後悔した。

 でも、同時に疑問も湧く。

 最初に会った時の台詞とその後の事から私を誰かと重ねているのではと推測はしていた。

 ロドス職員ではない。

 Lycorisを名乗る前の彼に由来する人物だろうか。

 

『あの、Lycorisさん』

 

『む? どうした、Medic』

 

『ちゃんと検査受けてますか?』

 

『無論。士爵……ケルシー先生の診察や検査はしっかりと受けておる。ああも小言が多いとやめてやりたいところだが……ええい、健康状態か否か判断できねば我が姫にもアーミヤにも会わせられんとか屁理屈を捏ねよって……!』

 

『会えてる、って事は健康なんですね?』

 

『……ああ。むしろ我が何か損なっているように見えるか?』

 

『いえ……』

 

『因みに普段から品性を損なっているとか聞き飽きているからそれ以外を指摘してくれ』

 

『……怪我が増えてるって、聞いたので』

 

『気にするでない。我の場合、傷など立ち所に消えるものよ』

 

『そう、ですか……』

 

 消える、という言い方。

 癒えるなら分かるけど、そこに違和感があった。

 本当に彼が健康なのか疑問が尽きない。ケルシー先生の対応も医師としては守秘義務があるから伏せているにしても。

 

 皆は、頼りになる戦士だと言っていた。

 

 彼がいれば大体の作戦は成功する。

 戦略上での精神的支柱、だからこそ怪我ができても辛いとか痛いとか口にできない立場で私にもあんな風に言うしかなかったのかなとも考えた。

 日に日に増える傷が不安だけを募らせる。

 それでも彼は戦場へと赴き続けるのに、私が医療オペレーターとして前線付近まで出る事は断じて認めてくれなかった。

 

『Medic! そなた、ドクター救出作戦に参加する気か!?』

 

『は、はい』

 

『どうして』

 

『救出直後のドクターの体調を正確に把握できるよう医療オペレーターが随行する必要があります。だから――』

 

『……何故そなたでなくてはならない……我は二度も見たくないぞ……』

 

『二度……?』

 

『ともかく、そなたには駄目だ』

 

 その言葉に、ムッとした。

 無理だとか、そういうのなら分かる。

 能力的に不足しているとか、戦場での生存に信が置けないという誰よりも命の危機に携わる人ならではの判断だと納得できた。

 でも、駄目――って、CEOや皆が認めてくれての人選なのだから、それを否定されたようで小さな反感が胸の中に立ち上がった。

 

『私はやり遂げられますっ!』

 

『だが』

 

『大丈夫です。そんなに心配なら、ちゃんと見ていてください』

 

『…………』

 

 結局、それ以降彼との会話は無く、チェルノボーグから帰還して訃報を聞いた時、その言葉の意味を知る事は叶わないのだと理解した。

 

 

 

 

「彼は、私に何を見出していたんでしょうか」

 

「…………」

 

 話を聞いていたアーミヤさんは沈黙していた。

 

「アーミヤさん?」

 

「あっ、いえ。……話の途中で申し訳ないですが、そろそろ私は失礼しますね」

 

「はい」

 

 アーミヤさんの去っていく後ろ姿を見る。

 あの小さな背中に、全職員の期待が背負わされている。

 Lycorisさんとは仲が良く、彼の訃報に誰よりも悲しんでいたと聞いていたのに……彼女は強い人だ。

 私なんて、実際にチェルノボーグでの作戦では危機的状況下に蹲って泣き叫ぶしかできなかったのに。

 そんな私や他ロドス職員を逃がす為に、Lycorisさんを犠牲にしている。

 

 

「私が、やっぱり『駄目』だったのかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:アーミヤ

 

 

 Medicさんと別れて、ようやく深く呼吸できた。

 Lycorisさんの記憶を読み解いた後、彼女と会って少しだけ奇妙な懐かしさを覚えた。

 そして、Medicさんの語る内容を聞いて……その正体を把握した。

 

 かつて、Lycorisさんが殺めた罪なきフェリーンの少女。

 

 それが、Medicさんにそっくりだったのだ。

 気付きたくなかった……でも、自分でLycorisさんの記憶に触れたのだから逃げずに飲み込まなくては。

 

 私は、改めて購買部に来ていた。

 先程の私の軽率な言葉の結果を確認する為に。

 そっと中の様子を窺う。

 

 

「知らないんじゃ……再現しようないじゃん……えっ、アーミヤちゃんには触れて、何であたしには……何で……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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