好きと言わせてくれない   作:布団は友達

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短めです。
忙しいェ……!


休憩せねばな、ふへっ
幕間:ふははははは!


 

 

 

 side:アーミヤ

 

 

 本艦がレユニオン残党の襲撃に遭った。

 彼らの目的は、元指導者のタルラの身柄の奪還でした。

 本来は遊撃隊や他の方との約束の為にロドスにて厳重に保護すべきだった彼女は、本人の意志もあって虚しくもレユニオンの作戦成功を許してしまいました。

 本艦が受けた被害は軽微とはいえ、由々しき事態に相違ない。

 何よりも……。

 

 

「……レイ、君……」

 

 

 壊れたドローン――Lycorisⅱを見て、クロージャさんは完全に心に深傷を負ってしまった。

 元来誰が為に戦うLycorisさんの基礎情報で組成された人格に従い稼働していたからこそ、有事には職員を守るべく自律的に動くのは当然の事。

 クロージャさんは、Lycorisさんを喪った反動でそのドローンに戦闘機能は搭載させても、一切の実戦投与を固辞していた。

 模倣品とはいえ、二度と喪いたくないから。

 

 ただ、クロージャさんも未だ完全に至らないと言っていた通り、禁止行為の設定等についても着手は遅れていたから今回のように参戦してしまった。

 

 サルカズの元傭兵部隊を複数名相手取って大破。

 

「クロージャさん……」

 

「偽物、なのにまたいなくなるんだ……いっそ、居なくなる前と違ってても良いから……居てくれるだけで良いのにさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:???

 

 聖堂に硬い音が谺する。

 時に烈しく、時に慎ましく。

 一心不乱に一人のサルカズが石を彫っていた。

 見上げれば美麗な意匠の施された天蓋を鑑賞できる広間の中央で誰の目も憚らず傲然と作業に勤しんでおり、既に大部分が完成しており、誰の目にも幼いコータスの少女を象った彫像と分かる。

 石片や粉がそこかしこに散乱し、景観を損なっているが幸いな事にここは美を尊ぶ人の足が絶えて久しい。故に彼の行動を咎める者は居なかった。

 熱心に、しかし繊細な仕事で彼は石から理想を削り出す。

 

 その様子を後ろからもう一人のサルカズが見守っていた。

 甲冑を身に帯びた金髪の美丈夫で、風に乗って運ばれた粉状の細かい石を手で払う様すら画になる。

 

「……君は、美術の嗜みもあるのか」

 

 カズデル軍事委員会の将軍――マンフレッドは、今やサルカズが跋扈する都ロンディニウムに堂々と異種族の彫像を建て始めた戦士の奇行に差して眉を顰めることはなかった。

 戦士が手を止める。

 その手中で赤黒い霧が湧き立ち、一瞬で彫刻刀が朽ちて崩れ落ちた。

 

「我にそのような趣味は無い。初の試みだ」

 

「それにしては精巧だ。まるで本人を見ながらのような」

 

「我が眼に焼き付いた光の形。居らずとも常々瞼の裏には鮮やかに映る」

 

「……君の知人か?」

 

「ああ。……名は、思い出せぬが」

 

 サルカズは彫像を労るように撫でて石粉を払い落とす。

 それから支柱へ無造作に立て掛けてあった長槍を手に取り、マンフレッドの傍に立った。

 

「護衛の任はどうしたんだ」

 

「テレジア殿下は現在会議中だ。我はそれまで自由に過ごせと仰せつかった。ふ、最愛の片割れとの会話を心置き無く楽しみたいテレシスに気を遣い、ここでちょっと羽目を外しておった」

 

「そ、そうか……それで、彫像か」

 

 マンフレッドは彫像へと視線を戻す。

 趣味ではないが、かといって有意義とも言えまい。

 そんな時間の使い方をしている彼を目の当たりにして、マンフレッドは羨ましいとは思わなかったが、自分にそんな時機があったかと考えて首を捻る。

 

「私も執務ばかりで苦に思った事は無いが。前に私的な時間が取れたのはいつだろうか」

 

「そなたこそ、忙しいようだな。たしか、賢しらに動き回る鼠の足跡に目を光らせておるようだが。ダブリューだかダブリンだかそんな名だったような……そも、そなたの趣味とは? ……因みに我は、児童向けの絵本の執筆だ」

 

「私の話はいい。……君の絵本か、是非読んでみたいものだ」

 

「文才はあるが、児童向けではないと酷評される。そなた程の成熟した人間ならば存外適当やもしれんな……はて誰に批判されたのだったか」

 

「……私の部下にもナハツェーラーはいるが、君は少し雰囲気が違うな」 

 

「我も他のナハツェーラーも変わらぬ。戦に類さん趣向はあれど、戦に生きるしかない能の持ち主だ」

 

 彼は悲しい事実を当然の理が如く淡々と断言する。

 マンフレッドの言葉の含意は伝わっていないようだ。

 雰囲気が違う、と言ったのは戦以外の趣味の有無ではなく趣味を活き活きと語る様子が他の同族とは異色であるという事である。

 しかし、それを改めて伝える気は無い。

 伝えたところで、意味は無いから。

 

「彫像は立派だ、本当に」

 

「何か含みある言い方……ところで、我に何か用か?」

 

「そうだった。聴罪師の近衛と幾度か衝突したと聞いた」

 

「……ああ、彼奴らか」

 

「君が感情任せに同朋と反目するとは思えない。何か理由があるのなら、聞かせてくれ」

 

「テレジア殿下の護衛の任を外れて尚も、無用に彼女の周囲を嗅ぎ回る不審な動きがあったのでな。威嚇のつもりだったが、幾人かの手足が腐り落ちてしまった」

 

「……そうか。理由があったようで安心した」

 

「事後処理よろしくゥッッ!!」

 

「前言を撤回しよう。君とやっていく事に不安しかない」

 

「そなたも苦労が絶えぬな、将軍」

 

「苦労の種に言われても釈然としないな」

 

「咲き乱れる日が待ち遠しいか?」

 

「切実にやめてほしいな。特に君ほどの戦士が起こす被害となると」

 

「初めて彫像以外で褒めてくれたな」

 

「褒めてないんだ、これは」

 

 頭痛すらしてマンフレッドは苦い表情で額を押さえる。

 師であるテレシスから聞き及んでいた戦士の実情が些か以上に問題児であると露見していた現在、未だ会わない彼に尊敬の念を抱いていた自分の過去が嫌なほど眩しく未熟に思えた。

 どうやっても戻れないだろう。

 ただ、事前情報と寸分違わないのは実力。

 サルカズの生ける伝説にして戦を司るとすら呼び称えられたナハツェーラーの宗主ネツァレムから太鼓判を押されているだけあって凄まじい。

 少なくとも、マンフレッドは自身ですら歯が立たない事は手合わせ前から理解している。

 

 以前までは、テレジアの遺志を継いだ組織の下に残り続けていたが、奇縁あって軍事委員会の麾下へと回帰した。

 

 本人にその事情を悲しむ記憶が無い事を幸いと思うべきか。

 少なくとも、ここ数年の自分を喪失しているそうだった。

 戦いに支障は無いが、この彫像同様の奇行が頻発する原因でもある。

 コータスの少女の彫像、ブラッドブルードへの異様な興味、稀に起きるテレジア殿下への発作のような攻撃、そして……ロドスという単語を耳にした際に自身に殲滅を命じるようテレシス摂政王への要求。

 

「君はもう少し慎みを持った方がいい」

 

「慎み……? そ、それは……何処から何処まで!?」

 

「少なくとも軍規に反する事無き範疇で頼みたい。……本当に」

 

「ええい。どいつもこいつも我を軍規だ風紀だと縛りおる……我は姉上以外の美女に縛られて悦ぶ趣味はあれど人と足並みを揃えるというのが最も苦に思える束縛なのだ……!」

 

「情けない事この上ない発言だな……」

 

 もう尊敬の念は欠片も残っていない。

 

「まあ、その点で苦労をかけた詫びとして我の手が必要な時は遠慮せず申せ。テレジア殿下の許可と我の気分が合致すれば直ちに助勢に参ろう」

 

「この上なく難しい事は分かった」

 

 マンフレッドがため息をつくと、戦士はくつくつと笑う。

 

「殿下と大師父以外は大抵いけ好かぬ連中ばかりだが、そなたの事は気に入っておる」

 

「それは……胸を張っても良いのかな?」

 

「後はそなたの部下のナハツェーラー……ナディーン?だったか。中々に良い感じで彼女も気に入っておる」

 

「早速だが風紀の面で話が……」

 

「もう聞き飽きたッッ!! 我を縛るな、忌々しい――」

 

「――何をしている」

 

 二人の会話を遮る剣のように重厚で鋭い声。

 姿勢を正すマンフレッドの隣で、戦士もまた槍を掲げる。

 硬い靴音を鳴らしながら歩み寄る声の主――摂政王テレシスは、隣にテレジアを伴って現れた。

 

「歓談の途中だったようだが」

 

「我とマンフレッドは今友情の壁を超えたところに至ろうとしている」

 

「殿下。事実無根です」

 

「分かっている。そのナハツェーラーの言が世迷言か否かの判別には慣れている」

 

「殿下……」

 

 お労しや、という言葉をマンフレッドは飲み込む。

 

「そなたに理解されても嬉しくないッッ!!」

 

「私も不快だ。図らずもそなたの素行に理解が及んでしまっている己が」

 

「嫌よ厭よも、という格言がある。そなたの場合はそうやもしれんが、我はガチでそなたが無理」

 

 忌々しげにけっ、と顔を歪める戦士とテレシスの遣り取りをテレジアが微笑んで見守っていた。

 

「折角の話を持ってきたが、これではしない方が良いか」

 

「妹の自慢話なら別にせずとも良いぞ」

 

「口を慎め。……そなたの願いに添う命を与えようとしていた」

 

「ほう……?」

 

 テレシスは短く小さな嘆息をこぼすと。

 

 

「ロドスが近い。この地に忍び寄っている」

 

 

 その一言を告げたテレシスの眼前で、これから自身に下される命令を察した戦士の顔が怒りと笑みの混じる凶相へと歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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