好きと言わせてくれない   作:布団は友達

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タイトル通りです。
最後のは、プロローグみたいに時系列が飛んだ地獄です。


幕間『…という名の息抜きだなッッ!?』

 

 

 

 ――『ロドスキッチン in THE プチヘル』

 

 

 

「恋愛相談、とな?」

 

 その日、俺――Aceは耳を疑った。

 食堂でゆっくりScoutと食事をしていたら、俺たちより後に少し離れた座席へと座ったLycorisともう一人、新人オペレーターの男が向かい合って話を始めた内容に思わず固まる。

 恋愛相談、だと?

 あの常敗無勝のナハツェーラーに?

 Scoutなんざ失礼なほど笑いを必死に堪えている。

 

 

「実は……く、クロージャさんの笑顔にコロッと惚れてしまって」

 

 

 瞬間。

 スッと気配を消して去ろうとしたScoutの肩を掴んで止める。

 馬鹿野郎、オマエいっつも面倒事になる予感がしたら離脱しやがって。

 サングラスの奥から恨めしそうに俺を睨む視線を無視しつつ、俺はため息をつきながら聞き耳を立てる。

 行儀が悪いのは百も承知だ。

 おまけに内容は恋愛、相談者は真剣な様子。

 

 しかし、このロドスではLycorisがクロージャに懸想しているなど常識も同然。

 

 その相手に、どうしてクロージャ相手の恋愛相談なんかするのだろうか。

 恋敵だと分かりながら……正気の沙汰とは思えない。

 

 訝る俺たちに反し、Lycorisは至って冷静だ。

 包帯で隠れているとはいえ、その態度からは一切の動揺が見受けられない。

 

「ふむ。我が姫に惚れてしまった、か」

 

「すみません。……でも、Lycorisさんに話すのが、筋じゃないかって。あと、やっぱり他のどんな人に聞いてもクロージャさんの事を熟知しているのはLycorisさんだから、本気で好きなら殺される気で相談しろ、って……」

 

「うむ。そなたの覚悟が半端ねェのは理解した」

 

「こ、殺されますか……?」

 

「むしろ同好の士を前にして喜びすらある。何分、ワルファリン先生の件もあって何故かブラッドブルード好きはマニアックに過ぎると酷評されること頻り。……分かり合えぬものよな。艦内に働き詰めで色白だが健康的かつ妖しい脚、挑発的だがまるで威力のない愛らしき笑顔、意外とおっきいアレ、定期的に人騒がせな悪戯気質、作業で傷付く度にしっかりケアするほど手先に気を使う乙女心……悉く我が魂を擽る。生まれてきてくれてありがとう、愛してる」

 

「な、なるほど」

 

 何を聞かされているのだろうか。

 早口で凄まじい熱量の愛が語られたような気がする。

 しかし、果たしてLycorisは本当に恋愛相談を受けるのか……?

 曲がりなりにも恋敵なのだから、敵に塩を送る真似になりかねない。クロージャの反応的には、少し怪しいが。

 

 ふと、Scoutが何やら違う方向を凝視している。

 

 必死に目を逸らしている、ワケではなさそうだ。

 俺もその視線の先を追って――絶句した。

 そこには、向かい合って座る顔色の悪いクロージャとニコニコと楽しそうに微笑んでいるRaidianがいた。

 

「この前、Lycorisが手料理を振る舞ってくれたの」

 

「へ、へえ。て、手料理……」

 

「そう。日頃のお礼って言ってね。わざわざ女性の好みになりそうな味付やトッピングまで、二週間以上も前から深夜の厨房で試行錯誤していたんだって……そんな素振り、一つも見せなかったけど」

 

「ま、まあ、意外と努力家だよね。あたしに対して毎日違う言葉で求婚してくるくらいだし? こうも毎回パターンが違うとなると、相当に工夫してるんじゃないかな。でも結局は愛してるっておんなじ完結の仕方。いやぁ、参っちゃうよねっ!」

 

「……Lycorisは罪作りよね。クロージャに毎日愛を囁いておきながら、私にもドキッとする事を言うから」

 

「はい? え、な、何て言われたの? いや、別に興味は無いんだけど、ほら、えっと、あー、え、な、何て言ってた?」

 

「『そなたの隣は、こんなにも幸せなのか』だって」

 

「っ……っ……すぉうなんだ、へぇえ……!?」

 

 Scoutも俺も、視線を二方向へ交互に飛ばす。

 ば、バカな。

 こんな地獄みたいなシチュエーションが同時に二つも近場で発生するなんて、これから向かう外勤任務の不吉な予兆とでもいうのか?

 去りたいが、丁度良く俺たちを挟んで行われている。

 ここで仮に立ち去れば、お互いの話している姿が丸見え、交わった瞬間に凄惨な混沌の誕生だ。……だから逃げるなScout!

 

「姫へのアプローチを止める資格は我に無い。そなたの意のまま突き進むがいい」

 

「い、良いんですか!?」

 

「……我は恋の尊さを知悉している。なればこそ、どうして他の恋路を阻めようか」

 

「ありがとうございます!」

 

 何か、片方は良い風に落着しそうだが。

 そう思っていた時、Scoutが袖を強く引いてきた。

 何事かと振り向いて――。

 

「レイ君が大好きなのは、あたしだし!?」

 

「そうね。でも、それに負けないくらいLycorisを愛している人もいるから……報われない恋を、隣で慰めるくらいはね?」

 

「いいいいやいやいやいや! そ、そうやって優しくされたら男ってコロッといきそうだから!? 別にレイ君は大丈夫だと思うし、べ別にいっても良いんだけどさ!? ででもやっぱり、そういうの本人には良くないと思うなぁ!」

 

「Lycorisのこと、信じてないの?」

 

「そっ……ん、な事は……」

 

「クロージャは、Lycorisが好き?」

 

「いや全然」

 

「じゃあ、わた――」

 

「結局はレイ君次第だし! 他の人が何言っても、ね!?」

 

 もう、俺も逃げたくなってきた。

 俺とScoutが顔を手で覆って悲嘆に暮れていると、食堂に二つの小柄な影が入ってきた。

 アーミヤとロスモンティスだ。

 

「今日はデザート沢山食べちゃいましょう」

 

「でも、夕飯が入らなくなっちゃうよ」

 

「大丈夫です。自分へのご褒美なんですから――あ、Lycorisさん」

 

「む、その世界を照らすような声と笑顔……アーミヤッッ!! と、我が愛妹ロスモンティス!!」

 

「え、レイ君いたの!?!?」

 

「おお、愛しの我が姫よ。よもや示し合わせも無しに巡り合うとは……さてはかつて無い程に天運は我に有り、的な? ようし、なればその心にいつも以上の愛を届け――Raidian!?」

 

「ふふ。そっか、食事の誘いを断ったのは相談に乗っていたからなんだね」

 

 二人へ駆け寄るLycoris、それと今までの会話が筒抜けだったのではないかと顔を真っ赤に染めてわなわな震えているクロージャと、慈母のような笑みで歩み寄るRaidian。

 

 よし、Scout……今ここが逃げ時だ!!

 

「おお、AceにScoutも居たのか! 声もかけずに去ろうとは水臭い、いま若人の未来について相談に乗っていた時でな。我以外の意見も聞かせてやりたいところなのだ。……何だ、様子が怪しいぞ。何かあったか?」

 

「兄弟……実は」

 

「おい……」

 

 Scoutがクロージャを見る。

 いつも好奇心に光る紅瞳がドス黒い闇を湛えて、無言で俺たちに訴えかけていた。

 ――聞いた内容を話したら、どんな手を使ってでも……というような、気迫を感じる。

 押し黙る俺たちに首を傾げるLycoris。

 

「Lycoris。今回は無理だったかもしれないけれど、次は一緒に食べようね」

 

 何かを察したRaidianの助け舟……助かる。

 

「そうだな。埋め合わせはする……次は我から誘うとしよう」

 

「――」

 

 クロージャの眼力が余計に強さと鋭さを増した。

 ――あたしの事は一度だって誘わないじゃん、とでも言いたげだ。

 やめろ、止まれLycoris。

 

「ふ、そして我が姫。そなたには、密かに修練を詰む事で万人の舌を唸らせるに至った渾身の手料理を馳走しようではないかッッ!!」

 

「手料理……あたしに?」

 

「Raidianにも練習に付き合って貰ってな」

 

 クロージャの瞳に光が戻り、顔が輝く。

 どうやら、手料理の件を根に持っていたらしい。

 これで機嫌を直した……と思ったら、今度はRaidianから哀愁の気配を感じ取った。

 

「そっか。お礼って聞いていたけど……私は練習台だったのね」

 

「え゛ッッ!!? 否、その様な腹積もりではなかったのだ!! 練習の過程で良作を繰り出せた故、日頃の感謝をとRaidianに……」

 

「……本当に?」

 

「無論。その相手として真っ先に思い浮かぶ者がそなた以外に在り得ようか」

 

 ああ、またクロージャの瞳が。

 忙しなく反転するクロージャとRaidianの雰囲気に、Scoutはマスクでいつも隠している口元を押さえて吐き気を堪えている様子すら見せる。

 俺もさっきの飯を戻しちまいそうだ。

 

「えっ、Lycorisさんの手料理ですか? 美味しそうですね」

 

「む、なればアーミヤにも馳走しようか」

 

「わあっ。良いんですか?」

 

「我ってばそなたの笑顔と幸福が生きる希望、我が手料理でそれが賄えよう物ならば是非もない!」

 

「わたしは?」

 

「勿論。ロスモンティス、そなたの愛らしき相貌を我が手の創造する美味で甘く綻ばせてやろうではないか」

 

 キャッキャッと三人で盛り上がり始め、蚊帳の外にされ始めた二人が重い空気を纏い始めた。

 俺とScoutは今度こそ、そっとその場を離脱し。

 

「む、そこな二人も如何かッッ!?」

 

「もう頼むからこっちを見るんじゃねえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――『????????』

 

 

 

 ――1100年、夏

 

 

「シルーシャ。おはよう」

 

 腕に抱くサルカズの赤子にレイディアンは微笑む。

 まだ生後一年程度の儚い存在感、けれど腕に伝わる重さとほのかに伝わる温もりが確かな生命を感じさせる。

 小さな頭に生えた黒い角は、父親譲りだ。

 

「最近は一人で歩けるようになったのに、抱っこが好きなんだもんね」

 

「うぁー」

 

「よう。調子はどうだ?」

 

 杖を突きながら現れたエースは、レイディアンの腕の中のシルーシャに向かって笑う。……すると、盛大に泣き始めた。

 

「やっぱり俺の髭面は慣れないか」

 

「お父さんに似て可愛いもの好きなんだけどね」

 

「なおさら俺には向かねえな……が、こんなに美人な母さんに愛されて幸せ者だな」

 

「そうかしら。パパが二人、ママが三人もいるんだから、エースもお父さんになってみる?」

 

「やめろ。俺にはそこに割って入る勇気は無えよ」

 

「エリートオペレーターでも?」

 

「元、だろ。現役でも遠慮するだろうけどな」

 

 今では訓練指導官補佐として、外勤オペレーター達の養成に勤しむエースだが、暇を見てはシルーシャの様子を確認しに来ている。

 本来は、赤子の父と約束したロゴスが担う役目だが、彼もまた多忙なエリートオペレーター。その勤務中は、仕方なく前線を退いたエースが代わりを務めている。

 

「ロゴスに任されたは良いが、こうも嫌がられたら困ったもんだ。もう覆面被るしか無いぞ」

 

「今度はみんなが怖がるかも」

 

「いっそ父親みたいに顔全部を布で包むか?」

 

「ばぁーっ」

 

「マジかよ。嬉しそうだぞ……」

 

 親譲りの変わり種になりそうだ、とエースは苦笑する。

 通路の脇で談笑する二人にオペレーター達が挨拶をしつつ、シルーシャに対しても小さく手を振って過ぎていく。

 誕生から五日後、ワルファリンの魔の手から皆で守った事件からシルーシャの存在はロドス内でも周知され、大層可愛がられている。特に一連の出来事で奔走していたロゴスの溺愛ぶりもまた有名である。

 シルーシャが使用する物の悉くに一族由来の巫術を仕込んでおこうかと言い出し、その真剣さに周囲を慄かせた記憶はまだ新しい。

 

「当たり前だけれど、もうみんなで育ててるよね」

 

「本来はカズデルで育つ予定だったんだがな。クロージャが猛反対したからな」

 

「流石はママの一人。愛情だね」

 

「いや、アレはどっちかっていうと人質……」

 

 シルーシャがふと顔を上げ、レイディアンの腕を叩いて下ろしてと催促する。

 戸惑いながら従うと、壁を支えにしながらヨタヨタと歩き始め、今しがた通路の向こう側から二人の方へと歩んで来る人影を目指していた。

 懸命に自分に向かって進むシルーシャを認めた人影は、屈み込んで目の前に辿り着いた小さな身体を優しく抱き上げる。

 

「もう一人で歩けるんですか? 偉いですね」

 

「あーんや。あーんや」

 

「はい。アーミヤですよ」

 

 シルーシャとアーミヤが戯れる。

 その様は、昔の彼女を知るエースとレイディアンからするとかつてのテレジアの姿を彷彿とさせた。……今や、庇護される側ではなくする側へと成長している。

 シルーシャは、ロドスの面子の中でも特にアーミヤを気に入っていた。

 そこもまた父親の性癖……ではなく、信仰心を継承したのかもしれない。

 

「本当に日々大きくなりますね」

 

「そうだな」

 

「私が……この子の未来を守ります。あの人に代わって、絶対に」

 

 シルーシャの額に口付けしたアーミヤの表情は決然としている。

 

「俺たちで守るんだ、アーミヤ」

 

「……はい」

 

「アイツと、クロージャに代わってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、不穏な終わり方ぁ
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