好きと言わせてくれない   作:布団は友達

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過去、書いたけど投稿しようか悩んでボツにしましたが、アーミヤとは別方面でレイクァトム→Wは結構重めの期待を残してます。


我ってボスキャラじゃないんだけどな

 

 

 

 

 side:W

 

 

 あたしの拠点に踏み入って来たのは、意外な人物だった。

 ロンディニウム外のセーフハウス、追撃を暫く躱せると思ってババァを匿っていたのに。

 扉から伸びる影は、長い。

 あたしにとっては、懐かしい亡霊だ。

 トレードマークの長槍は手になく、敵意も感じられない。

 一応、ここで死なれると他の連中が煩いだろうから背後に負傷中のババァを庇って立つけど、あたし自身もここは戦闘に発展しないと思って特に身構えなかった。

 

 でも、目的が知れない。

 

 突然現れたカラクリも不明だし。

 旧知の仲に会いに来た、なんて柄じゃないでしょ。

 だって、アンタは死んで……どんなアーツでかは知らないけど記憶が無い状態で蘇った。

 特に、蘇生後の初対面。

 あたしの事を憶えてるなんて――。

 

「久しいな、次世代のサルカズ」

 

「…………!?」

 

 耳を疑った。

 その呼び名は、Lycoris……生前のレイクァトムがあたしだけに使う言葉だ。

 他のサルカズではなく、あたしだけに使う呼称。

 

「何を面食らっている?」

 

「……アンタ、頭スッカラカンなのに、記憶まで失くしたって聞いたけど?」

 

「……色々とあってな」

 

 錆びれた鉄同士を擦り合わせたような声。

 あたしの挨拶には無反応とか、アンタらしい。

 不愉快なほどに殿下の横に張り付いて、隠し撮りしようとして横から割って入って来たりする割にはあたしの嫌味に一切付き合わない、あの忌々しさ。

 だから、一人になったタイミングで嫌がらせ程度に爆撃なんかを仕掛けるんだけど……一度も歯が立たなかった。

 しかも何故か気乗りして、稽古と称して更にコテンパンにしようとする。

 結局は地面に這いつくばるあたしを見て呆れて……ぁあッ、思い出しただけでイライラするッッ!

 

『アンタ、いつもいつもいつも邪魔なのよ!』

 

『そなたが無意識に我を視線で追っているのは知っている。そうも熱烈な眼差しに射竦められては、我も面映ゆい』

 

『追ってるのはテレジアなんだけど!?』

 

『我の事もちょっとは追ってよォ!!』

 

『うっさいキモい!!』

 

『さて、休憩は終わりだ。――立て』

 

『ちょ、切り替え早――』

 

 その後、Scoutに救けられるまで数時間は枯枝の荒波と渦巻く濃霧の挟撃から逃げ惑い続けた。あたしの無様な姿を満足気に眺めて「よくやった、流石は我を魅せた才能」とか意味不明な事をほざいていた。

 今回も、あの時みたいな雰囲気がしている。

 でも、コイツはクソ軍事委員会の手先だから扱いに困る。

 

 敵意はない、けど目的が知れない。

 

 あたしがどう動くか推し量っていると、後ろでババァが立ち上がって前に進み出た。

 

「君は、Lycorisか?」

 

「殉じた我はもうLycorisに非ず、が――軍事委員会の将軍レイクァトムを欺き、伝えるべき事がある故参上した次第。士爵並びにロドスオペレーター達への攻撃、制御不能の現状と雖も深く謝罪する」

 

「伝達事項とは……君の状態についてか」

 

「然り。そなた等の呼びかけとアーミヤのアーツ……忌々しいがテレシスの斬撃による負傷で隙ができた幸運が重なってな」

 

 厳かに肯んじるレイクァトム。

 ババァは理解しているみたいだけど、今の会話があたしには理解できない。レイクァトムがレイクァトムを欺くって、どういう事よ。

 

 困惑しているあたしを置き去りに、レイクァトムが近くの椅子に腰を下ろす。

 緩慢な動作は、余裕というより動きづらい体を無理に駆動させているみたいだった。

 身体の不調は兎も角、コイツを見ていて感じる最大の異常は――足が透けているくらい。

 

「アーツか。……君は本体ではないな」

 

「今そなた等の目前にいる我は、我が姫のチョーカーに施した巫術に遠隔干渉し、意思のみを伝達する虚像である……我って器用でしょ?」

 

「肉体は、君の言う『将軍』が主導権を掌握しているんだな」

 

「うむ。残念ながらな」

 

 あたしを無視して二人で会話が進行していく。

 でも、ここまでくれば、あたしにだって意味は噛み砕ける段階にあった。

 肉体の無い状態、主導権、遠隔干渉、意思のみの伝達。

 要するに。

 

「何? あんたは昔から二重人格で今回乗っ取られたってこと?」

 

「……次世代のサルカズよ、もう少しそなたは感覚を養え。この程度、初見で看破の能わぬ程度に育てた記憶は無いぞ」

 

「師匠面しないで。あんたに育てられた覚えも無いっての」

 

 ふ、とムカつく含み笑い。

 実体が無いから無意味とはいえ、二回くらい顔面を爆破したって良いわよね?

 まあ、一回死んでも直らない性格だし無駄ね。

 

「それで、二重人格が不正確ならあんたの状態は何?」

 

「……今、軍事委員会に与するレイクァトムは我の死を糧に蘇生した肉体に宿りし人格。そこへ宗主ネツァレムの力を注がれて身体を動かし、今や自らで己を養うに至った」

 

「……君の死を、糧に」

 

「我が緊急用に残していた奥の手だ。無論、博打故に成功すれば猶予を要するが我は復活可能、失敗すれば『我の情報を有した別人』が完成する。確率は五分五分だ」

 

「今回は、後者だったと」

 

「否、前者だった……本来ならば」

 

 ナハツェーラーとして死を吸収する。

 その対象は他者だけじゃなく、自分すら適用するらしい。

 自分が死んでも、自分の『死』を復活のエネルギーに変換するなんて実質不死身、永久機関めいた発想だけどそれなりのリスクはあるわよね。

 現にコイツは失敗してるみたいだし。

 でも、本来は成功する筈だったって口振りから察するにネツァレムの力を注がれたってトコに種がありそう。

 

「大師父の蓄えた莫大な死は、『我』を抑え込んだ。結果として、我の記憶を基に生成された死の力を遺憾無く揮う『将軍(レイクァトム)』が誕生――此度の再会における敵対行動の原因は正にそれだ」

 

「なら、あの場におけるクロージャのチョーカーの巫術発動による防御、自ら髪を引っ張る等の不審な挙動は、別人格『将軍』に抑え込まれた君の最大限の抵抗か」

 

「流石は士爵。……ほらぁ、そなたは初見にてこれぐらい洞察してくれぬと我不安で跡を託せぬぞ〜?」

 

「こンのッッ……!」

 

「よせ、W」

 

 居合腰のあたしの前に手を出したババァに制止される。

 それでも突っ込もうとしたら、傷が痛むのか顔を歪めて呻いたババァの顔に舌打ちした。これで傷が悪化したら、シャイニングや外の連中に文句言われるじゃない……。

 発散したかった怒りを深いため息に変えて、あたしは下がった。

 見なさい、次世代のサルカズらしい理性的な対応よ。

 

「うむ、短気なのも課題だな」

 

「ッ……ッッ……!!」

 

「Lycoris。旧交を温めようと努める君の姿勢は悪くないが、これ以上の刺激はWの僅かしかない理性には手に負えない。済まないが、速やかな伝達を優先してくれ」

 

「もぅ、ちょっとした戯れ……あ、ハイ。承知した」

 

 戯けた態度のLycorisがババァに睨まれて肩を縮こまらせる。

 

「形はどうあれ復活だが、我の死を基にした復活、大師父から力の割譲……それらが作用し、『将軍』にはバベル及びロドスに在籍した時代の記憶が欠如してしまった」

 

「……だから、ロドスオペレーターやクロージャへの攻撃を行えたという事だな」

 

「今や全盛に至ろうとしている時分、我の抵抗も直に通用せぬようになるやもしれん。しかも厄介な事に、一部の感情は継承された……主にアーミヤへの信仰、ロドスへの悪感情等な。故に、苛烈な攻撃を行う……『将軍』の本気なら、恐らくロドスの全滅は容易だ」

 

「……どうすれば、君を取り戻せる?」

 

「残念ながら無理だ」

 

 ババァの台詞に、Lycorisが即答する。

 

「将軍を削れば、あんたが主導権を握れるんじゃないの?」

 

「我は所詮死人。『将軍』の力の一部に過ぎず、加えて復活時に『消耗された死』の残滓に過ぎぬ。注がれた大師父の力を横領して脆弱ながらこうして独立した自己を保っているが、それも時間の問題だ」

 

「……そうか」

 

 ババァが少しだけ顔を伏せた。

 その反応の意味をあたしは知ってる。

 ロドス内がコイツの死によって衝撃を受けていた事も、いま復活して敵対者となった事実に震えている事も、その中にもしかしたら……取り戻せるんじゃないかって希望を見出しているヤツがいる事も。

 そんな薄氷めいた夢想は、実現できない。

 ババァなら、それくらいは受け止めてそうなところだけど。

 

 どうあれ、あの化け物――レイクァトムと本格的に戦う未来が決定したってワケね。

 正直、あれだけ腕の立つ連中が揃っていて誰一人も止められなかった時点で絶望的だけど。

 

 

「しかし、『将軍』からロドスへの憎悪を除外する術はある」

 

 は……?

 

「何? あんたが説得でもすんの?」

 

「否。死人なりの底意地の悪さとやらを知らしめる……アーミヤとLogosの力が有れば不可能ではない。――と思う、きっと、恐らく、多分、えっとまぁ大体、失敗するやもしれんが、いやしないって信じて、うん、そうそう」

 

「具体的な手段は?」

 

「やはり、我と将軍を隔てる要素は『記憶』。――恋と信仰を知らず、親友を持たず……誰よりも我が身を案じてくれるセラフィナの存在が決定的」

 

「「(セラフィナ……!?)」」

 

「それこそが完全無欠のナハツェーラーの弱点。今回、アーミヤのアーツの影響やテレシスの斬撃という肉体・精神双方の干渉が隙を作った。なれば、アーミヤのアーツをより我に関する情報に限定し、更に大きな衝撃を精神に与え……Logos程の術師で肉体を攻撃すれば『将軍』の支配も揺らぎ、最後に『残滓』たる我自身を砕かんばかりの気勢で打ち込めば、擬似的な人格の統合が行われ……少なくともロドスに憎悪の無い『新・将軍』が完成しよう」

 

 両腕を広げ、自信満々って感じで語るレイクァトム。

 この提案に……あたしは異論がない。というか、異論を見出だせない。

 ババァが黙っているのもそういう理由だろう。

 元より、Lycoris自体を取り戻せないのなら、最善は敵の排除――しかも犠牲ナシでレイクァトムって巨大な障害を取り除く事が可能なら喜ばしいハズ。

 

 ただ、素直に頷くには重すぎる。

 

 コイツらロドスからすれば、残りカスとはいえ『将軍』を倒す為に()()()()L()y()c()o()r()i()s()()()()()()()()()()()()()

 しかも、前回とは違って今度は自分たちの判断で。

 

「君の提案は、理論的に問題点が皆無だ。我々はそれ以上の物を考案できない、執るべきは君の策だろう」

 

「ヌフフ、どうだ……我だって意外と賢い――」

 

「だが、感情は別だ」

 

「…………んぇ?」

 

「君は、君の価値を量り違えている。この提案に、要たる実行役のアーミヤとLogosから賛同を得られると思えるのか。いま一度、君という犠牲を以て事を平らげるにはロドスが君の死によって与えられた精神的傷痍も癒えていないのだから」

 

「……ほう。え、ちょっと信憑性……我いなくなったくらいでそんなにならないでしょ」

 

…………

 

「黙った士爵が怖」

 

 救いを求めるようにこっちに振り向くLycoris。

 うっさいキモい。

 

「ううむ……しかし、『将軍』を止める? 他に手立てなぞ無いぞ。絶望的ながら可能性のある話が無くはないが「それを聞こう」え、いやで「ロドスは常に全力を尽くす」あ、ハイ」

 

 食い気味のババァに催促されてLycorisはタジタジだった。

 アホのコイツが絶望的って言ってるから、実はあたし達が聞けば大いに可能性のある話って場合もある。

 

 

「『将軍』を殺め、その死を喰らって『我』が復活する。……ただ、この策は致命的な欠点を有する。莫大な力を蓄えた現在の『将軍』を死へと追いやるだけの戦力を……そなた等は欠いている」

 

 

 ババァは何も言わない。

 確かに、『将軍』にコテンパンにされた現状で言い返せる物が無いのは誰にとっても分かる。

 でも、ババァの眼は今した提案以外を選ぶ気が無いとでも言う感じの眼光を宿していた。

 

「不可能だ」

 

「理想を諦めない我々の道が常に困難で満ちている事は承知している」

 

「それこそアーミヤとLogosを失うぞ」

 

「アーミヤ、そして皆は君の知る頃よりも成長した」

 

「全盛の我は宗主を継ぐ者として、カズデルで『戦禍』と称された存在だぞ」

 

「君の意見はあくまで参考だ。ロドス・オペレーターLycoris、決定権は代表のアーミヤにある」

 

「…………Lycorisではないのだ、もう」

 

 Lycorisが頭を掻く。

 その手は、先刻よりも霞んでいた。

 どうやら、時間的限界が近付いているのかもしれない。

 

「もう一つ、大きな障害がある」

 

「致命的な欠点……戦力、もう一つは」

 

 

 

 

 

 

「此度、我はロドスと敵対する。――たとえ、我が主導権を握ろうが、人格の統合をしようが……サルカズの未来が為、彼女を支えると決めた」

 

 

 

 Lycorisの吐いた言葉を、あたしもババァも理解不能で沈黙する。

 

「オペレーター・Lycorisは死んだ。ここに在るは、『将軍』でも、『オペレーター・Lycoris』でもない。一人のサルカズだ」

 

「………………そうか」

 

「故に、すまぬ。我が提案の能う範疇はあくまで『将軍』からロドスへの過剰な悪感情を取り除いて理不尽な攻撃を避ける話であり、敵対者でなくなる話ではないのだ。彼女の理想を遂行する、その点に於いては我と『将軍』の意向は一致している」

 

 Lycorisが椅子から立ち上がる。

 その姿は、さっきよりもより薄く背景に溶け込みそうなほどになっていた。

 仕込んでいた巫術のエネルギーも、底を尽きかけているのかも。

 

 そうか、コイツが一度もLycorisだと認めなかったのは、その線引きか。

 Lycorisを名乗るなら、ロドスに加担する。

 でも、今回のコイツは……一人のサルカズとしてテレシスに協力していた。彼女って部分に引っかかりは覚えるけど、どの道敵対は避けられないって話ね。

 

「打破するも、取り戻さんとするのも自由……既に賽は投げられた。後は、我々の道が如何様に交わるか憎き運命に任せよう」

 

 そして、レイクァトムがあたしを見る。

 

「そなたもまた、一人のサルカズ。その選択がどうであれ、恨みはすまい。ただ、敵ならば容赦はするな」

 

「ハァ? 当然、アンタが相手でも吹っ飛ばすわよ」

 

「……問おう、そなたは何を志す?」

 

「……あたし達サルカズが、もう何かに縛られて、蔑まれて、他人に踊らされないようにする。アンタなら分かるでしょ」

 

「ふ、やはり」

 

「何よ、気持ち悪い含みのある言い方ね」

 

 コイツは、いつもそう。

 あたしに稽古って名目の虐待をしてた理由も、次世代のサルカズって呼ぶ理由も、何もかも話さない。

 聞いたってイラつく感じで笑うだけ。

 あたしの何に期待して、何を見出してるのか。

 

「それでこそ次世代のサルカズ、塔の申し子よ。だからこそ、我はそなたを鍛えた……そなたが反抗期を催してレユニオンに流れた事が如何に悔しかったか」

 

「ハイハイハイ。お師匠様は腰が重くて無理なんでしょうけど、あたしこと若い次世代のサルカズは色々考えて色んな場所で布石を仕込んでるの」

 

「減らず口を。……頼んだぞ、この戦の後にサルカズを導けるのはそなただけだ」

 

「……は? それ、どういう――」

 

 その時、セーフハウスの扉が開く。

 

 

「仮設テントの設置、大体終わったよ〜!」

 

 

 顔を出したのは、能天気なブラッドブルード。

 手を大きく振って、こっちに外での作業状態の進捗を報告している。

 あたしと、ババァを見て……そして、薄くなったレイクァトムを見るや。

 

 

「待ってッッ!!」

 

 

 血相を変えてレイクァトムめがけ飛びかかった。

 でも、その手は空を切った――実体の無い虚像だから。

 なのに、理解できないのか一心不乱に手を振って掴もうとしている。その間も、徐々にレイクァトムは消えようとしている。

 

「ううむ。姫の眼を掻い潜って参ったのだが、最後に失敗するとは……我はどうしてこうも」

 

「レイ君だよね? 何で、何で」

 

「すまぬな、姫。……嬉しかったぞ、よもや捨てられるのではないかとハラハラしていた贈り物を肌身に付けておったとは。くぅ……幸甚に付して逝きそう! なんちゃって」

 

「っ……ねえ、帰って来て。あたし、まだ返してないでしょ? プロポーズの答え!」

 

「え、ああ、それは……もう良いのだ、姫よ」

 

「良いって何!? あたしの中じゃ、まだ終わってないよ!」

 

「平生応じて欲しくて求婚したのではない。……ただ、想いを伝えたかった。それこそが、死の声から我を遠ざける唯一の術だったのだ。寧ろ、我が想いの一声でそこまで煩わせ、そなたの顔を曇らせたというのなら申し訳ない」

 

「ちが……あ、あたしの気持ちは無視って事……?」

 

「その様子……士爵の過言でなく、少しは我の死を悼んでくれていたようだ。なればこそ、もうロドスは我という過去への執着は不要……未来の為、遠慮無く打破せよ」

 

「何言ってんの!? 良いから、取り敢えず帰って来てよ? 話はそれからしよ。ね?」

 

「ううむ、どうやら音の情報も拾えなくなってきたな……」

 

「レイ君……あたしの声、届いてない……?」

 

「まだ、我の声は届いておるか?」

 

「届いてるよ、ねえ、お願い。レイ君、せめてあたしからも言わせてよ……」

 

「届いておれば良いが――最後に」

 

 もう、聞こえていないみたい。

 あたし達の姿も、きっと消えかかってる状態じゃ鮮明には捉えられてない。

 ただ、残響のような声だけ。

 そして最後に。

 

 

 

「常に自らの手で未来を作るそなたを愛していた。――どうか、この先もその瞳が前を向き、これからの未来を築いていく事を祈ろう」

 

 

 そして、声すらも消えた。

 アイツがいた場所で、アイツの想い人は崩れ落ちる。

 ババァが黙って歩み寄り、その肩に手を置きながらさっきまでの会話の内容を説明し始めた。傷心中の人間には情報過多だろうって同情したけど、そこは容赦ないのよね。

 

 

「とりもどして」

 

 

 クロージャの底冷えするような声。

 ババァが顔を歪めるくらいには腕を強く掴んで縋るように、でも前髪から覗いた顔は表情が抜け落ちてゾッとするくらいの黒い執念に瞳が濁っていた。

 

 

 

「あたしにレイ君、かえして」

 

 

 

 ババァも、静かに頷いた。

 アイツの遺した傷が癒えていない。

 だから、ロドスの連中はアイツに固執している。

 さて……アイツは、逆にあたしには何を残したのか。死んだ事については、ふーんって感じだけど。

 

 サルカズの未来を託せるのは、あたしだけ?

 

 言われなくても、あたしはその為に動く。

 アンタが何をあたしに期待して、与えたかなんて知らないけど、既に殿下がくれたモノがあるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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