本日もカイセイなり   作:モカの木

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2話 思わぬ再会

 シャナンからイオタへ向かう定期便。

 その出港までは、まだいくらかの時間がある。

 それまで宿でぼんやりするのも違うように思い、光は港へ足を向けていた。

 遠目には風光明媚に見えた港と船舶の数々は、近寄れば活気と喧騒に満ちている。

 接岸している船は、あるものは積荷を次々と搬出し、またあるものは続々と積み込んでいる。

 そんな荷物の数々を積んだ貨物用の馬車が、ひっきりなしに往来する桟橋。

 そこから続く石畳の道は大通り以上の幅で、広大な倉庫街に繋がっていた。

 通行の邪魔にならないよう、一旦その場から離れた少年は、問屋街へ続く道に入ったところで振り向いた。

「……サイズ感が狂うなぁ」

 感嘆したように呟く。

 貨物馬車が吸い込まれていく倉庫の入口は、優に四台分の幅があるだろうと思われた。

 その倉庫自体がシンプルな造りであるため、どうにも大きさを感じられず、逆に「馬車が小さい」ように見えてしまうのだ。

「あれでも狭いくらいだ。繁忙期は待機列が桟橋まで続く」

「え?」

 不意に聞こえた声の方向へ、光が顔を向ける。

 そこには、身なりの整った紳士と初老の男性が立っていた。

 少年の目が丸くなり、その後ろでティスが折り目正しく礼をする。

「チャプレットさん! メルヴィル博士も!」

 鷹揚に頷いた紳士の隣で、博士と呼ばれた男性が破顔した。

「久しいなぁ。息災だったかね?」

「はい、おかげさまで」

 紳士の名はアーサー・チャプレット。

 チャプレット商会の次期会長、いわゆる若旦那で、光のパトロン。

 光は、彼に旅費等々を工面してもらう代わりに、旅先で見聞きしたことを定期的に報告する契約を結んでいる。

 正直なところ、これは破格なものだった。

 そのきっかけとなったのが、メルヴィル博士だ。

 ライト・メルヴィル。

 カイセイのゴーレム研究の大家で、ヨウゲツの王家離宮を維持するゴーレム達は彼の作品だ。

「で、何か手がかりはありそうかね?」

「あー、イオタに行けば、もしかしたら何か分かるかも……って感じです」

 少年のように目を輝かせた博士の欠点は、いわゆるマッドサイエンティストであることだろう。

 彼の目的はただ一つ。

 騎士を超えるゴーレム。

 神話に謳われる、かつて人類と共に魔物と戦ったというヒトガタ。その再現。

「先生、それも結構ですがね、いい加減次期のロットを納品していただきたいものですな」

「まぁ~だ二ヶ月も先だろう。アーサー坊は心配性すぎるぞ」

「もう二ヶ月、です」

 肩をすくめたアーサーだが、それでも慣れた様子だ。

 博士を家庭教師として幼い頃から知っている彼にしてみれば、いつものやり取りなのだろう。

「で、ヒカル。そちらが?」

「あ、はい。手紙ではお伝えしてましたけど、同行者の……」

「フィオ・シジョウと申します。お見知りおきください」

 いつの間にか、ティスの隣に立っていたフィオが進み出て、礼をする。

「小生はアーサー・チャプレットと申す。しがない商会の放蕩息子でね、縁あってヒカル君の援助をしている」

「聞き及んでおります。我が主から、常々お世話になっているお方、と」

「何、大したことではないよ」

 そんなやり取りに、光は少しだけ気恥ずかしくなり、頬をかいた。

「えっと、それで、チャプレットさん達はどうしてシャナンに?」

「うむ。立ち話もなんだ。店を取っているのでね、軽く食事でもしながら話そう」

 取り出した懐中時計をちらりと眺めると、アーサーは踵を返し、先導するようにゆっくりと歩き出した。

 

 ◇

 

 個室の多いレストラン、その一室に光はいた。

 慣れた様子で食事を取るアーサーとライトをちらりと見やり、少年は内心でため息をつく。

 マナーを洗練させるには、場数を踏むしかないのだ。

 少しだけ、この場を遠慮したティスとフィオの2人を羨ましくも思う。かたや個室の扉の外にそっと佇み、もう一人はまたどこかに姿を消していた。

「それで」

 ナプキンで口元を軽く拭い、アーサーが話し始めた。

「小生がここに来たのは、トゥーズに渡るためだ」

「え、と、何かご用事が?」

「うむ。で、君の経路でもあることを思い出してね。待たせてもらった」

 そうだったんですか、と光は素直に納得した。

 彼の先見の明に驚かなくなる程度には、付き合いが深まっているともいえる。

「トゥーズは大きな前線を抱えているわけではないが、その分、各国間の物流の一大拠点でな。アーサー坊も定期的に顔を出しとるのよ」

「なるほど」

 ライトの補足にも、少年は頷く。

 先ごろまで最前線の都市、ヨウゲツにいたのだ。

 物がある、ということがどれだけの意味を持つのかは、何となくだが理解はできた。

「……バルクマンさん、凄いところをまとめようとしているんだ」

「ハモニカの団長だったかな」

「あ、はい」

 光の呟きを、アーサーが拾った。

 ロンド・バルクマン。ヨウゲツの戦いを機に、故国であるトゥーズへと戻った騎士。

「違約金の件は連絡があったよ。今どき、律儀なことだがね」

「……はい」

「して、まとめようとしている、というのは?」

 ライトが興味深そうに尋ねた。

「えっと、この間の戦いで思うところがあったようで……トゥーズは大公って人が治めてるそうなんですが、あ、流石にご存知ですよね。それで、王様が不在なので、少しでも安定させるためにって」

「ほう」

 博士は感心したように笑う。

 ロンドのことというより、それを説明した光に対して、のようだった。

「そんなことまで、話してくれたのかね?」

「え? はい。依頼を切り上げる理由だと……」

 少し驚いた様子のアーサーに、少年は首を傾げる。

 何かおかしいことを言ってしまっただろうか、と自問する。

「……ヒカル、それは君が信頼されている、ということだよ」

 穏やかに、紳士は微笑んだ。

 一瞬、光は面食らったように動きを止める。

「いくらでも誤魔化せることを、しっかりと説明する。……何も思っていなければ、そんなことはしないものだ」

「それは……えっと、そう、なのかな?」

「ははは、士たるもの三日会わざれば、というやつだな、アーサー坊」

 愉快そうに、ライトは手持ちのグラスを飲み干した。

 アーサーもまた、同意するように頷いている。

「どうせ、乗る船は一緒だろう? せっかくだ、老人に付き合ってくれんか。色々と、話を聞かせておくれ」

「えっと……」

 ちらりと、少年は紳士を見やる。

 その視線を受けて、アーサーは卓上の鈴を鳴らした。

「では、飲み物を追加しましょうか。先生は酒の方が?」

「わかってるではないか」

 ライトの笑い声が、からからと響いた。

 

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