本日もカイセイなり   作:モカの木

26 / 43
5話 ハモニカとロンド

 ヨーカの港。

 そのお祭り騒ぎのような賑やかさに圧倒されていた光は、いつの間にか仰々しい建物に案内されていた。

「え、なんで?」

 理解が追いつかないまま一人通された部屋で、ようやく少年は首を傾げる。

 どうも到着直前から、わからないことが次々と飛んできていた。

 今回は港で下船の手続きを取っていたら、どこからかフルフェイスの兜に鎧姿の騎士たちが現れ、有無を言わさずに「こちらへ」と連れてこられたのだ。

 ティスが何も言わずついてきたところを見ると、これ自体は危険ではないのだろうが……。

 いや、よくよく思い返せば、フィオも最初こそ呆気に取られていたが、すぐに何か納得していたような。

「……え、なんで?」

 同じセリフを繰り返す。

 頼りの侍女とニンジャは、何故か扉の外で控えたままだ。

 と、整然とした足音が聞こえてくる。

 それはまっすぐに光のいる部屋へ向かってくると、扉の前で止まった。

 ノックの音。

「……えっと、どうぞ?」

 光の声に、扉が開かれる。

 入ってきたのは、3人の騎士。

 出で立ちからして、港からここまで彼を連れてきた騎士たちに見える。

「……?」

 何も言わず立ったままの3人に、少年は怪訝な顔をする。

 ただ、何となく、その並び方には見覚えがあるような気がした。

「……くく」

 その時、真ん中の騎士が小さく笑った。

 聞き覚えのある声。

「ジェイクさん?」

「あっははは! 悪いなヒカル、ちょっとしたサプライズってやつだ」

 笑いながらフルフェイスの兜を脱いだのは、まさにハモニカの団員、ジェイクだった。

 同時に、両脇の2人も顔を現す。

 イネスとニナだ。

「ごめんネー。絶対気づかないからやめようって、お姉さんは言ってたんだけどさぁ」

「顔も隠そうって言い出したの先輩ですよね……? んん! にしてもヒカル、元気そうで良かったわ!」

「……はい、おかげさまで」

 安心と、懐かしさと、少しの照れ。

 光は気恥ずかしげに首を振ると、口を開く。

「えっと、それで皆さんはもしかして、トゥーズの騎士に?」

「ふふん、よくわかったわね! でも、ただの騎士団じゃないわ!」

 ニナが誇らしげに胸を張った。

「私たちハモニカはね、近衛騎士団に取り立てられたの! アレク副団長なんて、今や近衛騎士団長よ!」

「おお……!」

 ぱちぱち、と光が拍手する。

 実際のところ、それがどれだけのことかは想像できなかったが、目の前の少女の自慢げな様子を見るに、相当に凄いことなのだろう。

 が、不意に疑問が生じた。

「あれ、バルクマンさんじゃないんですか?」

「あー、まぁ、ヒカルならそう思うわな」

 ジェイクが苦笑する。

 ハモニカの団長であったのは、ロンド・バルクマンだ。

 そのハモニカが近衛騎士団になったのであれば、近衛騎士団長もまた、ロンドになるはずではないか。

「まぁまぁまぁ、細かいことはいいじゃない。どうせ、明日にはぜーんぶ分かるんだから」

 イネスはそう言うなり、胸を張ったままのニナにしなだれかかった。

 少女は一瞬体勢を崩しかけ、慌てて踏ん張る。

「お、偉いぞ。今のは完全に重心を崩したつもりだったのに」

「なんでそんな事するんですか!?」

 じゃれ合い出した2人に、光は声を上げて笑う。

 誤魔化されているのはわかったが、それでも、今はこの雰囲気が懐かしかった。

 

 ◇

 

 ――明日にはぜーんぶ分かるんだから。

 昨日のイネスの言葉を疑ったわけではなかったが、それでも、まさか日も昇りきらないうちから呼び出されるとは、光も思っていなかった。

 指定された場所には、まだ見慣れない鎧姿のジェイク達3人が、既に待っていた。

「よく眠れたか?」

 笑って声をかけてきた青年に、おかげさまで、と少年も笑って応じる。

 和やかな雰囲気のまま誘われたのは、昨日案内された仰々しい建物(港湾の騎士団の派出所らしい)の一角。

 物々しい、という程でも無かったが、複数の騎士が脇を固める扉をくぐった3人の後を、光はやや緊張しながら追った。

 その室内は、真ん中に円形の台座があること以外は、極めて簡素な造りだ。

「ヒカルは、転移陣って知ってる?」

「えっと……名前くらいは?」

 胸を張って口火を切ったニナに、光は自信なさげに答えた。

 ゲームやらで、何となく知っている知識ではあるが、もちろん実物を目にするのは初めてだ。

「なら、使ったことはないってことね! きっと驚くわよ!」

「先輩風吹かせちゃってまぁ。私らも、ついこないだ使ったばっかりなのにねぇ」

「い、良いじゃないですか!」

 イネスの茶化しに慌てるニナ。

 そんな2人に苦笑しながら、ジェイクが口を開く。

「転移魔法は、使える人材ってのは希少なんだ。それを装置に落とし込んだのがこれでな。まぁ、とにかく金がかかるのが難点だが……」

「むしろ、よく装置にできた、というところデスね」

 フィオがうんうんと頷いている。

「世の中には、そんな魔法を気軽に使えるのもいるってのがな。とはいえ、行き先をこうやって固定すれば、俺等でも恩恵に預かれる」

 光の脳裏に、以前の街、ヨウゲツでの光景が蘇る。

 あの規格外の王女、ナインはごく自然に転移魔法で現れていたが……。

 物思いに耽りそうになったところで、少年は首を振った。

「えっと、バルクマンさんはこの転移陣の先に?」

「そうだよー。答え合わせはそこでってね」

 悪戯っぽく言ったのはイネスだ。

 答え合わせ。

 トゥーズの貴族だろうロンドが、近衛騎士団の団長ではない理由。

 つまり、自分が思っている以上に、高位の貴族で……新しい王様の下で、そう、大臣なんかを務めることになったとか……。

 そんなことを考えながらごくりとつばを飲み込み、光は神妙な顔で転移陣を見つめる。

 こそこそと、ニナがイネスに耳打ちした。

「あれ、わかってると思います?」

「いやー……当たらずとも遠からず、くらいじゃない?」

 

 ◇

 

 転移した先も、同様に質素な部屋だったが、そこを抜けた先は明らかに造りが違っていた。

 王城。

 そう察した光に、ジェイクは当たりだというように頷く。

 まだ早朝だったが、城内は活気に溢れていた。

 そんな様子を横目で見ながら、少年はある部屋の前まで通される。

「近衛騎士、ジェイクです。お客様をお連れしました」

 ノックに続き、恭しく青年が口上を述べた。

 お客様、と呼ばれたことに、光は少しだけ面映ゆく思う。

 程なく、扉がゆっくりと開かれ、現れた侍女が動作で入室を促すと、少年の背中をジェイクがぽんと叩く。

「さ、行ってきな。流石に、こっからは一人だ」

「は、はい」

 返事をしてから、少しだけ呼吸を整える。

 振り返ると、フィオは微笑み、ティスは静かに瞑目していた。

 よし、と心中で呟き、光は扉をくぐる。

 素人目に見ても品の良い調度品が、朝日を受けてきらめく中にあってなお、凛とした存在感を放つ人物が、そこにいた。

 思わず、少年は目を見張る。

 凛々しくも華麗な装束は、どう見ても女性の出で立ちだ。

 足音に振り返ったその人物は、光を見て微笑む。

「久しい、という程ではないかな? ヒカル」

「え、あれ?」

 聞き覚えのあるその声と、記憶の中の見た目が全く一致しない。

「バルクマンさん……?」

「おや、もう忘れてしまったかい?」

 くすくすとロンドは笑う。

 そのまま、近くのキャビネットを開けると、中から見覚えのある鉄仮面を取り出す。

「その時は、これを外して話そう……と言っただろう?」

「あ、はい。確かにそうです。いや、あの……え? ……女性だったんですか?」

 おずおずと切り出した少年に、ロンドは僅かに身をかがめると、耐え切れないとばかりに声を上げて笑い始めた。

 大笑いしても絵になる人だなぁ、と光は場違いな感心をする。

「……ふう、いや、そうだろうなとは思っていたけどね。本当に気づいてなかったとは」

 ひとしきり笑った後で、ロンドは目尻を拭いながら姿勢を正した。

「では、改めて名乗ろう。我が名は、ロンド・ブリュースター。トゥーズ王国、女王である。……正確には、今日が戴冠式だけどね」

「え」

 ――あの時のヒカルの顔は見ものだったよ、と、後にロンドは楽しそうに話すことになる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。