「さて、約束通りの時間だ。頼名、準備はいいかい?」
「ああ、何が起ころうと乗り越えて見せるさ。それで、一体どこへ行くんだい?」
「ガイア連合が警戒する認知異界が一つ……タルタロスだ」
「タルタロス……奈落の神か」
午後十時、やる気マックスの頼名がアインと合流し、任務の行先を伝えられる。
(影時間にちゃんと適性があるかどうかはまだ分からないけど、カスライナになれるということは、火種は宿せているはずだ。それなら歳月の加護を得られているはずだ)
ここにいたってアインはほぼ間違いなく、頼名が影時間――止まった世界への入門を可能としていると確信していた。
「そういえば、君の今のレベルは大体どのくらいなんだい?」
ペルソナ適性診断の前に、まだレベルが足りないと嘆いていた彼のレベルを知らなかった、とアインは頼名に訊ねた。
「昨日まではレベル5だったけど、今は大体レベル10ってところだね」
「……なんだいそれ。経験値倍増のアイテムでも手に入れたのかい?」
「いや、ただ格上との戦闘経験だけは記憶に深く刻み込まれてるからね。あの英雄の動き自体を再現出来てるとは言えないけど、大体5レベルのギャップは埋められると自負しているよ」
頼名という男は、その血に染まった記憶から、いわゆるメガテンステータスである「力・魔・体・速・運」以外に必要な要素……現実で戦うにあたって必要な技量は素人の域を遥かに超えていた。それに物を言わせて、上層ではあるものの、多少のレベル差を強引に突破し、格上に挑み続けることで凄まじい速度のレベリングを可能としていたのだった。
「まあ、今回はそこまでレベルの関係ない依頼だからね。それじゃあ、早速現地に向かおうか」
そして彼らが移動したのは巌戸台。そこにある月光館学園だった。
「おお、懐かしいな。僕ここの卒業生なんだよ」
「へえ、そんな縁もあったのか。あれ、そういえば頼名は今大学生なんだっけ?」
「そうだよ。工学部、情報系の二年生だ。今はまだ夏休み期間だからいいけど、もう少ししたら大学行かないとだな」
そして、ついに学園の校門前までたどり着いた。
「ここまで来たけど……ここで一体どんな依頼を?」
「もう少し待ってくれ。あと一人現地で待ち合わせをしてるんだ……来たみたいだね」
そういうアインの視線の先には一人の少女の姿があった。
「博士お待たせー。それで、貴方の隣にいるのが例の……?」
「ああ、今回タルタロスに連れて行ってほしい人だ。烈日ニキ、紹介しよう。彼女がこのタルタロスを単独で探索している通称ハム子ネキだ」
「別に好んで単独なわけじゃないんだけど……まあそういうわけで、私がハム子ネキだよ、よろしく、烈日ニキ」
ハム子ネキが右手を差し出したので、頼名はその手を握って答えた。
「ああ、そういえばあんまり本名で呼ぶのはよろしくないんだったね。烈日ニキだ、今日はよろしく。それで博士、結局今日はどんな依頼なんだい?」
頼名がアインに訊ねると、アインは不思議そうな顔をして言う。
「どんなもなにも、君にただここの探索についていってほしいってだけだよ。可能なら、ペルソナに覚醒してもらおうと思ってね」
「はぁ、なるほど。つまり荒療治って訳か。分かりました、ついていけばいいんですよね?」
そう言って彼はハム子ネキを見やる。
「今日の目的は君がペルソナに覚醒することだけだから、そこまで深くまでは潜らないし、仮に死んだら私が蘇らせてあげる。安心して思う存分覚醒しちゃって!」
そう言って彼女はグッと親指を立てて頼名に伝えた。彼女としても、まだレベルこそ低いものの、メメントスとマヨナカテレビにほぼ行けないことが確定している頼名の存在はありがたい。彼女の脳内ではほぼ逆光源氏現象に近い構図が思い浮かんでいた。年齢だけで見れば頼名の方が上なのだが。
「さて、そろそろ時間だね。5、4、3、2、1……!」
アインがカウントダウンを始め、0になった瞬間、頼名の視界が変化した。
「これが、認知異界……!」
「うん、問題なく適応できたみたいだね。これが夜の12時0分と1分の間にある時間。影時間だよ」
彼の目の前にあった学校は、天を衝く塔へと変化した。
「さて、それじゃああとはハム子ネキ、頼んだよ」
「うん、任されたよ! 博士は安全なところに避難しておいて!」
ここでアインは離脱し、その場を離れた。
「それじゃあ、始めようか。さあ、来るよ!」
そう言ったハム子ネキの言葉通り、まだタルタロスに入ってもいないのに彼らの周囲を化け物が囲んでいた。
(アナライズ……! 大体がレベル10、一部に15と来たか。捉えられないわけじゃない!)
愛用する片手直剣を手に、頼名はシャドウの群れに突っ込んだ。
「おおおおおっ!」
スキルも何も使わないただの攻撃。しかし、磨かれた眼により、それらすべてが致命の一撃となる。無理やりスキルのように解説するのなら、「敵一体に対し、自身の5レベル上までなら確定で攻撃がクリティカルになる」のだ。これこそが、ファイノン/カスライナという英雄を前世とする頼名の持つオートスキルである。
「へぇ、ペルソナも無いのによくやるね。けど、このままだと窮地に陥ることもないよね……」
ハム子ネキはその戦いを少し離れた場所から眺めていた。彼女に襲い掛かるシャドウもいたが、それらは彼女のペルソナによって一瞬で消滅していた。
(レベル差は間違いなくある。それでも互角以上に渡り合えてるのは彼の才能だね。ステータスの差が諸に出ていて、ジリ貧にはなってるけど)
数多のシャドウを斬り捨て、獅子奮迅の活躍を見せる頼名であったが、そんな彼を一つの影が襲う。
(あれは……レベル23、スレイヴアニマル!)
ハム子ネキはそれに気が付いていたが、あえて頼名に伝えなかった。
――電光石火
「がっ!?」
寸前で気が付いた頼名は、何とか剣で物理攻撃をガードしたものの、その力で弾き飛ばされた。
(気が付かなかった……! 寸前で嫌な気配がしたから防げたけど……ちょっとずつレベルが上がってきてる! 23か……さすがに10以上違うと厳しいものがある!)
体勢を立て直そうとした頼名だったが、スレイヴアニマルによって囲まれた。
(まずい……このままだとっ!)
――頼名の脳裏にはこの瞬間、この世界で始めて明確に死のイメージがこびりついた。確かに、彼はよく自分の命を軽視するような発言をする。しかし、それは最終手段として手放す覚悟があるというだけで……。
「こんなところで、死んでいられるかっ!」
死の覚悟がなされた。それに、彼の精神が呼応する――!
「っ! 来た!」
「ペルソナァッ!」
青い螺旋が頼名の背後で回りだす。それから生み出されるのは、もう一人の彼。
『我は汝、汝は我……舞台は違えど、汝の心の海より出でし者……』
背後のそれに、頼名は高らかに命じた。
「カスライナ……薙ぎ払えッ!」
――災厄・魂命の焼却
宙に浮く頼名によって宣告されたスキルによって、カスライナは大地を裂くような大剣を翻えす。その一撃は、シャドウの大群に見事命中し、それらを一掃した。
「わーお、やっるー!」
「これでひとまずはしのげたかな……おっと」
窮地を脱した頼名にハム子ネキが話しかけると、頼名がよろめいた。
「流石に初覚醒なら疲れるでしょ? 今日のところは目的も達成したし、ここまでにしよう?」
タルタロス探索の先輩のいう事にわざわざ反抗する必要もなく、頼名はハム子ネキとしばらく休憩することとなった。
「それにしても、まさか母校にこんな塔があったとは思わなかったよ」
「もしかして烈日ニキって月光館出身なの!? ちなみに部活は?」
「バスケ部だったよ。懐かしいな……」
ハム子ネキが頼名とのちょっとした共通点を見出したあたりで、影時間が終わりを迎えた。
「あ、博士!」
「とりあえず無事に乗り越えられたようで何より。二人の顔を見るに、覚醒はできたみたいだね?」
ハム子ネキが近寄るアインに気が付いた。
「ああ、僕のペルソナはカスライナ。前世の8割くらいのスペックまで出せそうだ。けど、それ以前に僕自身のレベルが足りないから消耗が激しいから、しばらくは制限を掛けながらって形になるね」
「あれで8割? 前世から強いんじゃん」
「まあ、色々あったんだよ」
そんなこんなで頼名とアインが山梨支部へと戻ったあと、ハム子ネキはアインに電話を掛けた。
「そういえば、どうしてわざわざタルタロスまで来たのさ。ショタおじが近くにいたなら、あの人に修行してもらえばよかったのに」
『ああ、それについては縁の問題だよ。まず、彼の前世がギリシャ神話にかなり近い世界観にあったから、タルタロスというギリシャ神話と紐づけることでカスライナを誘導した』
「っていうか、話を一旦切っちゃうけど、そこまでしてペルソナを誘導しないといけなかったの?」
ハム子ネキがそう訊ねるとアインはショタおじとも話した危惧について伝えた。
「丸喜のペルソナと同じのは流石にまずいね。それで、それ以外にも縁はあったの?」
『タルタロス以外には、舞台も関係してるね。ペルソナ5とは関係のない月光館学園という場所もよかった。彼の出身校とは知らなかったけど、今思えばそれも役立ってくれたようだ。より日野頼名というアイデンティティを補強してくれたからね』
そして最後に、とアインは続けた。
『なによりハム子ネキに手伝いを頼んだのは、いわゆる中の人ネタってやつだね』
「中の人って……あれ、私の声って、前世で言えば誰なんだっけ?」
『声優で言えば、井上麻里奈さんになるね。そして、彼女は烈日ニキの前世となるゲームで、彼と幼馴染の関係にあったキュレネというキャラも担当していたんだ』
「なるほどねー。確かにそこまでの縁があれば間違いなくカスライナがペルソナとしてちゃんと認知されるか。聞きたいのは全部分かったよ、ありがとね博士!」
『ああ、もしよければまた今度彼に付き合ってほしい。彼のレベル上げは、かなり有意義になるはずだから』
アインはそう言うと通話を切った。そして寮にいるハム子ネキは部屋で一人呟いた。
「せっかく仲間にできそうな先輩なんだ……逃がさないぞー?」
烈日ニキ/日野頼名
何とか自分の前世をペルソナとして発現させることに成功。しかし、ペルソナレベルだけが先行して高いという「二周目MP不足問題」に直面するはめになった。
スキル:災厄・魂命の焼却
本来ならカウンタースキルとして発動。しかし、ペルソナの状態ではカウンターとして使えない、通常の攻撃スキルとしてしか使えなくなった。
ハム子ネキ
どうにかして仲間が欲しいところに現れた頼名を維持でも仲間にしようと意気込んでいる。多分今のレベルは25~30のあたり。
ラスボスを生み出さない方法は、「ちょっとした縁を何個も繋げることで雁字搦めにして無理やり理想の方向に持っていく」ことでした。
とりあえず書きたいネタは今のところで終わりました。気が向けば続きます。ってか、ハム子ネキあたりの設定が本スレでもよくわからないんですよね~