【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

14 / 504
第十四話 室長との会合

7月22日(土)

昼――エルゴ研・会議室

 

 湊の復活から約一週間経った頃、湊はチドリと飛騨と共に、会議室へとやってきていた。

 入った部屋の中には、数名の大人たちがおり、その中には幾月や沢永の姿もある。

 湊がここへやってきたのは、被験体らのペルソナ制御の安定化のために力を貸して欲しいと、飛騨経由で依頼があったためだ。

 三人が到着すると、傍に座っていた他の研究員と話していた沢永が話をやめ、席から立ち上がって湊を歓迎する。

 

「きてくれてどうもありがとう。私は第四研究室の室長を務める沢永よ」

「私は第二研の室長の幾月。第一研と第五研は今回は不参加なんだ。だけど、私たちだけでも、新たな制御剤は作れるから、その点は安心して欲しい」

「俺はエヴィデンスで良い。それとまぁ、自分たちに危害を加えた人間の力を借りるのなんて癪だろうしね。不参加でも別に構わないよ」

 

 笑顔で湊を迎えた幾月も立ち上がって歓迎すると、挨拶をしてきた二人に、冷めた表情で返し、湊は椅子を引いてチドリを座らせてから自分も席についた。

 席順はスクリーンに近い方から湊、チドリ、飛騨の順で。その向かい側には、同じようにスクリーンに近い方から順に、幾月、沢永、その他の研究員らが座っている。

 そして、湊とチドリが座る際の様子を見ていた飛騨以外の研究員が、湊にとってどれだけチドリが大切なのかをある程度理解する。

 チドリは湊とってアキレス腱だと言えるが、それと同時に逆鱗にもなり得る。

 よって、ここでの発言では、チドリを第一に考えて話を構築していこうと心の中で決め。沢永は早速話をするためプロジェクターに先日の訓練の画像を映し出した。

 

「では、早速話を聞かせて貰いたいのだけど。その前に何か飲み物はいるかしら?」

「俺は赤いパッケージのコーラ。チドリはどうする?」

「りんごジュースで良い」

「それじゃあ、それで」

 

 二人の要望を聞くと、幾月の指示で研究員の一人が準備のために部屋を出ていく。

 そして、「すぐ届けさせるから待っていてくれたまえ」と、笑って言ってきたので、二人は待っていると、二分もしないうちに研究員の男が帰って来た。

 手にはそれぞれの1.5リットルのペットボトルと、未開封の紙コップの束を持っている。

ペルソナを召喚せずに密かに湊がそれにアナライズをかけ、本当に未開封で手も加えられていない事を知ると、相手がわざわざ未開封の物を持ってきた理由を察した。

 ようは、自分たちは何も企んでいないという事をアピールするため、最初から開いているものではなく、目の前で開ける物を準備したのだろう。

 量が多いのは何度も運ぶ手間を避ける他に、自分たちも同じ物を口にする事で、その安全性をより伝えるためのようだ。

 広げた紙コップにそれぞれジュースを注ぎ、自分たちの前にも同じ物を置くと、「どうぞ」と言ってから沢永が本題を口にする。

 

「それでは、先ず初めに聞きたいのは、この訓練時の子どもたちに召喚させるために貴方が拳銃を使った理由なの。その前の彼女たちのときには使っていなかったけど、それはどうして?」

「質問に質問で返すけど、現段階で、エルゴ研ではどういった方法でペルソナを呼び出していると思っているの? ペルソナはシャドウを自分の制御下に置いて安定させた、自分の内面の具現化だ。過去の実験データを見ると、極限状態に追い込んで呼ばせたりしてるけど、それらは何か仮説があって、その実験方法をとったの?」

 

 表情は冷めているが、雰囲気からは怒りなどは感じられない。

 湊の言葉から、相手は、純粋にエルゴ研ではペルソナ召喚のプロセスをどう認識しているかを聞きたいのだと分かると、幾月がプロジェクターで自分たちの立てた仮説をチャート図にしたものを表示し、説明することにした。

 

「先ず、我々が最初に立てたのは、ペルソナは強い感情の現れであるというものだった。これは、アイギスのメモリから僅かに得られた君との会話が元になっている。君は、デスというご両親を殺し、自分をあんな目に遭わせた相手を倒したいと思っていた。だから、その怒りや憎しみで召喚することが出来たんだと思ったんだ」

 

 湊が話を聞きながらジュースに口をつけ、二・三度頷いて反応を返すと、さらに幾月は進める。

 

「その仮説によって私たちは、脳波計を着けさせた状態でいくつかパターンの違う極限状態に子どもたちを置いてみた。しかし、それは彼らの精神を乱すだけで、なんの成果も得られなかった。なにせ、君より年上でも殆どの者は怒りや憎しみよりも、恐怖に呑まれてしまったからね。これで感情はペルソナの強さの一要因ではあっても召喚プロセスには関係ないと分かった」

 

 子どもたちを極限状態に置いたと聞いたときに、湊の視線が僅かに鋭くなったが、隣でジュースを飲んでいたチドリが湊の右手首を握ると湊の表情が元に戻った。

 視線が鋭くなった事で焦りを覚えていた研究員らは、チドリが湊を抑えてくれた事に感謝する。

 しかし、チドリは自分から今の行動を取ろうと思っていた訳ではない。

 湊はここへ来る前に、本日の話し合いで相手の言葉に我慢できなくなって手を出してしまうかもしれないと思っていた。

 なので、自分の感情が抑えられなくなった時には止めて欲しいとチドリに頼み、チドリはその頼みを実行しただけだ。

 裏にそんな事情があったとしても、湊が冷静になってくれた事に違いはない。

 湊を止めたチドリに感謝しながら、再び話を続けるため、幾月は次のスライドを表示した。

 

「先の感情の揺れが召喚に関係するという仮説の次に立ったのが、“決意”というものが関係するのではというものだった。これは、アイギスのような対シャドウ兵装シリーズがペルソナを召喚させていたときに得たデータと、デスと戦うと決めた君からヒントを得た」

「ペルソナは元々は心という不安定な存在。だから、それをペルソナという形で固定化するために、決意という心を固定化する行為がトリガーになるのではと考えられたのよ」

 

 スライドショーを見ていた湊が、話している者に視線を戻すと、沢永が補足説明を入れて自分たちの仮説が相手に伝わるように気をつける。

 チドリは暇そうに机に突っ伏して、スライドショーをぼうっと眺めているが、湊はきちんと相手の説明を聞いて、話も理解して頷いている。

 一部の研究員は、その理解力の高さを不気味に感じるが、室長らは既に湊の精神年齢の高さなどは理解していた。

 故に、自分たちの話が伝わっていることにだけ喜び、再び幾月が仮説の証明実験から得られたデータを説明する。

 

「これの証明のために、我々は子どもたちにシャドウは倒すべき敵であると教え、それを倒すための実戦訓練も積ませた。目標を倒すために必要な技術、平時と戦闘時で思考を切り替える訓練など、様々なことを行った。第一研など、その為だけに一部の子どもにマインドコントロールを施していたしね」

「第一研は幅広い研究分野を持っているのだけど。思考を切り替えさせる実験によって、何人か精神が変化した者がいたの。ある者は戦闘時に凶暴化し、ある者は普段から好戦的で戦闘を楽しむようになった。まぁ、それでペルソナに影響が出る可能性も懸念されたのだけど、一応、そういった精神の変化が起こった者の方がペルソナが安定したから、私たちも何も言えなくなってしまったわ」

 

 その例として挙げられるのが、マリアやカズキといった者たちだ。

 マリアは普段は精神的に幼く戦闘を嫌うが、一度スイッチが入ると、脳のリミッターが一部外れ、平時よりも身体能力が上がり、敵を殺す事を第一目標として行動する。

 第一研ではこれを“バーサーカー型”と名付けているのに対し、カズキのように常時好戦的な者は、“戦闘狂型”と呼び区別している。

 しかし、中には潜在的な戦闘狂型が存在し、それが先日出会ったスミレである。

 彼女は、普段はマリアのようなおっとりした性格だが、あの性格のまま戦闘を好み、戦闘時にはそれが面白い遊びであるかのように楽しげに戦う。

 他の研究室は、こういった者らを生み出した第一研の研究に反対の立場を示していたが、結果を見ればそういった者の方がペルソナを発現出来ている。

 そのため、いまでこそ研究は行われなくなったが、当時は何も言う事が出来なかった。

 沢永がそれを告げると、自嘲的な笑みを貼り付けた幾月が湊に声をかけた。

 

「我々の仮説では、現在もこの“決意”という物が召喚の根幹にあると思っているんだ。そして、その決意の内容に関わるもの、つまり最も大きな感情だね。それが何であれば召喚しやすいのかを研究している段階というわけさ」

「それを踏まえて、貴方には間違いの指摘と、召喚はどういったプロセスを経ているのかを教えて欲しいの。勿論、感覚的に行っているので分からないのならそれでも構わないわ。でも、それなら、どういった感覚で召喚しているのかを、なるべく具体的に聞かせてくれないかしら?」

 

 プロジェクターを切り、会議室に明かりを点けると、沢永は自分では優しげと思われる表情を湊に向ける。

 毎日を忙しい研究に追われながらも、女性としての最低限のプライドは持ち合わせているので、美容には気を遣っている。

 その成果か。他の男たちが暗く小汚い相貌をしていることも相まって、湊の目には沢永は他の研究員よりまともに見えた。

 勿論、その程度で信用するほど、今の湊も甘くはないが。

 

「じゃあ、間違いの指摘から。ペルソナの召喚において、感情の揺れも決意も関係ないよ。それは召喚後の出力とか力の方向性に関係ある要素だ。極限状態なんてもっての外だね。ペルソナ召喚時に最低限の思考能力は必要。これ重要だから覚えておいて」

 

 正面から二人の室長を見ながら伝えて、湊はコップに口をつける。

 その間、二人や他の研究員は湊の言葉を聞き逃さぬよう、録音しながらメモを取っている。

 そんな様子を確認しながら湊は、チドリに声をかけた。

 

「チドリ。ここの人間に召喚して見せてあげて」

「え、なんで? 湊なら100%召喚できるでしょ?」

「被験体の安定召喚を見せないと、決意や感情の揺れが関係ないって証明できないから」

 

 不思議に思って見返してチドリに、湊がそう告げると、ならばしょうがないかとチドリも了承して一度頷いた。

 そして、目を閉じて静かに呟く。

 

「お願い、メーディア……」

 

 チドリが静かに呼びかけると、パァア……と光が集まり、チドリの頭上に刑死者メーディアが現れる。

 目を開いたチドリが、メーディアの姿を確認してホッと息を吐いている事から、以前よりも安定して呼び出せるようになったといっても、未だ100%ではない事が伺えた。

 だが、それでも被験体がこうもリラックス状態で安定して呼び出す様子を見ていた研究員らは、確かに感情や決意は必要ないのだろうと実感した。

 実感して、やはり湊が自分たちよりもペルソナに関して熟知していると分かり。これまで実験や研究に費やしてきた時間が無駄なものになっていくような感覚を覚えた。

 しかし、それに気付かない湊は、チドリにメーディアを消すように言ってから再び話し始めた。

 

「本題はここからだ。ペルソナは無意識の領域にいる。それを意識レベルに引き上げるために必要なのは、自分という存在を定義し、さらに己の死を意識すること」

「だから、拳銃を使って自殺のような真似をさせたの?」

「そう。死の意識後、ペルソナを召喚するに当たっては、大きく二種類に分かれるんだ」

 

 沢永に答え、他の者に見えるよう、右手の人差し指を立ててから湊は続ける。

 

「一つ目は死を拒絶するタイプ。死にたくない、生きたいと願う事で、自分を守る存在としてペルソナを呼び出す者。俺がタナトスでマリアを脅していたのは、そういった理由。タナトスは死神だからね」

 

 冷めた雰囲気でクスリと笑う湊に、一部の研究員は背筋に氷の矢が刺さったかのような寒気を覚える。

 シャドウにも成り得る死神を操る少年。

 あり得ないはずのアルカナを持っている湊だけに、見た目とその精神構造に大きな齟齬を感じてしまい、相手が人間とは別の存在なのではないかと、本能が警笛を鳴らすのだ。

 だが、その相手は誰よりも存在感を放ち、視線を逸らす事が出来ない。

 続けて、湊は右手の中指も立てて話を進める。

 

「そして、二つ目は、いつか訪れる死を受け入れた上で今を生きようとするタイプ。自分はいつか死ぬ。だけど、それを他人に決めさせはしないと、戦う力としてペルソナを呼び出すんだ。チドリや、俺と話してた第一研のタカヤとかがそっちに分類される。ペルソナ召喚はこの二種類の精神構造を根底に行うんだ」

 

 湊の言葉を聞いた者は、チドリと飛騨を除いて、全員がその表情を驚愕に染め固まっていた。

 初めて語られたペルソナ召喚の真実。

 分からない筈だ。なにせ、死を意識することで無意識を意識レベルにまで高められるなど、誰も想像すらしないのだから。

 あまりに衝撃的な内容に、自分でも気付かぬうちに握っていた掌に汗を掻いている事に気付いた幾月は、上着の内ポケットからハンカチを取り出すと汗を拭いていく。

 そして、まだ冷静になりきれず、思考も定まらぬ状態で、湧いてきた好奇心のまま質問をぶつけていた。

 

「君のペルソナを付け替える能力、確か博士がワイルドと言っておられたが、あれは? あれも同じ方法で使う事が出来るのかい?」

「ワイルドは無理だよ。あれは愚者のアルカナを持つ、特別な素質を持つ者しか使えない。言っただろ。ペルソナは自分の心だって。心理学におけるペルソナが語源になってるけど、俺たちのペルソナはその意味からすると外れていることになるのは理解できるよね?」

 

 幾月と沢永だけでなく、他の研究員らの方まで見まわして、相手が頷くのを確認して湊は続ける。

 

「心理学のペルソナは、簡単にいうと場面や相手の数だけ異なる自分がいるってことになる。俺のワイルドはどちらかと言えばそっちに近いんだ。火炎魔法を使う相手、疾風が弱点の相手、俺はそれに対する仮面を、ってね」

「では、逆に、何故ほかの子どもたちは一体しかペルソナを所持出来ないんだい?」

「他の皆は自分というパーソナリティの根幹の存在をペルソナとしてるからだよ。貴方たちを相手にしてようが、アイギスを相手にしていようが、俺は俺だろ? 人が完全に心をコントロールできないように、他の皆は自分の分身であるペルソナも一体しか持てないんだ」

 

 幾月の質問に答えた湊は、言い終わるとペットボトルを手に取り、自分のコップにコーラを注ぐ。

 その間、話を聞いて改めて納得がいったという顔をしている幾月らは、自分の頭の中を整理しているのか話しかけて来ない。

 机に突っ伏していたチドリは、研究員らのその様子をぼーっと眺めているが、飛騨は少し楽しそうだ。

 どうやら、改めて湊の話を聞いて、自分たちの研究はまだまだ進歩すると確信したらしい。

 そして、笑みを浮かべたまま、飛騨が湊に話しかけた。

 

「ンッフッフー。そーういえば、少年。今回のために君が作った物を皆さんにお見せしなくて宜しいんですか?」

 

 飛騨の話を聞いて、沢永が「彼が作った?」と不思議そうに湊を見つめ、幾月たちの視線を同じように湊に集まる。

 すると、数瞬だけ飛騨にじとっとした非難の視線を送ってから、溜め息を一つ吐いた湊が、黒いマフラーをごそごそといじって何かを取り出した。

 取り出した物を、そのまま他の者にも見えるよう机に置くと、幾月が声を漏らす。

 

「これは拳銃?」

「ベースはね。ただ、銃身の奥は詰めてあるし、マガジンを収めるスペースに黄昏の羽根を入れてる。だから、これに武器としての機能は一切ないよ」

「黄昏の羽根を入れている? 一体何のために?」

 

 各研究室に決まった数だけ支給されている貴重な品である黄昏の羽根を、機械の動力部ではなく、武器としての機能を失った拳銃に入れる。

 その意味が分からず、戸惑った様子で沢永が銃と湊へ視線を往復させる。

 いつの間にかチドリも身体を起こし、ジュースを飲みながら湊を見つめていたので、湊はチドリにも理解できるよう説明を始めた。

 

「これの仮称は“召喚補助媒体”。正式な名前はそっちで決めてもらっていいけど、ペルソナ使いが安定して召喚できるようにするためのものだよ。さっき言った死を意識するのって、人によって集中力が必要だし、戦闘中に咄嗟に実行するのって難しいと思うんだ。そこで、俺は最もシンプルに死を連想させるものとして、銃を利用しようと考えた」

「では、黄昏の羽根にはどんな意味が?」

 

 そこまでの説明は、以前の訓練時に被験体らに銃を使って召喚させたことと内容が被っていたので直ぐに理解できる。

 しかし、黄昏の羽根を積み込んだ理由だけが分からないと、沢永が尋ねると、湊は微笑を浮かべて答えた。

 

「黄昏の羽根には、不思議な力があってね。ペルソナの出力アップや、安定させる効果があるんだ。だから、それを使ってさらに機能を高めて、召喚の補助をさせようと思ったのがこれを作った理由。実際、チドリに補助無しの召喚と、これを使った召喚とで比べて貰ってデータも取ってある」

「そちらのデータは私の方でメールに添付して送っておきますから、安心してください」

 

 飛騨が途中で口を挿むと、湊はそれに礼を言ってから、さらに研究員に召喚補助媒体の機能説明を進める。

 

「詳細なデータは後で確認してもらうけど、補助無しの安定度が約67%に対し、補助有りの安定度は約96%だった。この4%の誤差は、連続召喚による疲労も含まれてるから、ほぼ100%と思ってもらっていい」

「では、これを使えば!」

「うん。安定召喚のために効果を高めている制御剤を、本当に制御効果だけにしても大丈夫だと思う。ていうか、変えるなら早めにしてもらわないと、今の強い薬に慣れて、弱い効果を受け付けなくなるかもしれないから、出来るだけ開発を急いで欲しい。そのためなら、俺もある程度は協力してあげるから」

 

 喜色満面の顔で勢いよく立ち上がった沢永に対し、湊も普段の研究員を相手にするときよりも、いくらか柔らかい表情で協力することを伝える。

 幾月や他の研究員も喜びから瞳を輝かせ、今後の研究について話していることから、改良された制御剤も比較的早く完成するように思えた。

 それを見た湊は、隣で暇そうにしているチドリの手を握りながら、他に被験体らに負担をかけそうな研究を行わずに済むよう、事前に他の質問にも答えておく事にした。

 

「こっちもそんなに頻繁に時間を合わせられる訳じゃないから、現段階で滞ってる研究で相談があれば聞いておくよ。シャドウとペルソナ、それにタルタロスに関しても探査とアナライズが出来る俺たちの方が詳しいだろうから」

 

 湊の申し出は沢永にとっては、非常にありがたいものだった。

 何故なら、彼女たちの研究内容にはどうしてもアナライズが必要になってくるものだったから。

 元々、被験体でアナライズが出来るのはチドリを含め百人中たった七人しかいなかった。

 本来ならばチドリ以外の者も第八研にくる予定だったが、他の稀少性能力を独占するのならば、探知・アナライズ能力持ちはチドリだけで良いだろうという事で、他の六人は第一、第二、第三、第六研に各一人ずつと、第四研に二人の所属となっていた。

 

「ほ、本当に? では、第四研の研究内容がスキルの耐性や弱点なのは知っているかしら?」

「各研究室の大まかな研究内容は把握してるよ」

 

 しかし、第四研とチドリ以外の能力持ちは全員死んでしまい、第四研のその二人もペルソナの召喚すらままならなかった。

 アナライズは普通の召喚よりも高いペルソナコントロールが必要なので、それでは能力を持っていたとしてもまるで意味がなく。

 加えて、探知能力は片方の一人だけが僅かに持って程度なので、チドリのように召喚せずに地形や敵の位置を把握することも出来なかった。

 そのため、研究は仮説段階で止まってしまい、専門よりも他に行っている研究の方が成果が出ている始末。

 ならば、自分たちの専門についても把握している湊に、出来る限り協力してもらおうと、沢永は第四研に湊を招くことを考えた。

 

「それなら話が早いわ。ここで質問をするよりも、実際に研究室でデータを見てもらった方が貴方も分かりやすいと思うのだけど、今から来てもらうことは可能かしら?」

「俺が施設内を自由に歩いていいのか分からないけど、チドリも一緒なら良いよ」

「ええ、そちらの子も一緒で構わないわ。それに、飛騨博士にも来て頂きたいのならお願いしてみるけど?」

「いや、博士は別に良いよ」

「そーんな、反応は冷たすぎはしませんか? もうすこーし、少女に対する愛情の千分の一でも分けて欲しいものです」

 

 ばっさりと飛騨を拒絶するような事を言った湊に対し、飛騨がいじけたようにこぼす。

 しかし、子どもたち二人は、飛騨のそんな反応に慣れているのか、湊が召喚補助媒体をマフラーの中に入れると、歳不相応に冷めた表情で椅子から下りて、座っていた椅子を仕舞っていた。

 さらに、止めとばかりに、飛騨の後ろを完全スルーで通って入り口の方へ向かい始める。

 他の研究員はそんな様子を見て、慌てて荷物を纏めて後を追うようにするが、入り口の前で立ち止まった湊が振り返り口を開いた。

 

「第四研に行ったら、第二研の方にも行ってあげるよ。だから、誰か同行しておくか。後で沢永さんから第二研の方に連絡入れるか、今のうちに決めておいて」

 

 チドリと手を繋いでいる湊が、皆にそう伝えると、室長同士で話し合い、幾月が同行することに決定した。

 湊が第四研に行っている間、飛騨は第八研に籠もって作業すると言い。

 他の第二研の研究員は飛騨から送られてくるチドリの召喚補助媒体を使ったデータを元に、自分たちも同じ物を作れないか話し合う事で纏まった。

 そうして、沢永に案内されるまま、湊とチドリは初めて入る第四研の研究ラボへと向かったのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。