【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第二百十二話 盲目の聖人

6月4日(木)

昼休み――月光館学園

 

 真田から噂の実体調査を命じられたゆかりは、なんで自分が怨霊の話を調べないといけないのかと文句を言いたい気持ちを抑えつつ、これもS.E.E.S.の正式な任務だと思うことでモチベーションを維持した。

 もっとも、調査と言っても結局は友人たちから話を聞くくらいで、警察のように誰かのアリバイを調べるだとか怪しい人物を尾行する必要もなく、噂話に詳しい人物にさえ巡り会えればすぐに終わる程度のものだ。

 中等部からいるゆかりはそれなりに友人もいて、その中には勿論噂好きも数名いる。彼女たちを当たっていけば同じく調査を命じられた他二人よりも早く終わるだろう。

 そう思って翌日から調査を開始したのだが、話を聞いて行くにつれて内容が少々怪しい方向に進んでいる事にゆかりも気付いた。

 先日倒れていた女子の後にも同様の事件が二件発生しており、被害者のクラスはバラバラだったが、全員が女子で二年生という部分は共通していた。

 さらに調査を進めていくと友人も知り合いから聞いた話だがと前置きした上で、被害者の三人が不良のたまり場に出入りしているメンバーだと情報も入手し、危ない薬でもやっていたのではという個人の感想まで貰えた。

 情報を聞いて回ったゆかりとしては流石に薬が原因ではないと思っている。これは別に薬などそう身近にあるものではないと考えているからではなく、単にあの辺りは警察官がたまに見回るので後ろめたい事をしている者は寄りつかないと思っての考えだ。

 何より、もし本当に薬をやっていたのなら、既に倒れていた生徒から薬物反応が見つかって騒ぎになっているだろう。

 現在も辰巳記念病院に入院中だという女子らにそのような話はなく、仮にそんな反応があれば美鶴が教えてくれるはずなので、ゆかりとしてはこれ以上の調査は現地取材しか無理という結論に達していた。

 そうして、自分で出来る範囲の調査を終えたゆかりは、続けて特別課外活動部の新メンバー候補である風花とちょっと話をしようと昼休みに彼女の教室へ向かった。

 先日の部活の日には休んでいたので、今日こそはと思ってやってきたのだが、しかし、目的の人物の姿は発見出来ず、どこにいるんだろうと思ったところで飲み物を買いに行っていたらしい湊が戻ってきたので、教室に入る前に彼を捕まえて風花の所在を尋ねた。

 

「お、有里君。風花がどこにいるか知らない?」

「……今日は休みだ」

「え、そうなんだ。この前も休んでたし体調崩してるのかな?」

 

 梅雨も明け夏になろうかという時期だ。元々運動をするようなタイプでもない風花なら、その儚げな雰囲気の通りに繊細で季節の変わり目に体調を崩してもおかしくない。

 季節の変わり目の病は体力の低下などもあって長引きやすく、治ったと思っても再びぶり返したりと非常に厄介だ。

 クラスが違ったことで連絡が入っていなかったゆかりは、また後で様子を聞きがてら励ましのメールでも送ろうと決めつつ、病名などが分かるなら聞いておくかなと目の前の青年に尋ねた。

 

「休んでる理由とかって聞いてる?」

「……聞いてないな。担任が体調不良とは言っていたが」

 

 詳しい話は何も知らないと首を横に振る湊。当てが外れたゆかりはそっかと残念に思うが、生徒の欠席理由をクラスメイトに伝えるかどうかは担任によるのでしょうがない。

 湊たちE組のクラス担任は古典担当の江古田という中年男性教師で、ゆかりのクラスの古典も担当しているため面倒を嫌がる性格は把握済みである。

 よって、担任から詳しい欠席理由を聞いていないのならある程度は理解するが、体調不良だとは分かっている以上、お見舞い代わりのメールの一通でも送ってあげるべきだとゆかりは告げた。

 

「病気とかで休んでるときはメールとかで励ましてあげなきゃダメだよ」

「……励ます理由がないだろ」

「寂しいこと言うなぁ。友達が元気なかったら励ますもんでしょ?」

「ただのクラスメイトだ」

 

 風邪をひいたときや熱を出したとき、ただベッドで寝ているだけなのに何故だか不安になった経験のあるゆかりは、身体の不調に引っ張られて心も弱ることをよく知っている。

 そんなとき友人から励ましや体調を気遣うメールがくれば、弱った心にクリティカルにヒットして泣きそうになるくらい嬉しいのだ。

 だからこそ、湊にも風花の体調を気遣うメールの一つでも送ってあげて欲しかったのだが、彼は送る理由がないだけでなく、そも相手はただのクラスメイトでしかないと言い切った。

 この発言には流石にゆかりもムッとし、眉を寄せて不快感を露わにしながら言葉を返す。

 

「五年も一緒にいて、ただのクラスメイトって言うのは冷たいと思うんだけど」

「それはお前の感じ方だな。俺はそうは思わない」

 

 自分たちが出会ってから既に五年が経っている。中等部で同じクラスになり、湊と風花はそれからずっと同じクラスだ。

 二回や三回連続程度なら偶然でも、四回、五回となればもはや運命と言って良い。ゆかりが望んでもなれなかったそんな希少な立場にいる少女を、あくまでただのクラスメイトと言い切る青年にイラッとしたゆかりは、本人はいないとはいえ自分の友人に失礼な発言ばかりする男をキッと睨み声を荒げた。

 

「もういいよっ。有里君がそんな冷たい人だなんて思わなかった。バーカ、ハーゲ!」

 

 こんなやつもう知らない。そう思ったゆかりは子どもっぽい悪口を言って彼に背を向け自分のクラスに帰ろうとする。

 しかし、背を向けて一歩踏み出そうとしたとき、ゆかりの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。

 

「用が済んだなら帰れ、どブス」

「ど、どブスっ!? 今どブスって言ったぁ!?」

 

 それはゆかりにとって初めての経験であった。

 幼い頃から容姿について褒められてきた彼女は、湊との交際を経てスタイルも抜群になり、トータルでかなり整ったルックスをしていると言える。

 誰とも付き合う気がないと断っても未だにラブレターや告白を受けており、これまでの実績と合わせて考えても彼女の容姿が優れているのは確実だ。

 そんな周囲から容姿を褒められて育った少女は、たった今人生で初めて“ブス”と容姿について貶された。それも愛している相手から。

 こんな事を言われては真っ直ぐ帰る訳にはいかず、再び青年の方を向いたゆかりは、精一杯余裕があるように見せつつ口を開く。

 

「あああ、謝るなら今のうちだよ? いいい、今ならギリギリで許してあげる」

「お前が二回罵倒してきたから一回だけ返したんだ。謝罪すべきはお前の方だろ」

 

 怒りなのか空しさなのか、頑張って余裕があるように見せようとしたゆかりの声は震えていた。

 そんな少女の様子に青年は早く帰りたいオーラ全開で返すが、二人が教室の前で騒がしくしていたことで、教室の中にいたラビリスたちがやって来て状況に対する説明を求めてくる。

 

「ああ、ゆかりちゃんやん。揃って教室の前で騒いでどないしたん?」

「このどブスが他人様を」

「また言った!!」

 

 とても自然に“どブス”呼びしてきた青年の行動に驚きつつ、ゆかりはこの人ヒドいと相手を指さして抗議する。

 

「ちょ、聞いてよ、ホントに信じられない! 有里君ってば何度も私のことどブスって罵ってくるんだよ!」

「どういう流れでそうなったの?」

「こいつが話が終わって帰る前にバカ、ハゲと罵倒してきたんだ」

「こいつって言うな。それは有里君が風花に冷たかったからでしょ! 休んでるのにメールも電話もしてあげないで、あげくにただのクラスメイトだなんて言っちゃってさ」

 

 少女が怒るのも当然だ。この冷血漢は体調を崩して家で寝ている少女に、調子を心配するメールも何も送ろうとしないのだから。

 湊が休んだり行方不明になったときには、部活メンバーは佐久間も含めて全員が彼のことを心配するメールを送った。

 安否不明でいた頃など、無事を祈願して神社に神頼みに行ったりした者もいたくらいである。

 だというのに、この男は自分は心配して気に掛けて貰っていたというのに、心配する側に立ったときにはただのクラスメイトだから送る理由もないと告げた。

 これで怒らない方がおかしいだろうとゆかりが熱を籠めて言えば、話を聞いたラビリスはとても申し訳なさそうな顔をして、湊にも悪気はないのだと説明してくる。

 

「あー、残念やけど湊君って人のカテゴリー分けが特殊やからしゃーないわ。同じクラスでも大して知らん人やったら他人って扱いやし」

「そうね。一般人でいう“友人”は湊の中じゃ“知り合い”だったりするし。呼び方の違いとして受け入れるしかないわ」

 

 ラビリスに続けチドリも補足するが、湊はカテゴリー分けする際のカテゴリー名が人とずれているだけで、中身は共通している事もあるのだ。

 彼が友達と呼ぶのは一人しかいないが、他の者の言葉で表わせばそれは“親友”であったり“相棒”という唯一無二の存在になっている。

 よって、他の言葉も“一般的な呼び名”に当てはめていけば、ゆかりもきっと納得するに違いない。

 紛らわしく誤解を招く湊が悪いのだが、とても特殊な育ち方をした弊害故に、本人だけが悪い訳ではないので我慢してやってくれ。そう友達二人から言われてはゆかりも怒りの矛を収めるしかなく、そっちに関しては納得しようと頷いてから言葉を続けた。

 

「そ、そっちに関してはそうかもしれないけど、人のことどブスって言ったんだよ?」

「……湊の好みじゃなかっただけでしょ。不満なら鏡見て自分で可愛いって言ってればいいじゃない」

「ちがっ、そういう事じゃなくてっ」

 

 カテゴリー分けに関しては納得することにしたが、自分をどブスと呼んだことは乙女として許せないし許したくない。

 なにより、好きな相手から言われた事がショックで、チドリの言う通り彼の好みじゃなかったとすれば泣きたいくらいである。

 見知らぬ千人からの可愛いよりも、愛する一人からの可愛いが嬉しい年頃だ。鏡に映った自分を褒めるなど空しいことこの上なく、本気でブスだと思っているのかとゆかりが不安そうな顔をすれば、女の子を傷つける言葉を発した湊をラビリスが優しく諫めていた。

 

「まぁ、ゆかりちゃんも悪口言うてたなら強くは言わんけど、湊君も女の子にブスとか言ったらアカンよ」

「どブスだ。ブスじゃない」

「どう違うんですか?」

「ブスは悪いブスだ。どブスは救えないブスだ」

 

 湊の中ではブスとどブスは別物らしく、その違いが分からなかった美紀は具体的にどう異なるのかを尋ねた。

 しかし、返ってきたのは非常に分かりづらい説明で、そもブスに良いも悪いもあるのだろうかとツッコミそうになりつつ、これではまだ分からないので、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた一同を代表し、チドリが改めて言葉の意味を彼に訊いてみる。

 

「救えないブスってなに?」

「心の醜さが滲み出てるブスのことだ」

『それって性格ブスのことじゃ……』

 

 瞬間、特殊な感性を持つ彼の言葉の意味を全員が理解し、ゆかりの方を見て何かを察した顔をする。

 友人らにそんな顔で見られた少女は「納得するな!」と大声で反論するも、見た目の問題じゃないなら個人の感じ方なので何も言えないと諦めてしまった。

 無論、それはチドリたちだけであって、ゆかりの方は最後までブスという言葉を撤回させようとしたのだが、残念なことに昼休み終了を告げるチャイムが鳴ったことで撤回させることはかなわなかった。

 

放課後――桔梗組

 

 学校が終わって湊たち三人が帰ってくると、嬉しそうに尻尾を振ったコロマルが風花や桜と一緒に彼らを迎えてくれた。

 愛犬の可愛らしい姿に女性陣は和やかな雰囲気に包まれるが、先頭を歩いて屋敷に入ってきた青年は「……邪魔だ」と冷たい言葉を吐いてコロマルを横に避けさせて部屋に向かってしまい、残されたコロマルが哀しそうに耳を垂らしたことで、ラビリスが走って彼を追いかけ跳び蹴りをかます一幕もあった。

 その跳び蹴りは残念ながら背中に足が触れた瞬間、発勁によって弾き返され、逆にラビリスが尻餅をつく結果に終わったのだが、湊も別に不機嫌だったとかそんな子どもっぽい理由でコロマルに冷たい言葉を吐いた訳ではない。

 というのも、湊は太古に人から失われたイメージを読み取る力を備えていることで、アイギスやラビリスと同じように動物の言葉が分かる。能力の強度を言えば湊の方が強いくらいで、そのため彼女たちよりもハッキリと動物の思考を理解する事が可能なのだ。

 先ほどの女性陣からは可愛く見えていたコロマルのことも、能力を持った湊からすれば「若、お帰りなさいやし!」と四十代のオッサンが言っているようなもので、組員たちのそういうノリが面倒な湊だからこそコロマルのことも適当にあしらったというのが事の真相だった。

 そんな説明を受けた他の者たちは、一見便利そうだが難儀な能力だと青年に同情を覚え。コロマルも自分が元気に行きすぎたことが原因と理解したようで、今後は大人しく“待て”の状態で出迎えるようにすると言葉の分かるラビリスと湊に伝えてきた。

 そうして、全員が着替えて居間に集まり桜が用意したお茶とお茶菓子を味わっていれば、熱いほうじ茶を啜ってから雅な仕草で羊羹を口に運んだ湊がテーブルを挟み正面に座る風花に話しかけた。

 

「……それで、召喚の準備はちゃんと出来てるのか?」

「え? えっとぉ、召喚器はちゃんと持ってるけど準備ってなにかな?」

 

 言われても聞いた覚えのなかった風花はこてんと首を傾げて聞き返す。

 召喚など拳銃型の召喚器を頭や首に当て、周りから見れば自殺にしか見えない形で引き金を引くだけだ。ある種の儀式ではあるのだろうが、己を擬似的に殺すことで内より心の化生を呼び出すとは実に物騒に思える。

 自分にもそんな力があると聞いても未だに実感が湧いていない風花は、渡された召喚器には本当は弾丸が入っていて死んだらどうしようと不安に思っているのだが、彼女のそんな胸中を一切気にした様子もなく、湊は再び熱いお茶に口をつけてから召喚前に必要なのは自分に合った心の在り方であると説明した。

 

「召喚時の精神の在り方は大きく分けて二種類ある。一つは死にたくないと守る力としてペルソナを呼び出すタイプ、もう一つは死んでたまるかと敵を倒す力としてペルソナを呼び出すタイプだ」

「んー、私はじゃあ守る力として呼び出すタイプかな。自分の力で誰かを攻撃するのって怖いし」

 

 このタイプの違いに優劣はない。自分がなんのためにペルソナを召喚するのか自覚すれば召喚しやすくなるだけの話で、湊のようにどちらでもないタイプもいるため、風花が自分なりに呼び出す際の心理トリガーを決められるなら考える必要はなかった。

 しかし、風花は未だに本当に自分にも能力があるのだろうかと半信半疑のようなので、湊は先に自分のタイプを風花に認識させてから召喚を試させようとする。

 

「じゃあ、とりあえずやってみろ」

「は、はい」

 

 緊張した様子で返事をしながら立ち上がった風花は、そのまま縁側に向かってからサンダルを履き、砂利の敷かれた庭に降り立って召喚器を構える。

 彼女は自分に銃口を向けておきながら両手で拳銃を持ち、右手の親指で押すことにより引き金を引くという変わった持ち方をしていた。

 本物の銃なら持ち方の一つでもレクチャーするところだが、別に狙いを定める必要もないので、本人がやりやすいようにやればいいと湊は口出しを控える。

 他の者たちも風花を黙って見守り、召喚器を構えた少女が今まさに引き金を引こうとしたとき、

 

「ん、ごめんなさい。やっぱり少し怖くて……」

 

 少女は皆に申し訳なさそうな顔を見せながら、怖くて出来ないと持っていた召喚器ごと腕を下ろしてしまった。

 召喚器に内蔵されている黄昏の羽根には、人が死への恐怖を抱きやすくする効果があるので、元々荒事が苦手な風花なら余計に怖くなってもしょうがない。

 しかし、彼女が自分くらいは守れるようペルソナを獲得させるのが今回の試みであるため、一人では踏ん切りが付かないのなら少し手伝ってやると青年も庭に降りて風花の正面に立った。

 向かい合って立つ二人にはかなりの身長差があるけれど、目の前にやってきた青年のことを風花が見上げていれば、湊はそっと左手を伸ばして風花の胸に優しく触れた。

 

「山岸、自分の心臓の鼓動を感じろ。お前はここにいる」

 

 湊に触れられている箇所を強く意識すると、風花は自分の心臓の鼓動を確かに感じる事が出来た。

 心臓の鼓動は生きている証であり、それは自分がここに存在するという事でもある。

 それによって己の存在を肯定された気持ちになった風花は、先ほどまで感じていた恐怖が薄れていることに気付き、今なら出来るかもしれないと心を落ち着かせ再度召喚器を構えた。

 そして、

 

「 ペ ル ソ ナ 」

 

 風花が静かに呟き召喚器の引き金を引けば、彼女の頭の中でガラスが割れたような音が響き、直後に彼女と湊を包むように水色の欠片が回り出す。

 自分だけでなく他の者の召喚も見てきたチドリやラビリスは、渦巻く水色の欠片の様子だけで風花のペルソナの現れ方が他者と異なっている事に気付くが、その原因はなんだと思っているうちにペルソナの輪郭がはっきりと現われ始める。

 風に揺れる金色の長髪、目を包帯で覆われた女性の顔、盾のようにも見える装飾が施された薄水色のドーム状の特徴的な下半身。

 そのドームは召喚者である風花を内部に納めており、それが水色の欠片が彼女の周りを回っていた理由のようだ。だが、霊体のような状態からペルソナが具現化する際、一緒にいた湊は身長差の関係で不意打ちの一撃を顔に喰らうことになり、現在もドームの中で攻撃を喰らった顔を押さえて風花の足下で膝を突いている。

 

「ご、ゴメンナサイ!」

「……初召喚で湊にダメージを与えるとはやるわね」

「湊君がペルソナとかシャドウからダメージ受けるんホンマに久しぶりやない?」

 

 見事召喚に成功した風花も、自分の召喚が原因で湊に不意打ちを喰らわすことになってしまったことは把握しており、ドームの中で彼を心配してしゃがみ込み頭を撫でてやっている。

 以前の彼女ならそんな大胆なことを男子相手に出来なかっただろうが、桔梗組に来てからは湊と身体的な接触が多数あったので、彼を甘やかすときのノリでつい出てしまったらしい。

 予想外のハプニングに見舞われ、中に入れるペルソナの内部でそんな事をしている二人を暢気に眺めながら、チドリやラビリスは湊にダメージを与えるとは随分と硬いペルソナなのだなと考えていると、膝を突いていた湊に動きがあって、青年は膝を突いたまま右腕を頭上に向けて黒い炎を放った。

 

「あぐっ」

 

 黒い炎が放たれるとペルソナは内側から破壊されるように消えてしまい、風花は下腹部の辺りを押さえて苦悶の表情を浮かべた。

 炎が最初に当たった場所も人で言えば下腹部の辺りなので、ダメージが還る場所もリンクしているのだなと他人事のように考えて立ち上がった湊は、自分の足下で辛そうにしていた少女に声をかけた。

 

「これがダメージのフィードバックだ。ペルソナが受けたダメージは一部召喚者に還る。召喚時のシンクロ率が高ければ高いほど能力は強くなるが、その分、自分に還ってくるダメージも大きくなる。その辺りは一長一短だから自分の判断で調整した方が良い」

「……完全に仕返しでしかなかったわね」

 

 外野であるチドリが何か言っているようだが、湊は一切耳に入っていないかのように聞き流して無視する。

 召喚の際に顔面に攻撃を喰らったのはあくまで偶然だ。他のペルソナと呼び出された際の状態が違っているのが原因だが、そんな偶然の事故にわざわざ腹を立てるはずがない。

 余裕たっぷりの立ち姿でそれをアピールする湊だが、並みのスキルよりも威力の高い黒い炎を攻撃に使っている時点で言い訳出来ないレベルである。

 頑張って召喚を成功させた少女に対する青年の反応に、見ていた少女たちは子どもかとツッコミたくなったが、ここで指摘すれば根に持つ彼から夜に苛められるので、一人の犠牲で大勢が救われるのなら安いものだとそれ以上は何も言わなかった。

 そうして、牛で引こうと動かすことの出来なかったという伝承を持つ盲目の守護聖人である女教皇“ルキア”の召喚に成功したことで、風花が見事ペルソナ使いの仲間入りを果たすと、ダメージから立ち直った少女にチドリと湊でアナライズの方法を指導し、自分の能力の使い方を少しずつ理解させていった。

 

 

 


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