【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第二百二十五話 満月の戦いに向けて

6月30日(火)

影時間――巌戸台分寮・屋上

 

 生温い風が吹き抜ける屋上、そこで一人薙刀を振るう少女がいた。

 薙刀は長物であるため振れば遠心力で力を出しやすい。リーチもあるので近接武器では最強の威力を出せる物の一つではあるのだが、その分、間合いの内側に入られてしまったときの対処が重要だった。

 拳ならまだしも相手が剣などであれば、自分は満足に武器を振れないのに凶刃を防がなくてはならないのだ。出来ないでは済まないので、七歌はタルタロスに行かない日も一人で武器を振るって距離に関係なく完璧に扱えるよう鍛錬している。

 

《やあ、精が出るね》

「……ファルロス」

 

 そうして、彼女が一通りの型を終えて一息吐いたとき、背後から声が聞こえて振り返れば少年が立っていた。

 囚人服のような白黒のボーダー服に水色の瞳、影時間に馴染みすぎていることもあって不思議な雰囲気だが、少年は七歌が振り返ると笑顔で手を振った。

 

《今日はどうして来たか分かっているかい?》

「現役JKが運動して汗を掻いてるからね。そういうのに寄ってくる男が一定数いるのは知ってるよ」

《あははっ、確かに運動する女の子はキラキラと輝いて素敵だよね。けど、影時間じゃそれも台無しじゃないかな?》

 

 女子高生の汗の匂いに誘われてやって来た訳ではないが、ファルロスは面白いことを言うねと無垢な笑みを浮かべた。

 ファルロスから見れば七歌は十分に魅力的な女性だ。友人にその事を伝えると趣味が悪いと返されたが、順平や真田など彼女の身近な者たちだって“外見は”優れていると認めている。

 他にも学内の男子や駅前でナンパ目的に彷徨いている者たちも彼女の姿に目を奪われる事があるので、おかしいのは湊の感性であってファルロスは至って正常だった。

 とはいえ、いくらファルロスでも女の子をデートに誘うシチュエーションは選ぶ。こんな道路や壁に血の染みが浮かび上がっている不気味や世界ではムードも何もない。

 よって、デートのお誘いはまた別の機会にでもと言って消えると、ファルロスは屋上の縁に現われて平均台の上を歩くように進みながら続き話した。

 

《あと一週間で満月だ。今も鍛錬していたけど、他のお友達も含めて準備は出来てるかな?》

「ヒーホー君の抜けた穴は埋められてはいないよ。けど、それぞれが強くなってカバー出来る程度には仕上がってきてる」

 

 準備は進んでいると答えながらも七歌は苦笑する。

 最高戦力の抜けた穴は大きい。風花の加入で人数的には変動しておらず、むしろバックアップの能力は向上したが、前線部隊全員が成長してもヒーホーが担っていた戦力分にはまだ及んでいなかった。

 メンバー全員の成長を足しても埋められないほど彼女は強かった。最期の一撃など余力を残していた二体の大型シャドウを同時に屠ったほどだ。

 あれほどの力を付けるにはどうやって鍛えればいいのか。彼女が誰かのペルソナなら持ち主の心の強さは化け物級だと思ってしまう。

 七歌も強くなるためイゴールに言われた通り絆を育んでいるが、古書店の老夫婦との会話は普通に世間話を楽しんでいるだけだし、テニス部で出会った友人たちとも大会を目指して切磋琢磨しているだけだ。

 それが本当にペルソナの強さに関係あるのだろうかというのが純粋な疑問であり、この前のミーティングで話題になった大型シャドウの謎も残っている。

 その事を思い出した七歌は顔を上げると、影時間の街を眺めていた少年に話しかけた。

 

「ねえ、ファルロス。貴方は大型シャドウがどういう存在か知ってる?」

《漠然とした質問だね。簡単な答えでよければ強力なシャドウって答えるけど》

「そういうのじゃなくて、大型シャドウには何か役割があるんじゃないかって話。桐条の研究機関で大型シャドウがアルカナ順に現われる事が分かったの。なら、最後の刑死者を倒したら何が起こるのかなって」

 

 まだラボの方でも研究中で確証は得られていないため、幾月も予想でしかないがと前置きしつつ全ての大型シャドウを倒せば影時間が終わるのではと言っていた。

 満月の度に現われる存在が特殊な役割を持ったシャドウならば、そういった可能性は十分に考えられるだろう。

 ただ、七歌としては荒垣の言っていた事も気になり、全ての大型シャドウが刈り取る者並みならまだしも、最初の魔術師や次の女教皇などはフロアボス程度の強さでしかなかったことで、強さに関係なく一部の大型シャドウだけが特別な役割を持つことなどあるのだろうかとも思っていた。

 それを色々と知っていそうな少年に尋ねれば、少年は腕組みをしながら考え込み、難しい顔をして口を開いた。

 

《うーん、そうだね。どう伝えれば分かりやすいかな。まず、君たちは影時間を終わらせるために戦ってる。そういう認識でOKかい?》

「うん。消せないから当面の脅威から人を守ってるだけだし、根幹の目的はそこだね」

 

 聞かれて七歌はそうだと頷く。現在シャドウと戦っているのは、あくまで被害拡大を防ぐための一時的な処置であり、実際は影時間を終わらせることこそが目的であった。

 そして、その目的に大型シャドウを倒すことが関係しているのかと聞きたかった訳だが、七歌たちの目的を確認した少年は、なら大丈夫だと再び人懐っこい笑みで答えた。

 

《そういう事なら大型シャドウと戦うことは間違ってないと思う。最近の無気力症被害の増大も大型シャドウの出現する兆候だから、被害範囲を調べれば出現する場所も絞れるだろうし》

「それは大型シャドウが現われる前に顕現に必要なエネルギーを周囲から集めてるって認識でいいの?」

《うん。ペルソナと一緒でシャドウも肉体を維持するエネルギーはいるからね》

 

 少年から齎された情報に七歌はなるほどと納得しながらも驚いていた。

 幾月の話ではシャドウが人の心を喰らう理由が分かっていなかったが、ファルロスのおかげで食事としての意味があることが分かったのだ。

 大型シャドウを倒した後に無気力症から回復した者たちが大勢いるので、エネルギーにされた心は吸収して消える訳ではないようだが、何故やつらが人間を狙うのかという謎が解けたのは一歩前進といえた。

 

「じゃあ、今回みたいに被害者が多いときは敵がそれだけ強いか、もしくは複数の大型シャドウが同時にエネルギー補給をしてるって感じかな?」

《そう考えていいと思うよ》

「そっか。色々と教えてくれてありがとう」

《気にしないで。今はまだ全ては話せないけど、僕も君たちには無事でいて欲しいから》

 

 今日はこれで帰るねと言ってファルロスが消えてゆく。七歌はそんな彼に手を振って見送った。

 シャドウが人を狙う理由、次の敵が出現する可能性のあるポイントの見分け方、ファルロスが教えてくれた情報は特別課外活動部にとってとても有益だ。

 時間が遅いのでまた後でになるが、学校から帰ってからでも皆に話すことにして、七歌は今日の鍛錬を終えるべく荷物をまとめると屋上を後にした。

 

7月1日(水)

夜――巌戸台分寮・ロビー

 

 学校に行ってから帰るまでに七歌は最近のニュースや新聞で無気力症患者について調べた。

 美鶴にも連絡して桐条グループの持っている情報も教えて貰ったが、おかげでここ一ヶ月程の無気力症患者の発見されるスポットもいくつか見つかった。

 やはり発見場所はタルタロス周辺の港区に限られていて、それが美鶴の言っていたシャドウがこの辺りにしか出没しないという情報の裏付けにも繋がったが、重要なのは発見場所がどこに集中しているかだ。

 港区全域に幅広く見つかってはいるものの、ここ一、二週間で何人も立て続けに見つかっている場所があり、先月の患者数の増加と今回の増加数を比較すれば、ほぼ同等かむしろややペースが速いくらいであった。

 寮に帰ってからそれらをデータとしてまとめた七歌は全て印刷し、食事を終えたメンバーらをロビーに集めるとお茶の用意をしてから全員に見せることにした。

 

「これちょっと見て。これが先月の無気力症患者の増加グラフ。で、今回のグラフがこれね。ついでに先々月のもあるけど、これらを比較してみるとあることが分かるよね?」

「んー、なんか毎月増えてるな。つか、先々月から先月にかけて倍近く増えてるし」

「そして、先月と今月はほぼ同じか。いや、むしろ三週間で先月と並んだ今月の方が増える見込みだな」

 

 順平と真田は単純に数値の増加としてグラフを見ている。だが、七歌はその増加の仕方からあることに気づいて欲しいのだ。

 誰が最初に気付いてくれるか。そんな事を考えながら仲間たちを眺めていれば、データの管理に慣れている美鶴は七歌がグラフを見せた意図を察したようで、成程と力強く頷くと顔をあげて七歌を称賛した。

 

「よく気づいたな七歌。これはお手柄だぞ」

「え、桐条先輩これで何か分かったんですか?」

 

 美鶴が気付いたことにゆかりは驚きの声をあげて尋ねる。どうやら彼女も順平たちと同じようにデータをただデータとして認識していたらしい。

 もっとも、こればかりは無気力症やそれに関連する情報をどれだけ知識として自分の中に落とせているかが重要になるので、戦闘に関する情報にばかり知識が偏り気味なメンバーならしょうがないのかもしれない。

 元から研究に関わっている美鶴や、リーダーとして様々な情報を頭に叩き込んでいる七歌、そしてバックアップ担当の風花はグラフから理解していたが、分からない人間にも教えておかねば話が進まないので、尋ねられた美鶴が分かっていない者たちに丁寧に教えてやる。

 

「君たちにも教えたが無気力症はシャドウに心を喰われた者がなる症状だ。つまり、それがそのままシャドウの被害者数と言える。グラフを見れば先々月から一ヶ月で倍に増えたが、街中に現われるイレギュラーシャドウの数はほぼ変わっていない」

 

 七歌がグラフに加えて付録として付けた書類を手に、美鶴はイレギュラーシャドウの出現数が書かれた部分を指しながら話す。

 

「では、イレギュラーシャドウの出現以外に二つの月で何か大きな違いがあったか考えてみると、満月に現われるシャドウが一体から二体に増えたことが挙げられる」

「あ、そうか。じゃあこの増えた被害者は大型シャドウに心を食べられてしまったんですね。そして、今月も先月と同じくらいって事は敵が二体の可能性があると」

 

 ようやく理解出来たとすっきりした顔で話すゆかりに美鶴も頷いて返す。

 今日まで次も二体いるのだろうかと不安な気持ちを抱いていたのだが、最初から二体来る可能性が高いと分かっていれば心の準備も出来るのだ。

 敵のアルカナも既に分かっているため、ペルソナのようにアルカナ毎に見える能力の特徴を念頭に置き、これから一週間で対大型シャドウの作戦を練っていこうと一同は話す。

 

「確かにこれはお手柄だな。最初から敵が二体いる可能性が高いと分かっていれば、余計な心配を考えずに済む」

「ああ、先月より被害者が多いのは敵が強くなっているからだろう。強いシャドウほど大食いと考えれば敵は三体ではなく二体と思ってよさそうだ」

 

 先月と今月では被害者は微増という程度でしかない。もしも一体でこの被害を出しているなら驚異的だが、それは考えづらいので敵が強くなった分だけ被害が上乗せされていると読むのが妥当だろう。

 次の敵は二体。そう頭に置いてもらったなら次はこれを見て欲しいと七歌は別の書類を出した。それは計三枚の地図で東京、二十三区、港区と段々と拡大されている形だ。

 

「次の敵が二体の可能性が高い事は分かってもらえたなら、さらにもう一つ見てもらいたいの。これは発見された被害者の分布。一応、広い範囲と拡大版で三種類あるけど一番拡大してる巌戸台のが重要かな」

「こうして見ると東京でも港区しか被害者出てないんだね」

「うん。でも、まだ港区だけって可能性もあるから安心は出来ないと思うけど」

「その辺りは私たちの頑張り次第だな。敵がタルタロス周辺に留まっているうちに倒していくしかない」

 

 地図上に赤いマーカーでこれまでの被害者を、黄色いマーカーで今月の被害者の発見場所を記しているが、そのポイントは二十三区の港区に集中していて、もっと言えば巌戸台などタルタロスに近い場所にばかりといった感じだった。

 これはこれで重要なデータではあるが、その中でも今注目すべきはこの部分だろうと真田が最も拡大された地図の一部を指さした。

 

「それより今はこっちだろう。九頭龍の言う通り港区でも巌戸台周辺に集中しているが、今回は特に白河通りで多く発見されているな」

「あー、なんか二人組も見つかったとかってニュースでやってましたね。カップルで無気力症なんて可哀想だなって思ってたけど、そういう場所だから一緒に襲われたって訳ね」

 

 真田の指さした場所には黄色いマーカーが集中している。それは白河通りという場所のようだが、残念ながら七歌はまだこちらの地理を完全には把握しきれていない。

 よって、順平がカップルの無気力症被害者が発見されていた事に納得しているのか分からず、その辺りがどういう場所なのかを尋ねた。

 

「ゴメン、私は単純に次の大型シャドウの出現ポイントを絞るためにデータを出しただけだから、この辺りの土地には詳しくないんだけど、白河通りってカップルのデートコース的な感じ?」

「まぁ、大人のカップルのデートコースには入るかもな。ぶっちゃけるとラブホ街なんだよ。その辺りに集中してるっつーか」

「あぁ、そういう事ね」

 

 そういう裏事情があるのなら思わず納得だと七歌は苦笑する。

 全員が真っ当な関係とは言い切れないだろうが、少なくとも一緒にホテルに入るくらいには深い関係になっているのだろう。

 そんな相手を狙うシャドウの趣味を疑うところではあるが、何にせよ今回の七歌が持ってきたデータは今後の作戦で非常に役に立つと美鶴は改めて讃え、他の仲間たちにもこれを活かしていこうと話す。

 

「おっほん……まぁ、何はともあれ七歌の見つけてくれた情報は非常に有益なものだ。敵の数、そして出現する範囲をある程度まで絞れたのだからな」

「ああ、それを基に今から作戦を練るなら、タルタロスで予行練習することも出来る。前回のような事にはならないだろう」

 

 今までは大型シャドウに振り回される形だったが、相手の出現周期に気付き、さらに現われる個体数とエリアも今回のことで絞れるようになった。

 入念に準備して今度は圧倒的な勝利を収めてやると真田が獰猛に笑えば、他の者にもその熱が移ったように瞳に力が宿る。

 

「てか、よく桐条グループの研究員が気付いてない事に気付けたよね。七歌ってそういう分析とか得意なの?」

「ま、わりと得意かな。ただ、今回のやつはシャドウの研究と無気力症の研究がバラバラにされてたのが原因だと思う。警察と医者じゃなくて犯罪心理学者が必要だったみたいな?」

「シャドウの研究は警察というより生物学者だが例えとしては分かりやすいな。被害者のいる場所に襲ったシャドウがいるという逆転の発想は、それぞれを別に研究していては確かに気付きづらい。一歩離れて二つを見れば簡単に気付けるというのに」

 

 新しく入った風花は別だが、メンバーたちはまだヒーホーの死を引き摺っているのだ。

 もう二度と仲間を失ったりしない。消えたヒーホーの分まで自分が戦う。全員がそのように心に決めているからこそ以前にも増して結束が高まっている。

 後は自分たちの実力と状況に応じた作戦が重要になってくるが、次の満月に大型シャドウが現われるであろうエリアの地図を見ていた順平は、顔を上げると実際に戦うことになる場所が屋内なのではと皆に伝えた。

 

「つか、そうすっと次は屋内での戦闘も十分考えられるよな。モノレールに出たりタルタロスのエントランスに入ってきたりもしたから」

「ああ、十分あり得る話だな。やつらが建物の中に入れるサイズとは思えないが安心は出来ない」

 

 順平の言葉に真田も頷いて返す。大型シャドウのサイズで建物に入れるとは思えないが、壊しながら来ればそんな問題は簡単に消える。

 よって、屋内戦闘を想定しておかなければならないため、順平は最初にどれだけの広さがあるのかを把握しておこうと他の者に尋ねた。

 

「なぁゆかりっち、ホテルとかって戦えるだけの広さとかあんの? 廊下とか部屋の広さもホテル毎には違うんだろうけど、こう平均としてさ?」

「んー、戦えるだけの広さっていうとどうだろう。寮と似た感じのワンルームに大きなベッドがあってトイレとお風呂付きって感じだから、正直ペルソナを出してバンバン戦うのは難しいかなぁ」

「ホテルによってはマッサージチェアとかカラオケの機械もあるし、動きづらさとか同士討ちを考えると飛び道具のゆかりちゃんも難しいよね」

「あー、だね。てか、どう考えても部屋の中の物を壊さずに大型シャドウと戦えるとは思えないけど」

 

 聞かれたゆかりは記憶を頼りに広さを説明した。それに補足するよう風花も付け加えたので、話を聞いていた他の者たちも頭の中で大体思い浮かべられただろう。

 狭い場所での単純な戦闘の難しさだけでなく、仲間にも攻撃が当たる危険性を考慮すると次の作戦当日ゆかりは風花の護衛に回るべきかもしれない。

 中学からの友人である少女二人がそうやって話していれば、いつの間にか他の者たちは黙っており、その事に気付いたゆかりと風花がどうしたのかと首を傾げたタイミングで、若干気まずそうな順平が直前の質問は半分冗談だったとカミングアウトしてきた。

 

「えっとぉ……正直、ラブホの中なんて知る訳ないってツッコミが返ってくると思ってたんだけどな。そっか、ゆかりっちだけじゃなく風花も行ったことあんのかぁ……」

 

 どこか遠い場所を見つめる順平に言われ、己の失言を理解したゆかりは顔を一瞬青くさせるとすぐ真っ赤になって直前の言葉は嘘でしたと苦しい言い訳を始める。

 

「ちょっ、ちがっ、今のなし!」

 

 聞いた全員が「それは無理だろ……」と心の中で思う。言った本人と恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いている風花も思っているのだ。これで誤魔化せれば奇跡である。

 次の戦いに向けて話していたので、真面目に受け取って答えてしまった訳だが、ゆかりも風花も男子に自分たちが経験済みだとバレたことで頭を抱えてしまい。そのせいでその後しばらく作戦会議が中断したことを順平が三年生から責められたのは言うまでもない事である。

 

 

深夜――巌戸台・某所

 

 影時間も終わり世間が寝静まっている頃、とある施設の地下でひっそりと作業する男の姿があった。

 パソコンのキーを叩く音だけが部屋に響き、男はキーを叩きながら時折視線をある物へと向ける。

 それはまるで首無しの騎士のような存在だった。頭のない西洋の騎士鎧が鎖に縛られていて、傍から見ても何が行なわれているのか分からない状況になっている。

 だが、分かる者が見れば一目で分かっただろう。動きを封じられているのは複数のシャドウを混ぜた複合シャドウで、それを縛る鎖はシャドウやペルソナの力を封印するためのものであると。

 

「……大型シャドウは最初から存在する、か。荒垣君も九頭龍君も良いことを言ってくれるじゃないか」

 

 作業していた男はふと視線を壁際のカレンダーに移すと、七月七日を見て楽しげに口元を歪めながら騎士鎧のシャドウの調整を進める。

 男の見た七月七日は丁度次の満月の日だ。七歌たちはその日に大型シャドウと戦う予定であり、湊も湊で何かしらの動きを見せる。

 それが分かっていて敢えて何かするつもりなのか、男は目的の日に間に合わせるためシャドウの最終調整を進めるのだった。

 

 

 

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