【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第二百四十四話 対面、話し合い

8月7日(金)

朝――桔梗組

 

 早朝とも言える時間。まだ夏の暑さを感じない涼しい時間帯に、黒塗りの車が一台石段の前に停まった。

 運転手の男が車から降りると後部座席の扉を開け、そこから眼帯を付けた男性と三十代半ばと思われる男性が降りてくる。

 眼帯の男の名は桐条武治、それに付き従っているのは彼の部下である高寺一郎だ。

 高寺はあくまで表の桐条グループに所属する人間であるが、今日これから行なわれるであろう話し合いは影時間とは無関係なものになる。

 故に、桐条は部下と共に詫びの品を持って子どもらを引き取りに来たのだった。

 

「高寺、難しい話になると思うが表情に出すな。聡い子だ。僅かな表情の変化で読まれるぞ」

「心得ております。相手方の提示した条件をすぐに飲めるよう準備も進めさせております」

「うむ。では、行くぞ」

 

 これから向かうのは関東でも名の知れた極道の総本部だ。

 まさか組員が揃っているという事はないだろうが、そうでなくても厄介な青年が待っていることに変わりはない。

 相手がただの子どもであれば良かったが、残念な事に彼は俳優業などもしているため、そういった仕事への影響から賠償を支払わされる可能性が高い。

 また、桐条グループの娘が武器を持って極道の家に殴り込んだなど、多くのマスコミが取り上げたがるスキャンダルでしかない。

 青年がそういった脅しをしてくる事も考えられるので、二人は子どもたちの安全の確保と、桐条グループ全体に影響が及ばぬよう出来る限りの要求を飲む準備をしてきた。

 本来ならば殺害された幾月の葬式などの準備を進めたいのだが、今現在は司法解剖で結果待ちの状態である。

 それが終わるまでに無事に話が済めば良いがと考え、長い石段を登り切った桐条はインターフォンを押した。

 

***

 

 起きて朝食を食べていた七歌たちは、その席に湊がいないことを不思議に思いつつ、桜から迎えが来るので待っているようにと伝えられ、昨夜話をした和室で待っていた。

 迎えが来ると言われても、昨日は色々あってここまで送ってくれたバスへの連絡を忘れていたので、きっと今も空き地かその周辺で待ってくれているはずだ。

 ならば、それに乗れば簡単に帰れるのだが、極道の家に来たという事もあって大人が呼ばれているのかもしれない。

 その場合は顧問の幾月がくると思われるので、来たら迷惑を掛けて申し訳ないと謝罪しようと美鶴が考えていれば、部屋の戸が開き桜に案内されて男性が二人やってきた。

 

「お、お父様っ!?」

 

 まさかここに多忙な父が来るとは思っていなかった美鶴は驚く。

 それは他のメンバーたちも同じようで、わざわざグループ総帥が部下らしき人物を連れてやってきた事に驚きを隠せない。

 案内を終えた桜が出て行き戸が閉められると、全員の無事を確認した桐条は安堵の息を吐き、子どもたちが無事で良かったと声を掛けた。

 

「無事であったようで何よりだ。昨夜、お前たちがここへ来たと聞いたときには肝が冷えたぞ」

「申し訳ありませんお父様。お忙しいのにわざわざ……」

「構わん。普段、お前たちにばかり苦労をかけているのだ。このくらいは当然だ」

 

 こんな事で多忙な父の手を煩わせてしまったことを美鶴が申し訳なさそうにすれば、大人たちの尻拭いをさせているのだから、何かあれば駆けつけるのは当然だと桐条は優しく言って美鶴の頭に手を置く。

 父に頭を撫でられるなど小学生以来なので、美鶴はとても照れた表情をするがおかげで周りは和やかな雰囲気になる。

 他の者に笑われて美鶴は恥ずかしそうに「からかうな」と告げ、話題を逸らすようにもう一人の男性に視線を向けたので、部下の高寺一郎だと紹介を済ませた。

 父だけでなく部下まで来るなど余程心配したのだろう。メンバーたちは高寺にも来てくれてありがとうございますと感謝し、お互いにちゃんと挨拶を交わしたところで桐条が昨夜の事を教えて欲しいと切り出した。

 

「さて、君たちには昨日何があったのかを話して貰いたい。主観だろうと客観だろうと構わない。出来るだけ詳細に頼む」

 

 ここへ訪れることになったストレガとの出会い、適性を持っていた美紀と湊たち、まとめて掛かっても欠片も敵わなかった湊との実力差、秘薬による強化を施しても負けてしまったワイルド同士の戦い、あと一歩で殺されていたところ少女に助けられたこと。

 美鶴たちは順に語る事で主観と客観の両方で昨夜の事を伝え、それを聞いていた桐条らは美鶴たちが無事だった事は本当に奇跡としか言えないという顔をしていた。

 だが、最後まで話すと途端に二人は難しい表情になり、一体どうしたのだろうと子どもたちが不安に思ったところで高寺が口を開いた。

 

「御当主、やはりこれはかなり厳しいかと……」

「うむ、分かっている」

「おじ様、高寺さん、一体何が厳しいんですか? 迎えに来ただけじゃないんですか?」

 

 二人は一体何の話をしているのか。事情が分からず七歌が尋ねれば、他の者たちも教えて欲しそうに大人たちを見る。

 すると、七歌に尋ねられずとも結局は教える事になっていたので、高寺が非常に簡潔に自分たちがここへ来た本当の理由を話した。

 

「君たちは我々が迎えにきたと思っているようだが、実際は君たちのした事に対する謝罪に訪れたんです。月光館学園の寮に住む生徒たちが、深夜に武器を持って家に押しかけてきたため、有里湊が無力化した上で保護した。これが今回の件の端的な説明です」

 

 武器を持って襲撃を掛けた時点で犯罪ではあるが、事態を重くしている問題点は主に二つ。

 一つは、学校側が動向を見ておかなければならない寮生が深夜に勝手に行動していたこと。

 そしてもう一つは、加害者側にグループの令嬢がいて被害者が広告塔であり特待生の湊である事だ。

 前者は学校の管理責任を厳しく問われるだろう。後者は自分たちが宣伝に使わせて貰っている相手だけあって、その身内が危害を加えるなど絶対にあってはならなかった。

 ただの生徒ならばそれなりの金額で和解を申し出ることも出来ただろうが、相手は金銭的に余裕のあることに加え、マスコミ経由でいくらでも世論を味方に付けられる地位を持っている。

 そんな者を相手に譲歩などしてもらえるはずもないので、自分が考えられる以上に厳しい処分を覚悟してくれと高寺は語った。

 すると、そんな一方的な話があるかと昨夜の事を持ち出して真田や順平が反論した。

 

「馬鹿な、それでは俺たちが加害者みたいじゃないか!」

「みたいじゃなく完全に加害者なんだよ。これから行なわれる有里湊との話し合いに影時間の事はきっと出てこない。だからこそ、それらを抜いて考えれば、君たちはただ武器を持って極道の家に襲撃をかけただけでしかないんだ」

「そんなムチャクチャっすよ! オレたちはその本人に殺されかけたんスよ? 真田さんは腕折られたし、桐条先輩なんて腕切り飛ばされて腹まで刺されたってのに」

「じゃあ、その傷はどこにあるんだい?」

 

 指摘され全員がハッとする。腕を折られた真田も、腕を切り飛ばされた美鶴も、赫夜のおかげで痕すら残らずに完璧に治っているのだ。

 これではどれだけ説明しようと重傷を負わされたなど信じては貰えない。

 子どもたちがそれを理解したところで、高寺はようやく自分たちの置かれた状況が分かったかと嘆息して続けた。

 

「状況が分かったかな? こちらは完全に無傷なのに対して、向こうは九頭龍さんに腕や足を切られている。さらに君たちの指紋が付いた武器を押収されているし、召喚器だって傍から見れば拳銃でしかない。相手は芸能活動もしているからね。一体どれだけの賠償金をふっかけられる事か……」

 

 怪我を負わせた場合、一般人への賠償金の支払いでも数百万は飛ぶのだ。芸能活動をしている青年が相手ではそれだけで済むはずがない。桁が一つ二つ増えることは覚悟しておかなければならない。

 お金が絡んでくると順平や真田にも事態の重さを理解出来たのか、二人に加えて彼に思い切り切りかかっていた男子らは暗い表情になっていた。

 

「あの、話し合いの準備が出来たそうです」

「分かりました。すぐ向かいます」

 

 男子たちの雰囲気に釣られて女性陣も深刻な雰囲気になってきたとき、戸が開いて桜が奥の座敷で湊が待っていると伝えに来た。

 ついに対面かと大人二人は表情を引き締め桐条が先頭になって出て行く。その際、メンバーらも二人の後に続いてゆくが、座敷に着く前に高寺がこれから行なうのはただの話し合いではないと念押ししてきた。

 

「話は全て私と御当主でする。形式として君たちも同席して貰うが、絶対に口を開かないでくれ。今日の話し合いは君たちの進退についてだけじゃなく、桐条グループの今後にまで影響するんだ。言い方は悪いがこれ以上余計な事はしないで欲しい」

 

 出会ったときの優しさは欠片もなく、高寺は非常に厳しい態度で伝えてきた。

 それほどまでに自分たちの置かれた状況が悪いという事だが、戸で区切られただけの部屋をいくつも抜けてゆくと、最奥の座敷の手前の部屋に美紀、チドリ、アイギス、ラビリスが座っていた。

 どうやら同席は出来ないが話は聞かせて貰えるらしい。四人ともが少々緊張した様子なので、彼がどういった対応をするのか彼女たちも把握していないのだろう。

 座敷に入る前からピリピリと空気が張り詰めているのを感じ、部屋の前で一度深呼吸してから桐条は一礼して入室した。

 

「突然のご連絡にもかかわらずお越し頂けた事を感謝致します」

「いえ、この度は娘とその友人が大変な無礼とご迷惑をおかけし、謝罪のしようもありません。誠に申し訳ございませんでした」

 

 座敷に入ると湊が奥に座っていた。服装は実家での普段着の着物ではなく洋服だが、彼の後ろには七歌たちの持っていた武器と召喚器が並べられている。

 召喚器のグリップから青い光が見えないことから、既に黄昏の羽根は抜かれているようで、貴重な黄昏の羽根を失った事を痛く思いながら桐条たちが用意された座布団に座ると、後ろにいた子どもたちも座った事を確認して高寺が初めに挨拶した。

 

「私は桐条の部下の高寺と申します。この度は誠に申し訳ありませんでした。それで、お怪我の方はどのような御加減でしょうか?」

「腕と脇腹、それに足に数針縫う傷が残っていますね。おかげで衣装は丈の長い物しか当分着られませんし。仕事にも様々な制限が出来ると思います」

 

 そういって湊が袖を捲ると未だに血が滲み出ている切り傷があった。

 七歌自身は掠っている程度だと思っていたが、見れば二十センチ以上の長さで傷が出来ており、深さによっては障害が残っていてもおかしくないレベル。

 既に縫合されてはいるが、見ているだけで痛々しい怪我の状態に、高寺は余計に申し訳なさそうな表情になって頭を下げる。

 

「いきなり金銭の話というのは無礼かと思いますが、怪我の治療費、怪我によって負う仕事の損失等全てこちらで負担させて頂きます」

「ドラマ、映画、CM、今月の下旬に予定しているフェス等、かなりの企画が進められている最中です。もし今になって衣装が着れなくなったり怪我で撮影出来ないシーンが出れば、違約金は三億を軽く超しますがすぐに用意出来るんですか?」

「はい。それにご迷惑をおかけした賠償金も併せまして、既に三倍の額を用意させて頂いておりますが、その後の活動においてまた何かありましたら追加でお支払いするつもりです」

 

 違約金をキッチリ払う事になれば三億円にはなる。そう言った湊に高寺は三倍の額を払う用意が既に出来ていると返した。

 つまり、九億円もの大金を桐条グループから湊に支払うのだ。違約金を払えば湊の手元に残るのは六億円になるが、それでも順平たちでは一生使い切れない大金である。

 いくら世界に知られた桐条グループだろうと、そんな大金をポンと出す事は出来ないはずだ。

 けれど、特別課外活動部のメンバーがした事に対する謝罪として払うしかない。お金だけで済めばまだ良い方なのだから。

 

「分かりました。仕事の損失等についてはそれで納得します」

「ありがとうございます。また書面に起こし次第送らせて頂きます」

 

 賠償金について受け渡しの方法等を書類にしてしまうと、何かあったときに今回の事が外部に漏れる恐れがある。

 その事は桐条や高寺も分かっているが、わざわざそうするのは、自分たちに不利なことになろうと迷惑をかけた責任を果たす、という誠意を相手に見せるためであった。

 湊も相手がそういった意味で書類を送ると伝えてきた事を理解しているので、金額も妥当であった事から素直に受け入れてお金についての問題は解決した。

 桐条グループにとっても安い額ではないが、想定した範囲内で納得して貰えたことに高寺たちも内心で安堵の息を吐く。

 これで和解成立として帰らせて貰えれば言う事無しだが、そうはならないだろうと思っているとき、湊が輝くような金色の瞳を向けながら口を開いた。

 

「では、続けてそちらのご令嬢と友人たちの今後についてお話しましょうか。こちらの要求は全員の転校と学校のある港区、そして、この家のある六徳市への接近禁止です」

 

 簡潔に告げられた湊の要求に、覚悟していたつもりの桐条と高寺も動揺して表情に出しそうになる。

 相手の要求は真っ当だ。怖い思いをしたので、もう同じ学校に通いたくない。もう顔を合わせたくない。そうして学校と実家への接近禁止を要求してきたのだろう。

 だが、それはあくまで表向きの理由でしかなく、港区という範囲で接近禁止を要求してきた裏を読み取れば、桐条グループで唯一の対シャドウ部隊に活動させないという事だった。

 ペルソナ使いを失えば桐条グループにシャドウへの対抗手段はない。

 黄昏の羽根を積んだ対シャドウ銃などの兵器を持ってくれば、影時間への適性しかない者でもダメージを与えられるが、攻撃は出来ても相手の攻撃を防ぐ術がないのであまりに危険すぎた。

 青年には当然それが分かっているのだろうが、影時間のことなど一切触れずに後ろに置いていた武器を桐条たちに見せてくる。

 

「これが押収した凶器です。相手が凶器を持っていたので、こちらもこのような道具を使って応戦してしまいましたが、まさか拳銃まで所持していた事は驚きでした。警察への連絡も考えましたが、知り合いという事もあって気が引けてしまい。当事者間で解決出来るようにとそちらにご連絡した訳です」

「ご配慮、痛み入ります」

 

 このような道具と言って見せてきたのは無の小剣だった。

 話には聞いていたが、七歌たちの武器と比べれば明らかにお粗末で、これで平然と相手を切りつけられる技量には感服するほかない。

 元々文句を言えるような立場ではないが、応戦した際に使った武器が錆びた剣らしきものでは問題になるはずもなく、桐条たちは湊が警察に連絡しなかったことにただ感謝するしかなかった。

 けれど、桐条と高寺が反論の一つもせずに湊の要求を受けようとしているのを見て、このままでは転校させられシャドウと戦う事も出来なくなると焦った順平が立ち上がった。

 

「ちょ、待ってくれよ! そんなのおかしいって!」

「――――黙って座っていろ」

 

 そんな一方的な要求は聞けない。順平がそう言おうとしたとき、湊が鋭い視線で射貫いてきたことで、順平は腰を抜かしたようにその場に座り込んでいた。

 今の技は七歌も以前美鶴の婚約者に使っていた気をぶつけるというものだ。

 しかし、一切触れる事もなく視線のみでそれが可能な時点で普通ではない。自分も気のコントロールが出来るからこそ、七歌はやはり龍と鬼の混血は格が違うと思い知らされる。

 一方、少女がそんな事を考えている間、綱渡りのようなギリギリの話し合いをしていた大人たちは、あれほど言ったのにと順平の行動に心の中で苦い表情をしていた。

 今の順平の態度からは一切の反省が見られない。そも、真田や順平は湊に対して未だに敵意を持っており、桐条たちに言われても自分たちが加害者だとは納得しきっていなかったからしょうがないが、それでも相手にそれがばれる態度だけは取ってはいけなかった。

 このままではさらに要求を突きつけられるのではと考えつつ、桐条は順平の行動に対する謝罪を述べた。

 

「申し訳ありません。突然の事に動揺したようで」

「いえ、気にしてません。それで、こちらの要求は飲んで頂けるのですか? 流石に襲われたということもあって同じ学校に通うのは不安なんです。出来ないというのであればこちらが学校を去りますが」

 

 気にしてないと微笑を向けてきた青年は、要求は先に言った物のみと繰り返す。

 新たな要求をふっかけられなかった事は幸運だが、だからこそ桐条と高寺は今のを見逃して貰えたのは自分たちに貸しを作るためだと理解していた。

 もしも直前の借りがなければ、三年生だけでも卒業までいさせて貰えないかと食い下がれたかもしれないが、被害者である青年が話し合いの席での加害者の無礼な態度を許した以上、桐条たちはその要求を呑んですぐに応じなければならない。

 今後、シャドウの脅威にどのように対応していくか。それらも考えていかなければならないが、今回は全員が無事だっただけでも良しとしようと桐条が要求を呑む事を告げようとしたとき、

 

「苛めるのはそれくらいにしてあげられないかしら?」

 

 突然七歌たちが入ってきた戸が開きその場に女性の声が響いた。

 女性の声に覚えのあった者たちは驚愕して振り返り、思っていた通りの人物が立っていて再び驚く。

 

「英恵……どうしてここに?」

「ふふっ、実は夜中のうちに連絡を頂いていたの」

 

 桐条が問えば英恵は悪戯っぽい笑みを浮かべ、隣の部屋にいた赤髪の少女の方へ一度視線を送る。

 そう、本来地方にある桐条別邸にいるはずの彼女がここを訪れたのは、湊の行動を読んだチドリから夜中のうちに連絡を受けていたからであった。

 ワンピースの上に薄いカーディガンを羽織った姿で現われた彼女は、入り口から進んで桐条らの傍に立つと、穏やかな表情で湊を見つめながら再度口を開く。

 

「それで八雲君、どうか赦してあげられないかしら?」

 

 英恵は子どもたちに争って欲しくないと思い。しこりが残る今回のような対応はやめるべきだと湊を諭しにきた。

 湊にとってもう一人の母親である英恵は弱点であるため、彼女が現われた時点で湊は話し合い中の作った笑みを消して普段の顔に戻っている。

 その時点で勝ったも同然で、チドリは湊が英恵の登場に内心で苛ついていることを理解しながら、相手の思い通りさせずに済んだ事に小さく口元を歪めた。

 そして、英恵が部屋に入ったことで話し合いがご破算になったと判断したチドリらが部屋に入ってくれば、湊は淡々とした口調で少女らに問いかけた。

 

「……お前らも同じ意見か?」

「ええ、そうよ」

「ウチも友達が転校するんはイヤやわ」

「……わかった」

 

 チドリもラビリスも湊が桐条側に出した要求はおかしいと考えていた。

 だからこそ、英恵と同じように思っていると告げれば、湊は右手で目元を隠しながら深い深い溜息を吐いて静かに分かったと言った。

 英恵たちの意見を聞いて青年が折れてくれると思っていなかった桐条らにすれば、彼がこんなにも簡単に要求を引っ込めたことは驚きでしかない。

 だが、英恵たちの意見を聞くというのが真実だと伝えるように、立ち上がった湊は具現化したカードを持ち主の方へと投げて渡してゆく。

 受け取った七歌たちはカードをどうすれば良いのか分からなかったが、チドリが持ち主が砕けばペルソナが戻ると告げれば言う通りにし、全員に奪われたペルソナが返却された。

 さらに続けて湊はマフラーから本物の召喚器を取り出し、それをその場に置いて代わりにダミーであるコピー品をマフラーに収納する。

 まさか用意されたのが形だけをコピーしたものだと思わなかったので、桐条たちからすればどれだけ自分たち側の情報を持っているのだと恐ろしくなったが、ペルソナと共に召喚器も戻ったならば言う事はない。

 要求も取り下げられ、無事にペルソナも戻ってくるとメンバーたちにも笑顔が戻ってくる。

 それを見て英恵やチドリらも小さく笑っていれば、ピアスと熊の爪のネックレスを外した湊がそれぞれを片割れを持つ少女に投げ渡し、完全に濁りきった金色の瞳を向けて呟く。

 

「――――さようなら」

 

 直後、彼はその場から消えていなくなった。

 戦闘時にも彼が一瞬で移動するのは見ていたので、七歌たちにすればまた不思議な移動法を使ったのかといった感じだ。

 もっとも、今は戦闘中ではないので、彼が消えたところで順平たちもどこに行ったのかとしか考えない。

 

「は? あいつ、今度はどこ行ったんだよ?」

「風花、探知で居場所分からないの?」

「ゴメンなさい、有里君は隠れられたら分からないの」

 

 せっかく話がまとまったというのに彼はどこに行ったのか。

 不思議に思った順平やゆかりが探知能力を持つ風花に居場所を尋ねるも、同じ力を持っている湊はジャミングが出来るので隠れられると見つけられないと申し訳なさそうに答える。

 だが、また変なことをしやがってと呆れている順平たちと違い。チドリや英恵といった彼の近しい場所にいた者たちは、変わり果てた瞳の色と言い残した言葉に呆然としていた。

 特別課外活動部のメンバーや桐条らが彼女たちのそんな様子に気付かずにいると、ひたひたと足音をさせて長い黒髪の女性が部屋にやってくる。

 

《どうした莫迦みたいに呆けて?》

 

 やって来たのはネガティブマインド時のバアル・ペオルの姿になった鈴鹿御前だった。

 七歌たちにすれば、主が姿を消したというのに、ペルソナがまだ家に残って自由に歩いているのは不思議でならない。

 しかし、彼女たちがどういった存在なのかを尋ねようとする前に、明らかに焦った様子のチドリがピアスを握り締めて鈴鹿御前に駆け寄った。

 

「八雲は、八雲はどこに行ったの?!」

「ちょ、チドリ、どうしたの急に?」

 

 急に大声を出して湊の居場所を尋ねるチドリの様子に、ゆかりは一体どうしたんだと首を傾げる。

 けれど、ゆかりの言葉に答えている余裕などないのか、チドリだけでなくラビリスも焦った様子でどこかに電話をかけている。

 すると、少女たちと同じように不安な表情になりながらも、自分が焦れば子どもにも伝わるからと耐えていた桜の許に渡瀬がやってきた。

 

「桜さん、学校からお電話です」

「あ、すぐ行きます」

 

 鵜飼や渡瀬は組の仕事もあるので湊の行動には不干渉でいる。

 ただ、今日は桐条グループの人間が来るからと、一応渡瀬だけ護衛のために残っていたのだが、そんな彼が学校から電話が来たと言ってきたとき桜は嫌な予感がしていた。

 電話を受けに桜が部屋を出て行くと、一度は和やかなムードになりかけていたメンバーは、チドリたちの反応から何か起きていると察して何も言えなくなる。

 そして、数分経って電話を終えて戻ってきた桜が、青い顔をしながら一同に衝撃の情報を齎した。

 

「……みー君が、学校に退学届を出して行ったって」

『っ!?』

 

 湊が姿を消してから五分ほどしか経っていない。僅かな時間で二十キロ以上離れた場所に行ったことも驚きではあるが、それよりも何故急に学校を辞めたのだと他の者は驚きを隠せない。

 退学理由は学業と仕事の両立が難しいからと言ったらしい。仕事を始めてからも成績は落ちておらず、学内考査も全国模試も満点トップを維持している。

 にもかかわらず、本人がそういって退学届を出すだけ出して去ってしまったので、本当に良いのかと引き止めも兼ねて電話が来たという訳だ。

 桜は全く話を聞いていないので保留にしておいて欲しいと伝え、そのまま電話を切ったため湊の退学は確定していない。

 しかし、本人に連絡が取れないため、何が何やらと桜が困惑していれば、話を聞いていた鈴鹿御前は愉しそうに笑った。

 

《ハハッ、やはり仕事が速いな》

「なんでそんな事になってるんよ!?」

《阿呆かお前は、自分たちが言ったんだろうが。此奴らに残って欲しいとな》

 

 電話をかけても通じなかったのか、湊の突然すぎる行動に混乱した様子を見せるラビリス。

 それを冷めた瞳で見ていた鈴鹿御前は、七歌たちに残って欲しいと選んだのは自分だろうと返す。

 

「だからって何で八雲が出て行くのよ!」

《言っていただろうが。要求が飲めぬのなら自分が去ると。お前らは八雲ではなく此奴らを選んだのだ。選んでおいて今更何を騒ぐのだ》

「違うっ、私はそんなつもりで言ってない!」

《お前の考えなど知らぬさ。八雲は最初からそういった意味で問うていたのだからな》

 

 チドリは湊が他の者たちと上手くやっていけるようにと考え、一方的とも言える話をなかった事にしたつもりだった。

 けれど、湊はチドリらも英恵と同じ意見かと尋ねたとき、その答えが湊の要求を呑むかどうかとして捉えた。

 まさかそんな受け取り方をするとは思っていなかったチドリは鈴鹿御前に反論するが、自分の言葉を相手がそのままの意味で受け取ってくれるかは状況による。

 何より、既に湊は去ってしまったのだから、ここで何を言っても無駄でしかなく。今更騒いでいる者たちを冷ややかに見つめながら鈴鹿御前は続けた。

 

《お前らは八雲と此奴らが仲違いすることを憂いて言ったのだろうが、それはお前らの独りよがりだぞ。何せ、お前らは一つも八雲の心について考えなかったのだから》

 

 湊のことを考えて言っていたというのに、それでどうして心について考えなかった事になるのか分からない。

 彼女が一体何を言っているのか分からず、その場にいる者たちの視線が集まれば、そのままでしかない言葉の意味を理解出来ぬ者らに呆れながら彼女は説明する。

 

《此奴らに襲われても八雲なら無事と考えていたな。そして、それだけの強さを持つ八雲だからこそ知り合いには手心を加えてやれと言ってもいたな。しかし、妾に言わせればおかしな話だ。襲われても無事だからと言って襲われた事実は消えぬし、知り合いたちに殺されそうになった者がどのような気持ちか少しは想像したか?》

 

 真田や順平、天田に荒垣や七歌など、特別課外活動部のメンバーたちは湊を明確な敵として倒そうとした。

 無自覚であったとしてもそこに殺意がなかったとは言えず、実際、彼らの攻撃は湊が防いだり躱したりしていなければ致命傷になっているものもあった。

 メンバーたちにすれば仲間と一緒に化け物を倒す感覚だったに違いない。

 だが、彼らが戦っていたのは心を持った一人の人間だ。どれだけ強かろうが、どれだけ攻撃を防ごうが、湊からすれば知り合いに殺されそうになった事実は残る。

 

《だというのに、お前らが赦してやれなどと戯れ言をほざき始めたときには笑いそうになった。お前らはどこまで八雲に我慢を強いて心を蔑ろにするのだろうかと》

 

 言われてハッとした表情になった英恵は気まずそうに目を伏せる。

 それはチドリやラビリスも同じで、湊が傷つけた被害者である特別課外活動部のメンバーにばかり目が行ってしまっていた事に気付いたようだ。

 しかし、その被害者という発想も間違えていると鈴鹿御前は話す。

 

《重傷だった此奴らを気に掛けるのは分かる。だが、お前らは八雲に自分を殺そうとした者らの治療を強要しておきながら、数針縫う傷を負った八雲のことは誰も気に掛けなかった。無意識にどうせ治る、治せると思っていたんだろう》

 

 元々、湊は一方的に相手を蹂躙した訳ではない。襲われたから反撃していただけだ。

 相手はペルソナまで使ってきたというのに、それでも八雲を倒す事が出来なかっただけの話であり、チドリたちの考える被害者と加害者の立場はまるきり反対である。

 加えて、鬼血丸を飲んだ七歌は湊の身体に数針縫う必要のある怪我を負わせていた。

 確かにファルロスの蘇生を応用した治癒の力や、ペルソナの回復スキルを使えば簡単に傷を治すことは出来ただろう。

 だが、どうして家族であるはずの少女たちは襲ってきた敵の心配はして、襲われた家族には心配する言葉の一つもかけなかったのか。

 昨夜から聞いていた鈴鹿御前は、湊の怪我の事を尋ねたのは話し合い中に高寺が尋ねた一度きりだったと話し、そこで少女や英恵に向かって怒りのままに叫んだ。

 

《巫山戯るなっ!! 八雲の強さは脆さの裏返しだ。敵に怯え、失う事を誰よりも恐れるが故に力を求め手に入れたのだ》

 

 彼の過去を知っている者ならば知っているはずだった。どうして青年があそこまで必死に力を求めていたのかを。

 

《チドリ、ラビリス、お前らは八雲に普通や常識を説いていたな? だが、彼奴が生きてきた世界では敵は殺すものだ。どれだけお前らの常識で語ろうと別の世界で生きた彼奴はそれしか知らぬ。しかし、彼奴は知り合いだからと追い返そうとした。自分の命が狙われようと、魔眼を人間には使わず重傷に留めていたのだ》

 

 湊が本気で殺すつもりなら直死の魔眼で治療不可能な怪我を負わせていたはずだ。

 けれど、ここにいる者たちは全員が怪我を完治しており健康そのもの。

 それが彼が本当に殺すつもりはなかった事の証明になり、最後に殺そうとしていたのも、そこに至るまでに十分な時間があった事を表わしている。

 少し考えていれば分かったはずなのに、そこに目を向けず一緒になって青年を責めた少女に鈴鹿御前はどんな気持ちで彼を責めたのかと尋ねた。

 

《ええ? 無知な赤ん坊を甚振るのは愉しかったか?》

「違う、そんなつもりで言ったんじゃない!」

《何が違うというのだ。そういった言葉を口にする度、八雲の耳には“お前は異常だ、間違っている”と聞こえていたのだぞ。必死に力を求め続けた十年を、これまでの人生を否定されている訳だからな》

 

 チドリやラビリスが世間での常識や普通を説く度、裏の世界で生きてきた湊は自分を異物として認識していた。

 社会という人間同士で形成するコミュニティの中で生きる上で、常識というのは考え方の指標として重要視される。

 だが、そこに別の場所の常識を持ち込もうとする者がいれば、自分たちとは異なる物として数の暴力で排除される。

 それが相手の生まれやこれまでの歩んできた人生を否定する事になるなど考えもせずに。

 

《妾たちはお前たちなら八雲を分かってやれるのではと期待していた。だが、やはり無駄だったようだな。いつの世も人間は鬼の力を利用する事しか考えていない。強さばかりに目を向け、その心を知ろうともしないっ》

 

 湊の脆さを知っていたはずの者たちが、どうして今回は彼の味方であろうとしなかったのか。

 別に敵になった訳ではなく、今後彼が特別課外活動部の者たちと少しでも上手くやっていけるよう考えてもいた。

 しかし、湊は襲われた時点で相手を敵として認識していたのだ。

 チドリたちはそういった湊の視点で物を考えることを怠ったが故に、肉体的に無事だった湊を加害者として捉え、肉体的に重傷だった特別課外活動部のメンバーたちを被害者としてみてしまった。

 そんな、身体が無事だからといって心まで無事かは別だという事を忘れ、つい実力の面で弱い者の方に立ってしまったチドリたちに冷たい瞳を向け、鈴鹿御前は庭に面した開け放たれた戸の方へ向かう。

 

《おめでとう。力を合せたことにより、お前たちは無事人の姿をした化け物を追い払う事が出来た。せいぜい、化け物の犠牲の上に成り立つ平和を謳歌するといい。もうこちらから干渉する事はないだろう。だから、お前たちも干渉してくるな》

「待って、八雲の居場所をっ」

《さようなら、人間。私にはお前たちこそ鬼に見えるよ》

 

 伸ばしたチドリの手が届く前に鈴鹿御前は哀しそうな顔をして消えていった。

 後には重苦しい空気だけが残り、互いの言い分があったにせよ自分たちの行動が原因で青年が去った事で、酷く気まずく感じて誰一人として動けなくなる。

 だがそんなとき、自分は話に参加する資格がないからと隣の部屋にいて話だけを聞いていた少女が、部屋に入ってくるなり座っていた兄の正面に立って頬を強く張った。

 バシンッ、と乾いた音が部屋に響き、叩かれた者だけでなく他の者まで少女の突然の行動に目を丸くする。

 優しい性格から、これまで一度として暴力を振るった事のなかった少女が突然手を出したのだ。誰だって驚いて当然である。

 しかし、突然の行動の意味を問おうと彼女を見たとき、その瞳にいっぱいの涙を溜めていたことで誰も言葉をかけられなかった。

 

「なんで、なんで兄さんは有里君にあんな事を言ったんですか!! 皆さんもです! 自分だって有里君を殺そうとしたくせにっ、都合の良い事ばかり言ってどうしてそこまで有里君を傷つけたんですか!!」

「違う、俺はお前を助けようとしてっ」

「助けてくれたのは有里君です! 兄さんもシンジさんも、誰も私が本当に大変なときには来てくれなかった。九年前の火事のときも、去年シャドウに襲われたときも、兄さんたちじゃない。有里君が助けてくれたんですよ!」

 

 妹に叩かれ狼狽えている真田に対し、大粒の涙を流しながら少女は昨夜からの言動と態度を責めた。何故、自分たちの行動を反省せず被害者面しているのかと。

 思えば一番客観的に両者の言葉を聞けていたのは美紀かもしれない。

 美紀は湊に助けられここで匿われていた恩があり、尚且つ、身内だからこそチドリやラビリスが湊の言葉に否定的な立場を取ったように、家族だからこそ兄の言葉を全ては肯定的に受け止めずにいた。

 勿論、そこには自分が兄たちに黙っていたことが今回の騒動の一因という負い目もある。

 ちゃんと伝えていれば湊に迷惑を掛けずに済んだ。チドリやラビリスと湊が言い合いするような事もなく、湊と特別課外活動部のメンバーたちが戦って険悪になる事もなかっただろう。

 だからこそ、美紀は昨夜の話し合いでは自分が桔梗組にいる理由を語り、兄が言い過ぎれば止め、今日は口を出せる立場ではないからと最後まで隣の部屋で聞き役に徹していたのだ。

 ただ、今になって美紀は兄たちを止めきれなかった事を深く後悔していた。

 もっとちゃんと言っていれば、自分が湊にどれだけ助けられたかを語っていれば、兄たちの印象も変わってあれほど一方的に湊を糾弾したりしなかったのではないかと。

 そんな自分の迂闊さと兄たちのこれまでの行動の結果、一人の青年が去るという結果を招いてしまったことで、美紀は怒りと悲しみの混じった感情のままに兄たちを責めた。

 

「守れないくせに、助けられもしないくせに、私の大切な人を傷つけないでくださいっ」

 

 そこまで言い切ると少女は顔を手で覆ったままその場に崩れ落ちた。

 彼女の口にした言葉は全てが本心という訳ではないだろう。だが、感情が昂ぶって出た言葉だけに、心の奥底ではそんな風に考えている部分もあるのかもしれない。

 自分が助けようとした者に、仲間の大切な人だからと助けようとした者に、憎しみすら混じった否定の言葉をぶつけられた事で真田たちは全員がショックを受ける。

 泣き崩れた美紀は桜が肩を貸して部屋を出て行ったが、家族や息子を追い込んでしまったという後悔でチドリらもまともに話が出来る状態になく、英恵は高寺と彼女の連れて来た侍女に連れられて部屋を出て行き、チドリにアイギスやラビリスは黙って部屋を出て行った。

 そうして、全員が去って部屋には桐条と特別課外活動部のメンバーたちだけになれば、湊がいなくなったとき以上に重苦しい空気の中、座ったままの桐条が真剣な表情のまま子どもたちに話を切り出した。

 

「こんなときに話すべきではないのだろうが、君たちにもう一つ悪い報せがある。昨夜の影時間に幾月が殺害された」

「な、そんな、まさかっ」

「彼ではない。ここへ来る前に寮に寄ってきたが、カメラにはパーカーを着た一人の青年が映っていた。タイミングを考えればお前の会ったストレガとやらの別働隊だろう」

 

 幾月が殺されたと聞いて美鶴たちの顔が青ざめる。まさか犯人は彼かと想像しかけたところで、それを読んでいた桐条が別人だから安心しろと声を掛けた。

 その情報によって湊と親しかったゆかりや風花は安堵の息を吐いたが、彼が犯人でなかったところで幾月が殺された事実は変わらない。

 特別課外活動部の活動は、理事長である幾月が色々と取り計らってくれていたおかげで出来ていた部分もあるので、学校とのパイプ役と桐条グループへのパイプ役を同時に失った以上、今まで通りにはいかないのではと七歌が冷静に尋ねる。

 

「私たち、これからどうなるんですか?」

「……八雲君は君たちに力を返した。ならば、これからも今まで通りシャドウと戦って貰うことになる」

「理事長の後任は決まったんですか?」

「ラボの人間で適任がいればその者が引き継ぐだろう。しかし、もうしばらくかかる。それまではストレガの動きに警戒しながら慎重にシャドウ掃討に当たって欲しい」

 

 敵対するペルソナ使い集団ストレガ、去って行った湊、幾月の死。

 一日の間にあまりに多くの事があり過ぎて、七歌たちには考える時間が必要だった。

 身体は無事、力も取り戻せた。しかし、美紀に言われた言葉が強く頭に残り、シャドウと戦う気になどなれない。

 自分たちはどうなるのか。自分はどうすべきなのか。それぞれの胸に不安を残しながら、七歌たちは桔梗組を後にした。

 

 

 


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