【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第二百九十二話 脱出ゲーム

――放課後悪霊クラブ・四ノ怪

 

 床の崩壊によって第四階層の小部屋に閉じ込められたアイギスたち。

 どうして上から降ってきたのに天井があるのかという疑問はあるが、迷宮の中は時間が経てば壁や床の戦闘痕が修復されていることから、似たような効果で罠に掛かった者が部屋に入ってから天井が出来たのだろう。

 そんな事を考えながら脱出する方法を考えるが、残念なことに中からでは鍵穴すらない扉のロックを解除することは出来ない。

 唯一の救いは部屋の外に七歌、善、玲の三人が残っており、彼女たちに自分たちの救出を頼むことが出来るくらいか。

 一応、もう一人無事だった者もいるが、彼は床の崩壊による落下に巻き込まれず、単独で天井裏にいて現在も元気に二つの部屋の上を行き来している。

 顔を出すためにパネルタイプの天井の一部を壊し、顔をひょっこり出して笑ったかと思えば隣の天井裏へ移動する。

 アイギスがおいでと呼んでも悪戯をしている気分なのか、口に手を当てて笑うと去ってしまう。

 まぁ、風花が言うには天井裏に敵の気配はないので、高さ五メートルもある天井裏から落ちてこない限りは大丈夫だろう。

 

「いっせーのーで、四!」

「あっ、クソォ」

「悪いね君たち。へへっ、これでオレっちも片手だぜ」

 

 やることがないのか部屋の隅に集まって順平や花村があげる親指の数当てで時間を潰している。

 メンバーは二人に加えて綾時、鳴上、完二、天田の計六人だが、既にあがっている天田と鳴上は残る四名の戦いを見守る。

 綾時に加えて順平まで残るは片手になったことで、花村たちは悔しそうにするも、ふと顔を上げたときに壊れた天井の穴が見えてゲンナリした表情を浮かべた。

 

「つーか、有里のあれはどういう意図があるんだ?」

 

 花村に言われて他の者も視線を向けると、そこには天井の穴の縁辺りに座ってフリフリとお尻を振っている八雲がいた。

 彼はちゃんとズボンを穿いているものの、わざわざ閉じ込められている者たちにお尻を振って見せている事から、普通なら挑発しているのだろうと考えるところだ。

 男性陣は何じゃそれはと呆れ気味に見ているが、女性陣は落ちたら危ないからやめなさいと心配する者と、カメラがあれば動画で撮影するのにとお尻フリフリダンスを可愛いと感じている者に大きく分かれる。

 救助されるまでこれがずっと続くかと思うと気が滅入るが、閉じ込められた事に怯えていた千枝やゆかりも今は八雲のお尻を見て平静さを取り戻している。

 

「八雲さん。そんなところで遊んでいると落ちてしまいますよ。ちゃんと受け止めますので、どうぞ降りて来てください」

「そうだよ、八雲君。ほら、お姉ちゃんたちと遊ぼ?」

「いー!」

 

 八雲は今の状態が楽しいのかアイギスと風花の返事に首の代わりにお尻を振る。

 見ている者にすれば、先ほどよりも高速で振られるため、いつバランスを崩すか心配になる。

 もっとも、赤ん坊の状態でも五メートル程度の高さなら彼は問題なく着地可能だ。

 女性陣の心配は全て杞憂でしかないのだが、分かっていても心配してしまうのが保護者というものだった。

 

《八雲君、ちょっと来てー》

「あーい。ま、ばいば!」

 

 そして、隣の部屋から七歌に呼ばれると、八雲は立ち上がってから手を振って隣の部屋の天井裏へと移動する。

 八雲の姿が見えなくなったアイギスたちは露骨に不安そうな顔を見せ、それを見た男性陣は早く部屋から出られないかなと七歌たちの活躍に期待を寄せるのであった。

 

***

 

 順平たちを助けるためには三枚のカードキーが必要だと判明した。

 七歌たちは自分たちのいる部屋をくまなく探したが、残念なことにカードキーは存在せず、どうやら外へと探しに向かう必要があった。

 しかし、外へ出ようと扉の前に立っても一切反応せず、手で無理矢理に開けようとしても手が痛くなるだけで無理だった。

 ならばどうするかと悩んだ末に、扉の左右にある台座のようなものを善が発見し、彼がそれに乗ると台座が沈み込んだ。

 

「……沈んだ。だが、扉に変化はなしか。やはりもう一方にも誰かが乗る必要があるのだろう」

「OK、私が乗ってみるよ」

 

 二つの台座に同時に乗っておかないと扉が開かない。

 そう予想したことで七歌が台座に乗ってみたが、どうしてだか善の時のように台座は沈み込まなかった。

 

「あれ? もしかして乗る人に制限あんのかな?」

「いや、この場合は重量の問題だろう。玲、君も一緒に乗ってやってくれ」

「うん。七ちゃん、わたしも乗るね!」

 

 台座の大きさの関係で七歌と玲は抱き合うような形で一つの台座に乗る。

 すると、今度は規定の重量を満たしたのか台座が沈み込み、ズズズと音を立てて扉は無事に開いてくれた。

 

「お、ちゃんと開いたね。じゃあ、気をつけて探しに行こうか」

「ああ、湊のペルソナの力を借りるとしよう」

 

 無事に扉が開いたことで七歌たちが台座から降りて探索に向かおうとする。

 だがその瞬間、せっかく開いていた扉が勢いよく閉まってしまった。

 今から通ろうとしていた七歌たちはポカンと数秒呆け、事情を理解して苦い表情を浮かべた。

 

「これは……台座に乗っている間だけ扉が開く仕掛けのようだな」

「ええっ。でも、わたしと七ちゃんは二人で乗らないとダメなんだよ?」

「あと一人いればどうにかなったのだが……」

 

 同時に台座に乗る必要があるというのに、女子で体重が軽い七歌と玲は一緒に乗らなければ台座が沈まない。

 周りに何か重りになりそうなものはないかと探してみるも、効果はほとんどなく二人が一緒に乗るしか手はないようだ。

 これではどうあっても閉じ込められた仲間を助ける事が出来ない。それ以前に自分たちも脱出することが出来ない。

 どこか悔しそうに諦観の言葉を吐く善を見ながら、七歌は顎に手を当て少し悩んでから天井に向けて声をかけた。

 

「八雲君、ちょっと来てー!」

《あーい》

 

 天井裏からバタバタと走る音が聞こえ、壊された天井の穴からすぐにヒョコッと八雲が顔を出す。

 どこかワクワク顔なのはきっと用事があって呼ばれたと分かっているからだろう。

 出来る事なら先に降りて来て欲しいが、今の状態でも話は出来るので七歌たちは上を見上げながら八雲に話しかける。

 

「あのね。そこの扉を開けるためのカードキーを探しに行きたいんだけど、奥の扉を開けるには二箇所の台座に人が乗ってなきゃいけないの。だけど、私と玲ちゃんだと重さが足りないから、八雲君も一緒に乗ってくれないかな?」

「うー!」

 

 いいよ、と元気に頷いて八雲は天井からジャンプして降りてくる。

 赤ん坊が高さ五メートルから落下すれば命の危険があるので、慌てて七歌がキャッチして彼を抱きしめたが、飛んだ本人は楽しそうにキャッキャと笑っている。

 

「はーちゃん、危ないから高いところから飛んじゃダメだよ」

「めー?」

「そう。みんな心配するからね」

「うー、めんめ」

 

 七歌に抱きしめられた八雲はそのまま玲の手へと移動する。

 この中で最も戦闘力が高いのは七歌だ。故に、彼女を扉の向こうへ向かわせるには善と玲がこちらに残るしかない。

 あちらで戦闘になることを考えて七歌も準備し、八雲も玲の腕の中で大人しくしている間に全員で扉の前に向かう。

 現在、チドリとりせからの通信は途絶えているので、サポートなしで探索に行くしかないのは非常に不安だ。

 それでも今は自分がやるしかないと七歌が気合いを入れたところで、善と玲たちが台座に乗った。

 

「……玲、残念だが君と湊ではまだ重さが足りないようだ」

「ええっ、はーちゃんの体重っていくつなの?」

《6.4キロであります! 羽根のような軽さです!》

 

 どうやって会話が聞こえていたのか分からないが、玲が八雲を高い高いしながら体重を尋ねると隣の部屋からアイギスが答えてくれた。

 七キロ近い羽根など誰も知らないが、どちらにせよ八雲は平均より少々軽いらしい。

 これでは玲と合せても五十キロくらいにしかならないだろうと、今度は七歌が八雲を抱っこした状態で台座に乗ってみた。

 

「ダメかぁ。多分、六十キロくらいを想定した仕掛けっぽいなぁ」

「あーう?」

「えっとね。八雲君は身体が軽くて女の子の憧れだねって話だよ」

「ま!」

 

 高校生ならば女子基準で褒められても嬉しくないだろうが、赤ん坊の八雲は素直に喜んで得意気な顔をしている。

 一方の七歌たちは八雲の体重を足してもダメとなると、一番避けたかった手段を選ぶしかないかと苦悩する。

 そう。八雲一人に探索を任せるという手段だ。

 

「こうなると八雲君頼みになってきちゃうなぁ。でも、うーん……」

「だ、ダメだよ! はーちゃんは赤ちゃんなんだよ?」

「だが、玲。取れる手段がそれしかないんだ」

 

 片方の台座に善、もう片方に七歌と玲が乗る必要があるならば、自由に動ける八雲が探索に向かうしかない。

 玲は赤ん坊にそんな事を任せられる訳がないと反対するも、そうしなければ自由に動ける八雲以外は誰一人帰ることが出来ない事は理解している。

 帰還用アイテムのカエレールが使えれば良かったのだが、帰還用アイテム無効エリアのようでその手を使うことは出来なかった。

 抱っこしていた八雲を地面に降ろした七歌は、腰を落として出来るだけ目線を合わせるとしっかりと八雲の目を見て話しかける。

 

「八雲君。ここから出て三枚のカードを探して来て欲しいの。上にいたような敵がいるかもしれないけど、一人で出来る?」

「まう!」

「うん。ゴメンね。敵がいたらすぐ戻ってきていいから、無理だけはしないで」

 

 せめてチドリたちのサポートが使えれば敵の位置情報や安全なルートを指示できるのだが、出来ない以上は彼の安全は先天的に持つ気配を察知する力に賭けるしかない。

 通常の赤ん坊よりも遙かに高い戦闘力を持つが、敵と戦わないように強く言い聞かせてから七歌と玲も台座に乗って扉を開ける。

 

「まー!」

 

 扉が開くと八雲はお腹のポケットから破ン魔ーを取り出して駆けていった。

 飛び出してゆくときに七歌が「走っちゃダメ!」と注意したがきっと聞こえていないだろう。

 扉の向こうはとても暗くてどうなっているのかは分からない。ただ、時折、金属に硬い物がぶつかったような音が聞こえる事から、彼は約束を守らずに敵と戦っていると思われた。

 彼がいつでも戻ってこれるよう台座から動くことが出来ない三人は、ただ待っているだけの時間がとても長く感じる。

 隣の部屋で待っている者たちはこちらでの出来事を分かっていないはずだが、無事に助けてから事情を話せば何て危ない事をさせるんだとアイギスや美鶴が激怒する事だろう。

 自分も苦渋の決断で送り出したのだが、怒られるのはしょうがないよねと七歌が考えていると、向かいの台座に黙って立っていた善がポツリと呟いた。

 

「……そういえば、湊のポケットなら重りになる物もあったのでは?」

「ああっ!? もう善ってば! そういうのは早く言ってよ! はーちゃんが行ってからじゃ意味ないでしょ!」

「すまない。人が乗るという前提で考えていたんだ」

 

 言われてから七歌も自分の失態に気付く。自分たちしかいないときには重りになる物を探したというのに、どうして八雲の時も同じように考えなかったのか。

 彼のポケットなら重りになる物もあれば、扉が閉まらないようにつっかえ棒の役割を果たす物だってあったに違いない。

 それを使えば赤ん坊を一人で探索に向かわせる必要などなかったと後悔するも、ここから大声で呼んでも彼はきっと戻ってこないだろう。

 戦闘音や彼の走るトテトテという音が聞こえている間は待つしかない。

 そうしてさらにしばらく待っていると、少し服が汚れた状態で八雲が戻ってきた。

 出て行くときに持っていた破ン魔ーは仕舞ったようで、その手には色違いのカードキーが三枚握られている。

 

「まいま!」

「おかえり、はーちゃん! すっごく心配したんだよ!」

 

 無事に帰ってきた八雲を玲がしっかりと抱きしめる。

 彼女の目には涙が溜まっており、すぐにでも助けに行きたいほど心配したのだろう。

 強く抱きしめられている八雲に善も労いの言葉を掛け、七歌も彼の頭をしっかりと撫でてやると彼の無事の帰還を喜んだ。

 そして、玲の抱擁から解放されると八雲は三枚のカードキーをそれぞれに配っていく。青いカードキーは玲に、黄色いカードキーは善に、赤いカードキーは七歌に渡して全員がちゃんと確認する。

 

「よかったぁ。お医者さんが持ってたカードと同じだよ!」

「ああ。造りを見る限りこれも他二枚と同様だろう」

「八雲君、ご苦労様。これでアイギスたちを助けられるよ」

「あい!」

 

 これを使えば彼が大好きなアイギスやコロマルを助けられる。

 そう伝えると八雲は嬉しそうに笑って奥の扉へと駆け寄り、小さい手でバンバンと金属の扉を叩いた。

 そんな硬い物を叩いたら手が痛くなってしまうよと心配になるが、彼もきっと早くアイギスたちに会いたいのだろう。

 他の二人も同じように思ったらしく、すぐにカードキーを機械に通してやろうと近付いていけば、

 

「あ、扉が開きました!」

「まいま!」

「八雲さん!」

 

 三人がカードを通す前に何故だか扉が開いて八雲が中へ入ってゆく。

 中に入っていった八雲はアイギスと再会の抱擁を満喫しており、それを横目で見ながら出てきた鳴上たちがカードキーを持った七歌たちに感謝の言葉を伝えてきた。

 

「ありがとう。おかげで出られたよ」

「ああ。七歌、少ない人数でよくやってくれたな」

 

 自分たちではどうすることも出来なかった状況とはいえ、たった三人に危険な事を頼んでしまい申し訳ない気持ちはある。

 しかし、彼女たちはそういうときはお互い様だと言ってくるだろう。

 だからこそ、鳴上も美鶴も心からの感謝の言葉を三人に送った。

 二人が礼を言えばそれに続くように他の者たちも彼女たちに「ありがとう」と感謝した。

 助けてくれた者たちに礼を言い終われば、狭い部屋から出られたことで順平は筋肉を伸ばすようにストレッチをする。

 すると、礼を言われた七歌たちが何やら微妙な表情をしていたことに気付き、何かあったのかと心配して声を掛けた。

 

「ん? 七歌っちどうかしたのか?」

「いや、あの……私たちまだカード通してないんだよね」

「は? いや、そんな訳ないだろ。現に扉も開いてるし」

「いいや、事実だ。私たちが扉の前に到着する前に、湊が扉を叩くと勝手に開いたんだ」

 

 カードキーを使わずに扉が開くはずがない。逆を言えば、扉が開いたという事はカードキーを使ったはず。

 七歌が何を言いたいのか分からず順平が首を傾げれば、七歌と同じように善まで自分たちは何もしていないと返せば、話を聞いていたラビリスが分かったと頷いて口を開いた。

 

「あ、分かったわ。湊君ってエールクロイツを使って機械を遠隔操作できるんよ。多分、小さくなってもそれが使えたんちゃうかな」

「兄さん、兄さんが自分で扉を開けたんですか?」

「あい!」

『えー……』

 

 メティスに聞かれて八雲は元気いっぱいに頷く。

 そんな裏技があったのなら初めから苦労せずに済んだだろうに、しかし、相手は赤ん坊なのでどれくらい状況を理解していたか不明だ。

 一応、問題は解決したので強くは言わないが、愚痴くらいは許されるだろうと花村が小さく溢す。

 

「なぁ、寂しく遊んでた俺たちの苦労ってなんだったんだ?」

「いや、それを言うなら善たちの方だろ。三人で俺たちのために頑張ってカードキーを探してきてくれたんだからな」

 

 あくまで花村たちは待っていただけだ。もっと早く助かった可能性もあったようだが、最終的に助かったのでその点に文句はない。

 ただ、花村の愚痴を聞いていた鳴上が、もっと苦労した人間が他にいることを指摘する。

 落ちてくる場所が少しずれただけで、彼らは三人でカードキーを探してきたんだぞと。

 だが、本当にカードキーを探してきてくれた人物を知っている玲は、少々言いづらそうにしながらも自分たちがいた部屋にも仕掛けがあったんだと話す。

 

「あ、あのね。実はそっちの部屋にも仕掛けがあってね。二つの台座に人が乗ってないと扉が開かなかったの。でも、わたしと七ちゃんだと軽くてダメで、二人で一緒に乗らないとダメだったんだ」

「いや、それだと人数足りねえだろ」

「う、うん。だからね。その、カード探しははーちゃんが一人で……」

 

 二つの台座があり、一つに善が乗って、もう一つに七歌と玲が乗った。

 そう告げると荒垣からじゃあ誰が探したんだと訊かれたので、今もアイギスに抱っこされている八雲を指さして彼が一人で見つけてきたと玲は真相を話した。

 それを聞いた者たちは一様にポカンと呆けた顔をしていたが、直後、思考が追いついたアイギスが七歌や玲たちの行動を強く批難する。

 

「な、なんて事をさせるんですか! 八雲さんに何かあったらどうするんです!」

「ご、ゴメン。私たちも八雲君が出て行ってから重りを出して貰えば良かったって気付いて……」

 

 こうなることが分かっていた七歌はやっぱり怒られたかと思いつつ反省して頭を下げる。

 あの状況ではとれる選択肢があまりなかったのは事実だが、少し考えれば八雲のポケットからアイテムを取り出すことは思いつけたはずなのだ。

 だからこそ、しっかりと八雲の安全確保に最善を尽くせなかった事を謝ったのだが、八雲はアイギスが七歌たちを苛めていると思って彼女を止めた。

 

「めーめ!」

「ですが、八雲さんを一人で探索に向かわせるなんてっ」

「むぅ、やーの!」

 

 八雲に苛めてはダメだと言われても、自分の大切な人を危険に晒された怒りは簡単には治まらない。

 ただ、そんなアイギスの気持ちを理解出来ない八雲はアイギスの胸を手で突き飛ばし、彼女の腕から抜け出すと走って七歌の許に向かった。

 

「あー、八雲君。アイギスは八雲君の事を心配して言ってるだけなんだよ?」

「いー!」

「うん。ありがとね」

 

 今回の件に関して八雲は七歌たちの味方だ。

 ただ、アイギスが怒っているのは全て八雲のためなので、七歌がそう説明してみるも、七歌たちが自分を心配してくれていたと知っている八雲はいじめっ子なんか嫌いだと七歌に抱きついた。

 その姿を見たアイギスは自分がとても理不尽な八つ当たりをしていたことに気付かされ、何てことをしてしまったんだとすぐに頭を下げる。

 

「すみません、七歌さん、善さん、玲さん。自分は何も出来なかったというのに、皆さんに当たってしまって……」

「いや、君の怒りは正しい。もし逆の立場で玲一人に探索を任せる者がいれば、私もきっと同じように言うだろう」

「うん。わたしたちこそゴメンね。はーちゃんに危ないことさせちゃって」

 

 無事だから良かったという結果論で話すのはとても危険だ。

 今回は偶然上手く行ったかもしれないが、次も同じように行くかは分からない。

 それが分かっているからこそ、善たちはアイギスの怒りを正当な行為として受け入れる。

 そうしてお互いにお互いの悪かった部分を認め合うと、八雲も安心したのかホッとした顔で再びアイギスの許に戻った。

 どうやら丸く収まったようだと見守っていた美鶴は、全員が揃ったところで移動を提案する。

 

「さて、全員の無事も確認出来たので、そろそろ移動しよう。吉野や久慈川もきっと心配しているだろうからな」

 

 奥の扉のロックが解除されたからか、先ほどまで台座に乗って開けていた扉が普通に開くようになっていた。

 もしもダメなら八雲に開けて貰うか、何か重りになるものを置いて行かなければならなかったので、これから簡単に出られると全員で隣の部屋へ移動する。

 そこには想像以上に広い大部屋が存在し、所々にひび割れた床板も見つかった。

 八雲はこんなところを一人で探索して敵と戦ったのかという驚きと共に、本当に無事で良かったという思いが強くなる。

 彼を行かせた三人は改めて八雲に謝罪し、アイギスは彼の無事を嚙み締めるように強く抱きしめて大部屋を後にした。

 

 


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