【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第二百九十九話 戦いのルール

――稲羽郷土展・第二夜

 

 湊が復活直後に見せた戦闘に触発された男子たち。

 シャドウとの戦闘ではしっかりとペルソナを使っていたものの、ペルソナに使わせるスキルが物理寄りであったり、ペルソナを使わず自ら武器で攻撃しに向かったりと湊の戦闘を意識している事がはっきりと理解出来た。

 本人たちのモチベーションが高いことは良いことで、しっかりと敵を倒せているのも事実。

 故に、いくつか言いたいことはあったが美鶴も何も言わず好きにさせ、ダンジョンを進み続けると二体のF.O.Eがいる部屋に着いた。

 

「むむっ、二体もあのF.O.Eがいるよ?」

 

 部屋に入るなり目を細めて千枝が呟く。自分たちが入ってきた入口から見て正面の壁際にそれはいた。

 鬼を模した面で顔の上半分を覆い、股間部が盛り上がったフンドシ姿のマッスル型F.O.E“あしばや野郎”だ。

 正面にいると言っても敵までは距離がある。その前に近くにある別の扉に入ってしまえば問題ない訳だが、今は味方に対F.O.E最終兵器である湊がいる。

 彼ならばあしばや野郎に格闘戦でも勝利できる事は実証されているので、倒すか無視するか、他の者たちは湊本人の返事を待った。

 すると、この蒸し暑いダンジョン内で黒のロングコートを着ていた青年は、気怠そうに前に進み出て敵を視界に捉えた。

 

「……その鬼の面が不快だ」

 

 彼は自分が鬼の一族という事もあってか、筋肉の化物が鬼の面を被っている事が気にくわないらしい。

 となれば、後はもう殲滅するしかない訳で、相手も湊の姿を確認するなり走って近付いて来た。

 敵がスタートすれば青年も迎え撃つために走り出す。

 僅かに身を屈めると、ダンッ、と地面を強く踏み締める音をさせて砲弾のように飛び出してゆく。

 敵も通常のシャドウとは比べることが出来ないほど速いが、その敵に向かって飛びだしていった青年はそれを上回る速さを見せる。

 両者が信じられない速度で近付けば距離はすぐに縮まり、一人の青年と二体のF.O.Eが衝突する。

 

《オグゥッ》

 

 両者が衝突する。そう思った直後、向かって右側にいたF.O.Eが身体をくの字に曲げて後方へ吹き飛んでいった。

 湊が床を踏み砕くほどの震脚と共に八極拳の頂肘を繰り出し、相手の接近速度も利用してかなりの威力を発揮したようだ。

 二倍の体格差のある相手に力勝ちして吹き飛ばすほどの威力など、想像するだけで恐ろしいが、一体を吹き飛ばしてももう一体が残っている。

 相棒をやられたF.O.Eが大きく拳を振るって殴りかかれば、湊は身体を引きつつそれを手の甲でいなして受け流す。

 渾身の攻撃を受け流され身体が泳いだ相手に、さらに湊は脇腹へ掌打を当てて完全に体勢を崩させる。

 前のめりになった状態で横から押された相手は、足をもつれさせながら地面に四つん這いで倒れた。

 そこへすかさず近付いた湊は、跳躍して相手の首に跨がり肩車の状態になる。

 見ていた者たちがそこで嫌な予感を覚えれば、

 ――――ゴキンッ

 両脚で相手の頭を挟み込んだ湊はそのまま身体を横に傾け、首を捻じ切るようにしてへし折った。

 思った通りの展開に何名かが「うわぁ……」と呟くが、頭部とほぼ同じ太さの丈夫な首をよくも一息でへし折れるものだと逆に感心する。

 首を折られたF.O.Eはそのまま力なく地面に倒れて消えてゆき、残るは先ほど吹き飛ばされた一体のみとなった。

 しかし、同時に向かっても即座に分断されて各個撃破されてしまっているのだ。

 出会い頭に攻撃を喰らっている相手では、どうあっても湊に勝てないだろうと花村が敵に思わず同情する。

 

「こりゃ、余裕だな」

「ああ。戦い方としては参考にはならないけど、有里なら複数相手でも勝てるって分かったのは大きい」

 

 残りはもう消化試合だと花村と一緒に鳴上も観戦モードに入る。

 吹き飛ばされたF.O.Eが立ち上がって走ってきているが、今度はどんな負け方をするんだと既に敗北前提で考えていた。

 だからこそだろう。花村たちは自分たちが油断している事に気付かなかった。

 危険なダンジョン内では常に気を抜いてはいけないというのに、湊がいれば安心だと緊張の糸を弛めてしまっていた。

 テレビの画面越しにスポーツ観戦するような気楽さで見てしまっていたが故の失態。

 接近してくるF.O.Eと湊の距離が縮んでも、花村たちはそれを殺し合いとしては見ていなかった。

 そして、次の瞬間、両者の距離がゼロになる直前に足を大きく引いた湊がそれを振り上げ、鉄板入りのブーツが敵の股間を直撃した。

 攻撃を喰らった途端に敵は上に跳び上がり、そのまま空中で一瞬にして弾け死ぬと男子たちは内股になって顔から血の気が引いてゆく。

 敵を蹴り殺した青年は何事もなかったように足を地面に降ろしているが、戻ってくる相手を見て男子たちは身体が震えてしょうがない。

 どうしてお前はそんな悪魔のような真似が出来るんだと戻ってきた湊に順平が食ってかかる。

 

「おいおいおいおいっ、いくら何でもそりゃねーだろ!」

「先輩には血も涙もねぇんスか! 男の喧嘩じゃそこだけは反則だろ!」

 

 F.O.Eを一発で昇天させるほどの蹴りなど想像するだけで下腹部が痛くなる。

 嘘でも誇張でもなく自分たちのイチモツが青年の攻撃を見て縮こまっているのだ。実際に喰らった敵はどれほどの苦痛と屈辱の中で散っていった事か。

 いくら敵とは言え、同じ男として先ほどの攻撃を許せない。

 復活直後の殴り合いでは彼を持ち上げていた者たちは、一斉に敵へと寝返って湊に冷たい視線を向ける。

 一方、女性陣は湊がせっかく敵を倒してくれたというのに、男子は何が不満なんだと困惑気味だ。

 

「おい、明彦。お前たちも。有里は敵を倒したというのに、何故そんな風に突っかかっているんだ?」

「そうだよ。花村も鳴上君もさっきはあんなにのんびり戦いみてたじゃん」

 

 美鶴と千枝が揃って男子たちに急に態度を変えた理由を問う。

 湊は今回も正面から体術のみを用いて戦っていた。

 確かに真田たちが感動したような、拳での殴り合いという訳ではなかったが、八極拳の技を使って見事に敵をコントロールして勝利を収めていた。

 これがミサイルを一斉掃射して敵を薙ぎ払ったというのならまだしも、使う技が変わったくらいで湊が責められるのはおかしい。

 そうして女性陣が湊の擁護に回れば、男子たちは暗く沈んだ表情で床に視線を落とし、真田も同じく散っていたF.O.Eの無念に胸を痛めつつ美鶴たちに言葉を返した。

 

「お前たちは女だから分からんのだ。身体に急所はいくつも存在するが、同じ痛みを知る者として股間だけはお互いに攻撃しないという暗黙の了解が男にはある。有里はそれを破った。断じて許されることではないっ」

『そーだ! そーだ!』

 

 普段は一歩引いたスタンスを取っている天田も、今は他の男子と一緒に真田の後ろに立って同意している。

 男子にとって湊の行いはそれほど許されざる悪魔の所行だったのだろう。

 まぁ、女性陣はやはり訳が分からないと呆れたように男子を見ている訳だが、強敵を倒したというのに湊が悪魔呼ばわりされていることを見かね、アイギスが男子たちの前に立つと異議を唱えた。

 

「お言葉ですが、八雲さんは遺伝子キメラなので中性です。男性でもありますが女性でもあるので、真田さんたちの仰る暗黙の了解を守る必要はないかと」

「てか、前に私が思いっきり股間を蹴り上げても効いてなかったしね。同じ痛みを知らないならしょうがないんじゃないかな」

 

 アイギスに続けて七歌も湊を擁護する。彼女が話したのは以前、風花が湊に騙されて純潔を散らせたと勘違いしたときの話だ。

 実際は物理無効のペルソナで無効化しただけだが、その事実を知らない者からすれば七歌の金的を喰らっても湊が平然としていたように映る。

 当時、真田や順平もその現場にいたので、七歌が二人も見てたでしょと言えば二人は視線を逸らして黙ってしまった。

 医学的な面からアイギスが攻め、七歌が実体験から攻めた事で、上手く反論できない男子たちの旗色が悪くなり始める。

 だが、ここで言い負かされてしまえば今後も湊は同じ手段でF.O.Eを殺すだろう。

 未だ純潔を保っている自分たちの股間の息子の平穏のため、ここで負ける訳にはいかないと鳴上は上着の内ポケットから取り出した眼鏡を掛けて顔を上げた。

 

「異議あり! 有里は自分で言っていた。童貞ではないと! なら、有里も立派な男だ!」

「そ、そうだ! 相棒の言う通りだ! 遺伝子がどうだか知らねぇけど、男として女を抱いた事実は覆らねぇ!」

 

 これぞ起死回生の一手。ごーこんきっさでの発言を覚えていた鳴上が繰り出した一撃に女子も怯む。

 実際にどのように行為が行なわれたのかは当事者しか知らない。

 しかし、湊が男として女性を抱いたことだけは確かなはずだ。

 鳴上たちは正確な人数や相手を把握していないが、この場にいる三人とバックアップの一人の計四人が証人となる以上、断固として湊が男ではないとは言わせない。

 鳴上の言葉に息を吹き返した男子たちの瞳に力が戻れば、湊の処遇を巡って男子と女子の間に緊張が走った。

 このままではチームの分裂もあり得る。そう考えたサポートの二人が仲裁しようとしたとき、湊の隣に立って男子を冷たい瞳で見ていたチドリが口を開いた。

 

「……なら、貴方たちは湊の敵で良いのね。F.O.Eの味方をして、同じように股間を潰されても文句はないと」

『っ!?』

 

 チドリの言葉を聞いた瞬間に男子たちの顔色が変わる。

 彼らにすればどうしてそうなるんだと言いたいところだろうが、チドリに限らず女性陣からすればF.O.Eの肩を持つという事は湊と敵対すると同義だ。

 そうなれば放課後悪霊クラブで麒麟を召喚したときのように骨も残らず消滅させられるか、先ほどのF.O.Eと同じ末路を辿っても不思議ではない。

 安いプライドのために男としての証を失うか、自分たちが愚かだったと認めて謝罪するか。

 お前たちはどちらを選ぶんだとチドリが冷たい瞳でジッと見つめる。

 男子たちは真っ青な顔色で唇を震わせその場に立ち尽くしているが、罵倒しておいてなぁなぁに済ませる気はない。

 チドリは近くに落ちていた石を一つ拾うと、それを湊に見せてから彼の方へ山なりに投げた。

 彼女が投げた石の大きさは男子たちの玉一つと同じくらいだろう。

 それが湊に向かって放物線を描いて飛び、湊の頭一つ分ほど高い位置まで落ちてくれば、青年が目で追えない速さの回し蹴りを放ち一撃で粉砕した。

 蹴り飛ばすでも、蹴り砕くでもなく、その場でパンッと弾けるような音をさせて砂になったのだ。

 カンフーの中でも蹴り技主体で戦っている千枝は、自分が使っているようななんちゃってではない本物の武術の蹴りを見て、感激したように瞳を輝かせ拍手をしている。

 ただ、今のデモンストレーションは敵対した男子たちの股間が辿る末路である。

 案の定、男子たちはやや内股になって俯いており、先ほどまでの威勢はどこへ行ったのか消沈していた。

 

「……ねぇ。早く選んでくれる? ここで潰されるかどうかを」

 

 チドリにすれば湊以外の男が男性機能を失ったところで痛くも痒くもない。

 男性機能を失うと男性ホルモンが減るという話も聞くので、むしろ下衆な視線を向けられる事が減る分ありがたいかもしれない。

 誰か一人くらいな無謀な馬鹿が出ないかと小さく期待していれば、色が変わるほど拳を握り締めた鳴上が申し訳なさそうに花村を見た。

 

「悪い、陽介。俺はまだ男でいたい。菜々子の兄でいたいんだ……」

「相棒、俺も同じ気持ちだ……。完二、真田さん、伊織。お前らの事は忘れねぇ」

『おまっ!?』

 

 ほとんどシンキングタイムなしに裏切りを図る二人。置き土産に数名の男子の逃げ道を塞ぐ悪辣さだ。

 さらに綾時、クマ、荒垣、天田も一緒に移動して湊や女性陣たちの後ろに回った。

 これで湊らと向き合っているのは三人だけになった訳だが、残っている三人もこの年で男を辞めたくはない。

 すぐにでも謝って軍門に降るべきだとは分かっている。

 ならば、最後の一人にならないよう迅速に行動するのみだと真田が動いた。

 

「お前たち、後は頼んだ。俺はまだ美紀の兄でいなくてはならんのだ」

「へへっ、後輩に後を託すのは先輩の務めってね。あばよ、巽」

 

 真田に続いて順平もちゃっかりと移動して完二だけが取り残された。

 こういったときは頭の回転の速さが勝負を分けるのだ。空気の変化を感じ取るのが上手い天田を除けば一番年下な完二は、人生経験の差もあって卑怯な先輩らに貧乏くじを押しつけられてしまった。

 

「テメェらキタねーぞ! 有里先輩と比べらんねぇくらい男の風上に置けねぇクズじゃねぇか!」

 

 湊は湊でかなりの悪党だったが、そこには効率的に敵を倒すという目的があった。

 一方、寝返った者たちは我が身可愛さから裏切ったに過ぎず、恥もプライドも知った事かという清々しいほどの自己保身しかなかった。

 これでは裏切り者たちの方が質が悪いとしか言えない。怒った完二がどうせ死ぬなら道連れにしてやろうと動き始めたとき、湊の足下から黒い腕が伸びて男子たちを一斉に捕まえた。

 

「ま、待ってくれ!!」

「おい、やめろ!」

 

 咄嗟の事で避けきれなかった男子たちは、まさかこのまま自分たちの男性機能を破壊するのかと顔面蒼白になりながらも暴れて逃れようとする。

 勿論、湊の出した影の腕は並みのシャドウより強い力を持っているので人の力では解けない。

 そこで、鳴上たち八十神高校側の男子はペルソナを使って脱出を試みるが、彼らを見る湊の左眼が紫水晶色になっている事が関係するのかペルソナを呼び出すことが出来なかった。

 こうなれば後は話術でどうにか切り抜けるしかない。そう思った鳴上は湊に話しかけた。

 

「待て、落ち着け有里。俺たちの股間を潰しても何も解決しない。むしろ、俺たちが動けなくなる分デメリットしかないじゃないか」

「そ、そうだよ、湊。僕にこっちでの生活を楽しむように言ったのは君だろ? ここで股間を潰されたら楽しむどころじゃなくなってしまうよ」

 

 鳴上と一緒になって綾時もまだ男でいたいという思いから彼を説得する。

 湊のペルソナを核に仮顕現しているだけなので、ここで股間を潰そうと綾時はどうとでもなる気もするが、万が一を考えてここで保険を掛けているのだろう。

 そんな二人の必死の説得に青年がどう答えるかと思えば、湊は左眼を金色に戻してから呆れ気味に答えた。

 

「……いや、お前らの粗末な物はどうでもいい。ただ、五月蝿いから拘束しただけだ。大人しく配置についてシャドウと戦ってろ」

 

 チドリに言われてパフォーマンスにも付き合ってはいたが、わざわざ鳴上たちの股間を潰して回るほど湊も暇ではない。

 敵対するなら排除することもあるとは思う。しかし、現状では鳴上たちが束になったところで湊には勝てない。

 これでは敵として認定しても、障害としては認識することが出来ないため、湊は男子たちを解放するとさっさと持ち場に着くよう急かした。

 命じられた者たちも素直に従っておけば助かると分かったようで慌てて移動してゆく。

 そんな男子たちの背中を見送りつつ、女性陣も移動を再開するのだった。

 

***

 

 湊がいればF.O.Eのあしばや野郎が敵ではないと判明した事で、一同はこの世界の謎を解くヒントがないかとダンジョンを探索していた。

 次のフロアへの階段の位置は序盤に判明しており、その障害となるF.O.Eも倒す算段がついた。

 ならば、後はこの世界についてやダンジョンについての謎を解くヒントを探すため、最短ルートを選ばずダンジョンの中を見て回っているのだ。

 

「八雲さんは眠いとよくわたしの胸に吸い付いていましたね。起きているときも胸で遊ぶのがお気に入りだったようで、よく顔を埋めて楽しんでおられました」

「……なるほど」

「あ、わたしが特別という訳ではなく、他の方の胸も触っていましたよ」

「そうか」

 

 道中を行く中でアイギスは八雲の隣を歩いて彼に話しかけていた。

 話しているのは彼が縮んでいた間の事だが、そこだけ切り取って聞くとまるで八雲がエロガキだったように聞こえてしまう。

 勿論、アイギスはそういった意図で話している訳ではなく、そういった姿が愛らしかったと自分の印象に残っている八雲の姿を彼に聞かせているだけだ。

 湊本人としてはどう返すべきか悩んでいるようだが、周りでこっそり話を聞いている男子たちはもっと困れと心の中で思っていた。

 人として、男としてあまりに小さいとは思うが、彼らにすれば数少ない湊の窮地なので、これまでの恨みから存分に苦しむがいいと思っても無理はない。

 男子たちがそんな事を考えているなど欠片も想像していないアイギスは、小さい八雲を思い出して慈愛に満ちた表情なると、八雲がどうして女性の胸を触っていたのか湊に尋ねた。

 

「やはり、赤ん坊と言うこともあってお母様が恋しかったのでしょうか?」

「いや、多分手持ち無沙汰だっただけだろ。丁度良い場所に手頃なものがあった感じだと思う」

 

 質問を受けた湊は顎に手を当てて少し考えると、自分を基準にして理由を口にした。

 八雲と湊は正確に言えば過去と未来という関係ではない。無関係では勿論ないが、仮に八雲が湊の過去であれば縮む度に成長後の湊の記憶が変化することになってしまう。

 しかし、実際には湊も八雲もそれぞれで独立した記憶を持っているので、根本的には同一人物ではあるが赤ん坊の時点で分岐したIFの存在と考えるのが妥当なところだろう。

 だからこそ、湊は八雲が自分と同じ考えで行動していたはずと考えて発言する。

 それを聞いたアイギスは二人を同一人物と見なして、成長した湊も八雲と同じ感性なのかと質問を続ける。

 

「八雲さんは小さい八雲さんの延長線上にあるものだと考えているのですが、八雲さんは今も女性の胸がお好きなのですか?」

「……別に嫌いではないが、特別好きって訳でもないな。さっきも言ったが丁度良い場所に手頃なものがあって触れると言えばいいのか。授業中にペン回しで遊ぶそれに近い」

「ふむふむ、なるほどなー」

 

 真顔のまま真面目に質問に答え湊と、彼の言葉に納得したように頷くアイギス。

 その周りでは、そんな羨ましい贅沢なペン回しなどあるかと男子たちが心の中で叫んでいた。

 彼らは女性の胸など触った事がない。まだ記憶もハッキリとしていない乳幼児のときに母親の胸を触ったのが最後だろう。

 一方、湊は同級生の知り合いだけでなく、学外の知り合いとも色々と複雑な関係を持っており、順平たちが聞けば血の涙を流すほど羨ましい経験もしている。

 そんな裏の事情を薄らと理解している月光館学園側の女性陣は巻き込まれないよう黙っているが、誰も二人を止めないせいで、アイギスは湊の事をもっと知りたいという知識欲から同じ話題を続けた。

 

「では、八雲さんから見てどなたの胸がお気に入りですか? 人によってサイズや形状に硬さなど異なるので、やはり八雲さんにも好みなどがあると思うのですが?」

「……これといって考えた事もなかったな。縮んでる間の記憶がないから全員分を比較する事も出来ないし」

「なら、今の八雲さんが覚えている範囲でも構いません」

「そうだな……」

 

 この世界にいる女性陣の胸を全員分触ったのは縮んだ八雲だ。

 彼と記憶を共有していない湊では八十神高校のメンバーを中心に、数名の女性は胸を触った覚えがない。

 触った覚えがない相手のことなど話しようがないと言えば、アイギスが分かる相手の中で良いと告げたことで、湊は周りにいる女性の事を見ながら考え始めた。

 その視線にいやらしさはなく、湊もあくまで記憶を引き出す際の補助として相手を見ているに過ぎない。

 ただ、次の部屋も近付いて来ているので、そろそろ胸について話すのはやめないかとメティスが話に割り込んだ。

 

「あの、兄さんも姉さんもいつまで胸の話題を続けるんですか? 周りの皆さんがどう対応すべきか悩んでいるようですし、そろそろ次の部屋も近いので話を切り上げた方が良いと思うのですが」

 

 言いながら歩き続ける一同の正面には扉が見えている。

 サポートの二人は扉の向こうから複数の強い気配を感じると告げており、F.O.Eが複数体いるのであれば湊にもう少し緊張感を持ってもらいたい。

 そう思って発言すれば二人も大人しく頷き、いつでも戦闘に移れるという表情になった。

 まだどんな敵がいるかも分からない状態なので、そこまで戦闘モードに切り替えなくてもと思う。

 だが、二人にとってはこれが普通かもしれない。そう思ってメティスはそれ以上何も言わず、扉までやって来ると警戒しながら中に入った。

 するとそこには、

 

「あ、あ、あ……あんじゃこりゃーっ!?」

 

 中にいたF.O.Eの姿を目にした花村の叫びが響き渡る。

 強い敵がいることは分かっていたが、扉を潜ったメンバーたちが目にしたのは、御神輿らしき物を担いで移動する四体のマッスルたちだった。

 いくら何でもF.O.Eが四体もいるとは聞いていない。加えて、何でF.O.Eが御神輿なんて担いでいるんだという疑問が浮かぶ。

 御神輿を担ぐF.O.Eを見た玲は「わっしょいわっしょいしてるー!」と喜んでいるものの、他の者からすれば御神輿を担いでいるなら分断は出来そうもないと頭を悩ませる。

 見た目があしばや野郎とソックリだけあって、御神輿から離れれば並みのシャドウの数倍の速さで動けるだろう。

 そうなると湊だけで対処出来るか分からないので、一度作戦を練り直そうと一同は一つ前の部屋に戻って作戦会議を行なうのだった。

 

 


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