【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

300 / 504
第三百話 星になる

――稲羽郷土展・第二夜

 

 御神輿を担いだ四体一組のF.O.Eという異形の存在。

 法被にフンドシ姿という見た目は勿論のこと、単体でも強力な戦闘力を持った敵が四体で連携を取ってくるのは脅威だ。

 これはまず作戦を立てた方が良いという花村の言葉に他のメンバーも頷くと、一つ前の部屋に戻って対策について話し合った。

 

「やはり、直接の戦闘は避けるべきだと思います。これまでのF.O.Eと同様に動きが法則性を持っているのなら、それを利用して突破すべきかと」

「ああ。私も白鐘の意見に賛成だ。有里はともかく我々では生身で敵の攻撃を受ければ戦闘不能に陥るだろう」

 

 四体一組になっているからと言って、単独で行動しているあしばや野郎よりも弱いという事はない。

 それについてはサポートの二人だけでなく、現場にいるチドリと湊もアナライズで確認して単体でもあしばや野郎より強いと断言している。

 ふざけた見た目とは裏腹に鍛え上げられた肉体を見ると納得できてしまう。

 あれと正面からやり合うなど自殺行為。正気の沙汰ではないと。

 直斗と美鶴は味方の損害を考えて、今回は湊も含めて戦うべきではないと判断した。

 不思議な国のアナタのトランプ兵をはじめ、現われてきたF.O.Eには一定の行動パターンがあった。

 ならば、サポートの二人が今回の敵の行動パターンを解析してくれるはず。自分たちが動くのはそれが分かってからで良い。

 そんな風に二人が言えば、相手が御神輿を担いでいたことが気になっていた完二が口を開いた。

 

「そーいや、あいつら御神輿担いでたッスよね。先輩、俺らも担いだら喧嘩神輿で突破出来るかもしれないッスよ?」

「完二、担ぐための御神輿がないぞ」

「あー……有里先輩、御神輿持ってないッスか?」

 

 喧嘩神輿とは御神輿同士を激しくぶつけ合う荒っぽいものだ。

 F.O.Eとそんなもので戦えば、普通の戦闘以上に危険なのではと考えるが、完二や鳴上は良い作戦だと思っているのか湊に御神輿を持ってないか聞いた。

 確かに湊のマフラーは無限収納になっており、設置型である巨大なアハト・アハトを入れていたこともあった。

 しかし、それらは仕事屋として人を殺す依頼を受けていた名残であり、仕事道具以外に御神輿のような大きな物を入れているとは思えない。

 これは流石にないだろうなと思って他の者も彼を見ていれば、煙管を口で遊ばせていた青年はロングコートになったマフラーに手を入れて煌びやかな御神輿を取り出した。

 

「……二尺半のでよければ」

『あんのかよっ!?』

 

 まさかの御神輿登場に一斉にツッコミが入る。

 完二たちもここまで立派な御神輿が出てくるとは思わず、素人から見てもはっきりと分かる御神輿の見事な造りに興味津々になっている。

 

「うわー。はーちゃんの御神輿すごいね!」

「うん。これ、ちゃんとした祭事に使うようなやつだね。すっごく高いはずだよ」

 

 老舗旅館の娘である雪子は、町の祭事などでは付き合いから大人が担ぐような御神輿も近くで見てきた。

 子どもが担ぐようなちゃちな造りではなく、飾り一つ一つが職人の手作りという完全なオーダーメイド。

 当然、素材にも拘ってあるので相応の値段がするのだが、雪子が見たところ湊の御神輿は稲羽市のお祭りで使っているものより遙かに上物だった。

 少なくとも五百万では利かないだろうと呟けば、ならば実際の値段を聞いてみようと七歌が湊に尋ねる。

 

「八雲君、これっていくら?」

「……多少弄った分を含まなければ八百万くらいだったと思う」

「弄ったっていうのは?」

「派手さが足らなかったから細工を増やした。その分で四百万くらい上乗せか?」

 

 総額千二百万。あくまで製作費にそれだけ掛かったという話なので、価値などを考えるとさらに値が上がると思われる。

 いくら何でもそんなもので喧嘩神輿など出来ないと男子が震えていれば、それを眺めていた湊が再びコートに手を入れて見た目だけは似ている安っぽい御神輿を出した。

 

「段ボール製の子ども神輿もあるぞ。こっちは十五万くらいだ」

「……完二、こっちにしよう」

「うっす。当然ッス」

 

 段ボール製と言えど、そこはEP社の最新技術で作られた強化段ボール製である。

 トラックに撥ね飛ばされてもヘコむ程度で済むほど丈夫で、特殊コーティングで水に一時間沈めておいても大丈夫という防水仕様。

 それ故に材料費で相応の値段になってはいるが、千二百万を担いで敵に突進するよりはマシだ。

 玲が担いでみたいというので善やクマに千枝といったメンバーが手伝って担いでみている。

 女子や子どもでも簡単に担げるほどならば、男子だけで漢神輿をすれば高速機動も実現できる。

 これならF.O.E相手の喧嘩神輿でも負けないのではと鳴上が不敵に笑っていれば、横から肩を叩かれた。

 

「ん? どうした陽介」

「いや、お前らノリノリだけどメンバーはどうするんだよ?」

「男子だけでいいだろ。俺たち四人と伊織たち四人の計八人だ」

「あー……有里と天田と善は?」

「天田は身長が足りない。善は玲の護衛、有里は性別不明だから無しだ」

 

 八十神高校側のメンバーは鳴上、花村、完二、クマ。

 月光館学園側のメンバーは順平、真田、荒垣、綾時。

 この合計八人で担いで戦う事にするつもりだと鳴上は自信満々に話す。

 一番力がある湊を省いたのは、先ほどのF.O.E金的殺人事件のことがあっての事だろう。

 人数を考えると妥当ではあるので何も言わなかったが、身長が足りないと言われた天田が不満そうにしていたのはご愛嬌だ。

 メンバーが決まれば後は衣装があれば戦える。クマ皮を脱いだクマも集まり、八人は期待した瞳で湊を見た。

 

「……お前ら、俺を何でも屋だと思ってるだろ」

 

 言いつつも法被とフンドシと股引きを取り出し、ついでに鉢巻きと足袋も渡す。

 やったぜと喜んでいる男子たちが御神輿の影に着替えに向かうと、彼らが着替えている間に残った女子が湊に実際に戦えるのかと尋ねた。

 

「ねぇ、八雲。大丈夫なの?」

「……無理に決まってるだろ。最初に出した御神輿は三百キロ。これでも軽い方だが、子ども神輿は三十キロくらいしかないんだ。敵一体のタックルで吹き飛ぶさ」

 

 喧嘩神輿というのは勢いも大事だが、そのパワーの源は御神輿自体の重量である。

 重い物が高速で動くからパワーを発揮するのであって、軽い物を担いで高速機動出来たとしても、ぶつかり合うときにパワー負けして吹き飛ばされるのがオチだ。

 こんなのは小学生の知識でも簡単に判断できることなので、湊は最初に値段は張るが重い普通の御神輿を出して見せた。

 それを拒否したのは鳴上たちなので、あとは死ななければ治療だけはしてやろうと放置することを選んだ。

 彼の言葉を聞いた女子たちはやっぱりかと溜息を吐いている。

 そうして、少し待っていると御神輿を担ぐ正装に着替えた男子たちが現われた。

 皆、戦いの中で身体が絞れているため、一般的な同年代の男子よりも中々の見栄えである。

 

「フッ、やるからには勝ちに行くぞ」

「たりめーッスよ。総指揮は鳴上で、パワーに自信のあるメンバーで後ろから押す作戦でいくぜ!」

 

 四箇所から出ている担ぎ棒の前側を鳴上、花村、クマ、綾時が担当。後ろ側を真田、荒垣、順平、完二が担当する。

 敵が四体なのに倍の人数で良いのかという疑問はあるが、本人たちが言うには身長差が倍ほどあるので倍の人数でOKらしい。

 そんな曖昧なルールのまま子ども神輿を担いだ八人は、童心に返った瞳で楽しそうに担いでいる。

 傍でそれを見ていた玲が「わっしょい、わっしょい!」と言えば、八人も同じようにかけ声を言いながら扉へ向かってゆく。

 本当にこんなふざけた事をダンジョン内でさせて良いのかと複雑な表情を浮かべる美鶴の心配をよそに、扉を潜った男子たちは敵の姿を捉えて加速しながら突き進む。

 

『わっしょい! わっしょい!』

 

 腹の底から声出して向かってくる鳴上たちに敵も気付く。

 自分たち同様正装に着替えて御神輿を担いできた。ならば、ぶつけて戦うしかない。

 

《ソイヤ! ソイヤ!》

 

 敵もかけ声を叫びながら鳴上たちへ向かう。

 一歩ごとに加速し、されど上下にしっかりと揺らすことも忘れない異様な光景。

 

『わっしょい!』

《ソイヤ!》

 

 本人たちはいたって真剣なのだろう。楽しげなかけ声には相手を圧倒しようとする強い意志を感じる。

 絶対に倒す。お前たちには負けない。

 鳴上たちもF.O.Eも敵に向かって行き、そのまま道を譲れとばかりに衝突する。

 

『うわぁぁぁぁぁっ!?』

 

 そして、当然のように吹き飛んでゆく子ども神輿。

 欠片も耐えられずに担いでいた者たち諸共吹き飛んで床に倒れた。

 敵もまさかここまで弱いとは思っていなかったのだろう。

 吹き飛ばしてから少し困惑気味に下がってくれた。

 吹き飛ばされた者たちは地面を転がったダメージはあるようだが、普段の戦闘に比べれば軽傷と言える。

 その程度で済んで良かったなと思いつつも、入口に立って男子たちの戦いを見ていた美鶴は深い溜息を吐いて額に手を当てた。

 

「はぁ……予想通りこうなったか。岳羽、天城、彼らを治療してやってくれ」

「は、はい。けど、遊んで怪我した人を治療するみたいでなんだかなぁ」

「消毒液でも渡しておけばいいんじゃないかな?」

 

 地面を転がっても汚れただけで一切破損していない子ども神輿。

 一方、担ぎ手たちは擦り傷と汚れでダメージ以上にボロボロに見える。

 ただ、その怪我の理由を考えると同情できないので、そんな人間の治療に精神力を消耗するのは嫌だなとゆかりが眉を寄せる。

 同じく治療を頼まれた雪子は、備品の救急セットから消毒液のボトルを取り出してこれで良くないかと真顔で話す。

 勿論、そんなもので良いはずはないのだが、彼らのあまりに見事な負けっぷりに誰も助け船を出そうとはしなかった。

 少しして、倒れていた男子たちは痛む身体を押さえつつ立ち上がると、近くに転がっていた子ども神輿を回収してすごすごと戻ってくる。

 誰一人として口を聞かず、見守っていた者たちの横を抜けて扉を潜ると、そのまま隣の部屋の隅で座り込んでいる。

 治療を頼まれた二人がしょうがなく回復スキルを使って傷が癒えても、心の傷までは癒えていないのか動こうとしない。

 これは重症かなと思いつつも時間は有限だ。今のうちにちゃんとした対策を考えようと残っている者たちで会議を開く。

 話す内容は主に二つ。どうすれば相手を避けて通れるか。もう一つはどこまで戦えるかだ。

 あしばや野郎と戦えた湊ならば、それなりに戦って数を減らせるかもしれない。そう思った善が率直に尋ねる。

 

「湊、君の力でどの程度まであいつらと戦える?」

「……素手だと流石に面倒だ。武器を使えば倒しきるまで行けると思う」

 

 元々、湊は一人で複数体を相手することに慣れている。

 幼少期から自分を鍛えてくれていた力の管理者たちが、途中から二人同時や三人同時で攻撃してくるようになっていた事も関係しているだろう。

 ただ、どちらかと言えば組織の壊滅や、家名断絶のため一族全員を狩る事が多かった名切りの血の効果と言える。

 敵の気配や空気の流れから周囲の状況を把握し、背中に目がついていると言われるほど正確に背後への対応もこなせた。

 湊はさらにペルソナの力で気配を読んでいるので、相手の速度に気をつければ同時にでも相手は出来るだろうと告げた。

 善は自分で聞いておきながら驚いているようだが、湊はその間に無の槍を取り出し“星”のカードと融合させ、穂が幅広い白銀の槍を作り出していた。

 全体的にシンプルなデザインだが太刀打ちに炎の様な模様の装飾がなされており、見た者たちは綺麗な武器だなと感じる。

 それを手にした青年はF.O.Eのいる部屋に向かうと、扉を潜ったところで武器を持っていない右手を左胸に当てて呟く。

 

「E.X.O.――――起動」

 

 起動と呟き終えると同時に湊の身体から青白い光が放出される。

 アイギスの戦いを見て知っていた者は、それがオルギアモード発動の証だと分かる。

 だが、湊までオルギアモードの改良版であるエクストリーム・オルギアモードを発動できるとは思っていなかった。

 オルギアモードはペルソナ召喚に用いるエネルギーを不安定なまま過剰供給し、溢れ出たエネルギーで自分を覆う技だ。

 エネルギー状の鎧と化したペルソナの力で己を強化する分、身体にはかなりの負担が掛かってしまう。

 強化人工骨格を持っているアイギスたちだからこそ、そんな無茶な自己強化技を使えるのだと思っていたため、生身の人間である湊が青白い光を身体から放出して飛び出してゆくと本当に大丈夫かと不安を覚えた。

 

「はぁっ!!」

 

 弾かれるように飛び出していった湊は、敵との距離を一気に詰めると勢いのまま突きを放つ。

 予想外の速度で接近した湊に対応しきれなかった敵は、なんとか腕でガードするも腕に深い傷を負って壁まで吹き飛んでゆく。

 しかし、巨体の敵は当然ながら重量もあった。それを吹き飛ばすために突進の勢いを使ってしまった湊へ、御神輿を捨てた他の三体が殺到した。

 手刀を振り下ろしながら飛んできた敵を大きく後退する事で躱す。

 躱した地面を見れば鋭利な刃物で切られたような痕が残っていた。おそらく斬撃系のスキルを使った攻撃だったのだろう。

 打撃専門かと思いきや物理系ならば斬撃と刺突も出来るのかも知れない。

 思っていたよりも面倒かもしれないと考えながら距離を取る湊に、残っていた二体のF.O.Eが接近してくる。

 片方が殴りかかってきたのを躱してカウンターで切りつけながら走り抜ける。

 その先にもう一体が待ち構えていたが、その敵は大きく息を吸い込んで胸を膨らませると、次の瞬間広範囲を埋め尽くす炎を噴いた。

 

「ちぃっ……」

 

 炎が迫ってくると湊は後ろに飛びながら前方で槍を回転させ、即席の盾を作って炎から身を守る。

 今も炎を噴いている敵の姿は火噴き芸のそれにしか見えないが、物理以外にも遠距離の攻撃手段があるというのは厄介だ。

 炎を使えるというなら相手はその属性の耐性を持っているに違いない。

 なら、F.O.Eたちは同士討ちを気にせずに魔法スキルを使ってくるだろう。

 足を止めて槍の盾で身を守りながら敵をそう分析していた湊は、他の気配が動いたことに気付き警戒する。

 すると、炎を迂回するように回り込んできた一体のF.O.Eが、離れた場所からブンブンと手刀を振るってきた。

 そんな距離から攻撃しても意味が無い。普通はそう考えるところだが、同じ技が使える湊は敵が斬撃を飛ばして来たと理解する。

 炎と斬撃では斬撃の方が面倒だと判断した湊は、炎を喰らうことを覚悟して槍の盾を解除すると、ロングコートから出ている生身の部分を炎に晒しながら迫る斬撃を切り伏せた。

 敵が噴いていた炎はマハラギダイン。生身で受ければ重度の火傷を負うどころか肉が炭化するだろう。

 だが、今の湊はE.X.O.のエネルギーで身体を覆っている。

 そのため触れようとする炎を纏ったエネルギーで防ぎながら斬撃に対処すれば、敵も遠距離攻撃では意味が無いと理解したのか炎が止んだ。

 相手の攻撃の手が緩んだのなら攻撃に転じるチャンス。

 炎が完全に消えきる前にスタートの構えを取り、先ほどまで炎を噴いていた敵に向かって駆け出す。

 敵も炎の向こう側から湊が接近してくるのが見えたのだろう。湊が突きを放って迫れば、その穂先を真剣白刃取りの要領で止めた。

 

《フンヌッ!!》

 

 勢いに押されて僅かに後退するも、敵はすぐに足を止めて湊の攻撃を完璧に封じた。

 純粋なパワー勝負ならば倍の身長差があるF.O.Eが負ける道理はない。

 止められても尚進もうとしてくる湊を相手に気を抜くことは出来ないが、F.O.Eには他に三体の仲間がいる。

 ここで湊の武器を封じているF.O.Eだけでは何も出来ないが、味方がくれば途端に形勢は傾いてゆくだろう。

 だが、そんな事は湊も勿論分かっていた。分かっているからこそ、絶対に目の前の敵が逃げられない状況を利用する。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 

 湊の声に反応して槍が淡い光を放ち始める。

 光は徐々に強さを増し、槍全体が光ったかと思えば穂先と石突きから蒼い炎が噴き出した。

 炎は徐々に勢いを増して湊に前進する力を与える。最初は耐えていた敵も、炎が槍全体を覆うほどの勢いになると耐えきれず身体が浮いた。

 その瞬間、押さえられていた槍が解き放たれ、一条の光の矢となって敵を飲み込んだ。

 仲間を助けようと思っていた他のF.O.Eたちも、速度が乗った湊を捉える事が出来ず右往左往している。

 そんな相手の状態を理解したのか、光の矢は部屋の中を縦横無尽に飛んで次々と敵を飲み込んでゆく。

 これで全てのF.O.Eを倒したのかと思いきや、離れた場所からよく見れば飲み込まれた敵たちは生きていた。

 四体が重なるように風圧で槍の穂先の前に押さえつけられているようだが、最初に真剣白刃取りしていたF.O.Eが穂先を掴んだままいた事で貫かれずにいる。

 大部屋の中を縦横無尽に飛んでいるというのに、両手で挟んだ穂先を離さない根性は認める。

 しかし、死んでいないというだけでピンチである事に変わりはない。

 湊は敵をこのまま貫くことを諦め、進行方向を天井へと変更する。

 光の尾を引きながら天井へと向かう湊は、そのまま敵を天井へと叩き付けた。

 

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 

 敵を天井へ叩き付けた衝撃でフロアが僅かに揺れる。

 ぶつかった衝撃で手を離しはしないかと期待したが、相手はまだしっかりと刃を掴んで腕の筋肉と腹筋で貫かれるのを防いでいた。

 その後ろに重なっている他のF.O.Eも、身動きが取れないだけであまりダメージを負っているようには見えない。

 想像以上のタフさには思わず呆れてしまうが、なら、ここからは我慢比べだと湊は槍から炎を、自分の身体からはE.X.O.の光を激しく放出させる。

 魔法スキルのように敵を焼く事は出来ない。けれど、光が強くなればなるほど進もうとする力は増す。

 ほんの少し。数ミリ単位で徐々に敵の筋力を上回って穂先がF.O.Eへ近付いてゆく。

 相手も必死になって腕に力を籠めているが、徐々に距離を詰められ、遂にその身体に穂先の先端が刺さる。

 

《グゥゥっ》

 

 高熱になった槍の先端が体内へと入ってくるなど、想像を絶するような拷問だろう。

 思わず唸ったF.O.Eは腕の力を弛めてしまい、押し留められていた槍の一撃が敵の身体を完璧に捉える。

 一体、二体、三体、四体と続けて貫き、それでも勢いが死ななかった湊はそのまま天井を貫通して消えていった。

 確かにタルタロスを似たような方法でショートカットした事はあったが、異世界のような場所のダンジョンでも同じ事をするとは思わなかった。

 青年が光と共に去って行ったのを見ていた者たちは、通信越しに爆発音や風花とりせの慌てる声を聞きながら、一足先に校舎に帰った青年の非常識さに溜息を吐くのだった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。