【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第三百二十四話 裏で動く者たち

夜――喫茶店“フェルメール”

 

 天田が店を去った後、五代は湊の仕事用のアドレスに一通のメールを送った。

 内容は、天田が母親の事故の真相を探っており、依頼として犯人の名前を教えたというもの。

 加えて、ロゼッタがわざと煽るような言い方をしたため、天田の犯人に対する憎しみと怒りが増しているとも。

 信用第一な情報屋として印象操作はどうだという意見もあるだろう。

 だが、情報を武器にしているからこそ、そういった印象操作で有利な状況や望む状況を作り出すことも出来るのだ

 もっとも、今回のロゼッタの行動はただの八つ当たりであり、天田がドツボに嵌まるようにと悪意だけで行動した結果なので、もしかしたら迷惑をかけるかもしれないと思って五代は湊に連絡を入れた。

 彼が桔梗組を去って以降はプライベートの連絡手段はほとんど通じないため、栗原も連絡が必要な時に利用した仕事用連絡先にメールすれば、五分ほど経ってから湊から後で店に向かうとの返事が来た。

 色々と多忙な彼がわざわざやってくるなど最近では珍しい事である。

 今の湊は学校に通っていない分、EP社の仕事に掛かっていて、それと並行して様々な研究を進めている。

 主な研究内容は一般人でも使用可能な対シャドウ兵器の開発であったり、自分用に作った超重量大型メイス“デュナミス”の調整、そして生体義手を手に入れた今は必要なくなったが機械義肢の開発も一応はしているらしい。

 元々、EP社で研究主任であるシャロンも、自分の研究テーマである新型義肢の開発が出来るからと参加している身だ。

 彼女が言うにはEP社と湊が持っていた技術のおかげで、サイズと性能が生身とほぼ同じレベルの義肢が一般向けに販売出来そうなところまで来ているという。

 個人で研究していた時には、生身と同じレベルの細かな動きは到底不可能で、それに出来る限り近づけたロボットハンドは競輪選手の太股並みの太さになっていた。

 それでも十分すぎるほど小型化に成功していたのだが、当然、そんな巨大なものを腕につけられる訳がない。

 だが、癒着や汚職に塗れた派閥に入ることを嫌って、おかげで業界では異端児と呼ばれ流れの医者としてしか活動していなかった彼女が個人で研究するにはそこが限界だった。

 スポンサーは欲しいが一部の権力同士による余計な争いに巻き込まれたくない。

 そんな考えを持っていた彼女にすれば、権力者たちを力でねじ伏せて自分の道を突き進んでいた青年は非常に優良物件に映ったようだ。

 今では湊の無茶ぶりも何だかんだと研究してある程度の成果を出し。自分のメインの研究に活かせる部分は流用しているという。

 そんな以前聞いた話を思い出しながら、五代が自分の淹れたコーヒーを飲みながらノートパソコンで地下教会の情報サイトを流し見ていると、入口のベルが鳴って黒いマフラーを首に巻いた青年が店に入ってきた。

 

「やあ、いらっしゃい」

「……ホットのブレンド一つ」

「ははっ、了解」

 

 席に着く前に注文を受けた五代は笑いながら準備を始め、カウンター席に勝手に座る青年の様子を眺める。

 今でも時々は連絡を取っているが、湊の立場というのもあって直接会うのはかなり久しぶりだ。

 見た目の変化は感じられず、雰囲気もいつも通りで変わりがないように見える。

 

「随分と久しぶりだね。調子はどうだい?」

「……別に。主な研究も大体は終わってるし、今は表向きの仕事の方が増えているくらいだ」

 

 最初に湊がEP社で進めた研究は失った腕の代用品である高性能な義手製作。

 そして、いつか目覚めるだろうと言われていたアイギス用の新型ボディである生体パーツの開発だった。

 五代もロボットを生身の人間にすると聞いた時には驚いたが、人間と違って明確に意識や魂というものがどこに宿っているのか分かっていれば、後から作った器に意識体を移して肉体にする事も可能なのかと納得させられた。

 無論、どういった手順を踏めば生きているのに魂がない肉体が作れるのかという疑問はある。

 ただ、そういった好奇心からEP社を探ろうとすれば、知り合いであろうと湊が動き始めるので命が惜しい五代は彼ら側の事情には踏み込むつもりがなかった。

 

「はい。お待ちどおさま」

「……ああ」

 

 コーヒーの淹れ方自体は情報屋としての師匠だった男から学んだ物だが、それで他の者たちが美味しいと言ってくれるので五代はずっと同じ淹れ方をしている。

 無論、豆の種類によって蒸らす時間を変えたりはしているが、今日もいつもと同じ味を出せばカップを受け取った青年も、いつも通り感情の読めない瞳でカップの中に視線を落として黙って口をつけた。

 味を尋ねれば彼はきっと素直な答えを返してくれる事だろう。ここで変にお世辞を言ったりしない性格なのは五代も分かっている。

 ただ、五代は美味しいと言ってもらえるコーヒーを出す努力はするが、この店のコーヒーとして変えるつもりがない物もある。

 湊が飲んでいるブレンドがまさにそれで、この店のブレンドは五代が自分なりのセンスで選んだ数種類の豆を混ぜて作った物だ。

 豆の種類と割合は他の者に教えるつもりはなく、生前の師とイリスも美味しいと言ってくれたブレンドに関しては店をやり続ける限り今のままでいようと思っている。

 そうして、湊がある程度までコーヒーを飲み続ければ、彼が視線を上げたタイミングで五代も今日の天田の様子について話すことにした。

 

「君がいた学校の初等部に通っている天田って少年がいるだろ。今日、彼がやって来て自分の母親が死んだ事故の真相を尋ねてきたんだ。ただ、こっちも仕事だからね。お金が掛かるからって先に聞きたい事を尋ねて、後は情報ごとの金額を提示したんだ」

 

 五代は学校が終わってから真っ直ぐ来たであろう天田が来店した時の様子を語る。

 背伸びした小学生がコーヒーを飲みに来たのかと思えば、以前ゆかりからここが裏の情報屋である事を聞いたことで頼ってきた。

 正直に言えば完全にフリーで好きにしているロゼッタはともかく、拠点を持っている五代としては一般人が軽々しく情報屋として尋ねてきて欲しくはない。

 裏の人間にバレやすくなるというリスクは勿論、下手をすれば表の国家権力にバレるかもしれないのだ。

 警察や公安にバレれば五代もここにはいられなくなる。別に海外に伝手がない訳ではないが、この店には愛着があるので離れたくはない。

 それ故、五代にとって天田は招かれざる客だったのだが、だからといって天田に教えた情報料は特別高く設定している訳ではない。

 

「彼、十万ちょっと持ってきててね。よくもまぁ小学生がそんなに貯めたもんだと驚いたよ」

「……桐条側から出た報酬だろ。夏頃から参加したにしても一月くらい狩ってればそれくらい払われるさ」

「まぁ、その報酬が適性かどうかは分からないけどね。蜂の巣駆除なら一万円もしないけど、もう少し危険と考えれば時給二万弱くらいにはなってるのかな?」

 

 影時間は毎日一時間。つまり、彼らがタルタロスに向かっても、実質一時間ほどしか活動しない。

 出動するだけで一定の金額は保証され、残りは出来高で報酬が払われるとすれば、人数で割って二万円に届かないくらいだろうか。

 子どものバイト代と考えればかなり高額な方になり、順平辺りは影時間がなくなってから一般のバイトの拘束時間と得られる金額の少なさで苦労しそうだ。

 

「……命懸けだがどうせ化け物相手だ。いくら殺しても気にならない以上、割が良いバイトとして今の内に貯金でもしておけとしか言えないな」

「ま、確かにね。彼らは人数も多いし、索敵系のバックアップもしっかりしている。出てくる敵も階層単位でほぼ変わらないなら稼ぎやすそうだ」

 

 湊や五代の小遣い稼ぎと言えば、専ら裏の人間を殺すことだった。

 チドリに合わせて栗原の店でバイトしたり、暗器系の使い方を教わる対価に紅花の中華料理屋でのバイトも経験しているが、あんなものは湊にとっては小遣い稼ぎというより技術や経験を得るための場でしかない。

 話している二人はお互いにろくなバイトを経験していないなと思いつつ、脱線していた話を戻して天田について五代が続きを話す。

 

「彼はストレガから母親の事故について聞いたらしい。それまでは黒い馬のシャドウが殺したと思っていたみたいだ」

「まぁ、カストールに似た騎兵型のシャドウもいるしな」

「そういう事。で、彼の知っている限り、カストールを所持していた人物は二人いた。だから、本当にペルソナの起こした事故なのか、また当時持っていたのはどっちかを知りたがったんだ」

 

 報酬の関係で事件の経緯については教えられなかったが、真犯人について聞ければ原因がシャドウなのかペルソナなのか分かるだろう。

 加えて、少年が最も知りたかった“どちらが犯人なのか”という悩みも解消出来る。

 天田としては湊が犯人であって欲しかっただろう。

 弁当ばかり食べている少年のことを気にして、自分の分のついでだからと言いつつ手料理を振る舞い。活動中は天田が失敗したときによくフォローに入って助けてくれた。

 兄弟のいない天田にすれば、兄がいればこんな感じだろうかと思えるくらいに信頼していた相手で、だからこそ自分が探していた母親の仇であって欲しくなかった。

 大量殺人鬼である湊ならば、やっぱり悪党なんだと素直に恨み、母を殺された憎しみをぶつけることも出来ただろう。

 コーヒーを飲み終えてマフラーから取り出した煙管を咥えた湊は、随分とまたこじれているなと敵側の事情ながら小さく呆れた様子をみせる。

 

「……別にこっちに押しつけても構わなかったが?」

「そこは情報屋として嘘は付けないよ。嘘を吐くメリットもないしね」

 

 湊としては特別課外活動部など戦力にならないので不要と考えている。

 だが、邪魔しないのであれば、他所のペルソナ使いの受け皿として使えるので残っていても構わない。

 その関係から、組織として崩壊しないよう内部の問題を湊に押しつけて沈静化を図るくらいなら湊も許可した。

 いくら天田が湊を憎んで殺しに掛かろうと、首を刎ねでもしない限りは死ぬことはない。

 そも、二人の実力差を考えれば一撃当てるのも難しいと思うが、天田の憎しみが募り続けようと特別課外活動部には影響ないだろう。

 だからこそ、適性は持ってないが影時間の事情は知っている五代が、特別課外活動部の存続のため個人の判断で真犯人を湊だと騙っても構わなかったのだが、彼は情報屋が大した理由もなく嘘をついては駄目だろうと苦笑した。

 

「そういう訳で彼は、母の命日である十月四日、奇しくも満月の日だが動くつもりだろうね」

「まぁ、二人消えたところで問題ないな」

「おいおい。仮にもアイギスさんの仲間だろう?」

「俺と無関係な問題だ」

 

 確かに二人が争ってどちらか死んだところで、湊に対して責任を問うのはおかしい。

 五代から情報を得て、天田が動くと知っていたなら何故止めなかったと言われれば、そもそも当時の事を知っている美鶴と真田が予め動いておけという話だ。

 一応、そういう事があり得るとして頭には入れておくが、自分が特別何か動くことはない。

 そう告げて湊はマフラーから一万円札を取り出してカウンターの上におけば、「じゃあな」とだけ言って店を出て行った。

 コーヒーくらいサービスするつもりだった五代は、何とも律儀な青年だと笑ってからお札をレジにしまった。

 

深夜――都内・某所

 

 港区のはずれにある地下に作られた個人の研究室。

 以前より桐条グループの金を一部横領して作ったそこでは、幾月の娘である玖美奈が次の満月に向けて武器の手入れをしていた。

 彼女が手に持っている武器は、まるでサバイバルナイフをそのまま巨大化させたような大剣。

 恐らくは切れ味などより強度を優先して作られたのだろう。硬い敵を切りつけても刃こぼれ一つしなさそうな重厚さを感じる。

 花の女子高生がそんなものを楽しそうに手入れしていれば、裏の住人だろうと少しは気になるのか、離れたソファーで銃弾の検品をしていたタカヤが声をかけた。

 

「次の満月、私たちは別働隊を叩くつもりですが、貴方たちはアルカナシャドウへ向かうという事で宜しいですか?」

「ええ。生贄に必要な数は七人ですもの。そろそろ、削っておく必要があるでしょう?」

 

 幾月が調べた情報によれば、ニュクス降臨のために捧げるべき生贄の数は七人。

 全てのアルカナシャドウが倒され、現われたデスに七人の生贄を捧げればニュクスが降臨する。

 ニュクスが降臨すれば今の世界は滅ぶが、その後は生と死の存在しない新たな世界が幕を開け、そこで幾月が闇の皇子として君臨してゆく事になる。

 もっとも、その部分についてはタカヤたちストレガは信じていないのだが、ニュクス降臨に関しては、以前退行した湊が无窮を門にしてあちら側と繋いだ事で実在すると確信出来た。

 なので、最終目標さえぶれなければ協力者たちをわざわざ煽る必要もないかと、タカヤは闇の皇子のくだりには触れずに次の満月について話を進める。

 

「まぁ、桐条側のペルソナ使いはどうとでもなるでしょうが、ミナトが出てきたときにはどうなさるおつもりで?」

「特別な事はしないわ。ただペルソナで殺すだけよ」

「貴方たちも海外で鍛えたのでしょうが、そう簡単にアレを殺せるとは思えませんがね」

 

 単純な身体能力では勝てない。その点については玖美奈も分かっているので、あくまで上回っているペルソナ能力で殺すつもりだ。

 けれど、タカヤは単純な数値では測れない彼の怖さを知っている。

 実際に敵として相対すれば、あれが人という規格で語って良い存在はないとハッキリ分かる。

 玖美奈や理がどれほどの実力を持っているかは、ここで全力を見ていないため判断が難しいけれど、敵のことを知っているからこそタカヤは相手が楽観的すぎるように思えた。

 一方、自分の実力と理の力を把握している玖美奈は、自分たちの力を理解しているからこそ大丈夫だという自信があった。

 

「アレがどれだけ強かろうが関係ないのよ。火力勝負でも負けるつもりはないけど、そんな原始的な戦いだけをするつもりはないわ」

「ほう……。まぁ、私たちも空振りであったり、事が済めば向かう予定です。あのミナトが本当に死ぬのかという興味もあるので、是非とも頑張って頂きたい」

「ええ。貴方たちが一度として勝てなかったあいつの首を見せてあげるわ」

 

 不敵に笑って立ち上がる玖美奈は、手入れが終わった武器を専用のケースに仕舞いこむと、それを肩にかけて部屋を出て行く。

 去って行く後ろ姿を見ていたタカヤは、迫る満月の日を思って小さく口元を歪めた。

 

 

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