【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第三百二十八話 敵の狙い

――巌戸台駅前広場

 

 女性型シャドウであるストレングスを狙い。美鶴とゆかりの放った魔法によって視界が塞がれた瞬間を狙って敵が現われた。

 風花が高速で接近する敵に気付いて声をあげれば、サバイバルナイフを巨大化させたような大剣でアイギスを狙ったのか彼女の傍にいた。

 もっとも、その一撃は先ほどまで獣型シャドウと戦っていたはずの湊によって防がれたが、敵である月光館学園の制服を身に纏った女子は、今も薄く笑ってその細腕のどこにそんな力があるのか湊と鍔迫り合いを演じている。

 冷え切った瞳で敵を見ている湊に対して、敵の女子である長谷川沙織は余裕の感じられる薄い笑みを浮かべている。

 おかげで沙織の方が押しているように思えるが、湊が僅かに身体を沈めて踏み込めば、沙織は弾かれたように後ろに飛んで距離を開けて着地した。

 

「へぇ、瞬間的に発揮出来る力は相当なものみたいね。これは遠距離攻撃の方が有利かしら」

 

 アルカナシャドウと戦っている最中に攻撃を仕掛けて来た以上、相手はこのタイミングを狙って介入してきたに違いない。

 だが、どうして彼女が“敵”として現われたのか。今も湊の力について分析している様子の相手に七歌は訳が分からないと声を掛ける。

 

「沙織、なんで貴女がここにいるの!? それに、今、どうしてアイギスを狙ったの?」

「ゴメンね、色々と説明してあげたいんだけど時間が無いの。でも、どうして狙ったのかは簡単よ。ただその方がスムーズに事が進んだから」

 

 言い終わる直前に湊が九尾切り丸を振るって斬撃を飛ばす。

 沙織はそれを簡単に大剣で弾いて打ち消し、お返しとばかりに刀身を向けたかと思えば柄にあったトリガーを引いて銃弾を放った。

 サバイバルナイフを巨大化したような変わった見た目をしている上に、まさか銃としての機能もついているのかと他の者が驚いている間に弾丸が青年に迫る。

 弾丸が完全に見えている青年は、細かな鎖を編んで作られた手甲を装備した右手の裏拳で弾いた。

 相手もそうなると分かっていたのか弾かれても動揺した様子はなく、そのままさらに後退して距離を取ったところで口をつり上げると小さく呟いた。

 

「――――ペルソナ」

 

 召喚器を使わず、湊のようにカードを砕くこともなく、ただ静かに呟くだけで沙織の頭上で水色の欠片が渦巻いた。

 渦の中心に力が収束してゆき、徐々に彼女のペルソナが姿を現わす。

 現われたのは黒い髪に灰色の肌、黒いドレスを身に纏った女性型のペルソナだ。

 敵として現われた相手がペルソナを召喚したという事はろくでもない理由に決まっている。

 相手を傷つけるつもりはないが、仲間や湊たちを襲うつもりならば止めなければと七歌は召喚器を頭に当ててペルソナを呼んだ。

 

「きて、エウリュディケ! 風で相手を止めて!」

 

 七歌が呼び出した白いキトンを身に纏った女性型のペルソナは、空中で左右の手を交差させるように両手を振るう。

 それにより二つの風が巻き起こり、沙織をペルソナごと風で押さえ込もうとした。

 

「ノート――――“夜の帳”」

 

 僅かな砂埃を巻き上げながら迫る風に対し、沙織のペルソナは両手を前に向けるだけで動こうとしない。

 しかし、ノートと呼ばれたペルソナが手を前に向ければ、そこには視認出来ない何かが展開している気配があった。

 嫌な予感がしたが攻撃をやめれば敵が自由に動けるようになってしまう。

 ここはとりあえず様子を見なければと七歌が相手の動きに注目すれば、エウリュディケの風がノートの展開したものに触れた途端、風が七歌のコントロールを離れて味方に向けて跳ね返ってきた。

 

「うおっ!?」

「これは、攻撃を跳ね返したのかっ」

 

 跳ね返ってきた風を喰らって順平はバランスを崩し、美鶴は倒れぬように身を屈めて風に耐える。

 相手の動きを制限するために放った攻撃だったため威力は制限されていたが、もしも敵を倒すために全力で放っていれば今頃自分たちも無事では済まなかった。

 動きを止めるための攻撃を狙ってのカウンターならば、完全に相手の思惑通りに動いてしまった事になる。

 ただ、沙織のペルソナがそういったタイプだとすれば、様子見で相手の特性を理解出来たのは幸運と言える。

 ここからは相手のカウンター魔法の持続時間や、跳ね返せる威力上限や種類を特定していくべきだろう。

 そう考えた七歌が味方に指示を出そうとすれば、アイギスの傍にいた湊が沙織に背を向けたかと思うと九尾切り丸を持って駆け出す。

 どうしてこのタイミングで戦線を離れるのか。そう考えるもすぐに理由を理解する。

 背を向けて駆けだした湊は走りながら刃を寝かせて構え、正面から獣型シャドウが飛びかかってきたところで武器を振り抜く。

 空中で硬い金属同士がぶつかり合った音が響き、火花を散らして獣型シャドウが大きく後方に飛ばされて着地する。

 敵を弾いた湊はそのまま今度は獣型シャドウを横目に見ながら、腕を伝った黒炎を刀身に纏わせ、横一閃に黒い斬撃を駅の改札に向けて飛ばした。

 すると、斬撃を飛ばした先では起き上がった女性型シャドウが今にも鉄柵を伸ばして攻撃を仕掛けようとしており、相手が動き出す前に到達した斬撃に吹き飛ばされ女性型シャドウは壁に衝突した。

 

「っ、ゴメン八雲君!」

 

 急に沙織が現われた事、敵が明確に仲間を狙ってきた事で、メンバーらの思考は完全に沙織に向いてしまっていた。

 おかげでまだまだ体力に余裕のある二体のアルカナシャドウが完全にフリーになっていて、湊が対応してくれなければそのまま襲われ窮地に陥っていたかもしれない。

 いくら彼が桁外れな場数を踏んでいるにしても、指揮官である七歌だけは湊と同じように全体に対して目を向けていなければならなかった。

 友達が敵として現われたとしても関係ない。相手の事情を聞きながらでも他の敵に対処することは可能だ。

 反省した七歌は湊に獣型シャドウと引き続き戦って貰う事にして、もう一体のシャドウとはアイギスたちに戦って貰い。

 自分たちが沙織の相手をしようと指示を飛ばす。

 

「八雲君は獣型と戦って! もう一体のシャドウはアイギスとラビリスとコロマルで対処! 残りのメンバーで沙織の相手をする!」

 

 対人戦となればどう考えても湊の方が強い。相手を殺すなといえばその通りに動いてくれる可能性も高いので、他の者たちでシャドウの相手をしながら湊が沙織を無力化するのを待った方が確実ではある。

 だが、七歌は自分の友人が湊と戦う姿を見たくなかった。

 全体の指揮を執っている人間として、感情に左右されるなど論外。

 けれど、誰もが湊のように機械的に判断が下せる訳じゃない。感情という不確定要素を考慮すれば、気が散ってまともに指示が出せなくなるよりは断然良い。

 指示を聞いた者たちは短く返事をしてそれぞれの敵と向き合っては戦い始める。

 湊は再び襲いかかってこようとする獣型シャドウに頭上から剣を振り下ろし、女性型シャドウが掛けた花の渦のバリアごと敵を石畳に埋めようとする。

 完全に湊が相手のスペックを上回っている様子なので、獣型シャドウの相手は湊に任せておけば問題ない。

 続いてアイギスたちも、湊に吹き飛ばされた女性型シャドウに銃弾とスキルで牽制しながら、ラビリスがどうにか加速器付きの戦斧で鉄柵のガードを突破出来ないか試している。

 並みのシャドウであれば戦斧の一撃でかなりのダメージを与えられる。

 それを鉄棒ほどの太さで完全に耐える鉄柵の強度には舌を巻くが、恐らくはその強さの秘密の一つは自在に変形する柔軟性だろう。

 攻撃を喰らう瞬間に弛ませれば勢いをある程度殺せるため、ただ防いでいるように見せて硬さと柔軟性の両方で対処する事で戦斧の攻撃も受けている。

 けれど、その二つを用いた防御にしても完璧ではない。アイギスたちには全てのスペックを数倍に跳ね上がらせる“E.X.O.”だってある。

 姉妹の連携と湊が認める戦士として力を持つコロマルならば、きっと敵の能力を探って的確なタイミングで切り札を使う。

 ならば、自分たちは乱入してきた沙織の相手をして、敵ならば無力化を、敵でないにしてもアイギスを狙った理由を含めた情報収集をする。

 薙刀を握り直して沙織の方へと向き直った七歌は、他の全員が相手を警戒していることを確認しながら声を掛けた。

 

「……沙織、どうしてさっきアイギスを狙ったの?」

「別に汐見姉妹ならどっちでも良かったわ。ただ、姉の方は斧を持ってたから、狙い易い妹の方を狙っただけ」

 

 答える沙織の声や表情は学校で話していたときと同じだ。

 けれど、どうしてだか今の笑顔は仮面を貼り付けているようで違和感がある。

 もしや誰かに操られているのか。相手の動きに警戒しながら再び質問しようとすれば、沙織はノートを消して、別のペルソナを呼び出すべく頭上に力を収束させる。

 このまま素直にさせて堪るかと七歌は順平に指示を飛ばす。

 

「順平、ペルソナで対処!」

「あいよ! こい、ヘルメス!」

 

 勢いよく飛び出したヘルメスが召喚途中の沙織のペルソナに斬りかかる。

 順平のヘルメスは火炎属性を操るが、物理攻撃にも優れたペルソナだ。

 素早い動きで敵まで近付き、完全に顕現する前に排除する。

 これでこちらに流れが来ると思ってヘルメスの攻撃が届こうとしたとき、

 

「切り伏せなさい。フレイ!」

 

 召喚光に包まれた状態の敵のペルソナが、その手に持っていた細身の剣を横に薙ぎ、ヘルメスの斬撃を弾き返した。

 そうして召喚光が治まり現われたのは、ウェーブのかかったくすんだ金髪を肩まで伸ばした筋骨隆々な男性型のペルソナ。古代ローマの服の上に金色のマントを身に着け、その右手には煌びやかな装飾のされた細身の剣を持っている。

 七歌たちからすれば湊に続けて二人目のワイルド能力者の登場に少なからず驚きを受ける。

 だが、そんな事を考えている暇も無く、現われたフレイはそのままヘルメスへと斬りかかった。

 ヘルメスは両腕の金属のパーツで相手の剣を受け止めるが、相手の突進を受け止める事が出来ずそのまま押し切られる形で近くの店に背中から突っ込む。

 

「んなっ………こ、いつ、パワー負けするっ!?」

 

 ヘルメスはパワータイプではないが決してパワーがない訳ではない。

 それを一方的に押し切り衝突したビルを破壊してヘルメスを消滅させた力を見せた敵に、順平はフィードバックダメージの痛みで表情を歪ませながら悔しそうに敵を見る。

 魔法を反射させたノートに完全なパワータイプのフレイ。

 この二体だけでも敵の強さが現在の特別課外活動部よりも上だと理解出来た。

 相手が何体のペルソナを持っているのかは分からないが、単騎で攻めても勝てる可能性は低い。

 ならば、連携をとって複数のペルソナで一度に攻めようと、フレイを自分の傍に戻した沙織を見ながら七歌が考えていれば、膝をついていた順平に手を貸して立たせていたチドリが真剣な表情で相手に話しかけた。

 

「……なんで貴女がセイヤのペルソナを持っているの?」

「セイヤ? ああ、被験体だった子どもの事?」

 

 チドリに質問された沙織はセイヤが誰のことだか分からなかったようだが、少し考えてそれがエルゴ研にいた人工ペルソナ使いの被験体だと分かったようで納得したような顔をした。

 そう。先ほどヘルメスを倒し、今は沙織の傍で待機しているペルソナ・皇帝“フレイ”はかつてチドリたちと共にエルゴ研にいた少年のペルソナだった。

 セイヤはタカヤとカズキと共に湊と模擬戦をしていた事もあり、チドリもそのペルソナをよく覚えていた。

 だからこそ、相手が使っているペルソナが同種のペルソナではなく、セイヤのペルソナだと気付くことが出来た。

 他の者たちもチドリの雰囲気と沙織が口にした“被験体”という単語から、相手が桐条グループの暗部に繋がっていると理解して様子を見る。

 そうして、相手が答えるのを静かに待っていれば、沙織はクスクスと笑ってから答えた。

 

「理由は簡単。あの被験体より私の方が上手く使えるから貰ってあげたの」

「他人のペルソナを奪ったの?」

「フフッ、別に悪い事ではないでしょう? だって、あそこで戦ってる有里湊も同じ事が出来るのだから」

 

 確かに沙織の言う通りで他者のペルソナを奪う能力を湊は持っている。

 実際にそれを他の者に使ったこともあれば、奪ったペルソナを使って活動していた事もあった。

 チドリはそれを悪い事だとは思わなかったし、むしろその力があったからこそ守れた物もあったくらいだ。

 そのため、相手の言葉を否定するつもりはないが、奪う過程によってはチドリは相手の行いを湊と同じ物だと思うつもりはなかった。

 

「ええ、能力自体に善悪はないわ。でも、ペルソナを奪った後のセイヤはどうなったの?」

「おかしな事を聞くのね。当然、死んだわ。影人間が長生き出来る訳ないでしょう?」

 

 湊のアベルの“楔の剣”はかなり特殊な能力だ。他人のペルソナや適性を奪っても相手を傷つける事がない。

 だが、普通はペルソナを奪われればシャドウが抜け出た状態になり、無気力症患者のように影人間となってしまう。

 セイヤも当然その様になったようだが、自分がペルソナを奪ったせいで被験体が死んだというのに、沙織はまるで何でもないことのように話した。

 相手の態度にチドリは小さな怒りを覚え、軽く睨みながら間違いを指摘する。

 

「死んだんじゃないでしょ。貴女やそのバックにいる人間が殺したんじゃない」

「んー、でも結局それは桐条グループの罪でしょ? 被験体はどうやっても寿命を全う出来ない定めにあった訳で、ならせめて力だけでも有効活用してあげようって優しさからペルソナを残したのよ?」

「どこが優しさよ。自分のためでしょうに。私は貴女みたいな被験体なんて知らない。脱走後に作られた後期型か何か?」

「フフッ、随分と知りたがりなのね。でも残念ながら天然よ。ワイルドは疑似能力だから人工ワイルド能力者ではあるけどね」

 

 ワイルドはペルソナ使いの進化型だ。さらに進むと湊のような複数同時召喚が可能な完成形になっていく。

 それを人工的に作る事が出来ると驚くなという方が無理がある。

 だが、人工ワイルド能力者を作るにはペルソナ能力者が必要で、沙織たちの持つ技術ではペルソナを奪った相手は無気力症になるらしい。

 どうやって奪うのか。どうやって他人のペルソナを移植したのか。そもそも、相手のバックにいるのは誰なのか。

 ストレガと面識があるからこそ、相手がその仲間ではないとチドリには分かる。

 相手に対する情報があまりに少ないため、もう少し情報を集めたいところだが、沙織がふと視線を逸らすと獣型シャドウと戦っている湊の方を見て残念そうな顔をした。

 

「ああ、フォーチュンは持ちそうにないわね。しょうがないか」

 

 つられて他の者たちが湊の方に視線を向ければ、いつの間にか一人だけ随分と離れた場所で黒炎を纏った九尾切り丸を振るっていた。

 獣型シャドウの硬さと花の渦のバリアを突破するためか、湊は一度も攻撃を途切れさせること無く連続で相手を斬り続けている。

 大剣とは思えぬ剣速と絶え間ない攻撃によって、湊の周りに黒炎の軌跡で斬撃の結界が生成され、結界が徐々に相手のバリアを侵食している。これでは確かに敵は持たないだろう。

 

「うん。アレが来たら面倒だから先に目的の一つを果たさせてもらうわ」

 

 湊は沙織に対抗出来ていたため、彼がこちらに戻ってくれば沙織の相手は湊に任せればいい。

 本人は負ける気など欠片もないようだが、この中で湊だけは厄介な相手と認識しているようで、目的の一つを果たすと口にすると改札口の方で戦っているアイギスたちを見て薄く笑った。

 

「ダメ、沙織っ」

「フレイ――――“勝利の剣”」

 

 相手の狙いが分かった七歌が黄龍を召喚して攻撃を阻もうとする。

 しかし、黄龍の攻撃が届く前に黄金の光を纏ったフレイの剣が振るわれ、光の柱と見紛う斬撃が進路上に現われた黄龍を蒸発させながらアイギスたちに向けて振り下ろされた。

 眩い光に視界がホワイトアウトし、攻撃の余波で起きた風で七歌たちは地面を転がる。

 

「つぅ……アイ、ギス」

「くっ……ラビリスとコロマルは?」

 

 相手は駅ごと叩き切るように光の柱を振り下ろしていたが、いったいどうなったのか。

 転がる中で出来た小さな傷から血を流し、身体が止まってから七歌と美鶴は半分ほどぼやけた視力で何とかアイギスたちの様子を見ようとする。

 だが、未だに光の柱があり、眩しさのせいで上手く改札口の方を見ることが出来ない。

 沙織は念入りに相手を灼き滅ぼそうとしているのだろうか。

 攻撃を喰らった直後である今ならばまだ生存や回復の可能性がある。相手を止めねばと痛む身体を無理矢理立たせれば、七歌だけでなく美鶴とゆかりも光の柱が消えていない理由を理解した。

 改札口の方を見れば、湊の左腕から発生した黒炎が蛇神の頭部を形作り、その強靱な顎によって光の柱を受け止めていたのだ。

 

「っ、助かった……」

 

 獣型シャドウを殺してすぐに駆けつけてくれた湊に七歌は心の中で感謝する。

 守られたアイギスたちは自分たちが狙われた攻撃に目を見開いて驚いているが無事らしい。

 二人と一匹が戦っていた女性型シャドウの姿がないのが気になり探せば、何故か、光の柱と蛇神の顎の間に挟まれて消滅しつつあった。

 どうやら湊が顎生成時にシャドウを咥えて相手の攻撃を利用したらしい。

 あの数秒の間によくも頭が回る物だと青年の咄嗟の対応に思わず感心する。

 だが、おかげで味方が無事なまま敵を倒す事が出来た。これで残るは沙織だけだと光の柱が消えて行くのを見ながら七歌が相手を見れば、攻撃を防がれたはずの沙織が笑っていた。

 その笑みの意味を七歌が考えようとしたとき、攻撃の余波で転がった時に距離が開いたのか、離れた場所から順平の必死な声が聞こえて来た。

 

「おいっ、おいっ! 目ぇ、開けろって! ダメだっ、死ぬなっ!!」

「チドリちゃん、死なないで!」

 

 そこには手や服が血まみれになった順平と風花がいた。

 二人の間には血まみれのチドリが倒れているのだが、七歌の見間違えでなければその胸に大きな穴が空いて、下の地面が見えている。

 彼らの周りには血だけではなく、元は制服だったものらしき焦げた布きれや大小様々なサイズの肉片と骨が散らばっていた。

 一際大きな塊の中に青白く発光する何かが入っており、胸に大穴を空けて血溜まりに倒れている少女というあまりに非現実的な光景を前にして、七歌は発光している物体は何だろうかと関係のないことを考えていれば、

 

「――――チドリぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

 蛇神の顎を消して少女の許へ向かおうとする青年の絶叫が響いた。

 

 

 


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