夜――巌戸台分寮
影時間の戦いがついに終わった。
ポートアイランドインパクトから十年、けして短いとは言えない時間だ。
その間、影時間を消すために奮闘してきた者たち、シャドウの脅威から人々を守るために戦って来た者たち、多くの人間が挑み、その中には犠牲になった者たちもいた。
「今日という日を迎えられた事を嬉しく思う」
そんな者たちをずっと見続けてきた桐条武治は、慰労会として開催された食事会に合流し、席について七歌たちを見ながら話す。
ここに集まった子どもたちは、影時間に何かしらの因縁がある者もいれば、全くの無関係ながら力に目覚めて戦った者もいる。
因縁のある者たちは自分も無関係ではないからと自ら戦う意思を見せていたが、逆に無関係であっても関わった以上は見過ごすことは出来ないと責任感から動く者もいた。
だが、桐条に言わせれば子どもたちは全員が無関係だ。
「君たちの中には自分も影時間とは無関係ではないと思う者もいるだろう。しかし、親の罪は親の罪。そして、影時間さえなければ起こらなかった事もある。故に、それら全ては私たちの責任であり罪だ。迷惑を掛けてすまなかった」
世界的に有名な大企業のトップが子どもたちに頭を下げる。
普通ならあり得ない行動として萎縮してしまうところだが、七歌たちは桐条がどれだけ影時間を消すことに尽力していたか知っている。
だからこそ、これが純粋な一個人としての謝罪であると理解し、ただ黙って見つめていた。
すると、そんな他の者たちの様子を見て美鶴は小さく苦笑し、未だに頭を下げていた父に声を掛ける。
「お父様、いつまでもそうしていられると皆も困ります」
「む、そうか。だが、改めて言わせて欲しい。君たちに心からの感謝を」
今日の食事会は言ってしまえば学生が手作りで用意した打ち上げのようなものだ。
そんな席でどこまでも固い様子を見せる桐条に七歌たちは苦笑するが、彼がどれだけ感謝しているかは伝わった。
皆が頷いて返せば桐条も少しだけ肩の力が抜け、そのタイミングで順平がジュースの入ったコップを手に持って立ち上がる。
「んじゃあ、皆さんコップを手に持ってー! 戦いの終結を祝ってカンパーイ!」
『カンパーイ!!』
社交界ならばともかく、学生の打ち上げでいつまでも固い雰囲気では肩が凝る。
順平がそんな空気をがらりと変えるべく、普段の軽い調子で乾杯の音頭を取ると皆もそれに乗ってコップを掲げた。
テーブルの上には美鶴が出前を頼んだ高級な寿司と、荒垣や七歌がメインになって作ったパーティー料理が並んでいる。
調理していた時点で良い香りがキッチンの方から漂ってきていた事もあり、空腹だった順平はコップを置くなり「いっただきまーす!」と箸を取って次々に寿司を自分の皿に盛った。
「おい、順平! 寿司ばかり取るな!」
「いやいや、今日は無礼講でしょ? それにほら荒垣さんや七歌っちが作った料理もたくさんあるんだし。先輩も好きなの取ったら良いじゃないですか」
今日の寿司は桐条家御用達の高級江戸前鮨である。
順平も当然その事を知っていたため、作りたてで温かな料理があるというのに最初に寿司をいくつも確保した。
しかも、ウニやタイにカニなど比較的単価の高いネタが中心となれば、順平が意図的に高級な物を狙って食べていると気付いて当然。
荒垣と七歌の手料理は舌の肥えた美鶴が認めるレベルであり、折角の出来たての料理が並んでいてこの所行となれば、真田でなくとも一言いわずにはいられないだろう。
ただ、真田が順平を注意するのであれば、他の者たちは気にせず食事を続ける事が出来る。
確かに寿司も美味いが他の料理もそれに劣らず美味いのだ。育ち盛りの学生たちは順平の世話を真田に任せると、そのまま自分の食欲を満たすことを優先した。
皿に盛ったグラタンをスプーンで口に運んだゆかりは、濃厚なホワイトソースの中にシャクシャクと変わった食感がある事に気付き、並んで座っている荒垣と七歌に料理について尋ねる。
「あ、このグラタン美味しい。これタケノコ入ってるの?」
「ああ。水煮で丁度値引きされてるのが売っててな。色んな種類の料理作るってんなら良いかと思って買って作ったんだ」
「へぇ、タケノコのグラタンって初めて食べましたけど、食感もしっかり残ってて美味しいですね」
今の季節は秋から冬の始まりに差し掛かった所。タケノコは当然旬の食材ではないが、日本では水煮のタケノコが通年で売っている。
スーパーで値引きされていたそれを見つけた荒垣は、色々と作るからこそ普段あまり使わない食材を使ってみようと考え、値引きされて安くなっていた事もあり買ってきたらしい。
「ピーマンの肉詰めはありますけど、普通のハンバーグはないんですね」
「ああ。天田君がピーマン嫌いだって聞いたからさ。食べさせようと思って」
「どこ情報ですかそれ……」
「荒垣さんだけど?」
パーティーのメニューでハンバーグはある意味で王道だ。
しかし、天田がテーブルを見渡しても、半分に切ったピーマンにハンバーグを詰めて焼いたピーマンの肉詰めはあれど、その中身だけを成形して焼いたハンバーグがない。
何故、そこで敢えてピーマンを足すという一手間増やしたのか。
ハンバーグは大好きだが、ピーマンが嫌いな天田にすれば余計な事をと思わずにはいられない訳で、天田が料理担当者に理由を尋ねればまさかの答えに絶句しかける。
ただ、せめて誰がそんな余計な情報を七歌に伝えたのか聞いておかねばと、改めて七歌に聞いてみれば、七歌は素直に情報源が荒垣だと答えた。
途端に天田は荒垣に無言で抗議の視線を送る。
見られている本人も気にした様子もなく無視しているが、そんな光景を見ていた風花が思わず笑ってしまうと、他の者たちもつられるようにして笑った。
***
料理もほとんど完食され、皆が飲み物を飲んでゆっくりし始めた頃、突然順平が何やらゴソゴソとテーブルの下から取り出して立ち上がった。
一同が急に何だと彼に注目すれば、順平はその手に持った物を掲げるように見せて口を開く。
「はい、ちゅーもーく! 皆さん、ここで記念に写真を撮りましょう! いやぁ、実は昨日も持って行ってたんだけどさ。影時間にカメラなんて動く訳ないってのな!」
「お前、そんなものを戦いに持っていったのか?」
「まぁ、勝つって信じてたんで!」
昨日の戦いは敵側に増援があれば自分たちの方が厳しい状況になっていた。
勝てたのはストレガが男たちだけであり、それをペルソナが進化している真田たちで抑えられた事で、七歌たちがアルカナシャドウとの戦いに集中出来たからだ。
一歩間違えれば負けていた。いや、死んでいた可能性すらある。
しかし、だからこそ順平は自分たちが絶対に勝つと信じてカメラを持っていった。
まぁ、そんな験担ぎのような事をしていたとは認識されず、他の者たちからは暢気なやつだと認識されてしまったようだが、順平は桐条についてきたSPの一人にカメラを渡すと寮の入口前へ移動する。
他の者たちもしょうがないなと口では言いつつ、どこか楽しそうに移動すると天田と女子らを前列に、男子と桐条が後列に並んで立つ。
桐条が一緒に写ってくれる事が意外だったのか、美鶴が少しだけ驚いた顔をしていたが、カメラを構えたSPが「よろしいですか?」と尋ねると順平がポーズを決めつつ他の者にも笑うように声を掛ける。
「よっしゃあ! みんな、最高の笑顔でいくぞー!」
「OK! 順平に被るようにピースしとくね!」
「ちょっ、おい!? マジで的確に被ってるって!?」
順平が最高の笑顔を見せようとするも、七歌の掲げたピースサインが顔に被って順平の顔が写らなくなる。
どれだけ顔を動かし回避しようとしても、七歌は後ろにも目がついているのかと思えるほど見事に位置を修正する。
彼女は全て音と気配を頼りに行なっているのだが、パッと見ではそれに気付くことは出来ないだろう。
諦めた順平がせめて手だけは写ろうと両手でピースサインをしたところで、SPがスリーカウントでシャッターを切った。
もっとも、シャッターを切る瞬間に最後の抵抗に順平がジャンプしたことで、写ってはいるが順平だけ顔がぶれているという何とも間抜けなオチになったのだが、これも記念という事で一同はその写真のデータを回し見てから席に着いた。
「……もうすぐ零時だな」
席についてからしばらく話をして過すと、時計を見た美鶴がポツリと呟く。
本来なら明日も学校なので風呂に入ったり、既に寝ているべき時間だ。
けれど、心のどこかで本当に影時間が終わったのだろうかという不安があるのか、多忙な桐条すらも日付を跨ぐ時間になっても寮に残っていた。
美鶴の言葉に他の者たちも少し緊張した様子で時計を見つめる。
戦いは終わった。武器も、召喚器も、この後で桐条が乗ってきた車に積み込み回収する予定なのだ。
このまま緊張して損したと笑って終わりたい。
そう願って全員が時計を見つめ、三つの針が頂点を指した時、世界は緑色に塗り潰された。
影時間――巌戸台分寮
世界は緑色に塗り潰され、窓の外には自ら光を放つ巨大な月が浮かんでいる。
桐条が連れていたSPたちは棺桶のオブジェに姿を変え、影時間特有のどこかジメッとした空気に包まれると荒垣が苦々しげに口を開いた。
「チッ、終わったと思ってたんだがな」
「けど、あんまり実感もなかったですよね」
荒垣の言葉に天田もどこか淡々とした様子で答える。
全員がこれで影時間が終わったんだと信じようとしていた。
あれだけ特殊なシャドウと戦って来たのだ。そこに意味があると思わない方が無理がある。
だが、一方で本当に影時間が終わったのか信じ切れていない部分もあった。
「桐条先輩、これってどういう事なんですか?」
「分からない……。私も、これで全てが終わると思っていたんだ……」
ゆかりに聞かれた美鶴も混乱しているのか返事は曖昧で言葉に力がない。
メンバーの中で誰よりも影時間を終わらせる事に拘っていたのは彼女だ。
それだけに、どうしてアルカナシャドウを倒しても影時間が消えないのか理解出来ないのだろう。
ただ、こうなる予感はあったと七歌が自分の考えを話す。
「どうしてストレガは三人しか出して来なかったのか。沙織と八雲君が来なかった事も含めて、昨日の戦いには疑問があったんだ。けど、向こうがこうなるって分かってたなら、妨害に全戦力を投入してこなかった事も納得出来る」
「あいつらが見越していたのはアルカナシャドウを倒した後だったって事か?」
「倒した事で何が起こるのか知っていた。それとも、倒した所で何も起こらないと知っていたのか。どっちなのかは分かりませんが、影時間が続くことは知っていたんじゃないですか」
七歌の言葉に真田も顎に手を当てて考え込む。
後者ならば影時間を消す方法を一から探す必要があり、前者ならばこれから起こることに自分たちもすぐ備えなければならない。
出来れば時間的に猶予のある後者であって欲しいところだが、状況を理解出来ていない者たちの耳に鐘の音が聞こえて来た。
「この音は……方角的にタルタロスの方みたいですね」
風花がペルソナを召喚しない状態で出来る範囲で音の発生源を探る。
どうやら方角的にはタルタロス方面のようだが、実際にタルタロスから音が響いているかは分からない。
ただ、これまで影時間に鐘の音など聞いたことがない。
そうなるとアルカナシャドウを倒した事と関係があるのではと、全員が現場を確かめに行くため立ち上がって装備を取りに向かおうとする。
「ちょっと待ってくれ! つか、って事はチドリももしかしたらタルタロスに向かうかもしれないって事か?」
「その可能性はあると思います。チドリちゃんは有里君の果たせなかった事のために戦うと言っていましたから」
自分たちがタルタロスに向かおうとするように、チドリもまたタルタロスを目指すかもしれない。
彼女の性格と状況から考えてもその可能性が高いと風花が答えれば、どこか血の気が引いた顔で順平が焦ったように叫ぶ。
「敵がこの状況を知ってたんなら、オレたちが動くことも想定済みかもしれないって事だろ。なら、別行動のチドリを待ち伏せして叩く可能性もあるって事じゃねえか!」
影時間が続くと分かって昨日の戦力を温存していたとすれば、順平の言うように七歌たちの行動を読んで待ち伏せしている事は十分にあり得る。
加えて、ストレガたちは特別課外活動部の拠点だけでなく、メンバーたちの家族についてなどもそれなりに情報を持っていた。
そうなればチドリが別行動を取っていて、単独でもタルタロスへ向かう事も予想出来ていると思われる。
実際には前哨戦でしかなかった昨日の戦いでは手を抜き。本命である今日の戦いで待ち伏せなどの策を使いつつ敵戦力を削る事を狙っていた。
もしも、その考えが正しければ一番危険なのはチドリという事になる。
焦った様子から一転、険しい表情になった順平は装備を取りに階段を走って上りながら他のメンバーに向けて大声で話す。
「わりぃけど、オレは栗原さん家の方面に向かう! 途中でチドリと合流出来たらタルタロスに向かうけど、待ち伏せされてたらそっちが済み次第応援にきてくれ!」
「分かった! 順平も気をつけて!」
何が起こっているか分からないからこそ、チドリ一人のためにそう多くの人数を割くことは出来ない。
けれど、完全に無視して行くことも出来ないからこそ、湊に頼むと言われた順平がチドリの許へ向かってくれるならありがたい。
他の者たちもそれぞれ装備を整えると、SPが象徴化してしまっている桐条を一人残す方が危険と判断し全員でタルタロスへ向かう事にした。
――タルタロス
順平が無事にチドリと合流することを信じてタルタロスへやって来たメンバーたち。
巨大な扉の前に人陰がある事に気付いていたが、近付かなければ相手の姿をしっかり見る事が出来ない。
そうして、扉から数メートルの位置までやって来たところで、メンバーたちはそこに予想外の人物がいる事に驚愕した。
「幾月さんだとっ!?」
驚いた真田が目を見開き思わず声をあげる。
他の者たちも彼と同じように驚いており、その視線の先には薄汚れたボロボロの衣服を身に着け、ロープで両腕を拘束された状態で地面に転がる幾月がいた。
幾月の傍には長谷川沙織と八雲、そしてストレガのタカヤが立っている。
「こんばんは、皆さん。どうやら影時間は消せなかったようですね」
薄い笑みを顔に張り付けたままタカヤが両手を広げて話しかけてくる。
その仕草はこの状況を見ろと言っているようであり、実際に影時間が続いていることもあって言い返すことが出来ない。
だが、死んだと思われていた幾月が彼らの前に倒れている理由を知りたい美鶴は会話に応じる事にした。
「まだ諦めた訳じゃない。それよりも、何故理事長が生きている。お前たちが殺したのではなかったのか?」
寮内の監視カメラにはカズキの姿が映っており、作戦室や寮内には幾月の血液が残っていた。
そして、駐車場の焼死体の歯形が幾月と一致していたため、誰もが幾月は殺されたと思っていたのだ。
だというのに、タカヤたちの足下にいる幾月は、ヒゲが伸びて、頬が痩けてはいるがちゃんと呼吸をしている様子。
よく似たそっくりさんを連れてくる理由もないので、恐らくは死んだように偽装したのだろうが、何のためにと考えていたところで八雲が口を開いた。
「この男には利用価値があったから生かしておいた。現に美鶴さんたちもこの状況で下手に手を出せないだろ?」
同じ声だが姿は中学生時代の湊と似ている。
ただ、話し声や雰囲気は湊に比べるとどことなく柔らかい。
兄弟や双子と言われれば信じてしまいそうになるが、アイギスが湊本人から聞いた情報が確かであれば、七歌たちの視線の先にいる少年こそが百鬼八雲であるはず。
チドリを一度は殺し、湊を死へと向かわせた張本人が八雲であるなどとは信じたくはないが、改めて聞いておかねばならないと七歌が彼に話しかけた。
「八雲君、でいいんだよね?」
「ああ。僕が百鬼八雲だ。七歌や美鶴さんはアレを僕だと思っていたようだけど、ようやく間違いの一つを正すことが出来た」
言いながら彼は自分の背後においていた何を手に取り、それを七歌たちに見せるように掲げた。
それはバスケットボールほどの大きさをした透明な容器。
太陽ほど明るくはないが、ほぼ満月と言える大きさの月が空から地上を照らしている事もあり、七歌たちも中に入っているモノを見る事が出来た。
容器の中に入っていたのは人の生首。ただし、頭髪はなく、頭と目の辺りに縫合した後がはっきりと残っている。
あまりにショッキングな光景に、一瞬それが何であるか理解出来なかった。
けれど、よく見ればそれが彼女たちの知っている青年の顔をしている事に気付き、風花は顔を青ざめさせ、ゆかりはそれが人間のする事かと怒りを露わにした。
「なんて酷いことをっ」
「あんた、有里君の残りの身体はどうしたのよ!」
「……いらないから捨てたよ。研究用に眼球と脳は摘出したし。これももういらないけど、一目くらい会わせてあげようと思って持ってきたんだ」
敵が遺体を盗んで行った事でどうせろくな使い方はされないと分かっていた。
しかし、実際に変わり果てた姿をみせられると、どこまで彼を辱めれば気が済むのかと怒りに全身が震え出す。
八雲という少年と会ったことがなかったゆかりや風花にすれば、湊がどのような出生だろうと関係ない。
死んだ彼こそが自分たちの友人で想い人だったのだ。
そんな湊の遺体を切り刻み、いらないからとゴミのように捨てた八雲を許すことは出来ない。
残った頭部だけでも取り返してみせると考えて睨んでいれば、タカヤの足下に転がされていた幾月が意識を取り戻したのか弱々しい声で何かを呟いた。
「う、うぅ……み、んな、にげるんだ……」
「ほう、貴方にも他者を慮る心があったのですね。ですが、逃がす訳にはいきません。さぁ、全員武器と召喚器を捨ててください。この男に死んで欲しくはないでしょう?」
言いながら腰のベルトからリボルバーを抜いたタカヤは、その銃口を真っ直ぐ幾月の頭部へと向けている。
七歌たちとタカヤたちの距離は十メートル以上離れていて、この距離では相手に攻撃するよりタカヤが引き金を引いて幾月に銃弾が当たる方が速い。
数人でバラバラに動いて撹乱しようにも、八雲と沙織も警戒しているようなので下手に動いた時点で幾月を殺そうとするはず。
武器と召喚器を手放せばその時点で勝てる見込みもなくなるが、今の状況では幾月が殺される未来しか見えない。
知り合いを見殺しにする事など出来るはずもなく、七歌は他の者たちとアイコンタクトを交わすと諦めて武器と召喚器を手放した。
全員が同じように武装を解除した事を確認したタカヤがどこか嘲るように笑うと、次の瞬間、七歌たちの許に向かってどこからか球体の物が投げ込まれた。
一体何が投げ込まれたのか。それを確認しようとした時、地面に落ちた球体の物から煙が吹き出して七歌たちを覆っていく。
「うっ、なんだ、これは……」
「力が……」
咄嗟に煙を吸わないよう手や袖で口と鼻を塞ぐも既に遅い。
全身の力が抜けて地面に倒れる最中、意識を手放していく七歌たちは、立ち上がって冷笑を浮かべる幾月を見たのだった。