――EP社
湊の厚意でシミュレーターに乗せて貰えた一同だったが、歩くだけで微妙に揺れることもあって全員が満足に操縦できるとはいかなかった。
またそもそもが争い事に向かない性格だという者もおり、実際の対戦モードに参加出来る者は体験学習参加者の半数である十名となった。
そのため、改めてチーム分けをくじで行い。他の者たちはそれぞれのチームにサポートとして参加するため、チームごとに用意されたブリッジルームへ向かうことに。
ブリッジルームはその名の通り、それぞれのチームの母艦のブリッジをイメージした部屋であり、マップを見ながら索敵や誘導などでチームの者に通信を送ったり、さらには母艦からの砲撃で援護したりも出来る。
対戦前の休憩時間にパイロットたちも見学に来たが、艦長の席やオペレーターの席を見て何やら感動している者もいた。
今回はサポートも五人という事で、ブリッジチームは『操舵担当・マップ兼オペレーター担当二人・砲撃担当・艦長』という設定で行くことになった。
その説明を聞いた際に、順平から操舵なんて何をやるのかとの質問が挙がったが、ソフィアが言うのには母艦も対戦中は移動可能なのだとか。
ロボットの揺れがダメでそちらに配属された者もいるので、母艦が攻撃を受けても部屋が揺れたりはしないが、母艦のダメージが増えていくと『艦の移動速度低下・通信にノイズが混じる・モニターの映像が欠けたり乱れたりする・臨場感を出すため温風で室内温度が上がる』などのペナルティがある。
また敗北条件が『機体の全滅・母艦の撃沈』になっているため、ロボット同士が戦っている市街地中心へ不用意に近付くことも出来ない事もあって、どのように母艦を運用するかはチーム内でよく話し合う必要があった。
対戦には時間制限もあり、時間内に勝負が着かなければ機体残数で判断。そこも同数なら母艦のHP残量で、そこもさらに同じなら機体たちの総HP残量で判断するというルールだ。
因みに、クジで決められた二つのチームメンバーは、
Aチーム操縦士、七歌・ゆかり・綾時・ラビリス・西園寺
Aチームブリッジ、風花・他四名
Bチーム操縦士、順平・チドリ・アイギス・渡邊・美紀
Bチームブリッジ、小田桐・友近・他三名
といった具合になっている。
全高約六メートルのロボットは機体名“ウォーカー”と呼ばれ、近接タイプ“シュナイダー”、遊撃タイプ“イエーガー”、射撃タイプ“パンツァー”と装備が三種類用意されている。
それぞれバランス、高速紙装甲、鈍足重装甲という特徴もあって、相手チームからは誰がどの機体を選ぶかは分かっていない。
そうして、全ての準備が整って全員が配置に着くと、カウントダウンが始まりゼロになった途端、コックピットとブリッジのモニターに外の映像が映った。
近接タイプのシュナイダーに乗ってブレードを構えて細い路地を進みつつ、七歌は本当に自分がロボットに操縦しているみたいだと感動しながらプライベート通信のスイッチを入れる。
「やっぱ、すっごいなぁ。八雲君、これ本当に一般向けに公開しないの? これ一回五百円とか千円でも余裕でハマる人いると思うよ?」
《乗り物だけあって適性がない人間もいるからな。それにハマりすぎると現実で生きている実感が薄れる可能性がある。何より、メンテナンスが大変なんだ》
スタッフたちはロビーで待機しながら観戦するようだが、コックピットとブリッジからロビーへ通信を送ることは出来ない。
なので、責任者である湊とソフィアは両陣営と通信が取れる部屋で待機してくれているのだが、七歌がそれを使って湊にプライベート通信を送ると、彼の返事に続けてソフィアから警告が返ってきた。
《機能上こちらへプライベート通信を送れますが、わたくしたちは友軍ではありません。対戦中はそのスイッチを入れないように。もしも、会話したければオープンチャンネルを使ってください》
「はーい。それじゃあ、集中して行きますか」
座席タイプを選んだ七歌はブリッジとの通信に設定すると、前進のレバーを強く前に倒して速度を上げる。
母艦の物より索敵範囲の狭いマップに注意しながら進み、ふと嫌な予感がしたことで彼女は曲がり角を曲がって建物の影に隠れた。
直後、七歌の機体が先ほどまでいた場所に銃弾が当たり綺麗な路面に穴が空いた。
「狙撃っ。ブリッジ、十一時の方向から狙撃が来た。索敵とチームへの通達をお願い! それとゆかりに狙えるかも聞いて!」
《了解。二号機の射線を作るため母艦を西へ移動させます》
七歌たちのチームは七歌とラビリスがシュナイダーを選び、綾時と西園寺がイエーガーを選択。残るゆかりはというと射撃適性が高かったためパンツァーを選んで母艦の上に残っていた。
シュナイダーは大きなブレードとナイフとハンドガンを装備しており、イエーガーはナイフとマシンガンと手榴弾を持っている。
そして、パンツァーは狙撃ライフルとミサイルポッドとナイフを持っているため、それならば母艦に残って艦を守りつつ上から撃てば良いのではと、敢えてゆかりの機体は母艦の甲板に乗せて母艦ごと移動する作戦で行くことにした。
何せ、相手のメンバーからすると順平と渡邊がシュナイダー、チドリと美紀がイエーガー、アイギスがパンツァーを選んでいる可能性が高い。
順平たちに射撃を避けるセンスはなく、チドリたちは紙装甲であるため母艦とパンツァーの掃射で近づけなくなるはず。
故に、自分たちは他の四機で艦を落とす事に集中すれば良いと、七歌は狙撃を警戒しながら敵の母艦があるであろう方角を目指す。
《七歌さん、市街地北東で敵シュナイダー二機と会敵。ラビリスさんが向かってくれてるけど、保たないかもしれない》
「ちょっ、何そのバランス悪い組み合わせ。一機で足止めしてもう一機を母艦に向かわせるつもり?」
だが、そこで逆方向から進んでいる綾時から敵と遭遇したと通信が入った。
まさか、近接タイプが組んで移動しているとは思わず、この変な博打っぽさは小田桐の作戦かと七歌は相手チームの動きを予想する。
動きが遅いパンツァーを無視すれば、残る機体はイエーガーが二機のはず。
一機で足止めしてでももう一機を前進するため近接タイプを一緒に行動させていたなら、逆にイエーガーは二機の速さで翻弄して確実に敵を屠るつもりではないか。
そうなってくるとシュナイダーと遭遇するより拙いかもしれないと考えたところで、ラビリスから通信が入った。
《ゴメン、一機は墜としたけど綾時君がやられてしもた! 今、通したもう一機を追ってるから、合流に時間掛かると思う!》
「了解。西園寺さん、どっちのカバーに回れる?」
《距離的には九頭龍さんだけどシュナイダーとイエーガーが近くにいるんだよねぇ。近接三機、遊撃一機、砲撃一機とは思わなかったなぁ》
「おっと、私よりも先行してるんかい。戦闘避けられそうなら後退して合流しようか。ダメそうなら全力逃走しつつ追ってくるイエーガーに狭い路地でポイポイボムで」
《りょうかーい》
七歌の機体よりも速度のある機体に乗った西園寺の方が先へ進んでいたようだが、敵を見つけながらもまだ戦闘は始まっていない様子。
そういう事ならこっちも合流しようぜと七歌は提案するも、恐らく敵は西園寺の機体の逃走ルートからその味方の居場所を予想し、逃げる西園寺を速度で追えないシュナイダーをこちらへ送ってくるはず。
ならば、自分もそろそろ本格的に戦おうかと移動ルートを予想して機体を進めた。
「やっぱりいるよね、そこにぃっ!!」
相手が七歌の居場所を予想したように、七歌も西園寺がいた場所から予想して敵を見つけた。
逃げている西園寺よりも敵との合流の方が速いのは残念だが、待ちに待った本格的な戦闘だ。
思わず口元をつり上げて、七歌は下段に構えた相手のブレードに上段から振り下ろしたブレードをぶつけた。
互いのブレードが衝突すると、武器がぶつかった衝撃でコックピットが激しく揺れる。
ヘルメットが壁にぶつかり思わず顔を顰めるも、七歌はその場でブレードを左手持ちに切り替えつつ左足を引きながら右足で踏み込み右肘鉄を喰らわせる動作を入力する。
「長い得物で近接とか馬鹿じゃないの!」
ほとんどゼロ距離なら満足にブレードは振れない。だからこそ、七歌は武器なんて使わなくても戦えるんだよと相手のアームに何も持っていない右肘を当てて敵を押し出す。
想定外の反応速度だったのか敵は七歌の追撃を喰らって蹌踉けるが、ただやられてたまるかと不安定な状態でブレードを横薙ぎに振った。
左側から迫ってくるブレードを見た七歌は、機体の身体を左に捻りつつ持っていたブレードを手放すと、左肘と残っていた右足の膝で敵のブレードを挟み込む。
完全に勢いを殺せなかった事でダメージはあるが、直撃よりも遙かに軽微で無視しても良いレベルだ。
これには敵も恐らく動揺しているはずだと読んだ七歌が、相手のブレードの勢いを完全に殺したタイミングで武器を離し、数歩だけ後退してから踏み込んで腰のナイフを右手に持って仕掛けた。
「距離感がなってないよ! 本職は中距離型と見た!」
近すぎてブレードがろくに振るえない距離で、七歌はナイフを持って接敵すると、反応が遅れた敵の喉元にナイフを突き入れる。
ウォーカーと呼ばれるこのロボットたちは、人間と同じ位置に弱点が存在し、そこを破壊すると部位の機能停止か機体自体の機能停止へ追い込む事が出来る。
そして、七歌がナイフを突き入れた喉元は機体の機能停止部位であり、火花を散らせながらナイフを深く刺された敵機は、そのままアイカメラの光が消え機能を停止した。
「ふぅー! 一機撃破したよ。ブリッジ、味方の状態教えて」
《三号機がこちらに近付いていたシュナイダーと交戦中。先ほどまで逃走していた五号機が追っ手のイエーガーにある程度のダメージを与えるも、敵パンツァーのものと思われる攻撃で沈みました》
「なるほど……じゃ、ほぼ差が無いけど、イエーガーが手負いな分だけこっちが有利か」
全員まだ操縦に慣れていない事もあって、戦いが始まれば片方が流れを掴んだ時点で挽回は厳しく早く決着がついてしまう。
つまり、操縦にかなりの適性を見せる七歌が手負いのイエーガーを狙って進めば、敵パンツァーと母艦からの攻撃を受けない限りはほぼ確実に討てるはず。
最初に七歌を狙撃してきたパンツァーの存在は怖いが、その機動力はシュナイダーの六割程度。
ウォーカーは名前の通り二本足で人間のように歩いたり走ったりする事しか出来ず、練習時間に試して動きながらでは照準がずれてまともに狙えないと判断した七歌にすれば、固定砲台の攻撃など見て反応出来る自信があった。
故に、母艦から送られて来た西園寺の撃墜されたポイントへと向かいながら、七歌はブレードを背中のアタッチメントに取り付けて武器をナイフとハンドガンに切り替える。
背の高いビルに囲まれたエリアを走り、西園寺が逃走時にばら撒いた爆弾で焦げたオフィス街を抜け、手負いの敵が次にどのような行動を取るかを予想して七歌は追跡した。
オフィス街を抜けると様々なファッション関連の店が並ぶエリアに出る。
ほとんどの建物が二階建て程度なので、高さのほとんど変わらぬウォーカーからすると随分と見晴らしが良いなと思える。
(母艦に戻ってもダメージは回復しない。なら、相手は私を落とす事を第一の目標に、自分を餌にしてでもパンツァーが狙えるポイントを作るはず)
西園寺は追跡者にダメージを与えるために爆弾を使い。その爆発によって位置を特定され撃たれたと思われる。
なら、敵のパンツァーは姿が見えれば動いている対象でも撃ち抜けるだけの実力を持っている。
機体ダメージの大きいイエーガーはマシンガンを持っているので、それで七歌の接近を阻みつつ、回避のため速度を落としたところをパンツァーが狙撃してくると言う訳だ。
そういう事ならば七歌が取る作戦は決まっている。多少の被弾を覚悟しながら最高速を維持。
何せ、シュナイダーの装甲ならばマシンガンを数発受けても小破で済むのだから、パンツァーの即死攻撃だけを警戒すればイエーガーを落とせる。
集中した七歌は揺れが激しくなる事も構わず前進のレバーを強く倒して、出来る限り迅速に敵を墜とすべく街の中を駆けた。
「イエーガー発見!」
マップ上にも敵の機体を表わすコードが出現、見るからにダメージを負っている相手は大きな交差点で足を止めて待っていた。
しかし、その手には既にマシンガンが構えられ、七歌の接近に気付けば相手も引き金を引いて弾幕を張ってきた。
それに対する七歌の答えは、身体をぶらすように細かく左右に機体を揺らしながらアクセル全開での接近に加え、唯一の遠距離武器であるハンドガンでの顔面狙い。
当たればラッキー、当たらなくても動揺を誘えるはず。
「くひっ、囮役が動いちゃダメでしょ!」
際どい位置に弾が飛んだのか敵のイエーガーは僅かに後退した。
だが、七歌のいる路地の幅をほぼ制圧出来るだけ弾幕を張れていたのに、引いてしまっては意味がない。
撃っているのは素人だ。いくら機械の補整があろうと距離が遠くなった分だけ余計な幅まで弾丸が飛んでしまい。結果的に七歌を襲う弾幕が薄くなる。
それでは相手の攻撃の手が緩んだのと変わらない。七歌は一気に勝負をつけるためスピードのロスとなる機体を左右に揺らすアクションをやめ、ハンドガンで撃ちつつほぼ一直線に敵へと迫った。
慣れていない人間が後ろ向きに機体を動かせるはずもなく、相手が逃げるために反転しかけたところでハンドガンを捨てて七歌は背中のブレードを抜き放ちながら振り下ろした。
「切り捨て御免!」
背中を強く切られたイエーガーはうつ伏せに倒れたまま動かなくなる。
マップ上の敵コードも消えたので、どうやら無事に倒せたらしい。
確認した七歌は捨てたハンドガンを腰に付け、ブレードを持ったまま敵の母艦を目指して走る。
途中でパンツァーの攻撃が来る可能性もあるが、見晴らしが良ければ七歌もそれだけ対処しやすいので問題ない。
そう考えていると友軍機から通信が入った。
《七歌、こっちに向かってたシュナイダーは倒したよ。私と母艦の攻撃で近付かせないようにして、ラビリスが後ろから攻撃したから結構楽に行けた。ただ、負けを覚悟したのか、最後にナイフで反撃してラビリスの機体に良いのが入っちゃったから結果的には相討ちになった感じ》
「じゃあ、こっちは私とゆかり、敵はパンツァーが一機って事ね」
《うん。てか、それ多分アイギスだよね》
「たぶんねぇ。戦い慣れてるって意味じゃ断トツだろうし」
ここまで簡単に決着がついたのはほぼ全員が操縦に慣れていなかったからだ。
七歌はその中でも見事に順応した方だが、他の者たちは特別課外活動部の者でも案外あっさりやれてしまっている。
やはり、実戦で得た経験から戦闘での駆け引きはある程度出来ても、戦うための身体を十全に動かせないとそれらは役に立たないのだろう。
けれど、その点からすると残っている敵の機体に乗っている操縦士は全メンバーで最強の兵士と言えるかもしれない。
火器統制システムを積んでいなかったラビリスとは異なり、アイギスは最初から銃火器を使った戦い方を知っている。
これまでも特性の異なる様々な銃火器を利用し、時には近接武器で戦っていたこともあるので、兵器を使った戦いでは誰より豊富な知識と経験を持っていると言えるのだ。
また、彼女は車や飛行機を操縦するための知識を有している。ウォーカーの操縦にそれらがどれほど活かせるかは分からないが、少なくとも他の者たちよりも操縦のなんたるかは理解しているのは間違いない。
マップを確認しながら敵母艦のある方向を目指していた七歌は、厄介な敵が残ったと小さく嘆息し、直後、再び悪寒が走ってブレードを正面に構えた。
「あっぶなっ!? ブレードの先端に当たって弾丸切れたよ!?」
危険だと思って武器を構えたら、ブレードの先端に何かが当たって七歌の乗っているウォーカーの肩を掠めるように通過していった。
もし、ブレードの中程で受けていれば、広がるための距離が足らず両肩なりを被弾していたかもしれない。
ただ、その弾丸の入射角が地面とほぼ平行だったことを疑問に思った七歌は、遠く離れた道の先へと機体のカメラを向けた。
「へぇ……まぁ、こっちには遠距離はハンドガンしかないからね。装甲の厚いパンツァーなら殴り合いでもワンチャンあるか」
見ればそこには隠れもせず狙撃ライフルで七歌の機体を狙うパンツァーの姿があった。
相手は足が遅いもののその分装甲が厚い。となれば、近接型のシュナイダー相手に拳やナイフを使って格闘戦をしても、硬さで耐えて勝てる可能性がある。
機体特性からその思い切った作戦をとる勇気は評価するが、七歌は敵が知識ばかりで経験が不足しているとそこで理解した。
「甘いなぁ。確かに機体は耐えられるかもだけど、レバーブローなら仕留められるんだぜ?」
狙いは悪くないが自分にとって経験不足な敵の土俵で戦うのは間違っている。
それを教えてやるとばかりに七歌は相手の狙撃を回避しながら接近し、敵の望んだ格闘戦に突入してやる。
七歌が一定の距離まで迫った時点で敵はナイフと拳を構えた状態になっており、いつでもシュナイダーと近接で戦えるぞとアピールしていた。
一方の七歌は大きなブレードは邪魔だからと背負い。敵と同じくナイフと拳で戦う準備をする。
もう少しでお互いの攻撃が届く。その距離まで近付いたところで七歌は膝蹴りを相手の胸部叩き付けた。
「おらよぉ!!」
手で武器を構えているからといってそれを使うかどうかは自由だ。
そも、七歌の狙いは機体では無く、中にいる操縦士への間接ダメージ。
機体が揺れればコックピットにも衝撃が伝わる。その状態でまともに操縦できるかなと少女は悪どい笑みを浮かべてショルダータックルを喰らわせる。
「おかわり追加!」
再び中にいる人間にダメージが通るように攻撃を仕掛ければ、案の定、相手は七歌への反撃に移るのが遅れていた。
敵が逆手持ちのナイフを振り下ろそうとする瞬間、七歌は背中から機体を倒し、空振った相手のナイフに蹴りを入れる。
無茶な動きをする度、七歌側のコックピットもそれなりにシェイクされているのだが、絶叫系に強い彼女にとってこの程度の揺れは問題ない。
ナイフを蹴ったことでそれを持っていた相手の片腕が跳ね上がると、七歌は腹筋の要領で自分の機体を起こしてそのままヘッドバットを敵胸部に叩き付ける。
もしかすると、これで頭部が潰れてアイカメラも死ぬかもしれないと思ったが、機体のダメージレベルは中破で済んでいる。
なら、再び胸部に衝撃を受けたたらを踏んでいる敵に向け、七歌はこれで止めだとハンドガンを抜いて首の接合部に向けて引き金を何度も引いた。
その結果、
「よっしゃ、勝利!」
小田桐勢力の敵機を全て撃破した事で、七歌たちのチームの勝利だと画面に表示される。
いくら装甲が厚くても動きを阻害させないよう薄くなっている部分はあり、そこを突いて銃火器の扱いに特化した敵を銃で仕留めてやったぜと七歌は得意気に勝ち誇る。
だが、その戦い方はその辺のチンピラがやっている喧嘩殺法であり、見ている側にすれば高度な操縦技術なのは認めるが、浪漫溢れるロボットの戦い方としてどうなのかと思わずにはいられない。
もっとも、外野がどう言おうとも七歌たちの勝利は既に決定しているため、残っている味方機であるゆかりと母艦に通信を繋いだ。
「いえーい。最後の敵も倒したよー」
《おつかれー。てか、ほとんど七歌が倒したね。私は母艦の上で撃ってるだけだったし》
《お疲れさま、七歌ちゃん。単機突入で制圧って感じで大活躍だったね》
「へへっ、私と相棒のシュナイダーにかかればどんな敵も楽勝よ」
他の者たちが慣れてくれば違った結果になるだろうが、現時点では七歌の操縦技術と操作適性がトップなのは間違いない。
このまま何戦かしても恐らく七歌がいるチームの方が有利になるだろうと、話を聞いている味方も笑っていれば、話をしていた者たちのモニターに有視界通信が割り込んできた。
《ほう。大した自信だな。だが、いくらエース機だろうと味方が消えればどうする事も出来まい》
モニターの一部に割り込んで表示された映像には、七歌たちのいるコックピットの倍の広さはあるだろう操縦席が映っていた。
しかし、そこはただ広い訳ではなく、下段に操縦桿を握った銀髪の少女が、上段にふてぶてしく座った暗い青髪の青年がいる。
既にリタイアしてロビーで映像を見ている者たちも、その光景を見て大いに心を揺さぶられているに違いない。
何せ、銀髪の少女と青髪の青年がいるそれは一部の者が強い憧れを抱く複座式の操縦席なのだから。
「うぇっ、何それカッコイイ! けど、八雲君ってそれいる意味あんの? 下の席にいるソフィアさんが操縦だよね? ただの指揮官なら母艦にいた方がよくない?」
《勿論、あるさ。こうやって俺側で操作すれば》
映像の中の青年が横からキーボードのような物を引っ張り出し、それをいくつか操作すると空が光った。
一体何がと慌てて七歌が外の様子を確認すれば、上空にいる謎の機体が七歌側の母艦のいる方角に向けてビームのような物を撃っていた。
《きゃぁぁぁぁぁぁぁっ》
《きゃあっ》
そして、その結果を示すようにゆかりと風花の叫びが聞こえると、マップにあった友軍を示すコードが全て消滅していた。
代わりに七歌の機体ダメージが全回復しているが、空を飛んでいる相手にどうしろと言うのだと理不尽さを覚える。
相手の機体はウォーカーより二回りほど大きく、背中に蜘蛛足を広げたような変わった飛行ユニットが光っている。
自分たちのウォーカーはどの装備でも地味な茶色なのに、どうして湊とソフィアの機体は格好良い白なのか。
訓練目的の物であって遊びじゃないと言いつつ、自分たちだけチート機体に乗りやがってと思っていると、何やらモニターに“装備変更可能”の文字が現われていた。
何だろうと思って選ぶと、どうやらタイプを無視した装備変更をこの場でする事が出来るらしい。
さらにセイフティーモードとして歩行時の揺れのカット、追加パッケージとして立体移動用のワイヤーアンカー、道路滑走用のサブホイールが解禁らしい。
このモードが出来るなら歩行時の揺れで適性無しになった人間も遊べたのではと思わなくもなかったが、七歌は浪漫溢れる機体にしようと高速移動のイエーガーにパンツァーのミサイルポッドを装備する事にした。
敵だけ飛行ユニットとビーム兵器を持っている事を不公平に感じたが、どうせ短期決戦でしか勝負出来そうにない。
そう考えて全てを選んで装備が換装されると、七歌は最初からサブホイールで全力疾走する構えを取った。
モニターにゲーム開始のカウントダウンが表示され、それがゼロになった瞬間に敵のいる方へ進みながらミサイルを一斉に撃ち放つ。
「墜ちろカトンボ!!」
このミサイル群で死ぬが良い。そんな思いで七歌の機体から次々にミサイルが放たれれば、
《その程度では墜ちませんわ》
モニター越しに薄い笑みを浮かべたソフィアが言葉を返し、僅かに移動すると後ろの青年がキーボードを叩いて謎の機体の持つ銃から放たれたビームでミサイルが薙ぎ払われる。
「ちくしょぉぉぉぉぉっ!!」
そして、その薙ぎ払いに巻き込まれる形で七歌の機体も直撃を受けて爆散し、まさかの企業トップの横槍による体験学習参加生徒の全滅でゲームは終了したのだった。
補足説明
機体名『ウォーカー』、装甲の色は茶色、全高およそ六メートル
近接タイプ“シュナイダー”:大型ブレード、ハンドガン、ナイフ装備
遊撃タイプ“イエーガー”:手榴弾、マシンガン、ナイフ装備
射撃タイプ“パンツァー”:狙撃ライフル、ミサイルポッド、ナイフ装備
Bチームの操縦士は綾時らと戦って倒れたシュナイダーに順平、七歌が倒したシュナイダーに渡邊、七歌が倒したイエーガーに美紀、ラビリスと相討ちになったシュナイダーにチドリ、七歌が倒したパンツァーにアイギスが乗っていた。