【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第三百八十六話 EP社での昼休み

昼――EP社・食堂

 

 シミュレーターでの操縦体験を終えた一同は、いい時間だからと湊とソフィアに案内されて地上フロアまで戻ってきた。

 そこには武多に会う前にお茶を用意してくれた女性が待っており、全員に短期用のIDが登録された名札も兼ねたカードを配って、ここで働いている間はパスケースに入れて上着の左胸ポケットに付けておくよう説明があった。

 別に無くしたところで罰などはないものの、昼休みや休憩時間に専用の機械にIDカードを通すとそのまま食事や飲み物を買う事ができるらしく、無くした場合は全て自腹で買うことになるのだとか。

 EP社の食堂はレストランとして一般開放もされており、かけうどんから高級なコースメニューまで幅広く揃えている。

 無論、ファミレスのようなエリアと高級なコースメニューを提供するエリアは建物ごとしっかりと分かれており、建物の外に出ない限りは利用客同士が出会う事はないので、折角の記念日の食事を騒がしい子ども連れや学生たちの話し声で台無しにされるような事はおきない。

 社員食堂を兼ねた部分はその中のファミレスエリアになるので、流石にコースメニューなどは出てこないが、それでも昼間からボリュームたっぷりのステーキを食べる事などが可能だ。

 学生たちの食事代は湊のポケットマネーから払われる事になっているため、タダ飯やジュースを自由に飲みたいなら無くすなと伝えれば、全員が大きく縦に首を振っていたので無くされる事は無いだろう。

 そうして、IDカードを受け取ってから大勢の客で賑わっている食堂へやってくると、一同は事前に用意してあった席へ案内される。

 

「うっは、俺ここくんの初めてなんスよね。かーちゃんに言ったら晩飯抜かれっかも」

「……ただのファミレスだろ」

 

 人数が人数だけに事前に用意しておかなければ近い席を確保出来ないため、今日は八人席、六人席、八人席と通路を挟んで三つ横並びになるよう準備したが、明日以降はいくつかの班に分かれて作業することもあって、席は他の客と同じように案内される事になっている。

 そういった説明を受けつつ席に座った渡邊が、母親に羨ましがられて晩ご飯が抜きになるかもと言えば、湊がただのファミレス程度で大袈裟なと呆れた顔をする。

 近い場所にいたため二人の会話が聞こえていた生徒たちは、これだけ内装や料理のグレードが高いファミレスなんてそう無いぞという目で彼を見た。

 だが、見られた本人は六人席の方で隣に座ったソフィアと二人で一つのメニューを見ており、すぐにその視線は今すぐ爆散しろクソイケメンといった種類に変わった。

 ちなみに、湊たちの席は美紀、湊、ソフィア、その対面にチドリ、西園寺、渡邊と変則的な形になっている。

 他のメンバーは男子が主に左側の八人席へ、女子は右側の八人席に座っているが、湊たちの席は希望者の中からクジ引きで決まったのでアイギスや七歌があぶれたのは運でしかない。

 ただし、同じ企業トップの立場だからとクジ引きを免除されたソフィアに思うところがある女子の方からは、職権乱用すんな今すぐ離れろというヤジが飛んだ。

 

「ちょーっと家の八雲君と近くないですかぁ? てか、さっさと離れろや愉快な髪色した売女が」

「売っ……この色は生まれつきの地毛です。それに、この場には似たような髪色の人間が他に二人もいるでしょう」

 

 ナイフとフォークを持った手でテーブルをドンドンと叩いている七歌に対し、ソフィアがその発言はお前の友人にも刺さっているぞと返す。

 何せ、真田と同じく髪の色素が薄い美紀は日本人には珍しいグレーっぽい髪色であるし、ラビリスにいたっては微妙に濃さが違うだけで銀髪赤眼と基本的に色が被っている。

 もっと言えばチドリなんて非常に珍しい赤髪なので、ソフィア以上に愉快な髪色と言えなくもなかった。

 体験学習で受け入れてくれた企業のトップを売女呼ばわりした事も問題だが、友人を巻き添えにする罵倒など大丈夫なのかとソフィアが見返せば、ナイフとフォークを持ったまま腕組みをした七歌がふんぞり返って言った。

 

「私には当てはまらないので問題ありません!」

「なんと身勝手で傲慢な……」

「こっちにゃ、チート機体でやられた恨みがあるんだよ! ふざけた真似しやがって。私にも飛行ユニット装備のウォーカーを操縦させろ!」

 

 折角の勝利をエクストラステージらしきもので台無しにされた七歌は怒っていた。

 対等な戦いや多少の苦戦を覚悟するような相手ならばまだしも、完全に制空権を奪われた上で自機では扱えない装備で蹂躙されたとなれば、その理不尽に対して怒りを抱くのは理解できる。

 けれど、たかがゲームではあるのだ。それで受け入れ先のトップを罵倒するのは拙いと判断した渡邊が話題をシフトさせる方向で会話に加わった。

 

「あ、そうそう。それ聞きかったんすよ。会長らが乗ってた浪漫溢れる複座式のロボットってなんなんすか?」

「あれはウォーカーの次世代試作機で機体名“リヒター”だ。飛行ユニットと荷電粒子砲の実戦データを得るために開発されたが、それに見合ったエネルギーを搭載する必要があるという事で機体自体が大きくなったという設定がある」

「ちなみに、わたくしが機体制御を担当し、湊様が火器系統を担当しておりました」

 

 ゲーム内に出てくる機体や装備は設定からグラフィックまで全てEP社の社員たちが作ったものだ。

 最初に湊とソフィアの方から作業ロボットの用のシミュレーターを作るという話が挙がった際に、是非とも設定から何から作らせて欲しいと何人もの社員がやる気を出し、サークル活動として製作に当たったという。

 進捗状況を確認していた湊も流石に凝りすぎだとは思ったが、社員たちはサークル活動だからと金銭を受け取らなかったため、作業場所の提供と必要な機材の貸し出しだけしてやり後は任せる事にした。

 その結果、人型搭乗兵器の台頭によって戦争の方式が変わった世界が舞台だとか、共和国の主戦力である第四世代ロボット“ウォーカー”に、帝国がついに実戦に投入可能な機体として開発した試作機“リヒター”などといった存在の設定がポンポン出てきているらしい。

 EP社は人種や国籍にこだわらないグローバル企業なので、日本のアニメや外国のSFなどに詳しい者が多い事もあってそのサークルは人気らしい。

 湊とソフィアがそういった説明をしていれば、湊たちの後ろのテーブルに座った者たちから声が掛かった。

 

「ハーイ、さっきぶりね学生さんたち。アナタ達も代表たちのリヒターにやられたの?」

 

 声をかけてきたのは難所作業ロボットの操縦をしていた黒人女性のビアンカだった。

 ちなみに、ビアンカを含めた社員たちは湊を代表と呼び、ソフィアを社長と呼んで呼び分けている。

 そんな彼女と同じ席に座っているのは他の操縦士や機械技師らしいが、全員が先ほどの話にあったサークルに所属しているメンバーのようで、金髪を短く刈上げた壮年の男性も日本語で学生らに話しかける。

 

「リヒターは強かっただろう? 僕たちも悪ノリしてビーム兵器を積んでしまったが、その分、射撃時のデータ入力をマニュアルで設定する必要があるようにしたんだ。おかげで機体を動かしながらではビームは撃てないって事でお蔵入りするはずだったんだけど、ビアンカが複座式なら行けるんじゃって言ってね」

「だって、せっかくプログラムを組んだんだもの。使ってあげたいじゃない。それにジーモたちだって複座式最高って」

「しょうがないだろ。美男美女の精鋭パイロットが操る最強の機体。これは万国共通の浪漫だよ。君たちだってそう思うだろ?」

 

 話を振られた学生たちの中で、ほとんどの男子が腕組みしたまま首を縦に振って分かるよとアピールする。

 それを見ている女性陣の視線はやや白けているが、男子が共感してくれた事でジーモと呼ばれた男性は「だろう!」と嬉しそうな顔になった。

 

「やっぱり、分かってくれるか。いやぁ、日本の子どもたちは理解が深い子が多くて嬉しいよ。でね。代表たちに複座式のコックピットを作って貰えないか聞いたんだけど、サークルで作った物が他の技術に応用できる物もあったからって特別ボーナスで一機だけ作って貰えたんだ」

「そうして、完成してから操縦士と火器管制で適性の高い者をって事でオーディションをしたんだけど……ここでビーム兵器の設定が足を引っ張ったのよ」

 

 料理を注文して待っている間に話をするビアンカは、そこまで話すと急に遠い目になってしまう。

 どこからどう見てもかなりの苦労があったんだと察した小田桐が、学生たちを代表して問い返した。

 

「もしかして、誰も使えなかったんですか?」

「その通り。地上で数百メートル先の的に当てるって訓練をしたんだけど、地上での減衰率だとか重力を考慮した狙いの補整だとかを考える必要があってね。ゲームだからこそリアルな部分も必要だってプログラムを組んだ人らと扱えなかった操縦士らで乱闘騒ぎよ」

「そんな、ウォーカーで十分訓練が可能なら、リヒターはあくまでオマケで用意した趣味の産物なんでしょう?」

「そうなんだけどね。割とどっぷりその世界観に浸かってた事もあって、パイロットとエンジニアの本気のぶつかり合いみたいになっちゃって」

 

 こんな機体で戦える訳がないだろうと声を荒げるパイロットに、自分の腕のヘボさを棚にあげるなと言い返すエンジニアたち。

 ロボット物の作品なら裏話で実際にあってもおかしくないようなシーンだが、小田桐が言ったようにリヒターの存在はあくまでサークルメンバーの悪ノリから製作が決まった趣味の範疇だ。

 それで社員たちが殴り合いの喧嘩になるなど馬鹿らしいので、その場にいた冷静な社員が湊たちを呼んで騒ぎを収めた。

 当時、声を荒げたパイロット側だったジーモは、やってきた天ぷらうどんを食べながらあの時は本当に怖かったなぁとしみじみ語る。

 

「本当にあの時は死を覚悟したよ。遊びで流血沙汰になるくらいならあの部屋の全てを壊すぞって冷たい声で言われてね。騒いでいた僕たちは皆そろって“DOGEZA”で謝ったさ」

「代表のおかげで頭が冷えた訳だけど、結局のところ問題は解決していなかったのよ。で、喧嘩の原因を聞いた代表と社長が操縦士の腕の問題か、プログラムの設定ミスかを検証してくれる事になったんだけど……二人とも普通にビーム撃てたのよねぇ」

 

 自分も難所作業ロボットの操縦士に選ばれるだけの実力があるだけに、ビアンカがそれはそれはショックだったとカツ丼をかき込みながら語る。

 何せビーム兵器だ。SF好きなら一度は夢に見る浪漫溢れる武器をかなりのリアリティで再現できたというのに、それが自分の実力の問題で扱えないとなればダメージは大きいだろう。

 けれど、ビアンカはあれだけスムーズに難所作業ロボットを操縦していたのだ。

 そんな彼女でも扱えないなどという事があり得るとは思えなかった順平が、本当にパイロット側の問題だったのかと尋ねてしまうのも無理はない。

 

「え、じゃあ、エンジニアの言う通りパイロットの腕の問題だったんスか?」

「本当に残念な事にね」

「ああ、結果から言うとそうなってしまうね。一人だけならプログラムが厳し過ぎるって修正を求められたけど、二人とも出来た訳だしね。一定以上の演算能力があれば出来ると証明されてしまったら何も言えないよ」

 

 この会社で働いている者たちは湊とソフィアが桁外れの頭脳を持っていると知っている。

 専門ではない分野の話にもある程度参加出来る知識量に、コンピューターに引けを取らないレベルの演算能力も合わされば、ビーム兵器の軌道計算などそれほど難しくないのだろう

 ただ、ビーム兵器は二人にしか扱えなくても、複座式なら機体制御を担当する者が必要なはず。

 どうしてそっちもソフィアが担当しているんだと思った渡邊が質問をぶつけた。

 

「あれ? でも、それなら操縦士側は誰でも良かったんじゃないんすか?」

『見た目のつり合いがね……』

 

 渡邊の質問に対し、ビアンカと同じテーブルの社員らも同時に溜息混じりに答える。

 確かに渡邊の言う通り、飛行ユニットの操縦にコツは必要だがそれだけなら適性を持つ操縦士はそれなりにいた。

 だが、サークルメンバーには色々な派閥があるため、誰でも良いなら美男美女の代表と社長が正規パイロットで良いだろうとの意見が出てしまい。立候補する予定だった者たちも最強の機体には最高のパイロットこそ相応しいと思わず認めてしまったのだ。

 ここにいるビアンカとジーモも立候補する予定だった内の一人な訳だが、そんな彼女たちも今ではその選択が間違っていなかったと思えると笑って話す。

 

「まぁ、おかげで同人誌組には好評だったよ。二人をモデルにしたアーヴィルとゼスティナっていう美男美女の帝国最強パイロットってね」

「ほら、これがその画像よ」

 

 食事が終わったビアンカが隣にいた女性からタブレット端末を借りると、そこに湊たちをモデルにしたキャラのデザイン画を表示して学生たちに見せてくる。

 男であるアーヴィルはただの魔王だろという上質な黒い服を着ているだけだが、女性のゼスティナはパイロットスーツというより競泳水着の上から丈の短いジャケットを着ているような不思議な服装をしていた。

 しかし、確かにロボット物の女性用パイロットスーツにはよくある謎のエロデザインだと、食い入るように見ていた順平が頷きながら感想を述べる。

 

「おおぅ……帝国のパイロットスーツ、これめっちゃセクシーじゃないッスか。んで、男の方は支配者感すごいッスね」

「あ、それは専用衣装っていうか軍の物とは違う設定なの。レイヤーの子が実際に作ってもくれたんだけど社長たちは着てくれなくてね。本当に残念で残念で」

 

 ビアンカが端末を操作すると今度はレイヤーの人が作ったという衣装を着たマネキンの画像が表示される。

 野郎である湊の方はどうでもいいが、美人でスタイルの良いソフィアがパイロットスーツを着ている姿は見てみたい。

 画像を見せてもらっていた男子たちの心は一つとなり、湊の友人である綾時が先陣を切って会話を誘導していく。

 

「湊、社員の人たちが頑張ってるんだから労いも兼ねてサービスしてあげなよ」

「そうだぜ、有里。フェザーマンもやったんだから今更恥ずかしがることもないだろ」

「……いや、頼まれて一回だけは着たぞ?」

 

 くどいようだが湊のコスプレなど男子たちにすればどうでもいい。けれど、彼が着ればソフィアも一緒に着替えてくれるはず。

 そう思って順平が綾時の援護に回れば、食後に緑茶を飲んでいた湊がちゃんと一回は着たぞと返してきた。

 これには話を聞いていた社員たちも思わず立ち上がって驚き、一体いつそんな面白いことをと詰め寄るように尋ねた。

 

「え、代表、それワタシ聞いてないですよっ!?」

「僕も聞いてません! ていうか、いつそんな事を?」

「写真は!? 写真はないんですか!?」

 

 同人誌組かレイヤー組であろう女性社員が血走った目で迫れば、湊は相手の額に手を置いて遠ざけつつ静かに答える。

 それは衣装の他に同人誌やステッカーなど、サークルメンバーが自費で作った数々の品を渡された数日後の事だった。

 

「確か…………無理矢理に一式渡されてから三日後くらいか。同人誌を読み終わったソフィアが、アーヴィルの格好を見てみたいと社長室で言ってきてな。本人もゼスティナの格好をしてみるから一緒に着て欲しいと」

「え、二人でコスプレしたの? しかも、社長室で?」

「その時は別に仕事してた訳じゃないしな。普段、色々と無茶を言っている自覚もあるし。その程度の頼みをたまに聞くくらいはする」

 

 社長室で若い男女が二人きりでコスプレ大会をしたと聞いて女性陣の視線がやや冷たくなる。

 ただ、二人がその時いたのは社長室という名前で呼ばれている湊のEP社内での私室だ。

 本当の社長室はしっかりと存在し、そちらは重要な来客などがあった際に使う特別な部屋なので普段はほとんど使っていない。

 そして、お風呂やキッチンにベッドもあるような彼の私室でコスプレを楽しんだと聞いて、思わず下衆な勘ぐりをした渡邊がにやけながら湊に声をかけた。

 

「会長、コスプレしてそれで終わりっすか? 普段と違った衣装見て満足したんですか?」

「……お前らは下世話な話が好きだな本当に。邪推も甚だしいぞ」

「いや、だって若い男女が二人きりだったんでしょ? 普通に考えたらその後は……ねぇ?」

 

 もし自分がソフィアのコスプレ姿を見れば、その場で服を全パージしながらのダイブで襲いかかる自信がある。

 渡邊以外も数人似たような感想を抱いているようなので、本当に馬鹿しかいないなと湊が忠告しようと思えば、話を聞いていたソフィアが心の底から呆れた表情で口を開いた。

 

「衣装を着ている姿を見たいのに、脱がすような事をしては意味がないではないですか」

「え、でも、着ながらでも出来るって聞いたことありますけど……」

「服の材質によりますし、社員が是非受け取ってと贈ってくれた物をそのような形で汚しては失礼でしょう」

「はい。仰る通りです。すんません……」

 

 渡邊が言ったように普段と違った姿を見ることで燃え上がることもあるかもしれない。

 ただ、ソフィアは美しい物は美しいままに楽しむタイプであり、そこに色事を絡めるような頭の中お花畑ではなかった。

 昔の彼女を知っていれば、本当に丸くなったものだと感動すら覚えるところだが、当時の彼女を知っている青年は黙ってお茶を飲んでいる。

 この二人がかつては殺し合っていたと聞いても誰も信じないだろう。その変化をおかしく思いながら眺めていた綾時が、今の両者の関係性をもっと詳しく知りたいと思ってコスプレの話題に乗っかる形で話しかけた。

 

「湊は衣装とかで好きな物はないのかい? これを着ているソフィアさんが好きとかっていうのは」

「……特に考えた事は無いな。こいつの私服は基本的にドレスだけだし。逆に言えば何を着ても割と新鮮で、大概の物は似合ってる」

「まぁ、湊様には様々な制服姿を見ていただいているので、創作パイロットスーツも趣が違う程度のものでしたね」

 

 私服が基本的にドレスというのもツッコミどころだが、本物のお嬢様といった雰囲気で穏やかに笑うソフィアの言葉に引っかかる部分を覚えて、女性陣を中心に場の空気が張り詰めてゆく。

 そんな中でも青年はお茶を飲みながらどこからか取りだしたチョコレートをかじっているが、隣のテーブルにいた真顔のアイギスから説明を求める声が届く。

 

「……八雲さん? ご説明をお願いします」

「そのままの意味でしかないが?」

 

 説明も何も聞いた通りでしかない。

 ソフィアが様々な衣装を着て、湊はそれらを見てきただけの事だ。

 けれど、アイギスたちが求めている答えはそうではないと理解しているので、湊は指を鳴らすだけでお茶のお代わりを持ってこさせつつ言葉を続ける。

 

「私服がドレスばかりだった反動なのか。新鮮な気分になれるからとソフィアは割とコスプレ好きなんだ。俺は海外の色んな地域にいたし、EP社の中に企業向けの制服を作っている部門もある。だから、こいつは二人の時に何度か民族衣装や制服姿を見せてくる事がある」

「個人的なファッションショーのようなものです。基本的には見ていただきたいだけなので、あなた方が邪推しているような事はありません。まぁ、それとは別に夜になれば寵愛を頂くことは勿論ありますが」

 

 コスプレは単なる気分転換のファッションショーである。そう断言しておきながら、ソフィアはどこか挑発的に女性陣に薄い笑みを向ける。

 この場には湊と肉体関係を持っている者が数名いるが、夏以降は湊との間に溝が出来たためにそういった行為を行なっていなかった。

 しかし、常に湊側に立って彼のために動いているソフィアは、共に行動している事も多いため、それなりの頻度で肌を重ねていた。

 影時間を終わらせるための計画や、最終的に倒すべき敵の存在など、ソフィアは他の者が聞かされていない事を多く知っている。

 だからこそ、彼女は自分こそが最も彼に近い場所にいるのだとアピールした訳だが、楽しい昼食の時間が修羅場に変わる前に、湊はマフラーから取りだした記録媒体のディスクが入ったケースを後ろの席に放り投げた。

 

「……ジーモ、これをやる」

「おっと。……あの、これは?」

 

 急に投げられた事で驚きながら無事に受け取ったジーモは、ケースとディスクを様々な角度から見てみるも、その内容を表わすものはどこにも書いていない。

 中身を見ようとパソコンに入れたらパソコンの中身が初期化された、などという悪戯は御免被るため、その中身を教えて欲しいと青年の答えを待つ。

 ジーモと同じテーブルにいた社員たちの視線も集まり、学生たちも何となく湊に視線を向ければ、そのタイミングで湊は口を開いた。

 

「リヒターの実戦データを基に作った荷電粒子砲の補助プログラムだ。リヒターのような威力の調整は出来なくなる代わりに、照準に合わせてプログラムが機体と兵器の位置を微調整してくれる」

「つ、つまり、ビーム兵器を一般配備可能にするんですか?」

「MAP兵器から通常兵器になってしまうが、そういった認識で構わない。戦争はそろそろ次のステージに向かうべきだろう?」

 

 湊の説明を聞いたことでディスクを持っているジーモの手は震えていた。

 リヒターは火器管制の人間が環境データなどを入力することで、機体の持つエネルギーを上限に威力を上げることが出来る。

 だが、そういった細かな調整が出来なくなる代わりに、湊の作った補助プログラムを入れた機体はこれまでの銃火器のようにビーム兵器を使えるようになる。

 それは青年の言葉通り、戦争を次のステージへ強制的に進めるだけの力を持った代物。

 リヒターに搭載したビーム兵器のプログラムを組んだ者たちですら、まだそういった汎用兵器へ落とし込むことが出来ていなかっただけに、青年が組んだプログラムが正常に稼働するならサークルメンバーたちの考えたゲームの世界に衝撃が走る世紀の大発明になる。

 ジーモたちのテーブルにいた同人誌組の女性は、先ほどの湊の言葉を聞いてインスピレーションが湧いたのかメモ帳を取りだして何やら呟きながら書き込んでいる。

 

「そう。そうだったのね。アーヴィル様の目的は帝国による世界の支配ではなく、戦争の先にある人類の破滅を見ること。だから、彼は新たに帝国で開発されたビーム兵器のデータを共和国へ流し、戦争のさらなる激化を目論んだ。超越者であるが故にこの世に一切の希望を持っていない。だから、自分の手で世界を破滅へと誘導する。そんな彼の孤独を知っているゼスティア様は、己の無力を嘆きながら……」

 

 どうやら次々と新しいアイデアが浮かんでいるようで、同じテーブルにいる社員たちもサークルメンバーに連絡を取って、今日の仕事が終わってからにでもすぐ実験に移そうと話を進めている。

 十歳以上年が離れた大人たちのそんな姿に学生たちは唖然としているが、食事を終えたことで移動することにした湊が立ち上がりながら声をかけた。

 

「うちの会社はこんな風に社員たちがのびのび働けるようになっているんだ。夢を仕事にって訳じゃないが、好きな事で稼げるっていうのは心身の健康にも影響がある。お前たちも興味があってここへ来たなら、好きな事を仕事に出来ている大人の姿をよく見ておくといい。じゃあ、昼休みは残り三十分ある。時間になったらIDを受け取った場所に集合しておいてくれ。俺とソフィアはその間に午後の仕事の指示をしてくる」

 

 それだけ話すと湊はソフィアと共に食堂から去って行ってしまった。

 ジーモたちもサークルメンバーたちと話すことがあるからと去って行き、残された学生たちは湊の言っていた“好きな事を仕事に出来る”という言葉について考えながら、午後は一体何を見せて貰えるのだろうかと期待に胸を躍らせながら昼休みを過した。

 

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