【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第三百九十七話 路地裏の誓い

12月20日(日)

昼――ポートアイランド駅・路地裏

 

 他の者たちが悩んでいる頃、天田もまた同じようにどちらを選ぶべきか悩んでいた。

 天田からすれば綾時は一月ほどだが一緒に戦った仲間だ。

 湊と共に現われて、自分やその仲間を救ってくれた存在である。

 湊がただ一人の友人だと認めるだけあって彼に並ぶ実力を持ち、それでいて順平と一緒に馬鹿をするほどに仲が良く、湊と綾時を見て随分と対極な友達同士だと思った事を覚えている。

 そんな仲間だと思っていた相手がこれまで自分たちが戦って来たシャドウたちの王と聞かされた時には、まさかそんなと驚きを隠せなかったが、アイギスと対峙していた不気味な骸骨のシャドウの姿を見ていたためにそれが真実だと信じるしかなかった。

 仲間だと思っていた。実際に彼は自分たちを助け、彼にとっては同類であるはずのシャドウを何体も倒していたのだ。

 もし、彼が本当に人類に害為す存在であれば、人類に味方をして同類を狩ったりなどしなかったはず。

 それを思えば彼が美鶴に言っていた、彼個人に敵対の意思はないが彼に与えられた役目がそれを許さないという言葉は信じて良いのだろう。

 

(……有里先輩でも勝てない存在に、僕たちがどう足掻いたところで意味なんて)

 

 駅前の花屋で仏花を買ってきた天田は、以前母と一緒に住んでいた場所を目指してポートアイランド駅の路地裏を進んで行く。

 普段ならば小学生一人で歩くには物騒な場所であったが、今は日本全国だけでなく海外でも無気力症の人間たちが増えている。

 路地裏でたむろしていた若者たちの中にも、恐らく無気力症となってしまった者がいたのだろう。ここ最近はこの辺りでたむろする若者の姿を見かけなくなった。

 誰も立ち寄らなくなった事で以前にも増して寂しく見え、どこか世界から切り離されてしまった印象まで受ける路地裏。

 そんな場所を今にも雪が降りそうな曇天の下、首に巻いたマフラーを口元まで引っ張り上げて白い息を吐きながら天田は進む。

 勝てるのなら、戦う事が出来るのであれば、天田だって諦めずに立ち向かうと決意する事が出来た。

 しかし、綾時と湊は言った。ニュクスは戦ってどうにか出来る相手ではないと。

 あの二人が揃って嘘を吐くはずがない。人類の未来について嘘を吐く理由もない。

 であれば、彼らの言葉に嘘はなく、ニュクスという神にはどうあっても勝てないのだろう。

 

(死んだらどうなるのかな。有里先輩の話だと、死後の世界が実在するらしいけど)

 

 目的の場所に着いた天田は買ってきた花をそこへ置き、地面に膝をついて亡き母に向け手を合せた。

 母親の死が居眠り運転のトラックによる事故だとされたとき、天田は絶対に真実を突き止めると心に決めた。

 おかげで親戚からの支援もあって巌戸台に残る事が出来、数年越しに真相に辿り着く事が出来た。

 敵から事件の真相、そして真犯人の情報を聞くとは思っていなかったが、天田は憎しみだけに囚われる事なく少しだけ前に進む事が出来た。

 それは、同じく天田の母親の命を奪った事で罪の意識に囚われていた荒垣を救う事にも繋がった。

 天田にとって荒垣は親の仇でもあったが、同時に自分を助け導いてくれる存在でもあった。

 先に母親を殺した犯人だと知っていれば憎しみだけで動いていたと思うけれど、そうはならずに彼への恩を感じている状態で真犯人だった事を聞き、他の仲間たちの事も考えて条件付きで“赦す”事を選べた。

 もっとも、それらは全て有里湊が敵の罠にはまって死んだ事で、何とも後味の悪い形に終わってしまうのだが、自分も死ぬのだと言われた事で天田は改めて死んだ母や死後の世界について考えるようになっていた。

 死は怖い。大切な母を失って絶望していた時以外では死にたいと思った事などない。

 そこまで分かっているのなら、後はもう戦うしかないはずだ。それは少年も分かっている。

 ただ、絶対に勝てない存在という言葉が重くのしかかって来て、少年は立ち上がり進む事が出来ずにいた。

 

「天田か?」

「……荒垣さん?」

 

 自分の名を呼ぶ声が聞こえて振り向けば、そこには少し驚いた顔をした荒垣が立っていた。

 特別課外活動部に復帰してから彼はもうここへは出入りしていないはず。

 ここへ来ていたのは天田の母を殺めた事に対する罪悪感から、どうしても逃れられる事も目を背ける事も出来なかったからだ。

 天田と関わって行く事、向き合っていく事を決めた荒垣が今更ここに何の用があると言うのか。

 振り返った状態から立ち上がった天田は、どうしてここへ来たのかと相手に尋ねた。

 

「こんなところへどうしたんですか?」

「……多分、お前と似たような理由だ。分からなくなって、だから確かめたくなった」

 

 自分と似たような理由だと言われて天田は心臓が跳ねたような感覚を覚える。

 天田がここへ来たのはどちらを選ぶべきか迷ったからではあるが、死ねば母に会えるのではと母の存在を求めて彼女が死んだ場所に足が向いてしまった形だ。

 もし、本当に悩んで母に相談したかったなら墓参りしていたはずなので、無意識に死ぬ事を肯定している後ろ向きな考えを読まれてしまっているのではと不安に思い。天田は今の正直な気持ちを荒垣に伝えた。

 

「正直に言うと僕は怖いんです。すごい敵ってだけならこうは思わなかったと思います。でも、有里先輩と綾時さんが揃って勝てないと言った相手です。そして、世界中の命と一緒に自分も死ぬって言われて、どうしたら良いか分からなくなりました」

「死ぬのが怖いなんて当たり前だ。俺たちは実際に死ぬような目にも遭ってる。他のやつよりその分リアルに想像出来ちまう。そう思っても何もおかしかねえ」

 

 死を恐れるのは当然の事だ。そも、死と向き合う事でペルソナを呼び出しているペルソナ使いは、他の者たちよりも死を身近に感じやすいだけあって自身の死も想像しやすい。

 天田は自分の母親が殺される場面を見ていた事もあり、さらに死をイメージし易い状態にあったのだろう。不安で考えが纏まらなくなっても何も不思議ではない。

 そう伝えた荒垣は上着のポケットをあさると錠剤の入った小さな小瓶を取りだした。

 見た感じでは薬のようだが、天田は相手が何かの持病を持っているとは聞いておらず、それが一体何の薬であるか予想もつかない。

 ただ、この場面で見せてきたからには何か重要なものなのだろう。考えても分からない天田は素直にそれを尋ねた。

 

「それは何ですか?」

「ペルソナの制御剤だ。適性が足りていない、精神的に不安定、そういった理由でペルソナを上手く制御出来ないやつが服用する事でペルソナの暴走を防ぐ事が出来るようになる」

 

 自分の母親の死の原因を知る際、ペルソナが暴走する理由やそれを防ぐ手段があるという話は聞いていた。

 実物を目にするのは初めてだったが、一度暴走事故を起こした荒垣が保険として制御剤を持っていてもおかしくはない。

 けれど、ここでそんな物を見せた理由が分からず、天田が黙って話を聞いていれば荒垣が続けて語る。

 

「けど、ペルソナなんて人間からすりゃ過ぎた力だ。それを力のないやつが薬に頼って制御しようとするなら当然無理をする必要がある。一回や二回なら分からねぇが、これが必要なやつは定期的に飲むだろう。そうすりゃ、身体の内側から壊れていって十年も持たず死ぬらしい」

「まさか、それを飲んでいたんですかっ!?」

 

 ペルソナの暴走を防ぐことと引き替えに、自身の身体を蝕み寿命を減らす劇薬。

 そんなものを荒垣が飲んでいたと聞いて天田は驚きに目を見開き、どうしてそんな事をしてしまったのかと思わず問う。

 

「どうしてそんな事をっ」

「安心しろ。これは偽物だった。有里が死んだ後にラビリスから聞いたんだが、俺が罪の意識から自分の命を絶たないよう有里が罰として用意したものらしい。中身はただのサプリメントで、それに少量の血圧上昇の薬や血糖値が下がる薬を混ぜたものって話だ」

 

 荒垣が寿命を削る薬を飲んでいたと思って驚いた天田だったが、それが偽物であったと説明され、思わず胸に手を当て安堵の息を吐く。

 少年を驚かせてしまった本人は相手の素直な反応に小さく笑うも、これは自分にとってあるものの象徴なのだと語った。

 

「……お前からすればただの逃げだって思えるだろう。実際、俺は緩やかな死を選ぶ事で罰を受けている気になってた。混ぜられた少量の薬で出る体調の変化で副作用を実感して、これでいつか自分も死ぬんだってそれに救いを感じていた」

 

 そう。これは荒垣にとって罪から逃げた証。

 一人の人間の命を奪った罪の重さに耐えかね、裁かれる事を望んだ結果に辿り着いた一種の免罪符。

 

「あん時は誰も俺を責めなかった。まぁ、あれは気を遣ってくれてたんだろうが、自分の意思じゃなかろうと人殺めておいて、ただの事故だなんて思い込めるほど俺は図太くなかった。だからこそ、ストレガや有里が真っ当に罪人として見てくれて、こういう形で罰を与えてくれた事で俺は正気でいられたんだ」

 

 仲間たちは事故だと、荒垣のせいではないと言ってくれた。

 それは荒垣自身が罪の重さに潰れてしまわぬよう気を遣ってくれていたのかもしれないが、荒垣自身はそれが重い罪だと分かっていただけに、誰も責めない事が逆に苦しくてしょうがなかった。

 その点だけで言えば、言葉は厳しくともただの人殺しだと言ってくれた湊やストレガの存在の方がありがたかったほどである。

 あの時の荒垣は自分の存在を肯定されたかった訳じゃない。

 罪は罪だと正しく認められ、罰を受ける事で罪を清算した事になり、そうして自身のした事を許されたかったのだ。

 だからこそ、自分を正しく罰してくれる“制御剤”は荒垣にとって何よりの救いだった。

 ペルソナが暴走する危険を抑えるだけでなく、寿命を減らしてまでそうしているという形を取る事で、自分が贖罪しているという実感を持てた。

 だが、満月の日に天田と交わした会話によって考えを変える事が出来た荒垣にとって、もしこれが本物であったとしても今更飲むつもりはないのだと告げる。

 

「俺は臆病な卑怯者だ。ずっと逃げ続けて、隠れ続けて、自分の罪から逃れられなくなってようやくお前の前に出てくるようなクズだ。でも、だからこそ、ここでお前とした約束は守りたい」

「怖くないんですか? 勝てないって分かってるのに、どうやっても死ぬ事が決まってるっていうのに」

「怖いさ。けど、寿命がある以上そもそも死なない人間なんていないって開き直ってみた。なら、何もせずに最後を迎えるのとやってみたけどダメだったで、どっちの方が後悔が少ないかで選ぼうと思えたんだ」

 

 荒垣だって死ぬのは怖い。制御剤を飲むのも躊躇って、罪を犯してから緩やかな自殺としてようやく飲めるようになったくらいに死を恐れている。

 だが、それは生物として正しいものであり、それを踏まえた上で自分がどうしたいかが重要なのだと考えるようになった。

 そうして、開き直りの末に戦う方を選べた事を天田に話せば、天田は一瞬きょとんとした顔してすぐに笑い始める。

 

「あははっ、あはははっ! すごく意外です。でも、良いですね。なんかそれ真田先輩っぽい考え方です」

「やめろ。あんな脳筋と一緒にすんな」

「でも、後輩たちには人気ありますよ? 強くて格好良いって。あ、美紀さんの事を除いてですけど」

「ありゃ一種の病気だから気にすんな。一応、有里の事があって昔より軟化はしてる」

 

 開き直るという考え方もあるのだと知った天田は、ここへ来た当初とまるで違った明るい顔をしていた。

 それを見た荒垣はもう大丈夫だと安心したように小さく口元を歪める。

 

「荒垣さん、僕も決めました。だから、一緒に頑張りましょう」

「ああ、よろしくな」

 

 二人には果たすべき約束がある。それを終えるまではどうあっても死ねない。

 だからこそ、自分たちは戦って生き残るのだと決意をあらたにその場を立ち去り、帰りに昼ご飯でも食べていくかと揃って商店街の方へ向かったのだった。

 

 

夜――EP社

 

 影時間も終わり、街の明かりも徐々に減りつつある頃。湊は自分用に作った作業部屋で武器の様子を見ていた。

 以前作った二振りの刀、黒刀と白刃は彼が名切りの技術を使って作った試作品だった。

 あれはあれで十分な性能を持っており、既に失われている技術も多数使われているため武器としては最上級のものと言える。

 しかし、一度武器を作った事で打ち方を覚えた湊にすれば、しっかりと素材の選定からすればさらに高品質な武器を作れるという確信があった。

 黒刀と白刃は九尾切り丸の持つ機能の一部を備え、巨大な超重量剣よりも取り回しが良いものをというコンセプトで作られたものである。

 その備えた機能というのは、使い手や切った対象の力を一部吸収するという妖刀めいたものであるが、その力を持っているからこそ九尾切り丸は敵を倒すほど成長し、今ではその波動だけでシャドウらを屠れる神器に到っている。

 流石にダウングレードした機能を備えた黒刀と白刃ではそこまでの力は持てないが、湊のように高い適性を持った者が使えば対シャドウ特化の近接武器として絶大な力を発揮する事が可能だ。

 だが、いくら取り回しが良くなり、現時点で十分な力を持っていたとしても、さらに上を目指せると分かっていて放っておくほど青年も適当な性格ではない。

 刀やナイフを集める事を趣味にしている湊にすれば、どうすれば九尾切り丸の力に追い付けるか研究して当然だった。

 

「湊様、それで新しい武器は完成ですか?」

「……そうだな。現時点じゃこれ以上は難しいだろう」

 

 ソフィアに話しかけられた湊は頷いて鞘に納めた刀を台の上に置く。

 二人の前にある作業台の上には既に組まれた状態の二振りの刀が置かれている。

 どちらも以前打った黒刀と白刃に似ているが、刀身が僅かに伸びて分類が打刀から太刀に変わり。刀幅も五ミリ増やして、厚みも一ミリほど厚くしてある。

 それだけ変わると武器の取り回しは完全に別物と言っていいのだが、様々な武器を使ってきた湊にすれば全ては慣れなので問題ないらしい。

 刀身の色は以前と同じく黒と白。鞘や柄糸も刀身に合わせた色で統一されているが、鍔だけはどちらも植物をモチーフにした金色の物に変わっている。

 その事に気付いたソフィアは触れる許可をもらってから手に取って実際に見てみる。

 

「今回は色を統一されていないのですね。以前は武器としての機能にばかり目を向けていた感じでしたが、このようにワンポイントあるだけで芸術性も増したように思えます」

「まぁ、武器作りは一区切りって意味で付けただけだがな。現時点での最終形、完成品って事で差別化しただけだ」

 

 今回も素材には無の武器を溶かした金属を使っている。

 しかし、それだけでは理想の切れ味に届かないと判断して、湊はベレスフォード家の力を借りて様々な種類の金属を取り寄せた。

 九尾切り丸に使っていたようなレアメタルは勿論、一般的に流通している金属を使うにしても地球産の物ではなく隕石に含まれている物を使うなど、素材の時点からかなり拘った事もあって一振り作るだけで馬鹿げたコストが掛かっている。

 だが、そうやって拘り続けた甲斐もあって、出来た刀は湊が納得出来るだけの切れ味と強度に加え、九尾切り丸と同じ機能を再現する事が出来た。

 

「妖刀と化した九尾切り丸と同じエナジードレインが可能との事でしたが、こうして見ている限りでは発動しないのですね」

 

 九尾切り丸の最大の特徴は対象の力を吸収して武器自体が成長するエナジードレイン機能。

 以前作った黒刀と白刃も限定的にその力を再現して付けていたが、武器自体の性能が上がるほどではなかった。

 その点、今回はそこにも拘って武器を作ったので、本当であれば同じようにエナジードレインが使えるはず。

 見ていた武器を作業台の上に置いたソフィアがそれを尋ねれば、ベルトに付けたアタッチメントに鞘を固定して装備した湊が刀を抜きながら答えた。

 

「その機能は正しい使い手が持たないと発動しない」

 

 そう言って湊が左右の手に黒刀と白刃を持って構えると、黒刀は赤い光を纏い、白刃も青い光を纏いだす。

 どうやらエナジードレインを使って湊の力を吸収しているようで、光を纏った刀身の輝きも増しているように見える。

 以前の武器では黄昏の羽根と同じ光を淡く纏っていただけなので、光の色と強さが変わった今回の方がより強力になったと言えるのだろう。

 作業台から離れた場所で赤と青の光を纏った武器を軽く振って調子を確かめた湊は、武器の振り心地に満足したように刀を鞘に戻す。

 戻ってきた湊はいつもの無表情ながら、雰囲気だけ嬉しそうに見えた事でソフィアも嬉しくなって彼を労った。

 

「満足のいく出来だったようでおめでとうございます。光の色と強さを見るに以前とは完全に別物のようですね」

「あっちも普通の武器としては破格の出来だがな。まぁ、成長する武器と比べる方が間違いだ」

 

 九尾切り丸と今回の武器は敵の力だけでなく湊の力も吸収して成長出来る。

 正しい使い手が湊しかいないので、自動的に彼の力を吸い続ける事になり、使えば使うほど妖しや化生に対しての干渉力が増していく。

 いずれは九尾切り丸のように振るって波動を放つだけでシャドウを殺せるようになるだろう。

 その時が来るのは随分と先になると思われるが、こうして満足のいく武器が出来たのなら名前もしっかりと決まっているのだろうかとソフィアは質問する。

 

「今回の武器はどのような名前をつけるのですか?」

「あくまで改良版だから、以前と同じ黒刀と白刃でも良いんだがな」

「それは少々味気ない気もします」

「そうか? なら、纏う光の色に合わせて、黒刀真打ち“前鬼”、白刃真打ち“後鬼”で良いだろう。先祖みたいに花の名前にする気にはならないしな」

 

 説明しながら鞘に入ったままの刀に赤い光と青い光を再度纏わせて見せる湊。

 赤鬼である前鬼と青鬼である後鬼は、鬼の名としては酒呑童子や茨木童子に並ぶほど有名なものだ。

 刀の纏う光と色が一致しており、腰の左右にそれぞれ刀を装備するという変わったスタイルの青年にすれば、左に前鬼で右に後鬼という風に立ち位置も決まっているのも覚えやすい。

 シャドウのような化け物を相手にする時にしか武器は使わないので、それくらい安直な名前で良いだろうと湊が言えば、どこからか出した手帳にメモしながらソフィアも頷いて返す。

 

「とても良い名だと思います。来たる決戦の前に完成して良かったですね」

「まぁ、研究自体はしてたからな。先祖の時代にはなかった金属もあって、それを含めた種類と配合比率さえ決まれば作業自体は難しくなかった」

 

 アタッチメントから外した刀をマフラーに仕舞いこみ、メモを終えて立ち上がったソフィアを連れて部屋を出て行く湊の表情は随分と晴れやかだった。

 何があろうとニュクスと戦う気でいる青年にとって、他の者たちがどちらを選ぼうとやる事は変わらない。

 そのための準備を着実に進め、今日もまた一つの成果を出した青年は残る時間も有意義に使うべく気を引きしめると、他の準備の進捗状況を聞くため研究区画に向かって部屋を後にした。

 

 

 


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