【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百十話 神頼みと運試し

午前――長鳴神社

 

 滅びの訪れまで一ヶ月。

 とはいえ、ニュクスに抗うと決めた特別課外活動部と助っ人を務めるメンバーたちの中に、そのプレッシャーに負けて引き籠もるような者はいない。

 影時間の適性を失いながらも、幼い八雲のかけた暗示によって記憶を取り戻した美紀でさえ、彼らから事情を聞いてから自分も手伝える事があれば何でもすると共に戦う覚悟を決めていた。

 子どもでありながら数々の修羅場を潜ってきた彼らの決意には頼もしさを感じる。

 だが、そんな彼らも新年を迎えたばかりの今日くらいは新たな年の幕開けを祝いたい。

 また、今後の戦いは自分たちの力だけではどうにもならない部分も出てくるかもしれないので、普段は存在するかも不明な神には祈らない真田ですら、あやかる事が出来るのなら神頼みで運を味方に付けられたらと考えていた。

 そうして、着付けがあるからと女子たちはラビリスのマンションに集合し、男子たちだけが先に神社の鳥居の前で待っていれば、元旦にしては人通りのほとんどない住宅街を通って華やかな集団が現われた。

 

「おっすおっす、お待たせっ!!」

「うーっす。ってか、すげぇ集団だなー。お世辞抜きに光ってるエフェクトが見えるわ」

「本当だね。新年早々、こんな素敵な光景が見られるだなんて幸先がいいや」

 

 橙色の着物姿で登場した七歌の後ろには、黒い着物姿の美鶴、赤い着物姿のゆかり、薄水色の着物姿の風花が立っている。

 さらにその後ろには桜色の着物姿のアイギス、黄色い着物姿のチドリ、紫色の着物姿のラビリス、青い着物姿の美紀、しめ縄を巻いたコロマルが並んでいた。

 色とりどりの着物に身を包んだ十人近い集団だけでも目立つというのに、ここに来たメンバーは誰も彼もが非常に見目が整っている。

 オマケに土佐闘犬のようにしめ縄を巻いたアルビノの柴犬まで一緒にいれば、目を奪われない方が難しいというものだ。

 普段は快活なオーラ全開の七歌も、発した台詞は別にしてその姿は大和撫子然とした艶やかさがある。

 順平は顎に手を当ててじっくりと眺め、綾時は写真を撮っても良いかなとカメラを手に持つ。

 そんな二人の後ろでは真田と荒垣が妙にソワソワしながら女子たちを見つめ、天田も少しだけ頬を染めて年上の女性たちに見とれていた。

 オヤジ臭い順平の反応や、コミュニケーション能力が高く純粋さの見える綾時はともかく、先輩であるはずの三年生二人の方が女子慣れしていない反応なのは如何なものか。

 そういった部分に敏感な女子たちは三年生二人の残念さに感づきながら、新年早々にそういった事を指摘するのも野暮かと大人な対応で流した。

 ただ、よく見れば集まる予定のメンバーが揃っていないことに気付き、あと一人はどうしたんだとアイギスが尋ねた。

 

「皆さん、八雲さんはまだ来られていないのですか?」

「あぁ。というか、あいつも来るのか? 誘ったとは聞いたが、俺たちが送った新年の挨拶メールにもまだ返信がないぞ?」

 

 アイギスの質問に真田が答えて返信がない証拠として携帯のメール画面を見せる。

 確かにそこに湊からの返信メールは存在しておらず、彼の周りにいた男子たちも同じように頷いている。

 けれど、それに対して女子たちは不思議そうに首を傾げると、持っていた巾着袋から携帯を取り出して一通の返信メールを開いて見せた。

 

「集合時間と場所を伝えるメールを送っておきましたが、三十分ほど前に“わかった”とだけですが返事がありました」

「私たちも同じように連絡をしていたが、同じタイミングで返事が来ている。まぁ、一斉送信機能で返事をしたようだが、とりあえず来る気ではいるらしい」

 

 女性陣と綾時からほとんど同じ内容で連絡を受けた湊は、返事を返すつもりにはなっても面倒に思ったようで、ただ一言だけの返事を一斉送信で返していた。

 どうしてそこで綾時を対象から外したのかは不明だが、とりあえず来る気でいることが分かったなら待っていようという事になる。

 湊は年越し前の歌番組に出て仕事をしていたので、疲れて眠っている可能性もあると思っていた。

 しかし、集合時間の三十分前に連絡が来たのなら、起きてから準備をしてこちらに向かっているのだろう。

 急に集まる連絡を入れたので多少遅れてもしょうがないと、集まった者たちで新年の挨拶を済ませて雑談していれば、集合時間から十分ほど遅れて法定速度を完全に無視した一台のバイクがやってきた。

 住宅街で何という速度を出しているんだと唖然としている間に到着するバイク。

 そこから降りてヘルメットを脱いだ青年は、首に巻いていたマフラーを解いて中にヘルメットを放り込むと、続けて巨大化させたマフラーでバイクを覆って収納してしまう。

 もし、彼を追いかけてパトカーがやって来たとしても、ナンバーを控えられるというヘマをするとは思えないため、証拠になるバイクが存在しない事から逃げ切り勝利になりそうだ。

 元旦の内から何を馬鹿な事をしているんだと呆れつつ、両手に持ったマフラーを元のサイズに戻している青年に全員で近付く。

 そして、自分が最初に彼に挨拶するんだとアイギスと七歌が他者より一歩先へ踏み出した時、普段はマフラーで隠れている彼の首筋に小さな内出血の後がある事に気付いた。

 よく見ればその近くには別の小さな傷もあって、後からやってきた者たちもそれに気付いたのか男子たちは呆れ顔、女性陣は白い目を彼に向けた。

 だが、当の本人はそんな他の者たちの反応に気付いていないのか、バイクの収納を終えると元のサイズに戻ったマフラーを巻き直し、満足のいく仕上がりになるとポケットに手を入れてやる気の無い目を正面に向けた。

 そこでぶつかる視線と視線。一方は集団でもう一方は個人だが、個人の方は特に何も考えていないのか集団の視線に込められたものを受け流す。

 男子たちはよくそれを受け流せるなと感心するも、受け流された女子たちにしてみれば眼中にないと言われているようで気分は良くない。

 もっとも、女子たちに五月蝿く言われると分かっていれば、湊はその対処に多少の労力を割くくらいはしてくる。

 今回の場合は小さな怪我が目に付く限り二箇所なので、ツクヨミを召喚して回復スキルを使うまでもなく肉体を活性化させて自動治癒の力を使えば消すことが出来ただろう。

 それをして来なかったという事は、恐らくだが湊は自分の首筋に情事の証拠となる痕が残っていると気付いていない。

 となれば指摘しない限り彼は女子たちの視線の意味を理解しないはずなので、一同を代表してチドリが自分の首に触れるジェスチャー付きで彼に声をかけた。

 

「……はぁ。八雲、首筋に不快な痣が残ってるわよ。そんな痕をつけて重役出勤なんて偉くなったものね」

「……痣?」

 

 言われて何の話だと不思議そうにする湊。

 やはり、彼はそんなものがあるとすら認識していなかったようだが、巻いたばかりのマフラーを解き、そこから鏡を取り出すと言われた場所を映して見ている。

 鏡を使えば簡単に分かるくらいに一部だけ色が変わっているので、湊もそれが何であるかはすぐに分かったようだが、鏡をマフラーに収納しながら眉を顰めた彼は僅かに不機嫌そうに舌打ちをすると小さく呟いた。

 

「……チッ、あの女」

「こっちにしてみれば目の前の屑の方が不快なのだけど? 新年早々にそんな事していながら、待ち合わせに遅れるってどういう了見よ」

「お前たちからのメールよりこっちが先だ。来て欲しいならもっと早く伝えてこい」

 

 湊は言葉を返しながら自動治癒を使ったのか傷と痣はすぐに消えた。

 それを目の前で見ていた方にすれば便利な身体だと思ってしまうが、彼の言葉が随分と偉そうだったので、彼に強く出られるメンバーが目を細めて反論する。

 

「そもそも、湊君がテレビ出るって聞いてへんかったからな。歌番組一つなんか深夜帯とか朝からの番組にも出るんか分からんくて、連絡が遅れてしもうたんよ」

「とりあえず送っておけば時間が出来たタイミングで見るし、ダメならダメだと返事もする。あと、サプライズゲストは知人にも基本的に出演を教えられない決まりがある。まぁ、桜さんとおばさんには出ると伝えていたがな」

 

 出演することが分かってしまえばサプライズ感が薄れてしまうため、湊と柴田の出演は番組製作側を除けば極限られたメンバーにしか伝えられていなかった。

 ただ、桜と英恵は湊の出演する番組は全て録画するタイプなので、録り逃せば文句を言われるだろうとこっそり伝えておいたが、どうやら二人は湊との約束を守って他の者には話さなかったらしい。

 昨夜は桜と一緒に実家にいたチドリ、英恵からしっかり録画したというメールを貰っていた美鶴の両名は、どうして母親たちがバッチリ録画出来ていたのか理解し、途端に表情が何とも言えないものに変化する。

 他の者にしても番組側との契約で伝えられず、それでも保護者にはちゃんと伝えていたこともあって、これ以上それを責めるのはお門違いかと悟る。

 とはいえ、世界の滅びまで残り一ヶ月を切った。これから気を引き締めていかねばならないという状況である事は間違いない。

 そんな時にお前は何をしているのかと。年明け早々にどこの誰と何をしているんだと、たるんでいるメンバーに注意することは間違っていないだろう。

 腕を組んで真剣な表情をしていた七歌は、そういった思考で自身の正当性を確立して湊に声をかけた。

 

「八雲君、これから一ヶ月後には戦いがあって、私たちはそこに向けて意識を高めていかなきゃいけないと思うの。そりゃ、常に気を張っていろとは言えないし、未来に目を向けるなら恋愛もありだとは思うけど、しばらくはそういう不純異性交遊は自粛して欲しいかな。ってことで、ソフィアさんにも伝えておいてくれる?」

「……何でソフィアが話題に出てきたのか分からないが、まぁ、伝えておこう」

 

 年が明けてからはまだソフィアに会っていないが、ラビリスと暮らしていたマンションにはしばらく帰っていない湊にとって現在の住居はEP社という事になる。

 ニュクスとの戦いについて伝えている事もあって、ソフィアもしばらくは日本に滞在して青年のサポートをするつもりだ。

 よって、初詣が終わってからEP社に戻れば顔を合せることになるだろうと、湊は七歌からの言葉を伝えると了承した。

 しかし、そんな彼の返事を聞いて今度は他の者たちが首を傾げた。

 湊とソフィアが公私で一緒にいる事が多いと知っていたため、彼の姫始の相手もどうせソフィアだろうと思っていた。

 だというのに、今回のキスマークの話の流れから七歌がソフィアの名前を出せば、湊はどうして唐突にソフィアの名前が出たんだと不思議そうにしている。

 そうなってくると話がややこしい方向に行くぞと察した男子が僅かに距離を取り、直後にアイギスがストレートにキスマークを付けた相手について尋ねた。

 

「ソフィアさんではないのですか?」

「立場を弁えてるあいつがわざわざ痕なんて残すはずないだろ」

「じゃあ、一体どなたが?」

「柴田さやかだ。恋愛未経験の処女はこういうところで面倒くさい。すぐに彼女面して人を束縛したがる。今朝も責任取れと五月蝿かったからな。仕事では尊敬も出来るが、プライベートでは欠片も尊敬出来ないタイプだ」

 

 突然出てきたビッグネームに全員が目を見開いて驚く。

 加えて、簡単に名前を出したが世間に知られれば新年早々とんだスキャンダルだ。

 彼の口ぶりでは関係を持ったのは今回が初めてのようだが、どちらにせよ世界の滅びまで一ヶ月を切ったタイミングでよく相手を増やせるなと、距離を取っていた荒垣たちから呆れ気味に声が上がる。

 

「お前、その発言も大概屑だぞ。つーか、アイドルのスキャンダル簡単に話してんじゃねぇよ」

「マジかぁ。うわ、なんかマジで何だこれ。言いようのない喪失感と有里への殺意が湧き上がってくるんだけど? つか、確かに二人の共演多かったけど、サーヤとマジでそういう関係になるとか無しだろぉ」

「小学生の天田やこいつらと違って穢れていない美紀もいるんだぞ。少しは気を遣おうとは思わんのか」

 

 真田の口にしたこいつらとは美紀を除いた女性陣の事だが、正確に言えば美紀を含めた四人が未だ純潔を守り、残りの四人が彼女たちの前に立っている下衆に純潔を散らされている。

 なので、美紀以外の全員を穢れているというのは言い過ぎであり、言った直後に美鶴から絶対零度の視線を向けられ、瞳孔の開いた七歌に胸ぐらを掴まれて真田は怯えていた。

 妹の美紀は失言をかました兄の方には一切視線を向けず、トップアイドルと肉体関係を結んだ青年の方を見ている。

 他の女性陣もほとんどはそちらを見ており、いくら下衆と言えども彼に想いを寄せてしまっている少女としては今後が気になるのか、再びアイギスが代表して柴田との関係について質問する。

 

「八雲さんは柴田さんとお付き合いされるのですか?」

「その気はない。昨日は相手が期待していたから抱いただけだ。身体の関係は続けてもいいが、他のやつとも付き合う気はないから安心していい」

「個人としては喜ばしい事ですが、同性目線ですとそれもどうかと思うであります。無責任はよくないであります」

「最初から付き合うつもりはないと言ってるから大丈夫だ。愛する事もないとも伝えてる。抜かりはない」

「恋愛方面の知識に疎いわたしでも、その理論は穴だらけだと分かりますが?」

 

 最初からお前とは遊びだと告げていると堂々と説明されても、同性である少女たちにしてみれば相手の女性への同情心しか湧かない。

 アイギスだけは困った人だと苦笑で済んでいるが、他の女性陣が軒並み白い目で青年を見ていれば、ここで無駄話を続けてもしょうがないと切り替えたゆかりが手を叩いて全員の注目を集めた。

 

「さて、女の敵も合流した事だしお参りしちゃおうか。あ、人間の屑って神聖な境内に入れるのかな?」

「アイギス、見てみろ。屑に初めてを捧げた馬鹿が四人もいるぞ」

「狭い範囲のコミュニティーでヤンチャし過ぎではと思わなくもありません。あと、その言い方ですとわたしも馬鹿の妹になるのですが?」

「ダメな姉を持つと苦労するな」

 

 自分より下の存在に煽られれば即座に切り返してみせる。今年も湊の煽りスキルは中々にキレていた。

 けれど、突然流れ弾を喰らった者にすれば、やはりこの男はここで始末した方が世の女性のためではという思いが胸の奥から湧き上がってくる。

 普段は温厚な風花でさえ瞳の奥に危険な光が宿り、危険を感じた男子たちはまだ胸ぐらを掴まれている真田を除いて全員が境内の方へと移動した。

 一部のメンバーが移動すれば、他の者たちも集団行動として移動を始める。

 その際、女子たちは湊に命拾いしたなと侮蔑の視線を送ったが本人は気にせず受け流していた。

 移動したメンバーたちはそれほど長く石段を登り、鳥居を潜る際に一礼してから境内へと足を踏み入れる。

 参拝客を狙った出店もいくつか出ているが、正月の午前中にもかかわらず参拝客は少なく、これも無気力症拡大の影響かと思ってしまう。

 だが、自分たちが戦う事で今の状況を解決することが出来る。ここでくよくよしていてもしょうがないと切り替え、全員で賽銭箱の方へと移動すると財布から小銭を取り出して投げた。

 その際、湊が指で弾いた五百円玉が弾丸のように飛び、あまりの威力に賽銭箱に突き刺さるというアクシデントもあったが、賽銭箱の修理代としてマフラーから百万円の札束を四つほど取り出して放り込んでおいたので問題はないだろう。

 自分の実家が儲かった事にコロマルも喜んでおり、コロマルが良いなら良いのだろうと全員が流すことに決めて祈る。

 そして、全員が顔をあげたことを確認した順平は、じゃあメインイベントに行くかと神社の右奥へと歩き出した。

 

「よーし! んじゃあ、新年最初の運試しといきますか! 皆さん、百円玉を用意して続けていくぞぉ!」

「フフッ、おみくじは京都以来だけど、初詣のおみくじは初めてだからワクワクするよ」

「ここはやっぱり良い結果を出して戦いへの弾みにしたいですね」

 

 今年一年の運勢を占うおみくじを楽しみにしている綾時に、今後の戦いに向けて気合いが入っている天田が良い結果を目指しましょうと話しかける。

 この神社ではおみくじの機械に百円硬貨を入れてレバーを下ろすと、おみくじが一つ出てくるというタイプになっている。

 おみくじ自体は外側が分厚くなっているので、拡げてみないと中に書かれている内容や色も分からない。

 故に、ここで一つ勝負だと男子たちが密かに盛り上がっている中、ラビリスが代わりに引いたコロマルの分を含めて全員がおみくじを手にすると、全員で一斉に拡げて今年の運勢を占った。

 そして、結果はと言うと七歌、順平、綾時、天田、美鶴、コロマルが誇らしげに自分のおみくじを他の者に見せた。

 

「いえーい、大吉やっふー!!」

「オレっちも大吉だぜ!」

「僕も大吉だったよ。恋愛運が良いって書いてあるね」

「良かったですね。僕も願い叶うって良いことばっかり書いてました」

 

 最初に誇らしげに見せたメンバーたちは全員が大吉だった。

 この人数で六人も大吉が出るなど非常に珍しいと言えるだろう。

 だが、大吉でなかったからと言って悪い事が書いてあるばかりではない。

 惜しくも大吉は逃したが中吉を当てて、それなりに良いことが書いてあったと残るメンバーたちも結果を報告した。

 

「なんだ。お前たちも中吉だったのか。俺は学問が良い結果に結び付くらしい。受験を控えている身としてはありがたいと言っておくべきか」

「今年は引き分けだな。まぁ、全体的に悪くねぇ内容だし。神頼みは成功ってとこか」

 

 普段は神に祈らない真田も大吉は逃したが悪くないと笑っている。

 幼馴染みと同じ結果で引き分けだったことを小さく残念に思っている荒垣も同じように笑っており、二人は書かれている内容も含めて特に不満はないようだ。

 だが、彼らを同じ中吉を引いたアイギスはおみくじのシステムをまだよく分かっていないようで、姉であるラビリスや美紀たちにどれくらいの順位なのかと訊いている。

 

「中吉は良い結果なのですか?」

「せやで。一番上が大吉で、中吉は二番目やねん。書かれてる内容も重要やから、良いこと書いてたら喜んでええんよ」

「去年と違って今年は健康運が良いみたいで安心です」

「フフッ、去年の結果が当たったなら、今年も同じように当たりそうだね。無病息災で過ごせるなら安心だね」

 

 去年、美紀は健康運が悪いというおみくじを引いていた。それが原因ではないだろうが、ストレガに狙われて死にかけたので、占いの結果は当たっていたと言える。

 だが、今年は健康運がとても良いと書いているため、じゃあ、今年は無病息災でいられそうだねと風花と一緒に笑い合った。

 チドリとゆかりも他の者たちと同じように全体的に悪くない内容で、部分的には大吉並みに良いことが書いてあったので、これだけ全員が良い内容なのは偶然ではないだろうと顔には笑みが浮かんでいた。

 そうやって全員が幸先が良いと喜んでいるところへ、湊に近寄っていったアイギスと彼の会話が耳に届く。

 

「八雲さんはどうでしたか?」

「……君と同じだった」

「八雲さんも中吉でしたか。お揃いですね!」

 

 見るならどうぞと受け取ったアイギスは、自分と同じ中吉と書かれたおみくじを手にして嬉しそうに笑う。

 書かれている内容は微妙に違っているが、湊のおみくじもそれほど悪い事は書いていない。

 最後の一人まで良い結果だったことに安心した一同は、このまま出店を冷やかして寮に戻ろうと移動を始める。

 湊もアイギスからおみくじを返して貰ってから一行の後についていく。

 他の者たちが何を食べるかと話して前を向いている中、一人最後尾を歩いていた湊は小さく嘆息してから力を抜いた。

 すると、彼の持っていたおみくじの文字の色が朱色から黒色に変化し、書かれていた内容も丸っきり別物になっていた。

 おみくじの一番上に書かれている文字は“大凶”。去年と同じ結果だ。

 だが、“命危うし注意されたし”と書かれ去年最低だった健康運のところには、“悔い無き時を過すべし”と去年にも増して死を連想させる内容が書かれていた。

 何の力が働いているのかは分からないが、この神社のおみくじはかなり当たるらしい。

 未来からやってきた者たちの齎した情報で自身の死を知っている青年は思わず苦笑し、おみくじのアドバイス通りに残る時間は悔いの無いように意識して過す事に決める。

 もっとも、ニュクスとの戦いで果たすべき自分の役割を青年はまだ分かっていない。

 未来の自分は何か行動を起こしてニュクスを撃退した。そこは分かっているが方法は完全に謎なのだ。

 その事については七歌たちは勿論の事、デスとして湊の中にいた綾時も知らないため、湊はタイムリミットまで一人で考え続けなければならない。

 他の者たちはその間も自由に過して貰い。一ヶ月後に彼らにとっての戦いに決着をつければいい。

 そう考えた湊は、彼らが余計な心配をしそうなおみくじにかけた幻術での偽装を解除すると、誰にも見られることがないようおみくじをマフラーに収納してから出店の前で止まった彼らに合流するのだった。

 


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