【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百十七話 カルト宗教の正体

1月12日(火)

夜――はがくれ

 

 三学期が始まってすぐに三連休になり、いまいち学校が再開した気がしないまま三学期が始まって二日目の学校が終わった。

 前日が成人の日だった事もあって、授業の度に教科担当の教師らが自分の成人した時の話をしたり、遠い目をして月日の流れの速さに憂いていた。

 七歌たちにしてみれば何の話だという感じで、教師たちの青春時代のエピソードには興味などない。

 まぁ、順平のように無駄話で授業が潰れる事を喜んでいる者もいたが、もしも偏差値の高い大学を目指すのであれば、学校の授業もしっかりと受けられた方が良いと考えるだろう。

 自分でも当然勉強はするものの、学校の授業内容が充実していれば効率が良くなる。

 例えカリキュラム通りでしかなかったとしても、初めて知る内容を自力で調べながら勉強するよりはマシだ。

 なので、普段はふざけている七歌も実は授業はちゃんとして欲しいタイプだったが、成人の日の翌日くらいはしょうがないかと諦め、今日は休養日として教師らの話を聞き流しつつ授業時間を過した。

 ろくに頭を使わなかった事でカロリー消費も少なかったのか、今日は放課後になってもほとんど疲れを感じていない。

 その分、今日のタルタロス探索は捗りそうだが、残念な事に影時間までは学校が終わってから六時間以上ある。

 テニス部も今日は休みで、探索前にハードなトレーニングをする訳にもいかないとなれば、体力があり余っている七歌がジャガイモたちへ無茶ぶりするのもある意味当然と言えた。

 具体的に言えば、順平や綾時になんか面白い事やるか晩飯奢れよと唐突に振ったのだ。

 その時二人は綾時が学校から貰ってきた進学者向けのパンフレットを見ており、順平も進路相談の時の参考にしようと思って真面目に見ていたので、七歌からの無茶ぶりに上手く対応出来なかった。

 面白い事をやるか晩飯を奢るかしろと言われ、何も面白い事が出来なければ晩飯を奢らされるなど理不尽でしかない。

 ただ、そんなピンチにこそ活路を見出すのが順平という男だ。

 彼は自分の懐を痛めずに七歌に奢る方法はないかと必死に考え、南の島でのとあるイベントの事を思い出した。

 そう。真田と荒垣と行なったナンパ対決だ。

 負けた人間がラーメンを奢るという約束をしたというのに、アイギスが加入する時のいざこざで勝敗が曖昧なまま罰ゲームも行なわれずに今日まで来た。

 あの時の勝敗はと言えば全員ただの一人もナンパ出来ないままに終わった。

 その事実だけを見れば全員同点の引き分けに見える。

 しかし、あの時ナンパに興味のない二人を煽る際に順平は言っていたのだ。

 お互いに女性経験はゼロだが、一年長く生きている二人と順平が同じ条件になるには一年の猶予があると。

 それはつまり、同じ敗北に見えても一年遅れのハンデを背負っていた順平が一番不利な状況で、真田と荒垣はハンデも貰っても勝てなかったという事だ。

 勿論、それはただの詭弁なのだが、勢いで押せばいけると判断した順平は寮にいた二人にその事を話した。

 半年前の事を今更言ってきた順平に二人は呆れていたが、決戦までそう時間がある訳でもない。

 なら、仲間との絆を深める意味も込めて、約束通りラーメンを奢ってやる事にして寮を出た。

 

「確かにラーメンを奢ってやるとは言った。だが、こんな人数になるなんて聞いてないぞっ!!」

 

 店の前で突然大声を出す真田。だが、彼の言う事ももっともで、行きつけの店である『はがくれ』に到着してみれば、そこには美鶴と風花を除く寮生が全員揃っていた。

 美鶴は桐条家の用事があり、風花は進路相談の話をしに実家に戻っている。

 ある意味タイミングが悪かったと思わなくもないが、二人で順平一人に奢るつもりでいた真田と荒垣にとっては奢る相手が僅かでも減ったのは幸運と言えるだろう。

 何せ小学生の天田を除けば食べ盛りの男子高校生が四人いて、残る女子三人も普段から運動している事もあって並みの女子よりも沢山食べるのだ。

 いくら真田と荒垣の折半だとしても、ただのラーメン屋に食べに来て数千円の出費は痛い。

 恨みがましく真田が順平を睨めば、頭の後ろで腕を組んだ順平はヘラヘラと笑いながら口を開いた。

 

「いやぁ、七歌っちたちが飯食いに行こうぜって言ってきたんで、自分たちが食いに行くのに断れないじゃないッスか」

「同行するのは構わん。だが、何故全員分を奢らねばならんのだ!」

 

 子どもである天田の分くらいは奢ってもいい。真田が順平に奢り、荒垣が天田の分を払う。これくらいは年長者として許容出来る。

 しかし、一般庶民である自分たちよりも金を持っているはずの女子たちは、どうして自分たちも奢って貰えると欠片も疑っていないのか理解出来ない。

 七歌は歴史ある旧家の出身、ゆかりは母親の実家が桐条の名士会に名を連ねており、アイギスは湊からお小遣いで毎月百万以上貰っているはず。

 そんな相手に自分たちが奢る理由があるのだろうかと疑問に思っていれば、店の前に置かれたお品書きを見ていたアイギスがシレッと呟いた。

 

「傷心中のわたしをナンパしてきた謝罪を受けておりません」

「酷いよねぇ。泣いてる女の子を三人で囲って逃げられないようにしてさぁ」

「あー、なんか急に八雲君に電話したくなってきたなぁ。屋久島の思い出を語りたい気分になってきたなぁ」

『本気でやめろ』

 

 どこかわざとらしい口調で話す少女ら三人に真田と荒垣は口を揃えて待ったをかける。

 アイギスの事を大切に思っている湊に屋久島での件がばれれば、彼女をナンパした男子三人の命が危うい。

 気にしていないと思っていたアイギスですら、真田たちから謝罪の言葉を受けていないとしっかり覚えているのだ。

 この事が湊の耳に入れば、間違いなく彼は下衆を粛正するために現われるはず。

 もうすぐ決戦だという時にそんなのは御免だ。

 諦めたように溜息を吐いた真田たちは、店の扉を開けると女子三人はテーブル席へ、男子五人はカウンター席に並んで座った。

 

「七歌、ここのオススメってある?」

「うーん。何かグルメキングが裏の裏メニューがあるって言ってたけど、激辛系だからオススメしづらいかも。それなら常連向けのはがくれ丼にしたら?」

「裏の裏ってむしろ表じゃない? あー、はがくれ丼は気になるけど、今日はラーメンの気分なんだよね」

「では、わたしはそのはがくれ丼というものにしてみます」

 

 女子たちはメニューを見ながら色々と相談しているが、最終的にアイギスがはがくれ丼で七歌とゆかりは特製ラーメンを選んだ。

 真田たちの方は特製ラーメンと餃子やライスのセットを頼み、料理が出てくるまで会話や高い位置に置かれたテレビを見て過す。

 だがその時、カウンター席で一番端に座っていた荒垣がカウンターの上に放置されていた週刊誌を見つけ、その表紙に載った見出しと小さな画像に気付いて声をあげた。

 

「おい、アキ。他のやつらも、これ見てみろ」

「なんだそれは? 所謂ゴシップ誌というやつか?」

 

 誰もいないカウンターの上に置かれているなら、それを勝手に見たところで店員は何も言わない。

 そのため荒垣は雑誌は引き寄せると、他の者たちにも見えるように見出しとその下の小さな画像を指さして見せた。

 

「え、その写真ってもしかして……」

「なんスかそれ。異形のカリスマ現るってどうみてもストレガのあいつじゃないッスか」

 

 見出しには話題の宗教、突如現われた異形のカリスマとのコンタクトに成功したと書いて、ストレガのタカヤの写真が小さく載っていた。

 裏社会の人間であるはずの男がどうして怪しいゴシップ誌の取材を受けているのか。

 話を聞いて気になった女子たちもやってきて、中身を見てみる事にすれば、最近話題のカルト宗教とその教祖とされるリーダーの男への取材に成功したと数ページの特集が組まれている。

 表紙では写真も小さかったが、特集ページではしっかりと顔が分かるくらいに大きな写真が掲載されており、その写真の男こそがリーダーだと明言されている。

 今世間を騒がせているカルト宗教など、真田たちは胡散臭い集団としか認識していなかったが、敵であるストレガが関わっているとなれば話も変わってくる。

 ストレガとは色々と因縁もある荒垣と真田は、写真の中で胡散臭い笑みを浮かべるタカヤを見て不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。

 

「カルト宗教の話題をやけに聞くようになって、どうも妙な具合に広まってると思ってたが、そういう事かよ」

「ああ。全部こいつらの仕業だったって事か。これから飯だってのに台無しな気分だ」

 

 写真にはタカヤだけが写っているが、どうせ彼の傍にはジンを初めとした他のメンバーもいるに違いない。

 タカヤ自身はこういった広報活動に興味などなさそうなので、恐らくは今後の活動を見据えて幾月が指示したか、機械に強そうなジンが情報を拡散する事で自分たちに辿り着けないようにしたのかもしれない。

 真相は不明だが相手に関する情報がここにあるのも事実。全員で一度に見る事は出来ないので、代表してアイギスが“異形のカリスマの言葉”なる記事を朗読する。

 

「人間は今、憎悪の連鎖と将来不安とが循環する目に見えない牢獄の囚われとなっている。だが今、世界には、我々を新たなステージへと引き上げる“力”が降臨しようとしている。私はそれを“ニュクス”と呼ぶ。私はその真実に触れ、一足先に力を得た。そして確信した……ニュクスさえ訪れれば、全ての人間は必ずや苦しみから解放されると」

 

 途中まで読んだところで早速荒垣と真田は呆れ顔になった。

 特別課外活動部側のメンバーたちは湊と綾時から敵の存在について聞いたが、幾月とストレガたちはニュクスの事は知らないはずだ。

 ただ、デスの復活方法を調べ上げていた事もあって、その線からニュクスの存在に辿り着いた可能性もある。

 

「なんであいつらがニュクスの事を知ってるかはこの際置いておくとして、随分とまた好き勝手言ってやがるな」

「本気で言ってるのかも疑わしい。あいつらの事だ。遊び半分、単なる暇潰しでやっている可能性もある」

「というか、実際は逆ですよね。影時間とペルソナに出会ったからニュクスの存在を知った訳ですし」

 

 荒垣たちに続いて天田も意見を言うが、確かに彼の言う通り、記事に書かれている事と現実に起こった事の順序が逆になっている。

 真実に触れたというのは影時間に出会った事を指しているとして、その後にペルソナを得た事は確かなのでそこに間違いはない。

 ただ、タカヤたちがニュクスの存在を知ったのはペルソナを得てからで間違いない。

 さもニュクスの存在を知った事で力を得られたかのように書いているが、カリスマの癖に随分とせこい印象操作をするものだと、真田たちが小馬鹿にしたように鼻で笑ったところでアイギスは続けた。

 

「だが社会には、ニュクスの真実に触れながら、救いを理解出来ない哀れな者達がいる。彼らは私に近い力を得ながら、その力を個人の目的の為に悪用している。昨今、巷を騒がせている説明のつかない怪事件……真相は、彼らの手によるものだ」

 

 続きを聞いて先ほどまで敵を小馬鹿にしていた者たちの表情が険しくなる。

 なんと、相手は自分たちの悪事を七歌たちに擦り付けてきたのだ。

 確かに自分たちの活動が原因で街中の物を壊してしまった事などはあるが、それ以外に何かしたりはしていないし、無気力症の拡大に関しても自分たちのせいではない。

 それを三流ゴシップ誌とはいえ全国で売られるような雑誌で発言するとは、随分と舐められたものだと順平が憤慨する。

 

「なんだそれ、人にせいにしてんじゃねーよ。テメェらがやった事だろうが!」

「うーん。影時間の悪用となると、桐条グループ、湊、ストレガと幾月の三組織って感じかな」

「綾時君、裏切り者はギルティだよ?」

「いやぁ、過去は変えられないからさ」

 

 順平が憤慨する横で綾時が事実はこうだと訂正すれば、ここは全部ストレガたちに押し付ける場面だぞと七歌が釘を刺す。

 けれど、桐条グループも湊たちも、自分が罪を犯した事を否定していない。

 無論、グループの方は社会への影響を考えて隠してはいるが、実際に影時間に関わった七歌たちには真実を話してくれている。

 それを考えれば、自分たちの犯した罪を他人に押し付けてくるストレガたちは救いようのない悪で、自分たちの罪を認めている桐条グループと湊は罪を背負う意識があるだけマシというものだ。

 

「私はこれより、ニュクスの来訪をより確かにするため“約束の場所”へと赴く。彼らを恐れる事はない……ニュクスが訪れれば、全ての者が等しく救済され、皆、安息出来る。今は、希望にのみ思いを馳せ、来るべき刻を待つだけでいい。何も心配する必要はない。待つ事だけが、唯一の正しい選択肢だ。同志諸君!! これは静かなる“革命”である!」

 

 祈るだけ、願うだけで手に入るとは何ともお手軽な救いがあったものだ。

 精神的に不安定になっていれば、こんな物でも信じてしまいたくなるのかと、七歌たちは何とも言えない気分になる。

 

「先行きの見えない未来を変えられるのは、“異形のカリスマ”だけなのかもしれない……以上で記事は終わっていますね。このコメントを最後に彼らは再び行方が掴めなくなっているようです」

「行方が掴めないってどうせタルタロスでしょ。約束の日に塔の頂上に行けば嫌でも顔を合せる事になるって」

 

 この記事を書いた記者が本気でタカヤたちを追っているのかは分からないが、仮に本当に行方知れずになっていたとしても、相手の目的を考えればタルタロスを訪れない訳がない。

 ニュクスの降臨はタルタロスの頂上で行なわれるのだ。

 神の到来を待っているストレガたちにすれば、神との直接の対面を逃すとは思えない。

 相手も七歌たちも頂上でニュクスに会おうとしている以上、求める未来の違いからそこが自然と決着の地になる。

 どうせ嫌でも会えるのであれば、探す必要はないとゆかりが面倒そうに言えば、そのタイミングで完成した料理が運ばれてきた。

 雑誌を元の場所に戻した一同は、それぞれの席に戻って料理を受け取る。

 確かに広まっているカルト宗教の連中は鬱陶しいが、その裏にタカヤたちがいると分かれば仕組まれたものとして考えられるため、これまで感じていた不気味さは薄れた。

 こんな雑誌に記事が載るくらいなので、無気力症の対処に動いている湊や桐条グループにも情報は伝わっている事だろう。

 ならば、自分たちは自分たちに出来る事をやるだけだ。

 運ばれてきた料理に箸を伸ばし、七歌たちは勢いよく、されど女子として最低限の上品さを持って料理を口へと運ぶ。

 

「おじさん、唐揚げとライス追加で!」

 

 夜中の探索に向けて活力を得るため、七歌はラーメンを食べつつ追加の注文を送る。

 それを聞いた真田たちはギョッとしていたが、今回はもう諦めたのか何も言わなかった。

 そうして、全員がお腹いっぱい食べて店を出ると、後輩たちから礼を言われた真田と荒垣は何でもない事のように返事を返した後、他の者たちが見ていないところで深く溜息を吐いた。

 


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