【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百三十二話 交戦開始

影時間――タルタロス

 

 影時間になってすぐにタルタロスへと駆け込んだ七歌たちは、転送装置を使って出来る限り頂上に近い階層に転移すると、そのまま足を止めずに先を急ぐ。

 七歌たちも一度はタルタロスの頂上に行ったことはあるのだが、ニュクスが降臨する今日という日のためにタルタロスはさらに階層が増えているらしい。

 以前頂上だった場所も上層フロアと同じ造りになって、初めて来た人間であれば頂上だった事など分からないようになっている。

 もっとも、いくら階層が増えていると言えども、流石に百層以上増えたなどという事はないので、風花とチドリが探知して上への階段を見つければニュクス降臨までに十分間に合うはずだ。

 既に七歌たちがタルタロス内に来ている事は敵も分かっているのだろう。

 相手はステルス機能を持った道具を利用した気配隠蔽を解除しており、風花たちの探知によって少し上のフロアにいることが分かっている。

 なので、今はまだシャドウの相手のみをしていれば良いわけだが、大理石とも陶器ともつかない不思議な質感の通路を走り、時々落ちている壊れた機械のようなパーツに視線を向けながら七歌が僅かに首を傾げる。

 

「さっきから壊れた何かが落ちてるんだけど、あれって何だろう。ストレガが関係してるのかな?」

「わたしの持つ兵器関連の情報と照合するに遠隔操作タイプの爆弾のようですね。恐らく、わたしたちを攻撃するために設置していたのでしょう」

 

 急いで先を目指しながらも最低限の警戒をしている中、同じく壊れた何かに視線を向けていたアイギスが七歌の質問に答える。

 爆弾はその構造にもよるが爆発で壊れる事に加えて、熱で燃えて溶けたりもするので元のタイプを特定するには専門の知識と場合によっては残骸に残った成分の調査なども必要になる。

 しかし、それが爆弾だったと判断するだけであれば、多少かじった程度の知識でも何とかなる。

 とくにアイギスは銃火器の使用を想定して作られた機体であったため、残骸を見ただけでそれが爆弾と遠隔操作の受信機だと気付くのは容易だった。

 彼女の話を聞いた他の者たちは一様に驚いたようだが、考えてみればストレガのジンは手榴弾をよく使っていたし、アイギスたち対シャドウ兵器の開発にも関わっていたであろう幾月なら遠隔操作の仕組みくらい知っていても不思議ではない。

 自分たちの安全を確保しながら確実に相手にダメージを与えるのであれば、敵がそういったタイプの罠を作ってもおかしくなかったわけだが、七歌たちは最終決戦だからこそ敵が正面から来るか、しても奇襲くらいなものだと考えていた。

 知らずに突っ切ろうとして罠に掛かっていたことを考えると背筋が寒くなる。

 爆弾が壊れているという事は、シャドウに反応してしまったか、もしくはタルタロスの出現時に異物として排除される過程で壊れたのかもしれない。

 何にせよ運が良かったと喜びつつ、ここから先はそういった罠の存在をしっかり想定して動こうと心に決める。

 だが、他の者たちが警戒している中、アイギスは他の者たちの変化を不思議にそうにしながら口を開く。

 

「皆さん、どうされたんですか?」

「いや、アイちゃんが爆弾があるって教えてくれたんだろ。だから、オレっちらも警戒しようとしてる訳でさ」

「いえ、恐らく爆弾は全て八雲さんによって破壊されています。あの方はアクセス権限を無視して機械を遠隔で操作できますから」

 

 湊の内蔵する黄昏の羽根は、枚数と形状が変わった事で能力と出力が変化した。

 けれど、機械の遠隔操作は言ってしまえばシャドウの能力。人の域を超えた影時間への高い適性と親和性を持っている者なら、コツを掴めば羽根がなくとも使える可能性があるものだ。

 そのため、アイギスも本人に確認した訳ではないが、今も恐らくその力は健在で敵の行動を先読みして破壊してくれていたのだろうと予想した。

 チドリとラビリスは彼のそういった能力にも詳しいので、アイギスの予想は恐らく当たっているはずだと苦笑気味に頷く。

 彼女たちの反応を見た美鶴は、どこか申し訳なさそうにしつつも小さく笑って彼への感謝を口にした。

 

「つまり、彼は我々が入る前に全ての罠を解除してくれた訳か。敵戦力の中でも特に厄介な二人の相手を頼んでしまっていると言うのに、経路の安全確保までさせてしまって申し訳ないな。だが、これで私たちはシャドウとストレガたちに集中出来る訳だ。彼の気遣いに感謝して先を急ごう」

 

 美鶴の声に頷いて返しつつ、前方にいるシャドウの許へコロマルと天田が先行してペルソナを呼び出し排除する。

 戻ってきた彼らを隊列の真ん中に置き、代わりに真田と美鶴が前衛に上がってメンバーの疲労が偏らないよう注意しながら進む。

 走りながら再び爆弾の残骸らしきものを見つけ、真田はほんの少しだけ残念そうに愚痴をこぼす。

 

「確かにありがたい事ではあるが、あいつにも少しは俺たちを信用して欲しいものだ。爆弾があったところで、引っかかるのなんて順平くらいなものだぞ?」

「いや、真田さん。オレがくらってる時点で戦力に影響出てるじゃないッスか」

「それはくらうお前が悪い。火炎無効耐性が付いているのに、スキル以外の炎は無効化出来ないとは軟弱なやつめ」

「ちょ、それパワハラっすよ? てか、それなら帰ってから先輩は電気のツボ押し体験してくださいね。ペンタイプになってて、カチって押すと静電気みたいの出るんで、それで声を出したら“ビッグマウスな軟弱ヘタレ野郎”って称号贈りますよ」

 

 スキルの炎とライターなどで出せる火は性質が違う。

 それはペルソナとシャドウを研究していた桐条グループでも昔から言われていた事で、どうして違うのかという話は分かっていないがペルソナ使いたちは全員が話として理解している。

 火炎無効耐性を持っている順平、コロマル、チドリは火炎放射器で攻撃されれば燃え死ぬし、電撃無効耐性を持っている真田も落雷を喰らえば死ぬ。

 そも、もしスキル以外の同属性を無効化してしまえるとなれば、疾風無効のゆかりは一生風を感じなくなるし、氷結無効の美鶴などであれば冷たい温度を感じなくなるかもしれない。

 日常生活に支障をきたすようなそれらの効果がない事は、日常を生きる少年少女らにとってはプラスの事だろう。

 ただ、決戦という状況を考えると、そういった効果もあれば爆弾の爆風部分は無視出来たと思われる。

 その事で真田が小さく毒を吐けば、順平はそんな事を言った以上自分は電気に耐えられるはずだよなと挑発し返す。

 こんな時に何をしているんだと他の者たちは呆れているが、こんな状況でも軽口を叩く余裕があると思えば頼もしいと考える事も出来る。

 よって、美鶴と七歌は敢えて二人を放置して先を目指し、馬鹿な事を言いながらもしっかりと道中の敵を倒しながら次のフロアへの階段まで急いだ。

 

 

***

 

 

 いくつかのフロアを走り抜けていくと、突然これまでと雰囲気の違うフロアに到着した。

 七歌たちの経験から言えば、切りの良い階層にいるフロアボスがいた場所に似ているが、そこで待っているのはシャドウではなく人間だ。

 通路を抜けて大広間に出れば、風花とチドリが事前に察知していた通りに三人の人影があった。

 ダブついたパーカーを着てギラついた目をした男、両端に穂先がついた槍を持ち冷たい瞳でジッとこちらを見る女、召喚器のみ持って眼鏡越しに無感情な瞳を見せる少女。

 かつて湊がタカヤたちと一緒に逃がした被験体の生き残り、ストレガのカズキ、メノウ、スミレだ。

 美紀を殺そうとしたカズキがいた事で立ち止まった真田の拳に自然と力が入る。

 スミレのペルソナであるテュポーンに苦しめられた経験のある荒垣と天田は強く警戒を見せる。

 そして、ストレガにおいて索敵と気配隠蔽を担当していた事で、これまで前線に出てこず情報がないメノウに対して他の者たちは身構えた。

 そんな七歌たちの様子を見ていた敵の三人は、僅かに横に移動して階段までの道を開けた。

 世界を滅亡させようとしている敵が見せた、予想外過ぎる突然の行動に七歌たちは驚く。

 まさか、この三人は世界の滅びに賛成しておらず、しかし、タカヤや幾月に強く反対出来ずにここまで来てしまっただけだと言うのか。

 だが、もしそう思わせるために仕組んだ罠で、通ろうとしたところを襲ってくる可能性を考えると素直に信じ切る事は出来ない。

 そうして、七歌たちが警戒を強めていれば、時間を使いたくないチドリが状況を動かすために敵へ話しかけた。

 

「……メノウ、どういうつもり?」

「見た通りだよ。そっちも急いでるんでしょ? ボクたちも三人でそっちの全員を相手しきれるとは思ってない。だから、半分くらいならそのまま通ってもいいよって感じ」

 

 メノウの言う通り七歌たちは急いでいる。

 この場に留まった分だけニュクスの降臨に間に合う可能性が下がっていく。

 だからこそ、七歌たちもいくつかのグループに分かれて敵と戦う事を想定して作戦を組んできた。

 それはストレガたちも同じようで、フロアの広さから全面対決など出来ない以上、自分たちが勝つために敵を分断する事が最善だと判断したようだ。

 であれば、事前に話していた通りにこの場に残るメンバーをすぐに決めて残るメンバーで上を目指すだけだ。

 運が良い事に真田が落とし前を付けさせると言っていたカズキと、タフなペルソナの方が相性が良いと言っていた巨大ペルソナ“テュポーン”を持つスミレが同じフロアにいる。

 戦うとなれば真田はまずカズキを狙っていくと思われるが、それでもテュポーンを完全に無視したりはしないだろう。

 真田と荒垣、そして天田が残って戦おうとすれば、人選を見ていたメノウが冷たい目をしたまま口を挿んできた。

 

「ああ。でも、一人指名させて貰おうかな。チドリ、君はここに残ってね」

「貴女の実力で私と戦うつもり?」

「そうだよ? 君は知らなかったと思うけど、ボクは昔から君の事が嫌いだったんだ。少し早く出会っただけのくせに、大した力もなくて彼の枷にしかなってなかったくせに、ずっとずっと傍にいて彼の特別であり続け、一人恵まれた環境で生きることを許された君の事が大嫌いだったんだ」

 

 被験体という同じ境遇にあった相手からの言葉に、チドリは僅かに目を細めて見つめ返す。

 チドリだって別に楽な人生を生きてきた訳ではない。

 湊の枷にならぬよう必死に力を磨いていたし、自分のために命を削って力を求め続ける彼を何度も止めようとしてきた。

 恵まれた環境に置かれたからこそ、何も出来ない自分という存在が嫌になって、重荷になり続けるならいっそ命を絶った方が良いのではと考えた事だってある。

 けれど、そんな事をすれば彼は壊れてしまう。

 彼を自分から解放しようにも出来ないジレンマ。

 外から見ればとても恵まれていて羨ましく見えただろうが、その環境に置かれた本人は途轍もない重圧の中で生き続ける事を強制されるのだ。

 無論、それに見合うだけの幸福は得た。自分がとても恵まれていたという自覚もある。

 ただ、何も知らない相手にゴチャゴチャ言われる事だけは気に食わない。

 鎖付きのハンドアックスを持ったチドリは、相手の指名通りに残る事に決めて他の者たちを先へと進ませる。

 

「……ここは私たちで受け持つわ。貴女たちは先へ行って頂戴」

「ま、こいつらを倒して、俺たちもすぐに追い付くさ」

「七歌さんたちもどうか無事で」

 

 既に戦闘に向けて集中している真田は黙っているが、荒垣と天田はそれぞれ不敵に笑って他の者たちに行くように言う。

 メノウはメンバーの半数をここで相手すると言っていたのに、彼女の敵意はチドリに向いてしまっているようで、残るメンバーが全体の四分の一でも何も言ってこなかった。

 時間が押しているためここでこれ以上の問答はしない。七歌たちは残るメンバーと視線を交わすと敵の横を通り抜けて上へ向かった。

 

 

***

 

 

 真田たち四人と分かれてさらに階層を登っていくと、再び大広間になったフロアに着いた。

 チドリが残った事で探知能力持ちは風花のみになったが、彼女も今日まで仲間と共に自分なりの戦いを経験してきた。

 今の彼女に昔のような気弱な雰囲気はなく、自分の役目を果たそうと瞳に強い光を宿してここにも二人の人間の反応があると告げた。

 玖美奈と理が湊の相手として出ている以上、残る敵で二人組となればストレガのタカヤたちしかない。

 そう思って七歌たちが大広間に入って行けば、予想通りに階段の前には楽しげに笑うタカヤと不機嫌そうに睨んでくるジンがいた。

 

「おやおや、思っていたよりも随分と人数が多いですね。カズキたちには半分ほど削って欲しいとお願いしていたのですが、面倒なチドリを削ってくれただけでも良いとしましょうか」

 

 タカヤたちもチドリの放つ最大威力の攻撃は知っている。

 時間をかけて溜めることで威力を上げていたのは分かっているが、大型シャドウと違って人やペルソナ相手なら攻撃範囲を絞る事も出来る。

 その場合、下手をすると半分以下の溜めで同等の威力を発揮するかもしれない。

 完全な死を一度経験しているだけあって、チドリは適性値も他のメンバーたちを遙かに凌駕しており、昔からの知り合い故に自分たちのペルソナに詳しい彼女の相手はタカヤたちも避けたかった。

 どういった理由で彼女がカズキたちの許に残ったのかは知らないが、チドリがいないのであれば運が良いと笑っている相手に、静かな闘志の籠もった視線を向けた美鶴が話しかける。

 

「それで、お前たちも我々の中から数人足止めするつもりなのか?」

「フフッ、足止めですか。戦う前から勝利を確信しているような口振りですね」

 

 美鶴の言い方では、タカヤたちがここに残るメンバーを一時的に押さえる事しか出来ないように聞こえる。

 まさか、殺しを厭わない自分たち相手に、そこまでの余裕を見せてくるとはとタカヤは薄い笑みを深めた。

 実際のところ美鶴にそういった挑発の意志はなく、むしろタカヤたちの相手は非常に骨が折れると考えていた。

 事前に湊やチドリから得た情報によれば、タカヤは魔法に偏っているが全属性を使えるオールラウンダータイプ。

 一方のジンは火炎がメインではあるが、アナライズで分析しつつ防御系のスキルも持っていて他にも電撃なども使ってくる。

 そんな二人が銃や爆弾を使ってくるのだ。どう考えても余裕を見せて戦う事など出来ない。

 相手は人殺しも平然と行える精神性の持ち主たちで、世界を滅ぼせるなら自分たちはどうなってもいいと捨て身で来る事も十分に考えられた。

 そうして、誰が相手をすべきかと美鶴が考えていれば、大剣を肩に担いだ順平が一歩前に出た。

 

「先輩、時間の無駄っすから行ってください」

「しかし、伊織の属性では……」

「順平君のサポートにはウチとコロマルさんが残るわ」

 

 順平の火炎属性はジンには効かない。その事は事前の説明で本人も分かっているはずだ。

 しかし、もしや忘れているのではと美鶴が声をかければ、ラビリスが自分とコロマルもここで足止めに残ると宣言した。

 ラビリスは物理型で、コロマルは闇も使えるがメインは順平と同じ火炎型。

 ここで美鶴は彼らがジンのメインである火炎を実質無効化する布陣で挑むつもりなのだと理解する。

 敵は物理スキルをほとんど持っておらず、逆に順平たちは全員が物理スキルも得意としている。

 魔法攻撃特化と物理攻撃特化。お互いの距離でハッキリと有利不利が出る戦いとなるだろう。

 だが、湊の仲間として戦って来たラビリスたちに、チームワークを意識して戦って来た順平なら絶対にやり遂げてくれるはず。

 

「順平、二人の足引っ張んないでよ!」

「いいから先行けっつの」

「姉さん、コロマルさん、また後で会いましょう」

「うん。絶対追い付くからそっちも頑張ってな」

 

 彼らが勝つことを信じて先へ進むことにした七歌たちは、それぞれ仲間にエールを送って階段を登ってゆく。

 ジンが通り過ぎようとする七歌たちに余計な真似をしようとした途端にラビリスが攻撃を仕掛け、コロマルと順平がタカヤの攻撃からラビリスを守って戦闘が開始した。

 背後の戦闘音を聞きながらも、振り返る事なく走る七歌たちは仲間の無事を祈りながら先へと進んだ。

 


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