【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百四十話 最初の決着

影時間――タルタロス

 

 チドリたちがストレガのメノウらと戦っている時、海が広がるはずの方角に巨大な気配を感じた。

 探知型の能力を持っていなくても分かるほど巨大な気配が現れた事で、力を持つチドリとメノウだけじゃなく真田や敵のカズキなど他の者たちも僅かに驚いている。

 だが、続けて同規模の巨大な気配が現れた反応があった事で、それが湊と理がそれぞれ規格外のペルソナを召喚したのだと理解出来た。

 湊のセイヴァーがいれば戦闘は一方的なものになると思っていた。

 しかし、敵も湊と同じ人格と遺伝子を持つだけあって、その力は他のペルソナ使いを圧倒しているようだ。

 心の中でそんな風に敵方の評価を改めつつ、二つの巨大な気配がぶつかった事であちらの戦いも佳境に入ったことを理解したチドリが同じフロアにいる真田たちに声をかけた。

 

「八雲と結城理が馬鹿げた規模の力を使ったわ! あの規模の戦いがそう長く続くとは思えない。あっちが終わる前に私たちも合流するわよ!」

 

 他の者に声をかけながら、チドリはヘカテーを操ってメノウのデュスノミアに雷を落とす。

 敵はそれを鎖に繋がった鉄の処女で受け止め、お返しとばかりに巨大な氷塊を飛ばしてくる。

 お互いに術者タイプのペルソナだけあって戦闘は魔法の撃ち合いになった。

 威力と使える属性の多さでチドリが押しているが、メノウは研究所時代から強い嫉妬を覚えていた因縁の相手との戦闘とあって色々と対策を練っていた。

 自分の弱点を潰すための補助魔法に始まり、持っているという一つの情報だけで牽制になる拳銃。

 また、敵は自分たちを殺しても問題のない事に加えて、時間を稼いでニュクス降臨まで逃げ切り勝利という手段も取れる。

 それが分かっているため、チドリや他の者たちも命に別状がない範囲での無力化は躊躇っていない。

 相手は人間だ。一般の学生であるチドリたちも、化け物ではなく人間を相手に戦う事に対して気にしてはいる。

 しかし、躊躇ってはいられない。手を抜いて勝てる相手ではないし、自分たちが手を抜けば仲間に被害が出る恐れがある。

 何より、それで油断して自分たちの身に危険が迫れば、湊がその手を血で汚そうとするかもしれない。

 そんな事はさせられない。自分たちも戦うと決めた以上、この戦いは自分の手で終わらせて見せる。

 強い決意と共に敵を見たチドリは、自分と敵の中間地点に向けて僅かに力をチャージした炎の一撃を落とす。

 

「ヘカテー、アギダイン!」

 

 杖を構えたヘカテーが頭上に高熱で黄色く輝く小さな太陽を形成する。

 途端、敵は防御のために耐性付与魔法の赤の壁をかけ直した。

 急いで勝負を終わらせると発言した後に、これまで以上の力を込めた一撃を用意すれば誰だって警戒するだろう。

 チドリ自身もこれは相手に直接ぶつけた方が勝率を上げることは分かっている。

 けれど、チドリはそれを選ばない。

 いくら耐性を付与しようと完璧ではないと知っているから。

 もし、それで誤ってメノウの命を奪ってしまうことになれば、命懸けで自分を光の当たる温かな世界にいさせてくれた青年のこれまでを無駄にしてしまう。

 それだけは死んでも嫌だと、小さな太陽が地面に衝突して辺りが閃光に包まれる瞬間、目を閉じていたチドリはハンドアックスを持ってメノウへと駆け出していた。

 炸裂したアギダインに熱せられた空気が髪と服を揺らす。

 それをしっかりと感じながら、無効耐性によってダメージを受けないと分かっているチドリは炎の中を突っ切って敵まで一直線に駆け抜ける。

 ペルソナの攻撃を防御するために自分の前にペルソナを配置し、さらに攻撃とその余波で起こった閃光でメノウはチドリの動きを捉えられていなかった。

 だからこそ、チドリは炎の中から抜け出すと閉じていた瞼を開け、完全に虚を突かれて思考に一瞬の空白を作ってしまった少女に向けて身体を一回転させ遠心力を加えた鎖付きの斧を投げた。

 

「うぐっ!?」

 

 チドリが投げつけた斧は遠心力によって真横から迫って相手の右腕に衝突した。

 肩の下辺りにぶつかり、相手は痛みに呻き声を上げる。

 重心と鎖が刃ではなく峰側にあるため攻撃としては峰打ちになったが、勢いのついた金属の塊が丁度筋肉で覆われていない部位に直撃したのだ。

 相手は持っていた槍を取り落として、左手で怪我を負った部位を押さえている。

 鎖を使って斧を手元に引き寄せながら駆けるチドリは、このチャンスに勝負を決めるためヘカテーに奥の手のスキルを使わせた。

 

「ミリオンシュート!」

 

 これまで魔法しか使ってこなかったヘカテーの杖から、無数の魔法の弾丸が撃ち出される。

 それらは近付いてくるチドリを迎撃しようとメノウが動かしたデュスノミアを直撃し、全身に弾丸を浴びた事で耐久限界を超えたペルソナは消えてゆく。

 最後の足掻きか、苦痛に顔を歪ませながら慣れぬ左手で銃を抜いたメノウまで距離を詰めると、チドリは右手の斧で銃を切り上げ、逆手に持った左手の斧を敵の脇腹へと叩き込んだ。

 攻撃を受けたメノウはそのまま地面を転がり、切り上げられてガラクタになった銃の破片が散らばる。

 倒れた相手を見ながら肩で息をするチドリは、口から血を吐いて涙を流す少女に声を掛けた。

 

「はぁ、はぁ…………湊と一緒にいられたのは偶然。出会った順番が違えば、そこには貴女がいた可能性があることも認める。でも、湊はずっと貴女たちも救おうとしていた。制御剤の改良や副作用の緩和、適性の安定化も含めて研究していたの」

 

 相手の怒りや憎しみが自分に向くのは当然だ。

 何せ、チドリが彼の傍にいられたのは、単なる偶然でしかないのだから。

 チドリ自身はそれを分かっているし、同じような立場にあっても共にはいられなかったマリアや、再会してからも別行動だったストレガたちからすれば、自分たちに何もしてくれない彼の事を冷たいと思うのも理解出来る。

 ただ、チドリは彼が被験体たちの事を忘れておらず、今もEP社で研究を続けている事を知っていた。

 被験体の死や彼らを蝕む制御剤の副作用は桐条の罪だ。彼に一切の非はなく、責任を感じる必要すらない。

 それでも、彼は制御剤を研究して、少しでもストレガたちが長生き出来る方法を探っていた。

 そんな姿を知っているからこそ、チドリはどうか彼の事は恨まないで欲しいと思っていれば、倒れたままのメノウが無事な腕で目元を覆いながら途切れ途切れに言葉を返してきた。

 

「……しって、るよ。ボクたちが今使ってるのだって……ミナト君が、用意してくれた新薬だもん。それ、を……データごとくれた時…………ミナト君は申し訳なさそうに謝ってきたんだ……。こんな物しか用意出来なくてすまないって」

 

 湊がEP社で研究していた新薬はしっかりとストレガたちにも届いていた。

 自分がいない時の事も考えて、薬のデータも渡して彼らの馴染みの薬屋で用意出来るようにもしていた。

 おかげで副作用で機能が低下した臓器は回復していないものの、見えない糸に縛られているかのような全身に感じていただるさは消え去った。

 このまま身体が動かなくなって死んでいくと思っていた少女にとって、再び自由に動けるようになっただけでも感謝しきれない程だと言うのに、あの青年は本当に申し訳なさそうな下手をすれば泣いているようにも見える表情で謝ってきたのだ。

 それを知っていて何故彼を責められるのか。そんな事出来るはずがないと倒れたままの少女は続ける。

 

「…………ミナト君は、ずっと優しかったよ。敵になったのは、ボクたちの方で、恩を仇で返すような真似をしてるって事も分かってる」

「なら、どうして滅びを求めたの?」

「……ボクたちの死は避けられない。多分、本当にこれが最後なんだ。だから、別の明日が欲しかった」

 

 今のままの世界では、死を切っ掛けに自分たちは離れ離れになってしまう。

 何も持たぬ少女は死を怖れた。死を迎えても何も変わらず続いていく世界を怖れた。

 だから、世界を変えようと思った。僅かにでも可能性があるのなら、彼と共にいさせて欲しいという願いのために。

 少女が抱いたそんな小さな願いを聞いたチドリは、相手にかける言葉を持っていなかった。

 彼と共に過し、滅びを免れた世界でも彼と共にいることの出来る者が、遠くない日に訪れる死を待つ者に何を言えると言うのか。

 敗北に涙を流す少女の傍らに立つチドリは、他の者たちの戦いが終わるまで黙ってその場に居続けた。

 

***

 

 敵の攻撃から身を守るため両手にダメージを負った荒垣は、持って来ていた薬で何とか治療すると再び巨大ペルソナとの戦闘を続けていた。

 咄嗟にペルソナに守らせた事で天田は大きなダメージを負うこともなく、ひたすら足でかき回して敵の隙を探っている。

 テュポーンの相手をしている間は召喚者のスミレが無防備になり、それを守るためにテュポーンが動いた時にはテュポーンへの攻撃チャンスになる。

 そうして、攻守を入れ替えながらも状況が膠着してくれば、何か状況を変えられるものはないかと荒垣たちも焦りを覚え始めていた。

 治療したと言っても流した血の分だけ荒垣は消耗している。

 加えて、敵の撹乱で足を使っている天田は子どもだけあって、スタミナには最初から難があった。

 元々、巨大ペルソナであるテュポーンは三人で相手をするような敵だと想定していたため、二人でも戦えているだけでも十分ではある。

 その事は荒垣自身も分かっているのだが、仲間たちがそれぞれの役目を果たしているというのに、自分だけ戦いに貢献出来ていないという焦燥感をどうしても覚えてしまう。

 そして、このまま戦って状況を変えられなければ、先に潰れるのは敵ではなく自分だという確信がある。

 離れている場所でスミレへの攻撃を狙っている天田も同じ事を考えているだろう。

 だからこそ、何かないかと必死に考えていた時、感知型の能力を持たぬ身だというのに、荒垣たちはタルタロスの外で途轍もなく大きな気配が突然二つも出現したのを感じ取った。

 外で何が起きているのかは分からない。ただ、湊が目の前のペルソナ以上にデカい敵と戦いっている事は分かる。

 

「天田ッ!!」

「分かってます!!」

 

 二つの巨大なペルソナ反応。蛇神の重圧を感じないという事は、いつかの夏祭りの後で見た百メートル越えの巨人かもしれない。

 自分たちがクジラ程度の敵に苦戦しているというのに、湊と結城理は随分とふざけた戦いをしているものだと思わず苦笑が滲み出る。

 ただ、それなら自分はここで足踏みしている訳にはいかない。声を掛ければ天田も同じだったようで瞳に強い力を宿して応えてきた。

 

「アルケイデス、敵を掴め!!」

 

 細かい作戦を考えたところで敵の巨体には通じない。

 であれば、地味な嫌がらせのような真似になるが、強引にチャンスを作るしかない。

 アルケイデス自身よりも太い腕の横薙ぎを躱し、即座に切り返してその腕を掴むと重心を崩すようにして引っ張り込む。

 そして、荒垣は周囲の状況を把握しながら、バランスを崩しかけているテュポーンをつれて真田とカズキの戦っているエリアへともつれ込む。

 

「くそっ、なんだ一体っ!?」

 

 二人の戦いは真田の方が押していたようだが、そうであれば自分たちを手伝えと言いたい。

 不機嫌そうに後退する真田と視線を交わし、血で汚れた袖を見せて押されていた事を伝える。

 それだけで真田も状況を把握したのか、不満そうにカエサルを呼び出すと雷撃を放った。

 

「マハジオダインっ!!」

 

 天井付近から落ちてくる無数の雷がテュポーンに降り注ぎダメージを与えてゆく。

 今まで戦っていたカズキのモーモスには効かなかったが、テュポーンには有効なのか攻撃を受けたテュポーンがのたうち回るように激しく暴れる。

 近くにいればそれに巻き込まれるため、近接主体のアルケイデスには出来ない攻撃方法だ。

 だが、仲間を巻き込んでまで作った大きなチャンスに、荒垣は自身のペルソナをテュポーンの召喚者であるスミレへと向かわせた。

 

「させるわけねェだろ!!」

 

 しかし、敵へと向かう途中で横から大鎌を持ったペルソナが切りかかってくる。

 咄嗟にアルケイデスに棍棒で受け止めさせたが、攻撃を止められたと判断した途端に敵は距離を取った。

 速度重視の敵だとすれば厄介で、自分より天田の方が対応に向いているとも思っている。

 

「けど、それじゃあ、俺がいる意味がねぇんだよ!」

 

 パワーとタフネスが売りだと言うのに、上位互換のテュポーンに敗北して幼馴染みを巻き込んだのだ。

 続けて、それほど相性が良くないからとそちらの戦いを後輩の天田に任せてしまえば、戦うと心に決めてこの場にやってきた意味がない。

 逃げられるならしつこく追うまで、アルケイデスを先行させて荒垣自身も戦斧を持ってカズキへと迫る。

 

「あァ? 人殺して逃げ出してピーピー泣いてたクソ雑魚が、どうしてオレに勝てると思っちまってンだァ!」

 

 モーモスを追って飛ぶアルケイデスに斬撃スキルが放たれる。

 腕や足、次々と狙っていくつも飛んでいくそれらを、アルケイデスは棍棒や腕でガードしながら最短を進み続ける。

 その後ろを追って駆ける荒垣は、挑発してくるカズキに向けて戦斧を振り下ろす。

 敵はそれを躱し、カットラスで腕をねらってくるも、荒垣が腕を捻りながら戦斧の腹で強引に殴りつけようとした事で後退して避けた。

 機敏な動きで攻守を入れ替える敵を視線で追う荒垣は、他の仲間と違いどこか餓えた獣を思わせる瞳で敵を見ながら言葉を返す。

 

「俺個人の勝利に執着はねぇよ。けどな、なんの仕事も果たさず負けを認めて諦めるほど腐ってもいねぇ」

 

 後退した敵を追いかけて戦斧を大きく横薙ぎに振るう。

 当たれば一撃で敵を屠る威力があったとしても、掠りもしないようでは意味がない。

 テュポーンに手酷くやられ、せめてコイツだけでもとヤケクソになっただけかと捉えたカズキは荒垣の言葉に嘲笑を浮かべた。

 

「諦めが悪かろうが、結果が出せなきゃ意味ねェだろうが! 天然のくせにペルソナもろくに制御出来ず、かと言って死に近付いたオレらほどペルソナが強化されてる訳でもねェ! 肉壁要員ならさっさとくたばれや!!」

 

 荒垣の攻撃を避け続け、攻撃を躱しながら銃を抜いたカズキはその銃口を荒垣に向ける。

 本来制御が容易であるはずの天然型のペルソナ使いでありながら、荒垣は適性が足りず不安定な力を押さえ込めずに暴走事件を起こした。

 そこまでであれば、ストレガたち元被験体も似たような体験をしているのだが、制御剤の服用によって死に近付き適性が上がっている彼と違い。荒垣の適性値は特別高い訳ではない。

 原因は湊が荒垣に渡した制御剤が偽物で、彼の寿命が一切減っていないためだ。

 けれど、戦っているカズキはそれを知らないし、他のストレガたちもまさか荒垣が偽物の制御剤を使っていたなどと知るわけがない。

 それ故、カズキが死に近付いても雑魚のままだと嗤って引き金を引こうとすれば、

 

「飛び道具に頼ったなっ!」

 

 先ほどまでカエサルと共にテュポーンと戦っていた真田が横から接近し、カズキは攻撃の中断を余儀なくされた。

 荒垣に代わって再び真田がカズキへと迫ると、これまでしつこくカズキを追っていた荒垣が方向転換して起き上がろうとしているテュポーンへと向かって行く。

 先ほど真田と視線を交わした時、荒垣はお前がテュポーンと戦えと伝えた訳ではない。

 あの時は、状況を変えたいから一度相手を代わって欲しいと伝えただけだ。

 確かにカエサルにはテュポーンの弱点である電撃がある。

 けれど、テュポーンは高い魔法耐性を持っているのか、弱点属性であってもかなりの回数や威力を叩き込む必要があった。

 魔法だけで決着をつけようとすれば、相手が根を上げる前に真田のエネルギーが枯渇する可能性がある。

 だからこそ、荒垣は状況を変えるため“一時的に”戦う相手を交換したのだ。

 

「叩き込め、アルケイデス!」

 

 飛び上がって棍棒を振り上げたアルケイデスは、落下の勢いも乗せた棍棒をテュポーンの肩に叩き込む。

 如何に肥大化した筋肉に覆われた肉体でも、直前に体表を電撃で焼かれた状態であれば万全でないためにダメージが通る。

 肩を強く殴られてバランスを崩したタイミングで、荒垣自身も接近して斧で撫で切るようにして走り抜ける。

 近くをちょこまかと走る荒垣を鬱陶しいと感じたのか、身体を起こしかけていたテュポーンが四つん這いの状態で手を使い荒垣を捕まえようとする。

 しかし、それこそ狙っていた状況だと荒垣が内心で笑えば、天上付近からテュポーンの背に向けてアルケイデスが落ちてきた。

 

「くらえ、ギガントフィストォォォッ!!」

 

 赤く灼熱に染まった拳がさらに光を纏い、黄色に輝く流星の如く敵の背へ真っ直ぐ落ちてゆく。

 流星と化したアルケイデスの拳が、テュポーンの持つ赤銅色の筋肉の鎧へと突き刺さり、嵐の化身が地に伏せる。

 クジラほどもある巨体が地に伏せれば、フロア全体に衝撃が伝わり揺れと共に轟音が響いた。

 地に伏した嵐の化身の姿が徐々に消えてゆき、召喚者はどうなったと視線を向ければ、天田に槍を向けられて相手は頭の後ろで腕を組んで座り込んでいた。

 事前に召喚者自身に戦闘能力はないと聞いていたため、ペルソナが倒されれば無抵抗で降参するのも理解出来る。

 そして、残る一人はと真田たちの方を見れば、引き金の引かれたカズキの銃から銃弾が飛び出し、それを紙一重で躱した真田が相手の顔面に左ストレートを叩き込む光景が目に飛び込んできた。

 殴られたカズキは大きく吹き飛び、背中からまともに地面に倒れ込むと少し転がり、止まった時には鼻血を出して白目を剥いている。

 これでこのフロアでの戦い全てに決着がついたが、テュポーン相手に苦戦した荒垣と天田はそれなりにボロボロで、メノウと戦っていたチドリは服や顔などが多少汚れて少し疲れた程度、真田は先ほどの銃弾が掠ったのか右肩から血が出ているが最も身体のダメージは少ない様子だ。

 

「シンジも天田も随分とやられたようだな」

「元々、三人で相手する予定を二人で対処する必要があったからな」

「ああ、おかげで基本的にはあいつと一対一で戦う事が出来た。感謝している」

 

 集まってきた仲間を見て真田が呟けば、疲れた表情の荒垣が愚痴をこぼす。

 本来なら荒垣たちは四対三のチーム戦をすべきだった。

 そうすれば、お互いにフォローし合って有利に戦いを進められたはずなのだ。

 しかし、チドリはメノウからの指名で、真田は自身が指名する形でカズキとの戦いを望んだ。

 最後の戦いだからこそ、それぞれの因縁に決着をつける必要もあるだろうと、荒垣と天田は二人でテュポーンの相手をして仲間が自分の戦いに集中出来るよう配慮した。

 ただ、予想よりも時間が掛かっていたせいで荒垣たちは不利な状況に置かれ、これ以上は難しいと判断した段階で真田を巻き込んだ。

 真田自身も荒垣たちが配慮してくれていた事は分かっており、その事で礼を言っていれば、ペルソナで他の戦いの状況を探っていたチドリがペルソナを消して声を掛けてきた。

 

「……良いから治療したらすぐ上に向かうわよ。スミレ、倒れてる二人は任せるわ。治療薬は持ってるでしょ?」

 

 既に天田も集まっている事でスミレは手足なども縛られず自由にしている状態だ。

 だが、負傷しているストレガメンバーの面倒を見る人間も必要なので、スミレというペルソナを倒されて消耗しているだけの人間に彼女自身の仲間の世話を任せる事にした。

 チドリに声を掛けられたスミレは頷いてから用意していた治療薬を見せてきており、意識を失っているカズキはともかく、意識はあるメノウと一緒であれば無事に治療も施せるだろう。

 本気で戦いあった相手とは言え、その後にシャドウに襲われ命を落として知らん顔出来るほど非情ではない。

 スミレに後を任せる事で心配の種がなくなった一同は、その場で自分たちに治療を施すと、チドリの案内に従って仲間の許を目指し移動を開始した。

 

 


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