【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

441 / 504
第四百四十一話 罪だとしても

影時間――タルタロス

 

 チドリたちがタルタロスの外に巨大な気配の出現を感じ取った時、タカヤたちと戦っていたラビリスも同じようにそれを感じ取っていた。

 気配を感じるのは海の広がる方角だ。そんな場所で戦っている仲間など一人しかいない。

 であれば、その気配は間違いなく、敵の最大戦力二人を押さえてくれている青年なのだろう。

 ただ、ラビリスが感じる気配は二つあった。巨大な気配が出現した直後に、同規模の気配が現れたのだ。

 一つは間違いなく湊だろうが、だとするともう一つの気配の召喚者は誰か。

 普通に考えれば彼と戦っている理か玖美奈のどちらかだろう。

 相手は二人とも湊や七歌のようにワイルドの能力を持っており、その適性値はタルタロスの探索を繰り返してきたラビリスたちよりは遙かに上だ。

 そんな彼らであれば、探知型の能力を持っていない人間でも分かるような規模の力を持つペルソナを召喚出来ても不思議ではない。

 しかし、感じた気配の数は二つ。一つはほぼ間違いなく湊だと思われるため、人数が余る敵二人の内のどちらかは既に戦線離脱しているのだろうか。

 ラビリスが戦斧を持って油断なく敵を見ながら考えていれば、コロマルのケルベロスが放った炎をヒュプノスの風で迎撃していたタカヤが笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「凄まじい気配ですね。一つはミナトでしょうが、もう一つは彼のクローンである結城理の物でしょうか? フフッ、前回の敗走を見た時には、以前のあれは姑息な手段で勝ちを拾っただけだと思っていましたが、どうやら本当に彼に匹敵するだけの力を持っていたようですね」

 

 言いながらタカヤは銃を順平に向けて引き金を引こうとする。

 気付いたラビリスは戦斧の推進器を使って高速で移動し、射線に割り込んで飛んできた銃弾を弾いて見せる。

 タカヤの攻撃が防がれた事で、ジンがペルソナを呼び出しすぐに追撃を決めようとするも、ラビリスに庇われた順平がトリスメギストスを呼び出していた事で、両者のペルソナが正面からぶつかり合う。

 殺傷能力の高い銃火器を持つストレガに対し、ラビリスたちは数の有利と連携で対抗する。

 おかげで戦況は五分五分と言ったところだが、お互いに無傷ではないため、決着はそう遠くないだろう。

 僅かなミスで戦局が大きく変わる可能性をあるため、ラビリスもペルソナを呼び出し、アリアドネーにストリングアーツで剣を作らせ攻撃を仕掛けながら言葉を返す。

 

「片方が湊君なんは同意やけど、もう一つの気配が結城理やっていう根拠でもあるん?」

「逆に問いますが、あれと同等の力を持つ者がそう何人もいると思いますか? どういう訳かあの二人は同じ幼少期の記憶を持っていると聞いています。同一の人格であれば、心の力であるペルソナも同一のものになる可能性がある。そこから推測したに過ぎません」

 

 アリアドネーの繰り出す剣を雷で牽制し、拳銃で狙う隙を探りながらタカヤが答える。

 湊や名切りの体質について、ラビリスたちは七歌とアイギスから聞いていたため、どうしてオリジナルとクローンで同じ記憶と人格を持っているのか知っている。

 しかし、湊も自分の生まれについて元々知らなかったように、理も自分の実家について知らなかったことで、名切りの一族やその能力についてストレガたちは情報を持っていないらしい。

 この状況で知ったところで勝負の決着は変わらないと思われるため、ラビリスたちはそれを説明する気は欠片もない。

 ただ、相手は詳細が分からずとも気にしていないのか、外の戦いに興味がある様子で饒舌に話し続ける。

 

「世界を怨みながらも存続を願うオリジナルに、そのオリジナルへの憎しみを持って世界の破滅を願うクローン。物語としてはありきたりですが、それが現実に起こってみると人間の業の深さを感じますね」

 

 目的を持って人間に作られたはずの存在が、その人間を世界ごと滅ぼそうとしている。

 何を間違えればそんな真逆の結果になるのかと、この状況を面白がって笑うタカヤ。

 それを見ていた順平が大剣を持って駆け出し、モロスに斬りかかって大声を出す。

 

「なにが人間の業だ。全部幾月のした事だろ! 最初から滅びを望んで、そのための力が必要だから有里のクローンを作って利用してるんだろうが!」

「アホ抜かせ。ワシらを作ったんはお前ら側におる桐条総帥やろが」

 

 順平の言う通り、理については幾月が世界に滅びをもたらすために行なった事かもしれない。

 けれど、幾月と同じように世界の滅びを願っているタカヤやジンは、世界のためを思って行動した桐条武治によって力を与えられている。

 大のために小を犠牲にする。種の存続を考えれば、その考えは正しい。

 タカヤたちもその点は理解出来るものの、現状を見れば、あの男の行動は全て裏目に出ていると嘲笑する。

 

「人々を守るためにとあの男が取った行動の結果がこれです。身内に裏切り者がいる事にも気付かず、実験動物たちにはこうして手を噛まれる始末。やる事全てが裏目に出ていて、あの男こそ本当は滅びを願っているのではないかと思ってしまうほどですよ」

「滅びを求めた先代の息子や。裏でなにを思てても不思議やないわな!」

 

 自分の右腕としていた男が裏で進めていた計画にも気付かず、世界を守るため生贄にしようとした被験体たちには逃げられた上、こうして大事な場面で妨害までされてしまっている。

 本気で世界を守ろうとしていたとすればとんだ道化で、むしろ本心では滅びを求めていたためにこうなるように動いていたと考えていた方がしっくりとくる。

 ストレガの二人がそういって桐条のことを笑っていれば、モロスを切りつけていた順平が歯を食いしばって力を込めると、敵を押し退け無理矢理に道をこじ開けてジンへと迫る。

 

「ゴチャゴチャとうるせぇんだよ! 幾月に使われて、有里からも逃げ出した腰抜けどもが偉そうな事いってんじゃねえ!」

 

 敵に向かって走る順平を離れた場所にいたタカヤが撃とうとする。

 けれど、そうはさせないとアリアドネーのストリングアーツをただ伸ばして動きを妨害した。

 ラビリスの妨害によってタカヤの動きが封じられ、順平はジンを真っ直ぐ見つめて駆けてゆく。

 ジンも拳銃は持っているが、今は手榴弾と召喚器で両手が埋まっている。

 召喚器を持っている方の腕は怪我を負っており、手榴弾は乱暴に扱えない代物。

 よって、咄嗟の持ち替えは出来ない以上、相手に出来るのは手榴弾での迎撃のみ。

 迫る順平を睨みながら効果範囲を目測で測りジンが手榴弾を投げれば、

 

「アオーンッ!」

 

 爆発する前にコロマルが召喚したケルベロスが炎を吐き出し、横合いから迫ったそれが爆発前の手榴弾を飲み込んだ。

 炎に押し流された手榴弾は途中で爆発するも効果を発揮せず、味方の援護にニヤリと笑った順平が炎の中を突っ切りジンの目の前まで躍り出る。

 

「しゃらくさいわ!」

 

 手榴弾を無効化された事に表情を歪めたジンも、敵が迫っていたため空いた手を拳銃に伸ばしていた。

 狙いをつける余裕はないが、それでもこの距離なら外さない。

 そうして、ジンが拳銃の引き金を引こうとした時、順平は両手で持った大剣を振り上げながら身体を横に向けて急ブレーキをかけ、銃声が聞こえたと同時に野球のスイングで発射された銃弾を弾いた。

 

「なんやとっ!?」

 

 相手が湊や元対シャドウ兵器の姉妹であれば銃弾を躱したり、武器を使って弾かれるという事も分かる。

 だが、順平はただの学生だ。銃の扱いは勿論、銃を持った人間を相手に戦った経験だってほとんどないはず。

 そんな一般人でしかない人間が、冷静に攻撃のタイミングを見極めて近距離で弾いて見せた。

 どうしてお前にそんな事が出来たのだとジンが驚愕している間に、再度駆け出して距離を詰めた順平が拳を握って相手の顔面を殴り飛ばす。

 

「ガキだからって舐めてんじゃねーぞ!」

 

 内心では上手くいって良かったと心臓をバクバクいわせている順平は、これで大人しく眠っていろと渾身の拳で打ち抜いた。

 動揺していた事で咄嗟に衝撃を逃がすといった対処も取れなかったジンは、頬を殴られて口の中に鉄の味が広がるのを感じながら一瞬の浮遊感を味わう。

 そして、すぐに背中と後頭部に強い衝撃と痛みを感じると、ここまで連れてきてくれたタカヤへの申し訳なさを感じながら意識を手放した。

 

「ジン!」

 

 これまで余裕を見せていたタカヤも、流石に仲間がやられれば冷静ではいられないのか大きな隙を見せる。

 このチャンスを無駄にはしないとラビリスはE.X.O.を発動し、身体から青白い光を放出すると人間の限界を超えた速度で相手へと迫る。

 けれど、タカヤも裏の世界で命のやり取りをしてきた人間だ。

 動揺しても敵から完全に意識を外すという事はしていなかったのか、視界の端でラビリスに動きがあった時点でペルソナを呼びだしていた。

 

「ヒュプノス! 全てを薙ぎ払いなさい!」

 

 何かをしようというのなら、相手が動く前に潰すか近づけなければいい。

 タカヤの頭上に現れたヒュプノスは黒い翼を羽ばたかせて暴風を巻き起こす。

 ジンを殴り飛ばした直後で体勢が整っていなかった順平と、先ほど順平を守るために動いて離れた場所にいたコロマルは、タカヤを中心として放たれた暴風に煽られて地面を転がる。

 

「そんなんで止まるわけないやろ!」

 

 だが、勢いをつけて相手に向かっていたラビリスは正面から風を受けようとも止まらず、戦斧の推進器も起動してタカヤへと肉薄する。

 タカヤとジンは他のストレガのメンバーと異なって近接武器を持っていない。

 ペルソナのスキルもほとんどが魔法スキルに偏っている事から、本人のセンスか制御剤の副作用に蝕まれた身体の問題か、そもそも格闘戦を得意としていないのだろう。

 その分、銃や爆弾でペルソナ以外の戦い方を補っていたようだが、火器非搭載モデル故に数多の格闘戦のデータを収集していた格闘戦のエキスパートに接近を許してしまった時点でそれらは意味を成さない。

 とはいえ、何もせずにただ負けを認める訳もなく、青白い光を纏ったラビリスがすぐ目の前までやってくれば、タカヤも手に持っていた大型リボルバーの頑丈なグリップの底をハンマー代わりにして殴ろうとする。

 

「何故人々の願いを、持たざる者たちの希望を奪おうとするのです!」

 

 ラビリスたちにとっては世界の滅びなど質の悪い夢、馬鹿な話でしかないのかもしれない。

 しかし、それでも、他の者たちにはくだらない事だったとしても、それを望み、それだけを唯一の希望として縋った者たちもいるのだ。

 一体何の権利があってお前たちはそれを否定し、他者の願いを踏み躙ろうというのか。

 桐条によって未来を奪われ、結果的にとは言え持たぬ者たちの声を聞いてきたタカヤが怒りの感情のままに武器を振り下ろせば、戦斧を手放しガントレットを装備した手で攻撃を受け止めたラビリスが真っ直ぐ相手と視線を合わせ口を開く。

 

「それが本当の希望やないって知ってるからや。死は終わり、その先にはなんもない。地獄を味わって楽になりたいんならそれも分かる。けど、その人たちは救われたいんやろ? なら、目指すゴールはそこやないって誰かが否定したらなアカンやろ」

 

 もし、これ以上この地獄を生きていたくないと滅びを求める者がいれば、ラビリスは自分の願いを叶えるために貴方の願いを否定してゴメンと謝るだろう。

 生き続ける方が辛い。死ぬ事で今感じている苦しみから解放されたい。そんな考えを持っている者からすれば、世界の滅びは間違いなく救いとなる。

 であれば、ラビリスも自分の願いのために相手の願いを否定する事を認め、他者の希望を踏み躙った事実を罪として背負い生きていくつもりである。

 しかし、タカヤたちが言っている持たざる者のほとんどがそうではない。

 自身か社会の現状に絶望しているとしても、彼らが求めているのは“救い”であって“滅び”ではないのだ。

 ラビリスは掴んでいた相手の銃から手を離すと、間髪入れずに空いた手でタカヤの腹部を殴りつける。

 

「ウチも多分、そのままやったらアンタらみたいになってたんやと思う。でも、湊君と会って違う生き方を知って、家族にも会わせてもろたからもうその道は選べへん。だから……ゴメンな」

 

 金属製のガントレットに覆われた拳を腹部に喰らいタカヤの身体がくの字に折れ曲がる。

 そして、頭が下がってきたところで逆の拳を握り締め、下から掬い上げるようにして顎を打ち抜いた。

 アッパーで殴られたタカヤは武器を手放し、仰向けのまま大の字になって地面に倒れ込む。

 意識は失っていないようだが、脳が揺れて立ち上がる事も出来ないのか、焦点の合わなくなった瞳でただ虚空を見つめていた。

 相手を戦闘不能状態に追い込んだ事を改めて確認し、ラビリスはホッと息を吐いてE.X.O.を解除する。

 数で勝っていたとは言え無傷という訳にはいかず、相手が強力な銃火器を持っているという重圧に加え、戦闘でペルソナを使っていた事もあり心身共に消耗している。

 ただ、まだ他の仲間が戦っているのが分かっているだけに、ここで腰を下ろして休んでいるという訳にもいかない。

 武器を拾ったラビリスの許へ順平とコロマルも集まり、その顔に疲労の色を見せながらも笑って話しかけてくる。

 

「なんとか大怪我もせずに勝てたな。二人ともおつかれ!」

「うん。順平君もコロマルさんもお疲れさま」

「わん!」

 

 因縁の相手に勝った事を喜びつつ、お互いに無事で済んだ事を確認して安堵の息を漏らす。

 銃や爆弾を相手にするのは精神的に疲れるが、自分よりも仲間が無事でいられるかという心配の方が強く感じてしまい。

 こうやって戦闘が終わって無事を確認するまで、それぞれ気が気でなかったらしい。

 けれど、それほど大きな怪我をしていないのであれば、すぐに次の行動について決めるべきかと順平がラビリスに尋ねた。

 

「んで、この後はどうすんだ? ぶっ続けて行くのか、流石に少しは休んでから行くのか。逆に下の真田さんらと合流してから上に行くってのもありだと思うけどさ」

「とりあえず、息が整うくらいの休憩は入れた方がええんちゃうかな。後の事を考えるんなら、擦り傷でも怪我は治療しといた方がいいと思うし」

「分かった。なら、その間に真田さんたちが合流してくる事に期待でもしとくかな」

 

 方針を決めると順平は上層への階段に腰を下ろし、携帯パックから飲み物を取り出して水分補給を始める。

 それを見たラビリスもタカヤとジンの武器を回収してから休息を取り、合流した後に少しでも仲間を助けられるよう身体を休める。

 タルタロスの外ではまだ二つの巨大な気配が戦っているのが分かり、それとは別の禍々しい気配を上の階層から感じていた。

 神であるニュクスが降臨すれば気配はこんなものでは済まないはずで、となれば禍々しい気配の正体は頂上で七歌たちが戦っている“宣告者”だろう。

 何人で戦っているのか。仲間たちは無事なのか。考えるほど不吉な結果を想像してしまい、このままでは駄目だと頭を振って妄想を吹き飛ばす。

 仲間は全員無事。ニュクスの降臨にもまだまだ間に合う。

 だから大丈夫だと自分に言い聞かせ、ラビリスは短い休憩で体力の回復につとめるのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。