【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百五十一話 神の力

影時間――巌戸台

 

 街を覆い尽くすほど巨大な赤い瞳が自分たちを見下ろしている。

 人工島に聳える奈落の塔を目指して、遙かなる宙より神が降りてくるその光景は、首都圏周辺だけでなく他の地方からでも見えていた。

 無論、タルタロス自体は見えている訳ではない。彼らに見えているのは赤い瞳が降りてくる光景だけだ。

 青年が世界に向けて発した言葉を聞いても、彼らは青年たちが戦う姿を見ていなかった事で、何らかの異常事態に巻き込まれていることは分かっても他人事だと考えていた。

 しかし、宙より神が降りてくる光景を見たことで、実際に世界が滅びを迎えようとしている事を理解させられた。

 戦っている者がいると言っても、あんなものに勝てるはずがない。そんな絶望が伝播していく。

 だが、実際に戦っている姿を目にした者や、戦っている彼らの事を知っている者たちはこの状況でも絶望しきってはいなかった。

 七歌たちの暮らしている巌戸台分寮。その屋上からニュクスの姿を見ていた桜たちは、人々を守護する神が存在するならどうか彼らを守って欲しいと祈っていた。

 

「どうかお願いします。あの子たちを、この世界を守ろうと必死になって戦ってくれている子どもたちを守ってください……」

「お願い。皆、無事に帰ってきて……」

 

 タルタロスから数キロ離れたこの距離からでも、あれが人間が戦って敵うような相手ではない事ははっきりと感じ取れる。

 桜や英恵と違って命のやり取りを経験している鵜飼や渡瀬が青い顔をしているのだ。戦って来た者ほどそれを強く感じ取れるのだろう。

 どうやってあんなものに勝つのかなど想像も出来ない。

 故に、彼女たちは親として子どもたちが無事に帰ってきてくれることのみを願う。

 彼らはまだ諦めていない。死後の世界で実際にニュクスと相対した湊が勝てると言っていたのだ。

 危険な場所で子どもたちが諦めずに戦っている以上、安全な場所にいる自分たちが先に諦める事だけは出来ない。

 母親たちがそんな想いで祈り続けていると、青ざめた表情で地面に膝を突きながらもニュクスを見つめる五代が、声を震わせながらポツリと呟いた。

 

「……あんな…………あんな化け物と彼らは戦うのか。この距離で見ているだけでも気が狂いそうになるっていうのに……」

「…………あれって“死”そのものよね? 小狼君も大概だと思ってたけど、あれを知っていたなら殺気だけで敵に死のイメージを叩き付けられても不思議じゃないわね」

 

 情報屋として働く傍ら、自身でも依頼を受けて人の命を奪っていた五代は、ニュクスを見た時点で身体の震えが止まらなくなっていた。

 あれは間違いなく“死”そのものだ。死という生物が最も忌避する概念が物質的な肉体を得て顕現したのがニュクスの正体である。

 裏稼業という仕事柄、人の死に立ち会ってきたからこそ、五代やロゼッタはニュクスを見ているだけで自分の死をイメージさせられてしまう。

 五代たちと出会ったばかりの抜き身の刀のような危うさを持っていた湊は、瞳を蒼くして殺気を飛ばすだけで相手に死のイメージさせた事があった。

 それを思い出したロゼッタは、あんな化け物を知っていれば他者に死をイメージさせる事など容易だったに違いないと思わず納得しまう。

 

「兄さんたちは無事なんでしょうか?」

「さぁね。けど、湊たちがあれをどうにか出来なきゃ私らも終わりさ。信じるしかないよ」

 

 ニュクスが現われたのであれば、恐らくその前段階であるデスが変じたニュクス・アバターとの戦いは終わっているはず。

 何人が無事にその戦いに辿り着いたのかは分からない。戦いに参加出来てもニュクス・アバターを倒すまでに力尽きた者がいてもおかしくない。

 それでも、それでも自分たちはただ信じて待つことしか出来ない。

 不安に思っている美紀を安心させてやりたかったが、栗原にも余裕はなくそう答える事しか出来なかった。

 

――タルタロス

 

 自分たちを見つめる巨大な瞳。その全体像を把握するまでもなく、存在するステージが違うと一瞬で理解出来るほど圧倒的な存在感を前に七歌たちは呆然としていた。

 勝ち負けの問題ではない。アリがゾウに挑むようなもので、そもそもどうやって挑めばいいのかも分からない。

 だが、どう挑めばいいのか分からなくとも、自分たちはこれに勝たなくてはならないのだ。

 誰よりも早く正気を取り戻した七歌は、思考がまとまらないままにでも動かねばと仲間に声をかける。

 

「全員正気にもどれ!! 私たちはあれに勝ちに来たんだろ!!」

 

 七歌が仲間に声をかけている間にも状況は変化している。

 糸で吊るされたように宙に浮いていたニュクス・アバターが光の粒になって消えてゆき、それらが全てニュクスの赤い瞳へと吸い込まれていったのだ。

 綾時の言葉が正しければ、これよりニュクス降臨は最終フェイズに入り、母なる存在を求めてシャドウたちもこの場所へ集まってくる。

 いつまでも呆けていればニュクスと戦う前に集まってきたシャドウに襲われて死んでしまう。

 だから早く正気に戻るように声をあげれば、頼もしいリーダーの発破で仲間たちの目にも再び力が宿る。

 

「九頭龍の言う通りだ。ようやくここまで来たんだ。戦う前から心で負けていては勝てる勝負も勝てなくなる」

「そっすね。神だかなんだか知らねーけど、オレたち人間の底力をナメてもらっちゃ困るっつの!」

 

 真田と順平が七歌の言葉に触発されて武器を構えれば、他の者たちも頼もしい仲間の姿に勇気づけられて武器や召喚器を構えた。

 徐々にここへと近付いてくるのなら、一定の高度まで降りてきたタイミングで攻撃を仕掛けるのがベストだろう。

 無論、それは自分たちが自由に動ける場合の話で、実際は集まってきたシャドウへの対処をしながらという事になる。

 全員がこれまでの戦いで既にボロボロだ。誰がシャドウを抑えて、誰がニュクスに攻撃を仕掛けるかなんて決めるほどの余裕はない。

 その状況で出来る者がやる。七歌たちに残された作戦はそれだけだ。

 だが、七歌たちが降りてくるニュクスとやってくるシャドウを警戒していると、降下中のニュクスに不自然なエネルギーの収束反応を感じて風花が皆に呼びかけた。

 

「膨大なエネルギーの収束を確認、何かしてきます!」

 

 風花が言い終わるかどうかのタイミングで、ニュクスの瞳の前に黒い光が集まり、波動のように拡散しながら放たれる。

 天から目に見えない力が轟音と共に降り注ぐと、七歌たちは身体が急に重くなり真っ直ぐ立っていられなくなる。

 まるで、神の御前にて頭を垂れぬ不遜な者どもに頭を垂れよと命じるかのように、見えない神の手によって上から押さえつけられ徐々に身体が地面へと近付く。

 手を膝について耐えようにも絶え間なく力は降り注ぎ、不可視の力によって七歌たちは地に膝をついて、頭を垂れたまま額も床につけられそうになる。

 

「なん、だ……これは……っ」

「これは……強、力な……重力波ですっ」

 

 戦闘の影響によって荒れていた頂上の床が、ビキビキと音を立ててひび割れ崩れ始めた。

 このままでは自分たちのいるこの場所も崩落するのではと不安を感じながら、美鶴が尋ねれば風花がニュクスが放つこの攻撃の正体を皆に伝える。

 思えば湊の蛇神が街の上空に顕現した時にも直下の街は重力が増していた。

 恐らく、この重力波という攻撃は神にとっては当たり前のように備えている機能なのだろう。

 攻撃の正体を聞いた真田は、重力波ならば取れる手はあると歯を食いしばりながら地面に拳をつき、ググググと非常にゆっくりながらもこの程度では負けないとばかりに上半身を起こしてゆく。

 

「重力ならっ……力で上回れば、いいだけの事だっ……!」

「んな……脳筋なっ……解決策があるかよ……!」

 

 重力が増して身体が重く感じるのなら、いつも以上に力を入れて身体を支えればいい。

 そんな馬鹿みたいに単純な方法で真田は現状を打破しようとする。

 けれど、他に打てる手もなく、真田と同じように荒垣も全身に力を入れて身体を起こそうとした。

 顔を上げて、腕立て伏せのように身体を起こし、何とか立ち上がろうとしたその時、自分たちのいるこの頂上の床の縁を掴む黒い腕が見えた。

 

「何か上がってくるぞっ!!」

 

 黒い腕を見た瞬間にそれが異形の物、つまりはシャドウだと気付き荒垣は仲間たちに報せた。

 その声に反応して他の者たちも周囲を警戒して、何とか上半身を起こしながら武器と召喚器を手元に引き寄せる。

 全員の準備が何とか間に合った次の瞬間、タルタロスの外壁を上ってここまでやって来たであろうシャドウが姿を現わす。

 

「何なの……このシャドウ……」

 

 その姿を見たゆかりは思わず呟き、訝しげな視線を敵に向ける。

 現われたのは間違いなくシャドウだ。だが、その姿が彼女たちの知っているものとは違い過ぎた。

 全身が黒い靄で覆われた四足獣のような、輪郭のはっきりしないシャドウのなり損ないのような姿。

 湊のミックスレイドから出てきた過去の名切りの亡霊が似たような姿だったが、現われた新種のシャドウはどこか存在も希薄で、本当にこれがシャドウなのかと不安にすら感じる。

 しかし、そんな他の者たちの迷いを振り払うように、敵にアナライズを掛けたチドリが断言した。

 

「相手は間違いなくシャドウよ。ただ、ニュクスの影響を受けて不完全なまま実体を持って出てきたみたい」

「なら、力も中途半端ってことやなっ」

 

 チドリの言葉を聞いてラビリスはすぐにペルソナを呼び出し、ストリングアーツで造った槍でシャドウを貫く。

 実体化が不完全だった事もあり、攻撃はすんなりと通ってシャドウはその身を散らす。

 強力な重力下でもこの程度の相手なら問題ないと強がって仲間に笑いかけ、そしてすぐにその笑いは引き攣ったものに変わる。

 そう。すぐに同じような姿をしたシャドウが現われたからだ。

 このままではマズい。美鶴はすぐに号令をかけた。

 

「全員戦闘準備っ、まずは生き延びるぞ!」

『了解っ!』

 

 動けない者たちはその場でペルソナを呼び出して応戦する。

 ラビリスとアイギスはE.X.O.を起動して、他の者たちの死角をカバーするように動きながら戦う。

 だが、黒いシャドウは群れとなって次々と押し寄せてくる。死を求めて、母なるシャドウを求めて街中から集まってくる。

 ペルソナの攻撃を潜り抜けたシャドウが接近し、順平は片膝をつきながらも腕の力で剣を振るってシャドウを屠った。

 続けてやってきたシャドウも、無理矢理に身体を捻って剣を振るって倒してみせた。

 けれど、さらに続けてやってくると攻撃が間に合わず、のしかかられて倒れ伏す。

 

「順平っ!?」

 

 七歌がすぐに助けに向かおうとするも、矢を射る暇がなく弓で直接敵を殴っていたゆかりが、同じようにシャドウに襲われているのを見て、どちらを先に助けるべきか悩み反応が遅れてしまう。

 続けて戦う力を持たない風花がペルソナごと複数のシャドウに覆われ、最も非力な天田が抵抗空しくシャドウの群れに呑まれてゆく。

 黒い津波のように押し寄せるシャドウらに薙刀を振るいながら、七歌は思う。

 なんだこれは、と。

 これではあの時と同じだ。

 幾月の罠にかかり、街中のシャドウとタルタロスから溢れてきたシャドウに襲われた時と同じ状況。

 あの時よりも自分たちは強くなった。仲間だって増えた。

 それなのに、あと少しなのに力が足りない。どれだけ強い想いを持っていようと、力が無ければそれも届かない。

 仲間たちが次々とシャドウの群れに呑まれ、相手をする数が増えた他の者たちも手が回らなくなり同じように呑まれた。

 一人、また一人と倒れてゆき、誰よりも頑張ってくれていたラビリスとアイギスも物量で押し切られて見えなくなった。

 全員が万全の状態であればもっと違った結果もあったかもしれない。

 ニュクスの重力波さえなければ、シャドウの群れとも戦い抜けたかもしれない。

 それでも結果はこの通り。必死になって辿り着いても、自分たちはただの一太刀すらもニュクスに浴びせることが出来なかった。

 全方位から押し寄せるシャドウの群れに呑み込まれながら、七歌は宙に浮かぶ赤い瞳を最後まで見つめ続けて意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

――ベルベットルーム

 

 気付けば七歌はベルベットルームの入口に立っていた。

 どうして自分はここにいるんだと辺りを見渡せば、テーブルをはさんだ向かい側には部屋の主であるイゴールと従者である三姉妹弟がいる。

 夢を通じてこの部屋を訪れる事もあったので、意識を手放した事でやって来たのかも知れないと考えたが、もしかしたら現実世界で死んだからやって来たのかも知れないという不安も襲ってくる。

 だが、普段は自分が座っている椅子に湊が腰掛けていた事で、七歌は歩いてそちらに近付いて彼に声をかけた。

 

「……八雲君、戦いはどうなったの?」

「まだ現実世界では続いてる。ニュクスが現われて、街中の人間からシャドウが抜け出て塔を登っていくのが見えた。ニュクス教のやつらも存外捨てたものじゃないな。ニュクスの影響を受けているとは言え、あんな不完全な状態でも死を求めてシャドウが実体化するとは思っていなかった」

 

 青年も途中まで外で状況を見ていたのだろう。

 七歌たちがシャドウの群れに襲われ始めた頃までは状況を把握しているようだった。

 不完全な状態で実体化したシャドウに襲われた七歌にすれば、そんなものを生み出した者たちを褒めるなと言いたい。

 けれど、タルタロスの方は任せろと彼に言っておきながら、こんな事になってしまった事を七歌は申し訳なく思い。湊に頭を下げて謝罪していた。

 

「ゴメン、八雲君。約束も、皆も、守れなかった……」

「……約束?」

「こっちは任せてって言ったのに。ニュクスと戦う前に、負けちゃったっ」

 

 湊は敵の最大戦力二人を単独で押さえながら、一般人の混乱を抑えて守ってくれていた。

 事前に、ニュクスの影響を受けて予定よりも早く象徴化が解ける可能性があることも聞いていたが、七歌たちは自分たちの戦いに精一杯で、一般人の混乱など考えている余裕すらなかったのだ。

 彼は強敵と戦いながら、そんな自分たちの手が届かない部分をフォローしてくれていたというのに、七歌は自分でした約束すらも守れなかった。

 どの面下げて会いに来たんだと罵られてもしょうがない。

 彼女たちは、最も負けてはいけない戦いに挑むことすら出来ずに終わったのだ。

 どれだけ詫びても足りないほどだが、今の七歌はこうやって頭を下げることしか出来ないため謝罪を口にして頭を下げていれば、説明を受けてなるほどと頷いた湊が口を開いた。

 

「……お前たちの仕事はニュクス・アバターと戦うまでだろ?」

「……え?」

「だから、お前たちの仕事はニュクス・アバターを倒して、ニュクス本体を引っ張り出すところまでだったはずだ。最初からニュクスの相手が出来るなんて思ってないぞ」

 

 どういう事だと驚いて七歌が顔を上げると、湊はいたって真面目な様子で七歌の事を見ていた。

 七歌たちはニュクスとの決戦も含めて自分たちの仕事だと考え、湊もそこに合流して神に挑むのだと思っていた。

 だからこそ、挑む前にシャドウの群れに敗北してしまった事を申し訳なく思い。こうやって謝罪をしていたというのに、青年は彼女たち全員を戦力として数えていなかったと告げた。

 実際に戦力になる前に終わったため強くは言い返せないが、全員がニュクスに本気で勝つつもりで必死になって戦ったんだぞと言ってやりたい。

 それを全力で飲み込んで、静かに息を吐くと七歌はどういう意味だと改めて問い直した。

 

「どういう事? 八雲君は最初から一人でニュクスと戦うつもりだったの?」

「……まぁ、そうだな。デスの力を持っている綾時なら可能性もあったが、他の者たちでは無理だと最初から分かってた。なにせペルソナじゃニュクスを傷つける事は出来ないんだから」

 

 湊が告げた残酷な言葉に七歌は心臓を掴まれたかのような強い衝撃を受ける。

 もし、彼の言葉が事実だとすれば、ペルソナを封じられた七歌たちに残った攻撃手段など武器に頼った近接格闘しかない。

 相手は一つの星。七歌が暮らす東京どころか日本よりも遙かに巨大な存在。

 そんな物を相手にしようというのに、人が手に持てるサイズの武器を振るったところでまともな勝負になるはずがない。

 

「お前だって薄々気付いてはいたんだろ? ペルソナとシャドウは同じ物。シャドウがニュクスの力の欠片なら、それと同じペルソナでは大元であるニュクスを倒す事は出来ないと」

「そ、それは…………でも、それでも、人の心がニュクスの予想を上回ればっ」

「力の規模が違う。突然変異種の凶暴なアリが生まれたとして、だからってゾウに勝てると思うか? 噛み付いて皮膚の表面を傷つけられてもそこが限界だ。致命の一撃なんて与えられるはずがない」

 

 湊はニュクス本体を実際に目にした七歌の心情を見抜き、相手が考えたアリとゾウを例えとして利用した。

 彼だって別に七歌たちが憎くてこんな事を言っているわけではない。

 決戦に挑む前、その時点で湊も七歌も綾時だってこうなることは最初から分かっていたのだ。

 本気でニュクスに勝とうと思っていた仲間たちを騙していたようで申し訳ないが、その三人はペルソナでニュクスに挑もうとどうやっても勝てないと思っていた。

 湊と綾時はニュクスの力を正確に理解し、味方の戦闘がペルソナ頼みだと分かっていたため、どうやってもニュクス・アバターとの戦いまでしか戦力にならないと判断。

 七歌はそこまで正確に分かっていた訳ではないが、アルカナシャドウが人々から抜け出たシャドウを吸収して力を蓄えていた事を思い出し。シャドウを生み出した存在なら、直接人からシャドウを抜き出す事が出来てしまうのではと考えていた。

 そんな相手にペルソナで挑んだところで、近付いていったペルソナを喰われて終わりだ。

 戦闘中にペルソナを喰われて影人間化した仲間を庇いながら戦うなど不可能。

 仮に、シャドウを制御下に置いたペルソナを相手が吸収出来なかったとして、ペルソナを使って戦う事が可能だったとしても、今度はその力の規模の差が問題になる。

 湊が持つ蛇神は神クラスの力を持つペルソナではあるが、その力はニュクスより遙かに規模で劣る。

 しかし、そんな蛇神にすら七歌たちでは勝てない。子どもだってゾウはゾウだ。成体のゾウよりサイズや力で劣っても、アリ如きに負けることなどない。

 七月の満月の日に現われた蛇神を観察し、変則的な顕現を果たしていた阿眞根と相対したからこそ、七歌は神と呼ばれる存在たちと自分たちの力の差を正しく理解していた。

 だが、頭でそうやって理解出来ていても、感情はすんなりと納得してはくれない。

 このまま負けるなんて嫌だ。滅びを受け入れる事なんて出来ない。そうして、七歌はこの惑星に唯一残された可能性に縋った。

 

「……なら、八雲君なら戦って勝てるの?」

「さぁな。だが、そのために必要な最後の一ピースを受け取るためにここへ来たんだ」

 

 問われた青年は絶対に勝てるだなどとは断言しなかった。

 そんなもの、本人にだって分からないのだ。聞かれたところで無責任に答えられる訳がない。

 ただ、彼だって最初から負けるつもりで挑む気などない。やるからには勝つつもりでいる。

 ここへ来たのだって勝利の鍵となる最後の一ピースを手に入れるためだ。

 七歌に向けていた視線を彼が正面に戻し、七歌もつられてそちらを見ると、先ほどまでそこにはなかった虹色の光の珠がテーブルの上に現われていた。

 

 

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