【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百六十九話 再集結

――巌戸台分寮

 

 突然現われた対シャドウ兵器である少女との戦闘でダメージを負ったアイギスは、敵の無力化に成功した直後に意識を失った。

 普通の人間よりも頑丈で、怪我自体もしにくくなってはいるが、オルギアモードを使ったロボットの一撃は生身には重かった。

 影時間が消えて以降、戦闘だけでなく訓練自体もしていなかったため、痛みに弱くなっていたのもあるとは思う。

 もっとも、世界は平和になったのだから、彼女の今の状態を弛んでいると言う者はいないだろう。

 そうして、意識を失った後、アイギスは不思議な夢のような物を見た。

 どこまでも降下し続ける巨大なエレベーター、そこにいる人の形をした人外の住人たち。

 一般人であればその見目麗しい外見に騙された事だろうが、少しでも戦いに身を置いた事があれば彼女たちの底知れぬ力に気付くだろう。

 ただ、湊や七歌からその存在について聞いており、自身も相手と言葉を交わした経験のあるアイギスは自分が招かれた“ベルベットルーム”をすぐに受け入れる事が出来た。

 ただし、湊の担当を務めていたはずのエリザベスが自分の担当になり、彼が全ての契約を果たし終えて旅立った事を認識させられる事になるのは予想外だった。

 頭では分かっているつもりだったが、彼がいなくなった後に変化したものを見ると嫌でも理解させられる。

 イゴールたちから新たな試練の始まりについて聞いていなければ、またもや帰ってこなかった湊の事ばかり考えて塞ぎ込んでいたに違いない。

 新たに変化した力、新たに始まる試練、それらについて考えながらベルベットルームで意識を手放したアイギスは、自室のベッドで目を覚まし自分が現実世界に戻ってきた事を理解した。

 

「ん……わたし、あの後……?」

 

 一階のエントランスで意識を失ったはずだが、誰かが手当てしてくれたようで身体に不調はない。

 起き上がってベッドから出ると、アイギスは身体の調子を確かめつつ、他の者たちを探して部屋を出る。

 メティスと名乗った少女は一度行動不能にしたので、襲われた仲間たちも全員無事なはず。

 となれば、相手を拘束してから、開いた地下への扉を調査しているのではないだろうか。

 一応、警戒してすぐに武器を取り出せるようにだけ意識しながら、階段を下りていくと一階の方から話し声が聞こえてくる。

 用事があって今日の催しに来られなかったメンバーの声を聞こえ、どうやら異常事態が起きたと呼び出されたようだと察する。

 アイギスが階段を下りていくと、一階にいた者たちも気付いたようで、私服姿の七歌が手を挙げて声をかけてきた。

 

「おっすおっす! なんか大変だったみたいだね。こっちも色々と話したい事あるんだけど、とりあえず怪我は大丈夫?」

「はい。治療していただいたようで、特に不調などもありません。皆さん、全員集まられたんですか?」

 

 増えていたのは七歌だけじゃない。ゆかりに真田、姉であるラビリスとコロマル、そして、港区から離れた田舎に住んでいるチドリまでやって来ていた。

 キッチンの傍で椅子に座ったまま鎖で拘束され、ラビリスに監視されているメティスの存在が気になるものの、俯いたまま身動き一つしていない事からどうやら座ったまま寝ているらしい。

 寝ているなら安全だと判断して彼女の存在を思考の端へと追いやり、こんな事がなければ集まることはなかったはずだが、それでも仲間たちとの再会は嬉しいものだと素直に笑みを浮かべる。

 後は綾時がいれば全員集合となる訳だが、アイギスが尋ねたタイミングで上の階から見慣れぬ箱を抱えた綾時と順平が降りてくる。

 相手もアイギスに気付くと優しい笑みを浮かべて体調について尋ねてくる。

 

「やあ、アイギス。起きて大丈夫なのかい?」

「はい。今のところ問題はありません。それより、その箱は?」

「これは作戦室の奥の資料室に隠されていた湊からの贈り物だよ」

 

 綾時の言葉を聞いた他の者たちの視線が彼の持つ箱に集まる。

 湊はこの寮で生活しておらず、来たことだって数えるほどしかない。

 だというのに、普段は施錠されている四階作戦室、そのさらに奥にある資料室に何を隠していたというのか。

 一同が集まっていたテレビに近いテーブルの上に箱を置くと、綾時は蓋を開けて中身を手に取りながら説明した。

 

「この箱はどうやら時限式で開くようになっていたらしい。設定されていた時間は三月三十一日の二十三時五十分、つまり、日付が変わる少し前って事さ」

「それで中身は?」

「箱いっぱいの宝玉輪と二枚の便箋だよ。箱自体がEP社製だった事と、便箋に書かれた文字が彼の物だったから湊からの贈り物と判断したんだ」

 

 言いながら綾時は箱からキラキラと光る宝石のような物を取り出してみせる。

 宝玉輪はタルタロスで稀に手に入った貴重な回復アイテムだ。

 湊のペルソナが使う回復スキルには劣るが、瀕死の重傷であっても痕も残らず治療出来るだけの効果がある。

 影時間解決のために戦っていた当時は、仲間にもしもの事があった時のため極僅かに手に入った物を用意してはいたが、その貴重さと効果があまりに高い事もあって出来る限り温存しようとしてしまい。ほとんど使われた事はない。

 だが、影時間の記憶を失っていた間は勿論、その後も影時間が消えた事でペルソナを呼び出す機会もなく、メンバーらのペルソナ能力は決戦時と比べて酷く鈍っている。

 それは戦闘力だけでなく回復スキルなどの力も同じで、仮に剣が腹を貫通するような事態が起きれば今のアイギスたちに仲間の命を繋ぐ手段はない。

 突然現われたメティスに襲われた事で、メンバーたちは自分たちが何かの事件に巻き込まれ、再び戦う必要があるだろうという事も察している。

 そんな事が起きる直前のタイミングで開くように設定されていた箱に、貴重な回復アイテムが山ほど入っていたとなれば、どれだけ鈍い頭の持ち主だろうと無関係とは思えないだろう。

 となれば、一緒に入っていたという二枚の便箋にはかなり重要な事が書いてあるはず。

 その場にいた者たちが視線で綾時に読み上げるよう指示すれば、便箋を手に取った綾時がそれぞれに目を通してから静かに読み上げた。

 

「まず一枚目の便箋には、“俺を頼れ”とだけ書かれているね」

「これを用意したのが有里君なら、俺って有里君の事だよね?」

 

 綾時が読み上げた一枚目の便箋の内容にゆかりが首を傾げる。

 いくら頼ろうにも本人は最後の戦いから未帰還のままだ。これでは頼りようがない。

 もしかすると、自分が遺した回復アイテムを遠慮なく使えという意味で書いたのかもしれないが、内容がシンプル過ぎるが故にそれが何を意味するのかが分からない。

 

「ふむ……考えるのは後にしよう。望月、もう一枚の便箋も読んでくれ」

 

 悩んでも簡単には分からないようなので、一枚目の便箋が指す内容については一旦置いておき、もう一枚の便箋を読み上げるように美鶴が促す。

 続くもう一枚はもっと分かり易い内容か、何を見越して大量の回復アイテムを用意していたのかの説明であって欲しい。

 他の者たちがそんな風に考えながら綾時が読み上げるのを待っていれば、二枚目の便箋に目を通した綾時が眉を寄せて難しい表情を浮かべた。

 一枚目が簡潔すぎる内容だっただけに、綾時が難しい表情を浮かべてしまう二枚目の内容が余計に気になる。

 もしかすると、湊が最後の戦いで帰ってこなかった事とも関係するような、とても重要な事が書かれている可能性もある。

 読んだ本人が内容をかみ砕いて理解する時間も必要だろう。

 そう考えて皆が黙って待っていれば、表情を何とも言えぬ微妙に困惑したものに変えて、便箋から顔を上げた綾時が口を開いた。

 

「二枚目も内容自体はシンプルなんだけど、これは……」

「綾時、分かんねぇならオレらも考えるから、とりあえず読んでくれ」

「……分かった。こっちの内容は“妹を、メティスをよろしく”だ」

 

 聞かされた二枚目の便箋に書かれた内容に一同は言葉を失う。

 綾時が言い淀んで難しい表情をしていたが、内容がこれでは無理もないだろう。

 アイギスもラビリスも相手の事は知らなかったが、メティスは間違いなく対シャドウ兵器である。

 オルギアモードを使い、ペルソナを呼び出していた事から、恐らくはアイギスよりももっと後に作られた桐条製だと思われる。

 湊は桐条グループの暗部についても調べていたため、当人たちすら知らない兄弟姉妹の存在を知っていても不思議ではない。

 だが、誰も知らなかった寮の地下から現われ、自分たちの敵として対峙したメティスをどうして妹と呼ぶのかが分からない。

 驚いていた真田はすぐに気を取り直すと、座ったまま寝ているメティスを見てから、心当たりはないのかとアイギスとラビリスに尋ねた。

 

「二人はそいつの存在は知っていたのか?」

「ウチは知らんかったよ。湊君からは何も聞いてへんし」

「わたしも同じです。わたしよりも後に作られた機体があるだろうとは思っていましたが、それらのデータは持っていませんし、八雲さんからも何も聞いてません」

 

 真田に聞かれた二人は素直にメティスという機体は知らないと答える。

 視線が合った美鶴も首を横に振ったことで、この場にいる者の中で知っている可能性があった全員が知らなかった事が判明した。

 となると本当にどうして彼がメティスを妹と呼んでいるのか謎が残る。

 これまで存在が知られていなかった寮の地下にいたのなら、湊自身も会ったことはないはずなのだ。

 もしや、緊急時の脱出通路になっていて、そこを通って侵入してきたのだろうかと考えたアイギスは、自分が寝ている間に地下について分かった事はあるかを尋ねる。

 

「どなたか地下室は調べましたか? 緊急時の脱出通路になっていてそこから侵入してきたなら、どこかで八雲さんと会っていても不思議ではないのですが」

「あー、ちょっと今は調べられる状態じゃないんだよね。一言では説明しづらいんだけど、地下にタルタロスみたいな不思議空間が広がっててさ」

 

 苦笑いを浮かべながら七歌が伝えてきた情報にアイギスは首を傾げる。

 地下にタルタロスのような空間が広がっていると言われても、タルタロスは雲に届くほど巨大な塔だった。

 そんな物が地下にあるとすれば、自分たちが今いるこの寮は宙に近い場所に存在する事になる。

 息苦しさなど感じず空気は普通に吸えているし、窓の外に見える景色は普段通りの街中だ。

 けれど、七歌の言葉を誰も否定しないことから、別に彼女が冗談を言った訳ではない事は分かる。

 頑張って理解しようとはするものの、結局分からずアイギスが困惑していれば、事情を察したのか美鶴が声をかけた。

 

「先ほど七歌が言っていた色々と話したい事の一つだ。君も気付いているだろうが、我々は既に何らかの事件に巻き込まれている」

「はい。それは分かります」

 

 メティスが現われた事だけでなく、ベルベットルームでも不思議な音を聞いて、試練がやってくると言われたのだ。

 アイギスも何が起きているのかは把握出来ていないが、何かが起きている事だけは理解出来ていた。

 

「まず、状況から言うと今現在この寮は孤立している。窓から外は見えていても、不思議な力が働いて寮から出られなくなっているんだ。それぞれの部屋は勿論、屋上への扉も何故か開かない。君が倒れた後は七歌たちに連絡を送れたのに、最後に吉野がやって来て寮に入った瞬間に音がして孤立状態になってしまったんだ」

 

 美鶴の言葉を証明するように天田が玄関の扉を開けようとするが、ドアノブすら動かず諦めて戻ってくる。

 続けて扉のガラス部分に向かって順平が宝玉輪を投げつけるも、何かバリアのような物が発生してそれに触れた宝玉輪は勢いを失いポトリと床に落ちた。

 直後、湊が遺してくれた大切な回復アイテムを投げた順平は、七歌に尻を蹴られて四つん這いに倒れ、さらに同じ箇所にチドリも蹴りを入れた事で「う゛っ」と呻いて五体投地のような体勢で床に転がった。

 傍にいて一連の流れも見えていただろう美鶴は、何事もなかったかのようにそれらを流し、アイギスに自分たちが置かれた状況について説明を続ける。

 

「幸いな事に電気とガスと水は使える。恐らく空気も問題ないだろう。だが、この状態が続くとなると食糧の問題が出てくる。明日の朝には全員がここを去る予定だったからな。今日の夕食の残りと使わなかった食材が少しあるだけだ」

「だから、聞きてぇんだがお前のリストバンドから食糧を出すことは可能か?」

 

 アイギスの身に付けているリストバンドは湊から貰ったものだ。

 彼が巻いていたマフラーの一部を千切って作られており、彼のマフラーと同じように物を出し入れする事が出来る。

 そして、その中身は湊のマフラーと共有しているため、中に食糧が入っている事は全員が分かっていた。

 それでも、アイギスに食糧を出せるかと尋ねたのは、純粋にアイギスを気遣ってのこと。

 彼のマフラーの中には本当に色々な物が入っていて、その中身をただ消費していくだけで一生物に困らないほどなのだが、アイギスは武器などは借りても他の物には手を付けようとしていなかった。

 マフラーの中身はあくまで彼の所持品である。そういう認識から来る誠実さなのだろう。

 聞かれたアイギスは少しだけ考え込むと、顔を上げて申し訳なさそうにしながら答えを返す。

 

「……わたしが許可されたのは武器の使用と自分たちが手に入れた物の出し入れだけです」

「違うだろうアイギス。湊は好きに使っていいと言っていたはずだ。勿論、彼が恩人たちから受け取った大事な品も入っているが、何かが起きた時のために食糧や衣服、日用消耗品なども数年分入れてあるはずだよ」

 

 アイギスが答えるとすぐに綾時がそれは正しくないと訂正する。

 綾時は彼がチドリを蘇生させて死ぬまで彼の中にいたため、他の者とどのような会話をしていたか知っているものもあった。

 彼がアイギスにリストバンドを与えて使い方を教える際、中身はどれでも好きに使えと言っていた事も記憶しており、先ほどアイギスが返した答えが単なる彼女の気持ちでしかない事はすぐに分かった。

 彼の事を知る他の者たちも、武器しか貸さないとなどと本当に彼が言うだろうかと疑問を持っていたため、綾時の話を聞いてやはりアイギス自身の気持ちの問題だったかと察する。

 ニュクスとの戦いで帰ってこなかった青年の持ち物だ。ある意味では形見と言える。

 それが分かっているからこそ美鶴も無理を言うつもりはないが、最後には生きている者たちを優先して欲しいと頼む。

 

「……アイギス、君なりに譲れない部分があるのは分かる。だが、どうしても必要な状況になれば、物資を提供して欲しい。彼がどれだけの決意を持って君や吉野を守ったか分からない訳じゃないだろう?」

「……分かりました。ですが、どうかギリギリまでは別の手段を探してください」

「勿論、約束しよう。先ほど少し話に出たが地下に不思議な空間が広がっていてな。見た目は全く異なるがタルタロスに近い空気を感じるんだ。そこで何かしら見つかる事に期待しよう」

 

 どうやら先に少し調べた美鶴たちは既に長期戦を覚悟しているらしい。

 確かにタルタロスの攻略に近い物だとすれば時間はかかりそうだが、それでも自分たちにはこれまでの経験がある。

 湊が遺した回復アイテムに加えてメンバーも全員集まっているため、ブランクがある事を考慮してもそう簡単にやられたりはしないはずだ。

 だが、地下に広がる謎の空間について調査する前に、今もキッチンの傍でラビリスに監視されたまま眠っているメティスの事や、キッチンの奥にある勝手口にいつの間にか現われていた青い扉について話す必要があるだろう。

 メティスとの戦いを見ていた者たちは、アイギスのペルソナが変化したのも見ている。

 ペルソナの変化は新たな力の目覚めの切っ掛けに過ぎないが、力が変化したとなればチームの中での役割も変わってくる。

 メティスの事、扉の事、変化した力の事、どれについてまず話すべきかアイギスは考えこんだ。

 

 

 

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