【完結】PERSONA3 Re;venger   作:清良 要

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第四百七十三話 最初の扉

――巌戸台分寮

 

 一晩休んでから全員が起きてくると、昨夜の残り物で全員が食事を取った。

 量は少ないが今の状況で文句は言っていられない。

 アイギスの持っているリストバンドは湊のマフラーと繋がっており、中に保管されている物も共有されている。

 この世界から彼が消えた事で中身がどうなっているか不安だったが、メティスとの戦闘で問題なく武器が取り出せた。

 もしも取り出せなかったらアイギスはメティスに負けていて、順平や美鶴たちも無事では済まなかっただろう。

 彼が消えた事を気にするばかりで、何か起きた時のための備えを怠っていた事をアイギスは強く反省した。

 また、戦闘後に倒れてから意識を取り戻し、仲間たちの無事な姿を確認して助けられて良かったと思うと同時、武器が取り出せたことで湊のマフラーが現存している事は分かった。

 アイギスのリストバンドはあくまで子機のようなものであり、本体は湊の持っているマフラーの方になる。

 マフラーが消滅していれば中の物も消滅し、きっとこのリストバンドもただのアクセサリーになるはず。

 そう考えて未だ彼が無事である事を祈るアイギスは、左手のリストバンドを逆の手で掴んで胸元に引き寄せる。

 少しの間だけ目を閉じ祈りを捧げ、それが終わるとアイギスは武器を手に持って仲間たちを見渡す。

 

「じゃあ、これから地下の扉を調べるよ。基本的には私が指示を出すけど、ワイルドの力に慣れるためにアイギスには私の補助にまわって貰う。後衛の統括と全体を見ながらサポートをお願い」

「了解です。今のわたしはオルフェウスしか持っていないので、ペルソナが増えた時にはまた報告します」

 

 これから地下空間に現われた謎の扉を潜り、この事態の原因を探って解決に動き出す。

 リーダーはこれまで通り七歌が務め、新たにワイルドの力を手に入れたアイギスがその力の使い方を学ぶためにバックアップに入る。

 これまでは主に美鶴がその役目を負っていたが、アイギスの役目は銃火器を使った後衛だ。

 近・中距離型で七歌とポジションが被っている美鶴がやるよりも、アイギスが後衛たちをまとめつつ七歌を補助した方が前後衛のやり取りがスムーズになる。

 他の者たちも異論はないようで七歌とアイギスのやり取りを黙って見守った。

 指揮を執る二人がお互いの役割を確認し終えると、今度は探索に参加する仲間たちに七歌が声をかけていく。

 

「今回は前衛組を多めに連れて行く陣形で行くけど、皆も戦う時は以前の感覚に引っ張られないように注意してね。ロードワークを日課にしてる真田先輩はともかく、他の人は体力や身体の動かし方を忘れてると思うし。全員ペルソナ能力がかなり弱体化してるのは風花からも聞いたでしょ?」

 

 七歌の言葉に全員が何とも言えない表情を見せる。

 最後の戦いを終えてから今日まで戦闘行為は勿論、ペルソナなど実験も含めて使う機会がなかった。

 時間にすればたった二ヶ月だが、トレーニングが日課の真田を除けば、他の者たちは授業や部活で身体を動かすくらいだった。

 そのため、風花が仲間たちの現状を調べてみると、決戦時と比べてペルソナ能力の指標とも言える適性値は半分ほどまで衰え、身体も思ったようには動かずキレを失っていた。

 日常に戻る事が出来ていると思えば、それはある意味でここにいない青年の望み通りになっていると言える。

 ただ、彼はこの事態を予想していたようで、たっぷりと貴重な回復アイテムを用意していた。

 腰のポーチからそれを取り出した七歌は、それを全員に見せながら言葉を続ける。

 

「これを使えば即死じゃないかぎりは重傷でも治る。多分、私たちが弱体化してる事も予想してたんだろうね。幸いな事に数は山ほどあるから、ヤバいと思ったら躊躇わずに使って」

 

 回復役はこれまで七歌とゆかりが担ってきた。

 一応、真田と天田も回復スキルを持っているものの、本人の性質もあってか効果は高くない。

 それに対し、弱体化した七歌たちの回復スキルは今でも使える性能ではある。

 ただ、今はチーム全体が弱体化している事もあって、敵の強さによっては今の力では回復が間に合わない可能性があった。

 何より、全盛期の力であったとしても、腹を剣で貫かれるような重傷を治すだけの力は無い。

 それが可能だった青年はおらず、しかし、彼が遺してくれたアイテムはそれに匹敵するだけの効果がある。

 大事なのは全員で生きてこの事件を乗り越えること。貴重だからとアイテムの使用を渋って手遅れになっては意味がない。

 全員がポーチに数個入れてある事を再度確認し、危険な時は躊躇わずに使うよう七歌は念押しした。

 すると、そんな七歌たちの会話を聞いていたメティスが何やら首を傾げて不思議そうな表情を見せ、傍にいたアイギスの方を向くと質問してきた。

 

「……姉さん、あの回復アイテムを用意したというのは?」

「昨日の夜に地下で話したでしょう。今回の事件を予想していた人がいるって。その人がわたしたちのために貴重な回復アイテムを用意してくれていたの」

「戦力の弱体化と姉さんたちが置かれる状況を予想してアイテムを用意していたんですか? そんな事が可能なら戦力の弱体化を防ぐように行動したら良いのに、随分と回りくどい行動をする人なんですね」

 

 メティスはここへ来てすぐに仲間たちを襲った事もあり、まだ完全には信用されていない。

 地下での態度からアイギスやラビリスが監視した状態での同行は許可されたが、やはり他の者たちも警戒していた事で彼女の言葉は他の者も聞いていた。

 最後の戦いを知らないメティスにすれば、回復アイテムを用意していたのは活動の協力者のような存在だと思っていた。

 それだけに、彼女にとって何よりも大切な姉を守る手段として、その協力者の働きは中途半端だと相手を軽んじているのが態度に出ていた。

 何も知らないメティスに罪はない。ちゃんと事情を知っていれば、メティスだってもっと言葉を選んだだろう。

 だが、そういった話をする前に運悪く彼を侮辱するような言葉を吐いてしまった。

 途端、少女に敵意を持っていた者たちが、再び彼女に鋭い視線を向け始める。

 本人は配給されたアイテムを手に取って見ており、周りの状況が変化した事に気付いていない。

 このままでは拙い。そう思ってアイギスが場を取りなそうとすれば、小さく嘆息したチドリが意外にもメティスに同意するように頷いた。

 

「……ええ、本当にね。こんな物を用意するくらいなら、もっと他の方法をとって欲しかったわ。いつから知ってたのか聞いてないけど、これだけの量を集めてたって事は時間はそれなりにあったみたいだし」

「せやな。こういった手段しか取れなかったんかもしれへんけど、手紙に関してはもっと書けたと思うんよ。幼稚園児でももう少し伝わる内容で書くやろうに」

 

 チドリがメティスに同意しながら彼に対する愚痴を溢せば、ラビリスも一緒になって不満を漏らす。

 二人が指摘した事は他の者たちも同じように感じていた事だ。

 メティスも恐らくはそういった事を指摘していただけだが、やはり彼の家族だった少女らが言うと印象が違うのか、場の空気は和らいで他の者まで彼への不満を口にし始める。

 腕を組んで呆れ顔になっている真田は、ラビリスが話題に出したお粗末な内容の手紙について語る。

 

「確かに、報告は出来るだけ簡潔にというのが基本だが、いくら何でもあれではただの伝言メモでしかない。いつどこで誰が何をという部分が欠片も書いていなかった」

「まぁ、あいつにすれば本当にメモのつもりだった可能性もあるだろ。回復アイテムは好きに使えって意味で“俺を頼れ”って書いてたのかもしれねぇしな」

 

 二つの手紙のうち“妹を、メティスをよろしく”と書かれていた方がまだ分かる。

 敵として遭遇してしまったが、ラビリスとアイギスの妹であれば、本来なら味方として迎えても問題ない。

 だが、もう一つの手紙である“俺を頼れ”に関しては謎だ。ハッキリ言えば本人が消息不明な状態でどうしろと言うのが全員の意見である。

 荒垣が言ったように、遠慮せず好きに回復アイテムを使えという意味ならば理解出来るが、あの手紙からそれを察しろという事であれば無理があるだろう。

 ただ、メティスを除く他のメンバーは、もしかするとこの事件を調べていけば帰ってこなかった彼に会えるのではという淡い希望を抱いていた。

 そんなはずはないと理性で否定しようとするが、ここまで事態を読んでいた湊ならばもしかしてと思えてくる。

 もっとも、誰もそれを口に出したりはしない。もしも、自分がそれを言葉にすれば、期待が裏切られた時に仲間がショックを受けると思っているからだ。

 本当の意味ではそうあって欲しいという願望。全員が同じそれを抱きながらも本音は隠して、彼への愚痴を溢しあって雰囲気は明るい物へと変わった。

 剣呑な状態にならずにすんでアイギスがホッと一息吐くと、話に一区切りついたと判断した七歌が全員の注目を集める。

 

「よーし。それじゃあ、行く前にもう一回装備をチェックしてから移動しようか。綾時君は風花の護衛よろしくね」

「うん、任せてよ。一応、脱出出来そうな場所がないかも調べておくから、皆は安心して探索して来て欲しい。気をつけてね」

 

 時の狭間にある扉の向こう側を探索する事にした七歌たちだが、寮からバックアップを担当する風花を一人で残す事は出来ないため、綾時が風花の護衛として残りつつ寮の中を調べる事になっていた。

 綾時が残るのは弱体化したメンバーの中で彼が一番軽度だったためである。

 綾時はニュクスの端末でありシャドウの王とも言える特殊な存在だった。

 それを湊が月の欠片をコアとして利用し、アイギスたちと同じように人間にしたのだが、コアとして使われた月の欠片は黄昏の羽根と同じ性質を持った結晶。

 当然、それには羽根と同じ増幅器としての力も備わっている。

 おかげで綾時は多少鈍っているものの、一人でアルカナシャドウと戦えるくらいには力が残っていた。

 本当ならそんな戦力は前線に回したいが、風花の護衛に人数を割くのも難しいため、強力な戦力一人を護衛として残す事に決まったのだ。

 そんな彼が七歌たち前線組を心配すれば、七歌は傍にいたコロマルを抱き上げて笑顔で答えた。

 

「こっちも大丈夫。なんたって秘密兵器のコロマルがいるからね!」

「ワン!」

 

 抱き上げられたコロマルが元気に鳴けば、頼もしい返事を聞いていた順平が苦笑気味に呟く。

 

「しっかし、コロマルだけペルソナが弱体化してねぇとはな。お前だけ有里の事を忘れず覚えてたんだもんな。本当にすごいやつだよ」

 

 順平の言葉に他の者も頷いてコロマルを見つめる。

 風花が全員の戦力を調べて発覚したのだが、なんとコロマルのペルソナ能力は決戦時と変わっていなかった。

 武器を使っての戦闘は流石にブランクがあるようだが、切り札であるペルソナが弱体化していないというのは、戦力が非常に厳しい現状では何よりも求められている条件だ。

 どうしてコロマルだけペルソナが弱体化していないのか。その謎を探るべくラビリスとアイギスがコロマルと話をしたところ、コロマルは他の者が影時間の記憶を失っている間も覚えていたと答えた。

 二人の通訳によってそれを知った時は全員が驚いていたが、何故コロマルだけが記憶の抹消を免れたのか、思い当たる理由についてコロマルに聞いたところで全員が納得する答えが返ってきた。

 その理由は、湊が開発した首輪型召喚器を付けている事で、美紀や桐条武治たちが簡易補整器の指輪で記憶を持ち越したのと同じ事が起きたためであった。

 恐らく、これについては湊も予想していなかった結果だろう。

 コロマルも別に何か特別な役目を任された訳ではないと言っており。チドリやラビリスなど彼の家族を守る役目はあるが、それは自ら恩人である湊に誓った事だという。

 無論、その話を聞いた時にはどこまで忠義に厚い犬なのだとメンバーたちは胸を打たれたが、それ以上に決戦時と変わらぬ力を持っていてくれた事に全員が感謝した。

 抱き上げていたコロマルを七歌が床に下ろし、全員が言われた通りに装備の確認を済ませていく。

 一つ目の扉で原因を突き止めて解決出来ればいいが、そうでなければ複数あった扉を順番に調べて行くことになる。

 先が長くなると考えれば油断は出来ない。出来る事なら最初から全戦力を投入したいくらいだ。

 しかし、風花が仲間たちを十全にバックアップするなら、それを守る戦力を残す必要もある。

 だから、七歌たちは出来る限り備えた状態で、可能な戦力を全て投入する事にした。

 準備を終えた七歌が他の者たちに視線を送れば、自分たちも準備完了だと頷いて返してくる。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「皆、気をつけてね」

 

 ここに残る風花と綾時に見送られながら、陣形を組んだ状態で地下への階段を下りてゆく。

 昨夜見た時点では一面砂の大地が広がっているだけだったが、一夜経ってシャドウが出てきている可能性だってあるのだ。

 全員が警戒しながら時の狭間まで下りてゆき、ポツポツと存在する扉を遠目から確認出来る距離まで近付いたところで“ソレ”に気付いた。

 腰の左右に差された二振りの刀、

 首に巻かれた黒いマフラー、

 結い上げられた青い髪、

 そんな特徴を持つ後ろ姿をした人型の何かが扉の前まで進み、その正面の扉が突然眩く光ると、光が治った時には人型の何かは消えていた。

 

「ねぇ、今のって……」

 

 大きく目を見開いて驚いていたゆかりが誰にでもなく話しかける。

 恐らく他の者も同じように考えていたのだろう。あの見覚えのある後ろ姿を見て、そういう事なのかと誰にも話していなかった勝手な希望が頭をもたげる。

 しかし、誰よりも冷静でいるべき立場にある七歌がいち早く立ち直って否定の言葉を吐く。

 

「……違うよ。さっきのは八雲君の姿をしてはいたけど、少なくとも魂のある存在じゃなかった」

「じゃあ、なんで有里君の姿をしてたのよ?」

「分からない。けど、無関係ではないのかも。調べてみないと分からないけどね」

 

 先ほどの人型の何かは確かに青年の姿をしていたが、七歌はそれが魂を持った存在ではないと看破していた。

 七歌が冷静に否定したことで、他の者たちもいくらか落ち着いたのか、湊の姿をした何かを見たのは確かだという情報を共有する。

 それの正体が何であるかまでは不明だが、帰ってこなかった彼に繋がる情報がここにはあるのかもしれない。

 どの扉を潜るかは決めていなかった事もあり、折角だからと人型の何かが消えていった扉の先へ向かうことに決める。

 

「先に言っておくけど、さっきの人型を見つけても追ったりしないでね。もし、あれが敵で、その力が八雲君と同等なら戦闘は避けるべきだからさ。状況が悪ければ深追いせずに撤退するって覚えておいて」

 

 彼に繋がるヒントであれば何としてでも手に入れたいという気持ちは分かる。

 七歌の言葉を聞いて冷静であろうとしてくれてはいるが、胸中では未だ混乱している者が数名いるのも分かっている。

 ただ、七歌の使命は全員を連れて無事に調査を終えて戻る事だ。

 手を伸ばせば届くところに情報があったとしても、命の危険があるなら七歌は相手を殴りつけてでも止めて連れ帰るつもりでいる。

 比較的冷静さを失っていない者は、七歌がここで釘を刺した意味を理解してくれているだろう。

 もしもの時は自分たちが彼女たちを止めなければならない。その認識を共有し合ったところで一同は最初の扉を潜り中へと消えていった。

 

 

 

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