呪われた勇者の罪と罰~神の筋書きに翻弄された彼の最後~   作:nene2012

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聖女の本性を語る魔術師

 それから数日後、俺は少し気分が良かったので、外の景色を見ようと気分転換に杖をつきながら庭に向かう。

 

「マルス……調子が良いの?」

 

 庭に出るとレ二が心配そうに俺に声を掛けてくる。どうやら、俺の体調を心配して 様子を見に来たようだ。

 

「ああ……今日は少し気分が良いから外の景色を見にね」

「そう……」

 

 彼女は安心したように呟く。そして、一緒に気分転換に散歩でもしようと誘う。

 

「じゃあ、一緒に行こうか」

「うん!」

 

 レ二の手を取ってゆっくりと歩き出すと、彼女も嬉しそうに付いて来る。そして、庭を歩き始めて少しすると彼女は心配そうに俺に問い掛けてくる。

 

「ねえ……マルス……」

「何だい?」

「……貴方と過ごす時間は、あと僅かしか残されていないの?」

「…………そんなに長くはないと思うけど……」

 

 俺は彼女の問いに暫く時間をおき正直に答える。すると、彼女は目に涙を浮かべて俯くのであった。

 

「そんな……私、まだ貴方と一緒に居たいよ……」

「……」

 

 レ二の言葉に俺は胸が熱くなるが何も出来ない自分が歯痒かった。そして、2人は暫しの間沈黙して歩き続けると、彼女は涙を拭い笑顔で俺に言う。

 

「マルス……私は貴方が帰ってきて本当に嬉しかった」

「レ二……」

 

 彼女の言葉に胸が締め付けられる。そして、2人は再び沈黙するのであった。

 

 ほどなくして、レ二との散歩を終えて家に戻ると男が1人が待っていた。彼は魔術師が着る茶色のローブを着てフードを被っている。

 男はフードを外すと見覚えのある顔で、仲間であるオーガストであった。

 

「久しぶりですね……マルス」

「オーガスト!」

 

 俺が声を掛けると彼は笑いながら手を上げて答える。そして、俺は彼に部屋の中へ入るように促すのであった。

 

「見舞いに来ましたが……体調はどうです?」

「ああ……日ごとに悪くなってきてる……」

 

 暗い顔をして彼に呪いの事情を答える。そして、俺はベッドに横になり彼は横にある椅子に腰を下ろすのであった……。

 

「マルス……貴方とこうして2人で話すのも久しぶりですね」

「そうだな……」

 

 俺は彼の顔を見て懐かしむ。しかし、彼は過去を回想するような顔をして話を切り出す。

 

「貴方と初めて出会った時を今でも鮮明に覚えています」

「王の前で皆と初めて会ったんだよな……」

 

 初めて会った時、彼は感情に左右されず理知的な人間であったのを思い出す。あの時から5人でずっと旅をしていたのだ……。

 

「……貴方は聖女の啓示を受け神に選ばれた勇者でした……」

「そうだったな……」

 

 あの時の事を思い出し懐かしむ。まさか、自分が勇者に選ばれるとは夢にも思ってもいなかったのだ。

 奇しくも、この啓示を受け大神官に上伸したのはアルティアだったのだ……。

 

「覚えていますかマンサ村で無残に殺害される事件が続き村人が恐怖に陥っていた時のことを……」

「忘れる訳がないよ……」

 

 魔王退治の旅の途中に立ち寄ったマンサ村で謎の猟奇殺人事件が立て続けに起こったのである。その時、アルティアは神の声を聞いて村人に犯人がいると断言する。

 

 だが、村人は彼女のお告げで互いに犯人ではないかと疑心暗疑に陥り、関係が悪化してしまった。

 

 そこにオーガストが原因を究明し、ロアンの能力を借り真相を明らかにすると魔物の仕業だと判明したのだ。

 

「マルス……彼女の言葉は村人に悪戯に不安を煽り、対立を助長しました」

「ああ……結局、犯人は魔物だった……」

 

 オーガストは思い出しながら悲しそうに話し、俺は彼の意見に同意する。

 そして、彼は目を瞑ると更に話を続ける。

 

「そうです。貴方が魔物を退治し事件は解決したのです」

「そうだった……」

 

 あの時は、彼女の自己中心的な判断で村人達が危険に晒されていたのだ。しかし、彼女は自分が神の声に従っただけだと言い放ち過ちを認めない不遜な態度であった。

 

 アルティアは神の声を盾にして、自分の思い通りに人々を従わせる傲慢で優越感に浸る人間だったのだ。

 

 突然、彼は真剣な表情になり過去を思い返すように言葉を続ける。

 

「マルス……私はアルティアと、よく意見で対立していました……」

「ああ……よく喧嘩していたな」

 

 俺はアルティアとオーガストが、よく口論するのを思い出して苦笑いをする。

 

「私は……彼女の事を今でも聖女だとは思っていません」

「えっ……?」

 

 その言葉に俺は言葉を失う。しかし、オーガストは淡々と話を続けた。

 

「……先ず彼女は聖女であるにもかかわらず慈愛が欠けており、仲間を怒鳴り異論を容認しなかった……」

「……」

 

 俺達はアルティアに散々怒鳴られた事を思い出す。確かに聖女としての態度ではなかったと、改めて思い知らされた。

 

「そして彼女は常に言葉と行動が伴わっていませんでした……それが原因で仲間との間に溝を生み出し、不信感がより深刻化していったのです」

「……そうだったな」

 

 俺も彼女の言動には翻弄されていたのだ。更に彼は話を続ける。

 

「マルス……貴方は、そんな彼女に振り回されながらも彼女の命令に従い続けていましたね」

「ああ……反論しても聞いてはくれなかったし、下手すれば逆ギレしてたからな……」

「……貴方は彼女の行動に、よく耐えてましたね」

 

 オーガストが俺を労わるように言う。その言葉に俺は目頭が熱くなり思わず涙が出そうになってしまった。

 しかし彼は話を止めず続ける。

 

「私は彼女と一緒に魔王退治の旅に出た時から嫌な予感はしていました。そして、旅を続ける内に聖女の本性に気が付いたのです」

「君も気付いていのか……」

 

 当時からアルティアの行動には違和感を抱いていたのであろう。そして、彼は話を続けた。

 

「彼女は……自分が神に選ばれた聖女である事を口実にして、常に他人を見下し傲慢な態度で接しました。そして、それが彼女の本性なのです」

「俺も薄々気付いていたよ……」

 

 アルティアは思い通りにならない事があると怒り狂い、その事で俺達に八つ当たりしていたのを思い出す。

 

 オーガストはアルティアの本性を淡々と語り続ける。俺は彼の話を黙って聞き続けた。

 

「そして、彼女は神の声を聞くという能力を利用して自分の思い通りに人々を従わせました。その為に、私は彼女を聖女として信用せず常に疑っていたのです」

「……」

 

 俺は何も答えず黙って聞いていたが、彼の言う事は的を得ていたのは間違いなかった。アルティアは自己中心的で傲慢で他人の意見を聞き入れる人間ではなかったのだ。

 

 オーガストは更に話を続ける。

 

「マルス……貴方は彼女の本性に気付きながらも、彼女に振り回されて苦労していたでしょう……」

「……そうだな」

 

 俺はオーガストの言葉に改めてアルティアの性格を思い知らされた。そして、彼は話を終えると立ち上がり俺に向かって静かに言う。

 

「失礼な事を聞きますが……貴方がアルティアを刺したのは彼女の意志だったのか? それとも貴方の意志だったのか?」

「……!?」

 

 彼の言葉に俺は心臓が止まりそうになり絶句するのであった……。

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