皆々おいでませ~。ヒーロー協会食堂。   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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「pixivにも掲載してまーす。時系列は、ガロウ君が怪人を名乗り始めた頃です。」
皆々おいでませ~。ヒーロー協会食堂。

本編はこちらのリンクから
最強のハゲには、男の娘かつ最強電気使いの弟がいる


一食目:シッチとサバの味噌煮

「クソッ・・・緊張感の欠片も無い奴等め!」

 

 

この日、ヒーロー協会幹部の一人であるシッチは苛立っていた。何故なら、大預言者であるシババワが死の間際に遺した「地球がヤバイ」という文言。これについての話し合いを本日、他職員を広げようとしていたのだが、よりによって他の職員達は「地球がヤバイ」という予言を鼻で笑い飛ばしながら適当に終わらせ、残りの会議時間をたった二人のヒーロー達のヒーローネームの考案に掛けるという愚行をしでかしたのだ。

 

 

「はぁ・・・、私が考え過ぎているのか?」

 

 

そうボヤくものの、職員室には彼一人しかおらずその問いに答える者は誰一人居ない。

 

 

そのとき、シッチの腹からグゥーと腹の虫が鳴く音がする。

 

 

「・・・そういえば、朝から何も食べていなかったな。昼は議会で昼食を食べる暇も無かったからな・・・。食堂に行くか・・・。」

 

 

そう言って、椅子から立ち上がるシッチ。しかし、そんな彼の脳裏にとある会話が過ぎる。それは、先日の職員会議での事だった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━

『ふぅ・・・。今日も、疲れたな・・・。』

 

 

会議が終わり、そう言いながら伸びをするシッチ。そんな彼に、一人の職員が話し掛けてくる。

 

 

『随分と御疲れだな、シッチ。歳には勝てないか?』

 

 

『いえ・・・問題ありません。そろそろ良い時間なので、私は食堂に行こうと思うのですが・・・どうなさいますか?』

 

 

そう聞くシッチの問いに、職員は目を丸くさせる。

 

 

『シッチ。御前、聞いてないのか?』

 

 

『はい?』

 

 

『今は食堂に行っても意味無いぞ。』

 

 

『な、何故ですか?』

 

 

シッチのその問いに、職員は溜息を吐く。

 

 

『この前の会議で、言われてただろ?長年勤めてた炊事係の・・・サトウさんだったか?定年退職で辞めちまって、今は食堂の炊事係が誰も居ないんだよ。』

 

 

その言葉に衝撃を受けつつも、シッチは納得する。

 

 

『そ・・・そうですか。』

 

 

『誰でもいいから、新しく調理場に立ってくれないもんかねー。まぁ、薄給だしやってられんわな。』

 

 

そう言いながら豪快に笑う職員に、シッチは苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。

 

 

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その事を思い出したシッチは、頭を抱える。

 

 

「あぁ、そうだ・・・。炊事係の職員は、誰も居ないんだ。・・・まぁ、インスタント味噌汁とかの(たぐい)は有るかもしれんし覗いてみるか。」

 

 

そう呟いた彼は、ゆっくりと食堂の方へ向かったのだった・・・。

 

 

そうして食堂に向かって歩みを進めるシッチだったが、途中で異変に気付く。

 

 

「む・・・?食堂から、何やら音が。だが、炊事担当の職員は辞めたはず・・・。」

 

 

そう思いながらも、音の元へ足を進めるシッチ。そんな彼の歩みは本人も気づかない程、無意識に速くなっていた。そうすると、食堂から可愛らしい声が聞こえる。

 

 

「今日は、御魚が一杯だね。うーん・・・どれも、脂がたっぷり乗ってて美味しそう。」

 

 

その声に釣られて、食堂の影から声の主を見やるシッチ。そんな彼の目に映った人物は・・・。

 

 

(む!?あれは・・・、S級5位のホタル君か?こんな所で、一体何を・・・。)

 

 

そんなシッチに気付いていないのか、ホタルは独り言を言いながら黙祷を捧げる。

 

 

「・・・弟橘媛(おとたちばなひめ)様、新鮮な御魚を有り難う御座います。そして、海に住む御魚さん達。新鮮なその身を捧げてくださり、有り難う御座います。美味しく頂きますね?」

 

 

そう言うと、彼は丁寧に魚の鱗を落としていく。

 

 

(さば)(うろこ)が細かいから、包丁で優しくなぞる様に取ってあげて・・・。」

 

 

その包丁捌きは、素人であるシッチから見ても美しいものであった。そうして魚の鱗を取り終えた彼に、シッチは話し掛ける。

 

 

「ホタル君?何をしているんだ?」

 

 

その声に驚いたのか、ホタルは手を滑らせて包丁で指を切ってしまう。

 

 

「うわぁ!シッチさん!?・・・痛っ!」

 

 

「す、すまない!驚かせてしまったな!!・・・指を切っているな、急いで[[rb:絆創膏>ばんそうこう]]を・・・。」

 

 

そう言って医務室に絆創膏を取りに行こうとするシッチを、ホタルは笑いながら引き留める。

 

 

「だ、大丈夫ですよ。シッチさん。僕には、治癒能力がありますから。」

 

 

そうホタルが言うと彼の指の裂傷部分の細胞分裂が活発化し、一瞬で傷が塞がる。

 

 

「そ、そうか・・・。して、何をしていたんだ?」

 

 

「あ、すみません・・・。実は、少し小腹が空いちゃって・・・。家から持ってきた御魚で、御料理をしようと思ってて・・・。勝手に食堂の厨房を使ったら、怒られちゃいますかね?」

 

 

「いや、別に駄目ではないが・・・。その魚は、家から持ってきたのか?」

 

 

そう質問するシッチの視線の先には、鱗が剥がれた鮮魚があった。

 

 

「はい!弟橘媛様が、脂が乗ってて美味しいって仰ってたので・・・。」

 

 

「弟橘媛・・・。あぁ、深海王の事か*1。しかし、大丈夫なのか?今日は気温が高かったが・・・。腐ったりはしなかったのか?」

 

 

「大丈夫です。家から持ってくるときに、鯖を中心に半径1mの気温を絶対零度にしていたので。家のガスコンロが壊れちゃってて使えないので、協会の食堂の器具を拝借しようかと・・・。」

 

 

「そうか・・・。」

 

 

そう言うシッチの腹が、グーッっと鳴る。それもそのはず、連日の疲労感に加えて空腹感。そんな苦痛が圧し掛かった身体状態でありつつ、目の前にキラキラと輝く鮮魚が置いてあるのだ。腹の音を鳴かすなという方が(こく)である。

 

 

そんな様子のシッチに気付いたホタルは、苦笑いをしながら尋ねる。

 

 

「よろしければ、御一緒しますか?」

 

 

「い、いや・・・これは、君の食事だろう。」

 

 

「僕は構いませんよ?それに、誰かと一緒に食べたほうが美味しいですから。」

 

 

そうフワリと笑みを向けるホタルに毒気を抜かれたかのような顔をしたシッチは、苦笑いしながら御言葉に甘える。

 

 

「そうか・・・。では、とびきり美味いのを期待するよ。」

 

 

「分かりました。では、料理が完成するまで少々お待ちください。」

 

 

そう言いながらも、ホタルはテキパキと下拵えをしていく。

 

 

内臓を処理して綺麗に切り分け、皮に切れ込みを入れた鯖をパッドに並べ、臭み消しの為に塩を振り掛けて15分ほど寝かせる。そうする事によって、余計な水分や雑味が綺麗さっぱり消えるのだ。

 

 

鯖を寝かせている間も、ホタルは休まない。コンロに火を掛けて湯を沸かし、3cm程の長さに切った白ネギ4つと生姜を一欠片準備する。

 

 

生姜は煮込み用の物と付け合わせ用の物に振り分け、付け合わせ用の生姜は針生姜にする。

 

 

そうこうしている間に15分ほど経過した為、寝かせていた鯖をボウルに移して80℃のお湯に10秒ほど漬ける。そこからすぐに鯖をお湯から掬い出し、氷水に付けて身を締まらせる。こうする事によって、旨味の流出を防ぐ事が出来るのだ。

 

 

そして、氷水の中に手を入れながら鯖の血合いや滑りを洗っていく。

 

 

鯖を洗い終えると、ホタルは鯖を新しいパッドに置いて冷蔵庫に押し込む。

 

 

そんな調理工程を見ていたシッチが、質問を投げかける。

 

 

「随分と手際が良いようだが、普段から料理をしているのかね?」

 

 

「あ、はい。昔から、料理は得意なので・・・。小さい頃の夢は、コックさんだったんです。」

 

 

「そうか・・・。いや、素人目から見ても随分滑らかな作業だと思ってね。・・・して、この流れから見るに作る料理は、鯖の煮込みだろうか?」

 

 

「そうです!鯖の味噌煮込み定食です!鯖には、ビタミンB12が含まれてて疲労効果にも繋がりますし、HDLコレステロールが豊富なので動脈硬化や脳卒中、心臓発作のリスクを低下させる効果も期待されてるんですよ!」

 

 

「な、成程な・・・。確かに年齢的にも、そういうのは気になってしまうな。」

 

 

その言葉に苦笑いしながら、ホタルは煮汁を作る準備に取り掛かる。水200mLに料理酒を200mL、砂糖を15g程投入する。酒には臭み取りの他に水分保持能力もある為、鯖の身がふっくり仕上がるのだ。

 

 

そうして煮汁が湧くのを待っている間、ホタルはシッチに質問を投げかける。

 

 

「それにしても、シッチさん。随分とお疲れのようですが、ちゃんとお休みは取れてますか?」

 

 

「休みを取れているか否かと言われたら、取れていないな・・・。いつ何時"地球がヤバイ"の予言が来るか分からん以上、気を張っておく必要もあるしな。・・・温かい飯を食べるのも久しぶりかもしれんな。」

 

 

そうボヤくシッチに、ホタルは笑いかける。

 

 

「では、今日はしっかり食べてってくださいね。」

 

 

「うむ、そうさせて貰うとしよう。ところでジェノス君や、君の兄である確か・・・サイタマ君はどうしたのかね?いつもは彼等と居るじゃないか?」

 

 

「ジェノス君は、昨日任務があったらしくてパーツの修理らしいです。お兄ちゃんは、キングさんの家でゲームをしていますよ。」

 

 

そう言いながら、煮汁が沸いたことを確認したホタルは強火のまま鯖を投入していく。そして、鯖から出た灰汁(あく)をカス揚げで掬い取りつつ、煮汁を鯖皮に掛けていく。こうする事で、旨味を更に引き出す事が出来るのだ。

 

 

続いて、薄く銀杏(いちょう)切りにした生姜と輪切りにしたネギを煮汁の中に入れて臭みを消す。最後に、キッチンペーパーを被せて中火に設定した後に5分ほど放置する。

 

 

「さて、火はこのまま止めずに味噌を入れていきますよ。」

 

 

「おぉ、遂にかね。」

 

 

「はい。今回は赤味噌と白味噌を、それぞれ20gずつ使います。」

 

 

そう言うとホタルは赤味噌と白味噌をボウルの中に入れ、その中に50mL程の煮汁を加えて泡立て器で混ぜ始める。その瞬間、シッチの鼻腔に味噌の香りが一気に襲いかかる!

 

 

「く、空腹の状態でこの匂いは・・・中々に毒だな。」

 

 

「そうですね。でも、もう少し待っててくださいね。」

 

 

そう言うとホタルは赤味噌と白味噌をブレンドしたタレを、まずは半分ほど鯖を煮込んでいる鍋の中に入れる。続いて、50mL程の濃口醤油を投入し、鯖に煮汁を回し掛けながら5分ほど煮込んでいく。最後に残りの半分の味噌ダレを回し掛け3分煮る。

 

 

「シッチさん。御飯は大盛ですか?」

 

 

その問いにしばらく考えた後、シッチは口を開く。

 

 

「いや、中盛で御願いしよう。」

 

 

「分かりました!」

 

 

そう言うとホタルは炊飯器からピカピカに光る白米を盛り付け、ヒーロ協会に来るまでにスーパーで買った漬物を小鉢に盛り付ける。そして、インスタント味噌汁をテキパキと用意する。

 

 

最後に煮終わった鯖を皿に乗っけて味噌を回し掛け、針生姜をふんわり乗せる。

 

 

「よし・・・出来ました!早く一緒に食べましょう!」

 

 

その言葉と共に、シッチの目の前には鯖の煮付け定食が並んだのだった・・・。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━

「ぐっ・・・。」

 

 

ぐっ・・・と言う呻き声。それが、鯖を一口食べたシッチの出した最初の一声だ。

 

 

(人間、本当に美味いものを食べると声が出なくなるというが・・・。まさか、それを体験する事に成るとは。)

 

 

そう考えるシッチに向かい合うように座ったホタルが、緊張した様に聞く。

 

 

「だ、大丈夫ですか?一応、ピンセットで骨抜きはしたはずなんですが・・・。」

 

 

「い、いや。大丈夫だ。その・・・あまりに美味すぎてな。」

 

 

そう、シッチの感想は美味いだった。

 

 

口に入れた鯖の身はグチャグチャに崩れる事は無くホロっと崩れ、歯を立てた途端身に染みた味噌ダレという旨味の爆弾が口内で大爆発を引き起こす!青臭さなどは一切無く、米を掬う箸の手が止まらない!

 

 

なにより、シッチを感動させたのは料理の温かみだ。ここ最近、協会に缶詰め状態に成りコンビニ飯や冷や飯握りしか食べてこなかった彼にとって、湯気が湧き立つ温かな料理。それも、誰かが自分の為に作ってくれた料理という事実だけで、最上級の旨味を感じる事が出来ていたのだ。

 

 

「あぁ・・・美味い。美味い。」

 

 

そう呟くシッチの舌にある約7000個の味蕾(みらい)は全身全霊で味噌や鯖の旨味を楽しみ、鯖を飲み込んだ後には37兆を超える細胞が我先に栄養素を奪い合いながら吸収している。そう錯覚するほどに、シッチの体は歓喜に溢れていた。ただ食事を摂るという、そんな当たり前の行為に。

 

 

そんな彼を温かい眼差しで見守っていたホタルも、「いただきます。」と唱えて自分の分の鯖の煮付けを食べ始める。

 

 

「自分で言うのもあれですが、美味しいですね。」

 

 

「あぁ、こんなに美味い飯を食べたのは久しぶりだ。」

 

 

「たしか・・・前任の炊事係の職員さんが、お辞めになったのでしたっけ?」

 

 

「うむ・・・。その所為で、ヒーロ達の士気も下がっているかもしれないな。」

 

 

「そうですね、食は心を豊かにしてくれますから・・・。食堂のご飯を楽しみにしていらっしゃった方々は、残念に思っているでしょう・・・。」

 

 

そう眉を下げるホタルに、シッチは同意する。

 

 

「そうだな。それに、利用者からクレームが来たりして精神が病んでしまったりもしている様だ。こう言うのもなんだが、チンピラ崩れのようなヒーロー達も居るからな・・・。」

 

 

その言葉に、ホタルは何かを察する。ホタルもヒーロ協会に所属して数ヶ月しか経っていないが、「この人、本当にヒーローなの?」とツッコミを入れたくなる程、人間性が出来ていないヒーローを見てきたからだ。もちろん、誠意を以って接してくれるヒーローも居るには居るのだが・・・。

 

 

「どうしたものか・・・。」

 

 

そう頭を抱えるシッチに、ホタルは提案を掲げる。

 

 

「あの・・・シッチさん。僕に任せて貰えませんか?」

 

 

「ん?」

 

 

「その・・・僕は元々料理が得意ですしクレームを仮に入れられても、そこまでメンタルは病まないと思います。それに、こんな事を言ってしまえばなんですが、僕の立場的にも理不尽なクレームを入れる人は少なくなると思うんです。」

 

 

そう。ホタルは、見た目こそ小柄で一見すると女の子に見えるような可愛らしい顔立ちをしているのだが、本気でキレると戦慄のタツマキ以上の恐ろしさを発揮する男である。

 

 

現に、隕石落下事件後に自身の兄であるサイタマに難癖を付けてきた、タンクトップタイガーとタンクトップブラックホールを圧倒的な語彙力でボコボコにするほどのレスバ能力も持ち合わせているのだ。

 

 

その言葉にシッチは少し目を閉じ熟考し、確認する

 

 

「本当に良いのか?確かにこのクオリティの食事を用意してくれるなら、ヒーロー達の士気も上がるとは思うが・・・。」

 

 

「まったくもって、構いませんよ?むしろ、ドンと来いです!」

 

 

そう言って胸を張るホタルに毒気を抜かれたような表情をしたシッチは、苦笑いをしながら改めてお願いする。

 

 

「では・・・改めて、御願い出来るかな?」

 

 

「はい!お任せください!」

 

 

そうして、S級ヒーロー5位にして最強のハゲの弟である「激雷の天使」は、本日をもってヒーロ協会の炊事係に任命されたのだった。

 

 

因みに、この後シッチから炊事係用の制服を貰って御満悦なホタル君であった。

*1
最強のハゲには、男の娘かつ最強電気使いの弟がいる。第二十一撃目を参照

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