たった1人の“彼”の物語【更新停止中】   作:Lee-ra

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Lee-raです
続きが投稿されるかわかりませんが、何卒よろしくです。

初投稿





本編
第0話 プロローグ


 

 

 

 

 

 

風が吹き抜ける。

夕暮れのグラウンドに、ひとりの影があった。

赤く染まる空を背に、少年は黙々と走っていた。

 

誰もいない。

観客も、仲間も、声援もない。

ただ土の匂いと、汗の滲む音だけが世界を満たしていた。

 

彼は息を荒げながらも、笑っていた。

痛みに似た感覚を抱え、しかし脚は止まらない。

その表情は狂気じみて見えるかもしれない。だが、彼にとってはただの「心地よさ」だった。

 

──思い出す。

 

『君は君のままでいい』

 

まだ幼い頃。

泥まみれで転んだ膝を擦りながら泣いた自分に、優しく手を差し伸べてくれた人がいた。

姉、シンボリルドルフ。

常に凛として、誰よりも強く、美しく、光そのものだった存在。

 

『ルナお姉ちゃん』

 

当時そう呼んだときの彼女の少し困った笑顔は、今も鮮明に胸に残っている。

その手が撫でてくれた温もりが、世界のすべてだった。

 

──だが、その光は遠ざかった。

 

気づけば、家の中から彼の居場所は消えていた。

誰も彼を必要としなかった。

ただ「男」であるがゆえに、異質であるがゆえに。

 

『君は君だ。それ以外の何でもない』

 

あの日、姉はそう言った。

慰めだったのか、本心だったのか、彼には分からない。

けれど、その言葉だけを胸に、彼は走り続けた。

 

孤独に。

嘲笑に。

拒絶に。

 

耳を塞いでも聞こえてくる声。

 

『男なのにウマ娘? 気味が悪い』

『勝てるはずがない』

『走って何になる』

 

答えは分からなかった。

けれども、脚だけは止めなかった。

 

走ることでしか、自分の存在を証明できなかったから。

 

 

 

 

夕暮れのグラウンドを駆ける彼の姿は、誰にも見られていない。

だが、それでいい。

観客の歓声も、誰かの承認も必要ない。

 

土を蹴り、空気を裂き、ただ前へ。

走れば走るほど、世界が狭くなっていく。

痛みも、悲しみも、全てが溶けて、脚の動きと鼓動だけになる。

 

その瞬間、彼は生きていると実感する。

たとえ誰に否定されようとも。

 

 

 

 

『大丈夫、私が側にいる』

 

彼は走りながら、思う。

自分はあの光の隣に立てるだろうか。

姉が背負った期待に届く日が来るのだろうか。

 

分からない。

ただ、ひとつだけ確かなことがある。

 

──僕は、いや、俺は走る。

 

理由はいらない。

意味もいらない。

ただ脚が前を求めるから、走る。

 

その姿は、孤独でありながらも美しかった。

誰にも認められなくとも、否定されようとも。

彼の走りは、確かにそこに在った。

 

 

 

 

 

 

空が暮れ、闇が訪れる。

影はやがて夜に溶けていく。

 

だが、彼の脚音は止まらない。

世界が眠ろうとも、彼は走り続ける。

 

──それは、光を追い求める影のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから物語は始まる。

「男のウマ娘」という異端の存在が、孤独を越えて世界に挑む物語が。

どんな闇を抱えようとも、前を、明日のその先を目指す物語が。

狂気と特異を抱えながら、それでも走り続ける、ひとりのウマ娘の物語が。

 

 




誤字脱字や矛盾点等あれば指摘よろしくです。

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