メンヘラヤンデレキショすぎ幼馴染魔術師   作:宇宮 祐樹

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26 静謐なる淵底の司書たち(中)

 

 わたぽんの掘り進める縦穴を降下していく途中、ふとアッシュレインが話を始める。

 

「私ね、十五歳で魔術師になった超天才なの」

「自分で言ってて恥ずかしくないか?」

 

 反射的にそう答えてしまったが、確かに年齢を考えれば異例中の異例だ。

 魔術師としての第一歩である、第一階梯の平均登録年齢はおおよそ二十歳前後。

 多くの者は魔術大学のような専門の養成機関で数年間研鑽を積み、そこから学会によるいくつかの登録審査を経ることで、ようやく正式に第一階梯として認められる。

 あのイスカですら、第一階梯魔術師として学会に登録されたのは十六歳のころだ。

 年齢という観点で見れば、彼女はそれを凌ぐ寵児と言えるだろう。

 

「ただ、階梯を貰ってからは鳴かず飛ばずでさ。研究も上手くいかなくて、周りからだんだん人も減っていって……次第に、あいつは若いだけの凡人だったな、って言われるようになっちゃって」

「……そんなお前に、黎明の解剖学者が接触した」

「六年前のことだね。私もびっくりしちゃった。まさか、壊滅したはずの組織が生き残ってて、しかも向こうから声をかけてきたなんて。たぶん、新しい構成員を集めてたんだろうけど」

 

 黎明の解剖学者は、六年前に壊滅したと騎士団の公的な記録に残っている。

 それと同時期にアッシュレインが勧誘を受けたことを考えると、組織の壊滅に直面した彼らが新しい構成員を勧誘していた、という彼女の予想もあながち間違いではないのだろう。

 

「彼らはお前に何を?」

「研究資材と場所。私の専門分野の”漂灰化”は、あの人たちにとっても価値があったみたいでさ。入手が難しい資料や、研究結果の共有もしてくれた。学会より、ずっとやりやすかったね」

「……ろくでもない場所だぞ、あそこは。お前が利用されていただけの可能性もある」

「それでも、私を認めてくれた場所であることには変わりないもんね」

 

 俺の言葉に、アッシュレインはぷい、と口を尖らせてそっぽを向いた。

 

「魔獣の痕跡も、彼らから提供されたのか?」

「へえ、あなたたちもそこまでは分かったんだ?」

「こっちには二人の第四階梯と、一人の依代がいる。大体のことは彼女たちが解析してくれた」

「贅沢な面子だね。ま、これだけのことをすれば、それくらいの存在が動くのも当然かあ」

 

 観念したように息をついてから、アッシュレインが答える。

 

「あの痕跡はね、とある人から送られてきたの。たぶん、あなたも良く知ってるんじゃない?」

「…………まさか、カルトロードか?」

「当たり」

 

 俺の問いかけに、彼女は小さな拍手で答えた。

 

「カルトロードは今どこにいる」

「残念だけど知らないよ。あの人、結構いろんなところをフラフラしてるみたいだからさ。でも、最後に私が聞いたのは確か、メノウ国だったかな……? それだけは教えてあげる」

「やけに正直だな。なにか考えがあるのか?」

「別に? あなたとカルトロードさんの因縁について、私は無関係だもん」

 

 割り切りがいいのか、それとも単純に俺たちに関わりたくないのか。

 特にウソをついている様子もないので、一旦その情報は信頼してもいいと判断した。

 

「……まさかヤツに繋がるとは思わなかったな。しかも、魔獣の痕跡を所持していたなんて」

「正確には”基底現実外由来の、何らかの生命体の痕跡”って言った方が正しいかな。魔獣、っていうのは消去法で暫定しただけの曖昧な話。とはいえ、間違いでもないと思うけど」

「それを使って、お前は魔獣の蘇生を試みたが、失敗した。それも三回のうち、二回も」

「そこまで知ってるんだ。ま、そっか。リノンが蘇ったなら、分かって当然だよね」

 

 リノンの解析によって判明した、三回の蘇生行為。

 一回目と三回目は蘇生対象の魂を参照できず、失敗したという結果になった。

 唯一、成功した二回目の蘇生対象はイヌだったという話だったが。

 

「あのゴーレムの中には何が入ってるんだ」

「わたぽんだよ。私が子供の頃に死んじゃった、飼い犬の魂」

 

 やはりあのゴーレムの中に宿っているのは、アッシュレインが飼っていた犬の魂らしい。

 

「……お前の目的は、一体……」

「お、そろそろ到着しそうかな?」

 

 腕の中のアッシュレインが下方を示したので、俺もその先へと視線を向ける。

 果てしないと思われていた縦穴は次第に終端へと近づいているようで、暗闇の中にはかすかな光源が見える。それが炎なのか魔術によるものなのかは分からないが、光源の広がり方からして、そこにはある程度の広さを持つ空間があることは確かだった。

 地面に近づくと、いつの間にか元のサイズに戻っていたわたぽんに迎えられる。

 

「お疲れ様、わたぽん」

『ブモ!』

 

 そうして、俺たちが到着した先に見えた、縦穴の先にあったものは。

 

「ここは……坑道?」

「そ。昔、ここで蒼鱗石を採掘してたんだって」

 

 地面に敷かれた金属製のレールを見て、はじめにそう思った。

 先程の光源はわたぽんが頭頂部を謎に発光させた時の光だったらしく、そこに照らされているのは木組みの支柱や、剥き出しの岩盤といった、採掘作業を連想させる痕跡だった。

 広さは俺たち二人がちょうど並んで通れるくらいで、そこまで開けた感じはしない。とはいえ、ここはいくつかある通路の一部のようで、幅は狭くとも奥行きはかなり続いているようだった。

 その奥というのも、わたぽんの光源では照らしきれないほど長く続いているが。

 

「エストレアはレフェルトリスが誕生した場所。そして、今もなお蒼鱗石を産出する鉱脈を無数に擁してる。だからこんな風に、エストレアの地下には廃棄された旧坑道がいくつも残ってるの」

「……随分とこの国の事情に詳しいんだな」

 

 ぺらぺらと自慢げに話すアッシュレインへ、睨みを利かせながらそんな言葉を投げる。

 すると彼女は、どこか懐かしむように目を細めながら、坑道の先へ続く暗闇へと目を向けた。

 

「私のお父さんはね、この国へ出稼ぎに来た鉱夫だったの。仕事が忙しくて、一緒に過ごせた時間はなかったけど……休みの日はこうやって、わたぽんを連れて坑道の探検をさせてくれた。子供の頃から友達が少なかった私には、それが何よりも大切な思い出だったの」

「だから、この旧坑道の場所も知ってたのか」

「うん。お父さんのおかげで、この国の坑道にはずいぶん詳しくなっちゃった」

 

 ぽつり、ぽつりと寂しさを感じさせるような声色で、アッシュレインが語る。

 それを聞けば、彼女の抱えている事情は何となく察せられた。

 

「……すまない。意図していないとはいえ、そこまで話させるつもりは」

「あ、お父さんはまだ生きてるよ。実家で野菜売ったり、週末はご近所さんと飲み会してる」

「さっさと先に進むぞ」

 

 少しでも気遣おうとした俺がバカだった。なかなかに幸せな老後を満喫しているようだ。

 

「じゃあわたぽん、連れて行ってくれる?」

『ンブモ!』

 

 そうして俺は、アッシュレイン――というよりは、わたぽんの案内で坑道内を進んでいく。

 坑道内はひどく静かで、たまに水滴の垂れる音が聞こえる以外は、俺たちの足音だけが暗闇に響いていた。途中、通路が分岐している箇所もいくつか見受けられたが、わたぽんは迷うことなく、進むべき方向を選び取っていく。その足取りは何か確信めいたものがあった。

 

「あ、トロッコ。まだ残ってたんだ」

「閉鎖する際に回収を忘れたんじゃないか」

「昔はこういうのに乗って、坑道内を爆速で駆け抜けてたなあ……」

「ロクでもない子供だっただろ、お前」

『ブモ』

 

 などと道中で適当な会話を挟みながら、しばらく進んだところで。

 

「ここは……蒼鱗石の採掘場か?」

 

 やがて俺たちが辿り着いたのは、比較的中規模の、しかし充分に開けた空間だった。

 周囲には岩盤を支える木材や運搬用の設備が設置されていたが、どれも長らく放置されていたのだろう、所々に老朽化の痕跡が見受けられた。また、岩盤にはかすかに青く光る無数の鉱石が露出しており、おそらくそれはわたぽんの中央に埋め込まれたものと同じだと悟った。

 つまりこの場所は、かつて蒼鱗石を採掘していた現場のうちの一つ。

 ……エストレアの坑道に連れられた時点で、蒼鱗石を目的にしているのは予測できたが。

 

「なぜ蒼鱗石がここまで残っているのに、ここは廃棄されたんだ?」

「万路防衛戦の時のいざこざで、そのまま放置されてたんだって」

「……なるほど」

 

 万路防衛戦。かつてオルトライズの時代、”博闢の門”を巡って起きた、広域紛争。

 五ヶ月にも満たない短期間の抗争だったが、その中でオルトライズは魔術学会を始めとする各勢力を制し、事実上の勝利を収めた。それ以降、”博闢の門”の主要な権利はオルトライズ商会が独占することとなり、彼らは今もなお、大陸において最も栄えた商会という地位を守り続けている。

 この採掘跡は、その紛争の遺産のひとつらしい。

 

「じゃあわたぽん、遠慮せずに食べちゃってね」

『ブモ!』

 

 アッシュレインがそう言うと、控えていたわたぽんが岩盤へ跳ねていく。そのまま壁面に露出した蒼鱗石に近づくと、もぞもぞとした動きが始まると同時、鉱物を砕く小さな音が聞こえてきた。

 こちらからはよく見えないが、どうやら壁に露出した蒼鱗石を取り込んでいるらしい。

 

「あの毛玉に何をさせてるんだ?」

「細かいことを全部省くと、エサやりかな」

「エサ……?」

「さっき私が言った、魔獣の痕跡。今、どこにあると思う?」

 

 ……まさか。

 

『ブーモ! ブーモ!!』

 

 その答えに辿り着くよりも早く、わたぽんが間の抜けた声を上げながら体を揺らす。

 よく見ればその体躯は徐々に肥大化しており、現時点で既に倍の大きさになっている。

 それでも肥大化は留まることを知らず、わたぽんは蒼鱗石を摂取しながら成長を続ける。

 

「今のわたぽんに搭載されているものは、三つ。一つ目はわたぽんの魂。二つ目は魔獣の痕跡。そして、三つ目は……”魂の帰路”の基軸部分の模造品に、私が独自に改良を加えたもの」

「つまり、充分な魔力があれば、あのゴーレム単独での蘇生行為が可能……」

「うん。まあ、その充分な魔力っていうのも、途方もない量になっちゃったんだけど」

 

 アッシュレインはそこで話を終わらせ、肥大化したわたぽんへと向き直る。

 既にあの毛玉は空間を埋め尽くすほどの大きさへ変貌しており、ぐるりと体を回転させると、蒼鱗石によって作られた核と目が遭った。そのあまりの圧に後ずさる俺とは裏腹に、アッシュレインは興奮冷めやらぬ様子で、その毛並みへと手を添えた。

 

「アッシュレイン、お前の目的は一体……」

「目的ってほどのものはないよ。私はただ、この世界に産まれた権利を行使したかっただけ」

「……権利?」

「見ようと思ったものを見て、この世界の真実を確かめること」

 

 見ようと思ったものを見て、この世界の真実を確かめる。

 その発言で、黎明の解剖学者が彼女に接触した理由がようやく腑に落ちた。

 

「さあわたぽん、最後の実験だよ。気合いれていこう」

『ンーブーモ!』

 

 必要な量の蒼鱗石も摂取し終えたのだろう、わたぽんも彼女に向かって間の抜けた声を上げる。

 

「私たちもカルトロードさんみたいに、神話に足を踏み入れ――」

 

 ――”博闢の門”が俺の直上に開いたのは、その言葉が紡がれようとした瞬間だった。

 

「ア……ッシュ……レイン…………っっ……!」

「イスカ……!?」

 

 門の淵周を掴み、ずるりと這い出るように姿を現したイスカが、荒い呼吸のまま名前を呼ぶ。

 どちらが魔獣か分からないその形相に思わず身構えたが、しかし彼女は俺のことなど視界に入っていないようで、殺気の籠った視線をアッシュレインへ一直線に向けていた。

 

「うわっ、もう来た!?」

「こ、この、女っ! ろ、ローレンスを今すぐ、解放しろ、っ!」

「んぎゅう!?」

 

 門から飛び出したイスカが、そのままアッシュレインの胸倉を掴む。

 

「あたしのローレンスを誘拐する、なんて……この、身の程知らずの、クソ女が、っ!」

「べ、別に、あの人はたまたま私の近くにいただけ……!」

「うるさいっ! おまえは、あたしからローレンスを奪ったんだっ! こ、ここで殺してやるっ! あたしからローレンスを奪ったら、どうなるか、皆に知らしめてやるんだっ!」

 

 その勢いで地面に伏せたアッシュレインの姿を見て、俺の身体は反射的に飛び出した。彼女へ覆い被さり、首を絞めるイスカを後ろから羽交い絞め、そのまま引き剥がしてしまう。

 

「ろ、ローレンスっ!? なんで邪魔するのっ!?」

「違う、”予言”だ! 俺だってこんなヤツに協力したいわけじゃない!」

「ううっ……! こ、この女……っ! よ、よくもローレンスを、好き放題……!」

 

 俺を傷つけないためだろう、腕の中のイスカは抵抗しているものの、あまり力を込められないようだった。対して俺の身体は全力でイスカを拘束しているため、彼女の自由を完全に奪っている。

 そんな俺たちの様子を見て、アッシュレインはゆっくりと立ち上がった。

 

「やっぱりメルティナさんの”予言”は便利だね。国家転覆だって夢じゃない」

『ンブモ』

「それよりも、始めようか。せっかく現代の第四階梯も見に来てくれたんだし」

 

 するとアッシュレインが、肥大化したわたぽんの頭頂部へと右手を翳す。

 その直後、俺たちの直上に魔術式が展開された。

 先のアッシュレインの言葉から考えるに、おそらくこれは――。

 

「た……”魂の帰路”の、基軸部分……!?」

 

 赫爪断層付近の研究施設でリノンが見せた、魂の帰路の内部構造。

 実際に見せられたのはわずかな時間だったが、それでもイスカは構造を覚えていたのだろう。

 そして今、アッシュレインが何を行おうとしているのかも即座に理解したはずだ。

 しかし”予言”の支配下にある俺も、俺に拘束されたイスカも、目の前の状況をただ見守ることしかできなかった。

 

「さあ、わたぽん。あなたの中にある魔獣の痕跡、それを辿ってみて?」

『ブ~モ』

 

 その瞬間、展開された魔術式が起動し、周囲の魔力が一点へと収束していくのを感じた。

 静かに、しかし確かに蠢くように魔力が渦巻き、あの毛玉の内部へと流れ込んでいく。

 蒼鱗石の摂取による魔力の補給もあり、その総量は明らかに異常なまでに膨れ上がっていた。

 

『入力内容、起動条件の達成を確認。これより実行に移ります』

 

 突如として、今まで呻き声しかあげていなかったわたぽんから、人工的な音声が発話される。

 おそらく”魂の帰路”関連のものだろう。今の状況ではそう結論付けるしかない。

 渦巻いた膨大な魔力を前に、アッシュレインは陶酔した様子で両手を広げていた。

 

「いよいよだ。これで、私も神話の一部に……!」

 

 その言葉に続いたのは、俺でもイスカでもわたぽんでもなく、”魂の帰路”の術式音声で。

 

『蘇生対象、アルバトラ。魂の情報を参照中……』

 

 ………………は?

 

「い、今……アルバ、トラ、って……言った?」

「アルバトラ? ……アルバトラぁ?! な、なんで……最初の魔術師の名前が……?」

「おい、魔獣の蘇生をするんじゃなかったのか!」

「そのはずだよ! この子の中にある魔獣の痕跡を使って、魔獣の蘇生を……!」

「で……でも、この術式は……アルバトラを、蘇生しようと、してる……けど?」

 

 一人目の第四階梯、六百年前の伝説の魔術師、『魔女』アルバトラ。

 魔獣を蘇生するはずだった”魂の帰路”は、なぜか彼女の名前を参照した。

 参照の元となったのは、わたぽんに積まれた魔獣――のものと思われる、生命体の痕跡。

 つまり。

 

「あんたが持ってたのは、魔獣の痕跡じゃなく、て……本当は、アルバトラの、痕跡……?」

「そ、そんなはず……でも、この魔術式が参照してるなら、そうなるの……?」

「……おい、このままだと魔獣じゃなくて、アルバトラが蘇るのか?」

 

 全員が疑問の表情を浮かべる中、術式音声は淡々と結果を告げた。

 

『該当範囲内の基準群から検索に失敗。該当人物が生存しているか確認してください』

「……は?」

 

 それだけを言い残し、展開されていた術式がゆっくりと霧散していく。

 収束していた魔力も既に解放され、巨大化していたわたぽんも縮小を始めていた。

 行われてようとしていた魔獣の蘇生は、すんでのところで失敗したと言っていいだろう。

 だが。

 

「い……今の、何……?」

「は、え……? な、何が起きて……?」

『ンブモ?』

 

 疑問を呈するイスカに、しかしアッシュレインも覚束ない言葉を返すのみだった。へたりとその場に座り込んだ彼女の傍に、何も分かってないようなわたぽんが寄り添った。

 俺自身も混乱を落ち着けるため、頭の片隅に残る情報を片っ端から整理していく。

 

「……リノンによると、”魂の帰路”は名簿のような記録を参照しているらしいが……」

「でも、さっきの感じ、だと……アルバトラは、その名簿に載ってない、みたい?」

「該当人物が生存しているか確認してください、って言ってたよね……?」

「実在する人物は術式が弾くとリノンは言っていた。それに関するものでもないはずだ」

 

 互いに敵同士だというのに、俺たちは向き直りながら考察を進めてしまう。

 それだけ、たった今目の前で起きた現象が、魔術師にとっての異常事態だということだった。

 ……本当は俺もイスカもアッシュレインも、その答えに辿り着いているはずだ。

 誰もそれを口にできないのは、純粋にその真実がこの世の理から外れているからなのだろう。

 だが、やがてその真実を告げたのは、俺でもアッシュレインでもなく。

 

「あ、アルバトラは……まだ、生きてい……る?」

 

 アルバトラと同じ第四階梯魔術師、『理外』のイスカだった。

 

「っ、わたぽんっ!」

『ンブモ!』

 

 咄嗟にその場から立ち上がったアッシュレインが、わたぽんへと指示を送る。

 毛玉は即座に肥大化し、中心から犬の四肢を生やす例の形態へ変化。

 そのままアッシュレインを背中に載せ、大きく後ろへと跳躍する。

 

「アッシュレイン! これ以上、何を……!」

「何って、決まってるでしょ。逃げるの」

「に、逃がすわけないだろ……!」

「確かに、第四階梯相手に正面から逃げ切るのは難しいけど……」

 

 そこでアッシュレインは、跨ったわたぽんの頭をぽんぽんと叩いてから、

 

「わたぽん」

『ブモ?』

「【私と一緒に、何を使っても絶対逃げ切ろうね?】」

『……ブモ!』

 

 ”予言”の行使。対象となったわたぽんは一瞬だけ身体を硬直させてから、鳴き声を上げる。

 直後、わたぽんの身体が大きく脈動し、球体状の身体から夥しいほどの有機的な触手が放出された。それは創造主であるアッシュレインを包み込むように絡まり、徐々に形を形成していく。

 やはて形状を安定させたそれは、ともすれば冠のようにも見えた。

 ……いや、というより、あれは。

 

「シミュラクラム・クラウン……!?」

 

 かつてエルネスタが残した”奕者の足跡”の一つ、シミュラクラム・クラウンの難題。

 それは現在もゴーレムの基礎理論の原本として用いられる、高次の自我を再現する魔術式。

 今わたぽんの頭部に載せられた冠は、それと類似する構造を有していた。

 

「逃げるよ、わたぽん!」

『ブーモ!』

 

 戴冠したわたぽんの頭頂部へ、先ほどと同様に莫大な魔力が渦巻いていく。

 

「ろ、ローレンス! 伏せてっ!」

「……っ!」

 

 イスカの指示に、咄嗟に体を地面へ伏せる。

 

『ブモアー!』

 

 直後、一瞬だけ青白い光が迸ったかと思うと、収束した魔力が天井へ向かって放出された。

 細い光の柱はそのまま天井を突き破り、みるみるうちに地上へと繋がる巨大な穴を開けていく。

 魔力の放出が終了したと同時に身体を起こすが、あの巨大な毛玉の姿は見当たらない。

 

「……イスカ、無事か?」

「う、うん……ろ、ローレンスは?」

「俺も問題ない」

 

 庇うように覆い被さったイスカの身体から一旦離れ、俺もそのまま立ち上がる。

 そう動けている時点で、”予言”の効力が切れているのが分かった。

 あれだけの魔力の奔流だ。他の魔術に干渉していてもおかしくはない。

 

「お、追いかけないと……」

「ああ。あいつには話してもらうことが山ほどある」

 

 黎明の解剖学者、シミュラクラム・クラウンの発現、そしてアルバトラの生存可能性。

 どれも今後の魔術界の左右する、重大な要件だ。このまま見逃せるはずがない。

 何より、彼女は俺たちの因縁の相手、カルトロードの名前を口にしていた。

 アッシュレインに痕跡を渡したのも、奴と見て間違いないだろう。

 

「あ、あいつは……あたしの手で、始末しない、と……!」

「そうだな」

「ど……どいつも、こいつも、ローレンスを狙って……こ、ここは一度、みんなの前で、あたしからローレンスを奪ったら……どうなるか、見せつける必要が……ある……!」

 

 極めて不純な動機ではあるが、目的は合致している。

 鼻息を荒くするイスカに身体を預けて、俺たちはアッシュレインを追いかけた。

 

 

 わたぽんが開通した縦穴を抜けると、エストレアの都市部に出た。

 だが周囲の建物は大半が損壊しており、本来の街並みは見る影もない。

 突如として訪れた混乱に、逃げ惑う国民たちの姿もちらほらと見える。

 彼らの流れに逆らって進めば、アッシュレインとあの毛玉に行きつくはずだ。

 

「ち、地上には……リノンとか、テオドールを待機させるように、した……。こ、これだけ派手に暴れてるなら、すぐに現場に駆け付ける、はず……」

「だといいがな。急ぐぞ」

 

 崩落した街並みを走り抜けながら、イスカと短く言葉を交わす。

 既に太陽は沈みかけており、周囲は薄暮に包まれつつあった。

 

『ン ー ブ ー モ !』

 

 ちょうど通りを二、三ほど過ぎた頃だろうか。前方からそんな聞き慣れたうめき声が響く。

 同時に空気が振動するほどの衝撃波と、茜色の空を切り裂く青い光の筋が放たれた。

 

「あ、あそこだっ!」

「イスカ!」

 

 浮遊してその現場へと急行するイスカの後を追って、俺も光の発生源へと走って向かう。

 

「マルドゥーク、もっと踏ん張りなさい!」

『了解! 擬似神格、出力最大!』

「わたぽん、あんな人形に負けちゃダメ! 頑張って!」

『ブモアー!』

 

 辿り着いた先では、巨大な冠を載せるわたぽんと、それを迎撃するマルドゥークとアナトリアの姿が見えた。どうやら彼女たちが真っ先に駆け付け、アッシュレインたちを抑えてくれたらしい。

 そこに俺たちも現着したと同時、後方から数人の足跡が聞こえる。

 振り返るとそこには、既に武装を終えたテオドールとラヴラス、メルティナの姿が確認できた。

 

「ローレンス、無事だったか!?」

「ええ、なんとか。メルティナ、今の状況は?」

「私たちはイスカ様の指示に従い、地上で待機しておりましたの。すると突然、支部とは全く別の方角にアッシュレイン様が出現し……アナトリア様が真っ先に飛び出していきましたわ」

「そして我々も現着し、今に至るというわけです」

 

 すると光の剣で戦闘するわたぽんを示しながら、テオドールが問いかけてくる。

 

「それよりローレンス、あの毛玉どうしたんだ? 随分とデカイ冠つけてるじゃねえか」

「俺も何がなんだか分かりませんが……少なくとも確定しているのは、あの毛玉の中にはアルバトラの痕跡が積んであること、そしてシミュラクラム・クラウンの魔術式を実行していることです」

「シミュラクラム・クラウン……それに、アルバトラの痕跡が……?」

「詳しい話は後でします。それよりも今は、アレを止めるべきでしょう」

「だな」

 

 光の剣を構え直すテオドールの隣に並び、俺も尻尾を顕現させる。

 これだけの人目がある場所で展開するのは憚られるが、この状況ではそうも言っていられない。

 

『ブ モ ア ー !” !”』

 

 吠えるような鳴き声と共にわたぽんの頭頂部が輝き、強烈な青白い閃光が放たれる。

 おそらくは先程吸収した蒼鱗石の残滓だろう。拡散する魔力の光線を避けながら、同じく空中で光線を回避しつつ、わたぽんの様子を伺うイスカと合流した。

 

「イスカ、どうする?」

「あ、あれは多分、アルバトラの痕跡から、力を貰ってる……。い、いちばん手っ取り早いのは、あ、あの毛玉と、アルバトラの痕跡を分離させること、だけど……」

「できそうか?」

「……保証は、できない。で、でも……あの毛玉の、開発者なら……たぶん…………」

 

 心底悔しそうな顔つきを浮かべながら、イスカが憎しみの籠った視線を向ける。

 俺もその方向へと顔を向けると、そこにはマルドゥークの肩に乗るアナトリアの姿があった。

 

「アッシュレイン、さっさと投降しなさい! 実家のお父さんも泣いてるわよ!」

「そんなはずないもん! あの飲んだくれ、今ごろご近所さんとお酒呑んでるし!」

「あなたねえ……っ! 大体、なによその気持ち悪い冠は! 私の創造したゴーレムに、勝手に変なアクセサリつけないでくれる!? ただでさえ不格好なゴーレムだっていうのに!」

「は……はあっ!? かわいいでしょ!? 私のわたぽんのこと、バカにしないでよ!」

 

 ありえないくらい程度の低い舌戦をアッシュレインとアナトリアが繰り広げているが、しかし配下のマルドゥークとわたぽんは激闘を繰り広げていた。毛玉の表面から放出される無数の触手を、マルドゥークは全て迎撃しているが、しかし反撃の隙が生まれるような猶予もない。

 

『あの毛玉がこれほどまで……! アナトリア様、あなたの創造物は優秀な者ばかりですね!』

「喜んでる場合じゃないわよ! あなた私の傑作でしょう!? あんな毛玉に負けないで!」

『ンブモ~~~!!!!!』

「よ~しよしよしよし! わたぽん、あんなバカげた人形、さっさと倒しちゃおうね!」

 

 どちらかが劣勢というわけでもなく、出力は拮抗。膠着状態が続いている。

 ……アルバトラの痕跡から力を得たわたぽんと拮抗している時点で、マルドゥークも大概だな。

 

「あ、あんな、アバズレの力を借りるのは、癪だけど……で、でも、ゴーレムに関しては、あいつが現代で、一番……だから。今は、あ、アナトリアを頼るしか、ない……!」

「わかった。俺はアナトリアと接触してくる。イスカ、お前はマルドゥークの援護を」

「……っ、うん!」

 

 飛び出したイスカが魔術式を展開、マルドゥークと戦闘するわたぽんの側面を強襲した。

 振動の術式によって威力の増大された拳が撃ち込まれると、わたぽんの巨体が大きく傾く。

 倒れ込んだ先に建っている集合住宅は、その重量に耐え切れず、一瞬にして圧し潰された。

 そうしてわずかに攻撃の手が止んだ隙に、俺は尻尾を使ってマルドゥークの身体を昇る。

 

「アナトリア!」

「え? ろ、ローレンス!? どうやって昇ってきたのよ!? てかその尻尾何!?」

「後で話します。それよりも、伝えたいことが」

 

 俺の背後でうねる尻尾に驚くアナトリアへ、俺の知る限りの情報を伝える。

 

「現在、あの毛玉は組み込まれたアルバトラの痕跡と、地下で摂取した大量の蒼鱗石によって膨大な魔力を獲得し、それをシミュラクラム・クラウンの術式に流し込んでいると思われます。暴走か拡張かは判断できませんが、アルバトラの痕跡が影響していることは確実です」

「あ、アルバトラの痕跡ぃ?! なんであの子、そんな物騒なもの持ってるのよ!」

「……詳細は省きますが、とにかく一刻を争う状況です。イスカの見立てでは、アルバトラの痕跡を分離させれば、事態は収束に向かうそうです。できそうですか?」

「随分と無茶なこと言ってくれるわね……」

 

 話を聞き終えたアナトリアは、辟易とした表情で息を吐いていた。

 だが、即座に否定の言葉を口にしないあたり、できないというわけではないならしい。

 

「アナトリアはゴーレムに関して現代で一番の魔術師だ、とイスカは言っていましたよ」

「……現代の第四階梯にそこまで言われたら、やるしかないじゃない!」

 

 俺の言葉にアナトリアは今一度、両頬を軽く張って気合を入れる。

 

「マルドゥーク!」

『はっ!』

「これから私、あの毛玉に乗り移るから! あなたは私を守る事だけを考えなさい!」

『了解しました! どうかご無事で、アナトリア様!』

 

 指示を受けたマルドゥークは大地を踏み締め、高速でわたぽんに接近。向こうも無数の触手を伸ばして迎撃しようとするが、それをマルドゥークは強引に押し退けて距離を詰めていく。

 とはいえ向こうの攻撃も激しく、毛玉の触手と魔力の放出を捌きながらの接近は困難を極める。イスカも初撃を与えてからというものの、同じく触手と光線によって接近を拒まれているようだ。

 

「啖呵切ったはいいけど、やっぱりそう簡単にはいかないわね」

『どうなさいますか?』

「……あの毛玉の攻撃パターンはある程度掴めてるわ。それに、攻め手に欠けているのは向こうも同じはず。だから何か、戦況を変えるようなきっかけが欲しいところだけど……」

「このままでは、先にこちらの魔力が底をついてしまうでしょうね」

 

 マルドゥークとイスカを同時に相手取っても、わたぽんの攻勢が緩む様子は一向に見られない。

 アルバトラの痕跡と、地下で摂取した大量の蒼鱗石による膨大な魔力がその原因だろう。

 だが、術式が不安定になっているせいか、魔力の総量に比べれば出力はさほど高くない。

 言い方を変えれば、あれだけの膨大な魔力を持ちながらも、マルドゥークとイスカの二人で相手ができるということだ。本来であれば、辺り一帯が更地になっていてもおかしくない魔力量だ。

 しかし長期戦に持ち込まれれば、先にこちらが不利になるのは目に見えていた。

 

「お、おい、デカブツ! 合わせろ、っ!」

 

 すると突然、上空へ舞い上がったイスカがマルドゥークへと指示を飛ばす。

 

「イスカ、あなた何を……!?」

『了解! 疑似神格、出力最大!』

 

 困惑する俺とアナトリアを差し置いて、指示を受けたマルドゥークが両腕をイスカへ向ける。

 そのまま巨大な掌から放たれた魔力の弩砲を、彼女は受け止めるように術式を展開。

 放たれた魔力はイスカの周囲を旋回し始め、やがて光の円環となって彼女の周囲を漂い始めた。

 

「……あんな曲芸、よくこんな土壇場できるわね……」

 

 おそらく振動の術式の応用だろう。何をどう操作しているのかは全くの不明だが。

 

「あ……アッシュ、レイン……っっ……!!!」

 

 光の円環を纏うイスカが、わたぽんの直上から急降下を始める。

 展開された触手が彼女の迎撃にあたるが、旋回する魔力の円環に触れた瞬間に次々と焼き切れていく。毛玉も触手単体では太刀打ちできないと即座に判断したのか、複数の触手を束ね、まるで一本の槍のような形状に変え、勢いよく彼女の身体に目掛けて撃ち放った。

 

「っ……鬱陶しい、っ!」

 

 だがそれが触れる直前、イスカは円環を解き放ち、触手の槍を中央から切断する。

 あの巨大な槍を生成するために触手を使い果たしたのだろう、束ねられていた触手は解かれ、その中央からは柔らかな毛に包まれた体表と、そこに腰を下ろすアッシュレインの姿があった。

 

「イスカ……!」

「これ、で……あんたも、終わ、りっ……!!」

 

 そうしてイスカが、アッシュレインの眼前まで迫ろうとした、その直前。

 

「【セレニアの翼、私に見せてくれるよね?】」

 

 アッシュレインの”予言”が、宣告された。

 

「っ……!!? あ、ゔ、ああ”っ”!!?」

「イスカ!」

 

 寸前で彼女を拘束しようとしたイスカは、”予言”によってバランスを崩し、地面へと墜落。

 俺は”予言”の文言を耳にした瞬間、マルドゥークの身体から降り、彼女の方へ駆け出していた。

 ……この戦局におけるきっかけを作ろうとしていたのは、アッシュレインも同じだった。

 そしてあいつには”予言”、そして何より、俺とイスカの身体に関する知識があった。

 

「イスカ、大丈夫か!?」

 

 墜落地点に到着した俺は、地面に蹲る彼女の身体を抱き起す。

 

「い”……! いだい”、っ”! あ、ゔ……! ゔゔゔぅぅ、い”っ、ゔぅ……!」

 

 果たして彼女は、自らの両目を掌で強く押さえつけながら、痛々しい悲鳴を上げていた。

 今の状態では呼吸すらままならないようで、強く歯を噛み締めながら、彼女は必死に痛みに堪えている。口の端からは血と涎の混じった液体と同時に、絞り出すような苦悶の声が漏れていた。

 

「大丈夫だ、イスカ! 落ち着いて、深呼吸しろ!」

「ゔ、っ……こ、こわい……! こわいよおっ! ろ、ローレンス、ローレンス、どこっ!?」

「ここにいる! 俺は、お前の傍にいるから……!」

 

 彼女の身体を必死に抱きしめながら、そう何度も呼びかける。

 すると彼女は、両目を覆う手をゆっくりと放し、空中を彷徨うようにその手を揺蕩わせた。

 俺がその両手を握ってやると、イスカは噛み合わない歯のまま、ゆっくりとこちらへ向き直る。

 

「ろ、ローレンス、っ……! あ、あ”たじ、っ……もう、っ……!!」

 

 ――こちらを見つめる彼女の瞳には(ひび)が走り、その割れ目から青白い光が漏れ出していた。

 

「っ……?!」

 

 天空の龍、”極穹を覆う蒼翼”、セレニア・ストラトスフィア――その象徴たる、蒼碧の翼。

 俺のメギストスの尾と同じように、彼女の瞳にはそのセレニアの翼が宿っていた。

 

「ゔ、ゔぅ……! い、たい……いたい、いたい、いだい”っ”!!!」

「っ……イスカ……!」

「やだ、やだ、っ……や、だ……こ、っ、こわい……! こわ、い……よぉ……っ!」

 

 罅割れていく瞳を晒しながら、イスカが俺の両手を死に物狂いで掴む。

 爪が皮膚に食い込み、手の甲から赤い血が流れ出すが、それでも俺はイスカの手を握っていた。

 今の俺にはただ、そうすることしかできなかった。

 

「あ……! あ”、っ” あ、ああ、ゔぁ……ぁ……!?」

 

 顕現は既に最終段階に入り、イスカの罅割れた瞳が露わになっていく。

 そして、まるで花の芽が吹くように、瞳の奥から小さな二対の蒼翼が顕現した。

 

「駄目だ……イスカ、駄目だ! これ以上進んだら、またあの時みたいに……!」

 

 俺の視線が、外部の力によって無理やり上空へ向けられたのは、ちょうどその時だった。

 

「――――【傾聴を】」

『ハーイ』

「っ……?」

 

 ”聖言”。口にした言葉に魔力を載せ、その言葉を聞いた対象に行動を強制させる術式。

 それを保有するのは、現魔術学会主席、古代魔術学派所属の第三階梯魔術師。

 

「エンデルガスト……!」

『ンーブモ!』

 

 その姿を認めたアッシュレインが、焦燥の混じった叫び声を上げる。

 わたぽんもエンデルガストを認識したのか、上空のエンデルガストを警戒する体勢を取った。

 

「ここまで運んでいただきありがとうございます、アーロンさん」

『アッ、イエイエ、ドウモドウモ』

 

 彼はアーロンによって開かれた”博闢の門”を使い、この戦場の上空に佇んでいた。おそらく門の向こうでは別の空間が地続きになっているのだろう、疑似的に浮遊した状態になっている。

 ……エンデルガストの”聖言”により、この場の全員が彼の方向へ視線と耳を向けていた。

 だが、当の本人は誰かに道を譲るように、門の端へと自らの立ち位置を寄せて、

 

「では、ここからは古代魔術学派の()()にお任せしましょうか」

 

 エンデルガストの言葉のあと、一人の魔術師が”博闢の門”から姿を現した。

 それは人類史において、新たな生命の形を定義し、神話と現実の境界を越えた魔術師。

 魂の輪郭をも捉える特殊な瞳を持ち、五十年という時を経て現代に蘇った、賢人。

 ――五人目の第四階梯魔術師、『律命』のリノン。

 彼女はイスカのものと同じ白いローブを翻してから、人差し指をそっと口元に添えて、

 

「それでは……みなさん、【お静かに】っ!」

 

 その瞬間、世界から一切の音が消えた。

 

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