メンヘラヤンデレキショすぎ幼馴染魔術師   作:宇宮 祐樹

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メノウ国編
29 プロローグ


 

 エストレア事変における裁定が下されてから、六日後の早朝。

 マギアマリ海域の沖合を錨泊する、メノウ国へと向かう貨物船のデッキにて。

 

『エー、ミナサンオハヨウゴザイマス』

『オハーヨ』『アイ』『ゴロゴロー』『ウイーッス』

『ジャア本日モネ、元気ヨクネ。ゴ安全ニヤッテイキマショウネ』

『ハーイ』『ガンバロウネー』『ウイ』『ゴロゴロー』

 

 コンテナの上で朝礼を行う球体状のゴーレムに、同じ形状をした無数のゴーレムたちが各々好き勝手な言葉を投げていた。そのままゴーレムたちはごろごろと転がり、持ち場へと向かっていく。

 その異様な光景をデッキの隅で眺めていた俺は、眉間を抑えることしかできなかった。

 

「……昨日のアレは……夢じゃなかったんだな……」

「う、うん……ほんとにこの船、ゴーレムしか載ってないん、だ……」

『スゲ~~~』

 

 この光景にはイスカも困惑を隠せないようで、何度も目をぱたぱたと瞬かせている。

 ただ、彼女の腕に抱かれているアーロンだけは、この状況に目(?)を輝かせていた。

 

『アソンデキテモイイ?』

「あいつらは仕事中だ。邪魔してやるな」

『ジャアオ手伝イッテコトデ』

「そ……それなら、いいよ。き、気を付けて……迷惑かけないように、ね?」

『ハア~イ』

 

 心なしか上機嫌な声を上げながら、アーロンはふわりとイスカの手から離れて行った。

 その姿を目で追っていくと、自然と周囲の光景が視界に入ってくる。

 天候は雲一つない快晴。俺たちを囲む海は静かなもので、波はどこまでも穏やかだった。

 これならメノウ国への渡航スケジュールにも影響はしないだろう。

 

「イスカ、船酔いは大丈夫か?」

「う、うん……。あ、あたし、ここに来てからずっと、ちょっとだけ浮いてるから……」

「え? あ、お前……そんなことしてたのか……」

 

 一見すれば直立しているように見えるが、よくよく見ればイスカの靴底は甲板から数センチほど宙に浮いている状態だった。馬鹿げている方法だが、確かに船酔いの心配もないだろう。

 

「ろ、ローレンスは?」

「俺は元々漁村育ちで、親父の仕事を手伝っていた。これくらいの揺れなら何も問題はない」

「あ……そ、そういえば、そうだった、ね。う、海は、ローレンスの得意分野だもん……ね」

「得意分野という訳じゃないが……まあ、そうだな。慣れてはいる」

 

 思えばこんな風に船に乗るのは、カルトロードの元から逃げ出した時以来だろうか。

 久しぶりに香る潮の匂いは、しかし親父が死んだときのことを想起させた。

 ……もう鬱屈とした気持ちになることはない。海に生きるということは、そういうことだと納得している。親父だって常日頃から、自分の番が回ってくるかもしれないと覚悟していたはずだ。

 それが早まってしまったことは、運が悪かったとしか言いようがない。

 

「ろ、ローレンス……? どうした……の?」

「……ああ、悪い。ちょっと地元のことを思い出してた」

 

 思考に陥った俺を引き上げたのは、こちらを覗き込むイスカの顔だった。

 普段から身に着けている第四階梯のローブはエンデルガストに没収されたのち、リノンへと継承されたため、今の彼女の服装は薄手の黒いワンピースのみという簡素なものになっている。

 引きこもりの彼女が肩や足を露わにする服を着るのは意外だったが、この温暖な気候ともなれば無理もないのだろう。むしろ、常日頃からあの白いローブを着込んでいる方が異常だった。

 それだけ第四階梯という地位に執着していたということでもあるが。

 

「……こうもヒマだと考え事が多くなるな」

「そ、そう?」

 

 船員がわりのゴーレム共から聞いた話だと、他の船との連絡のためにこの船はあと一時間ほどここで錨泊するらしい。そのあとは二時間ほど航行したのち、メノウの港へ停泊する予定となる。

 つまり今は船も動いておらず、このマギアマリ海域を漂っている状態ということで。

 

「釣りでもするか……」

「え……つ、釣り?」

「航行中ならまだしも、錨泊中なら問題ないだろ」

 

 乗組員が全員ゴーレムなため、そもそも漁具がこの船に置いてあるかの確認から始めないといけないが、それでもただ時間が過ぎるのをボケっと待つよりはマシだろう。

 

「イスカはどうする?」

「あ、あたしも……ローレンスが、つ、釣りするところ……見てる……」

「分かった。なら一緒に探しに行くか」

「う、うんっ……!」

 

 そうやって頷くイスカを引き連れながら、手始めに船室へと向かう。

 俺たちのメノウ国への遠征は、そんな穏やかな一日から始まった。

 

 

 エンデルガストからの連絡があったのは、二日前のことだった。

 

「メノウへの渡航手段はこちらで手配しました。そちらの経路をお使いください」

 

 その言葉と共に渡されたのは、ノールドベルトから出航する輸送船の搭乗券だった。

 彼の話によると、その輸送船はオルトライズ商会が運用している貿易便の一つであり、そこに俺たちを紛れ込ませることで、秘密裏に俺たちをメノウへと渡航させるという算段らしい。

 この件に関する疑問は二つ。

 

「イスカの開発した”博闢の門”のレプリカを使わないんですか?」

「ええ。商会の人間に目をつけられるのも避けたいので」

 

 四人目の第四階梯魔術師、オルトライズが開発した空間移動術式、”博闢の門”。

 イスカは現在、そのレプリカ――オルトライズと同じ手法を用い、独自に再開発した”博闢の門”を所有している。本来であれば”博闢の門”の所有権や使用権といった諸々の権利は、全て彼が属していたオルトライズ商会にあるが、このレプリカに関してはその限りではない。

 であれば、メノウへの移動を目的とするこの状況においては有効な手段だと思ったが……。

 

「あのレプリカは、権利的な諸問題は全て解決しているのでは?」

「イスカさんが商会と友好的な関係を築いていれば、正面からそう言えたかもしれませんね」

「ああ……。ですが、それを加味しても……いや、まあ、そうか……そうですね、はい」

「それに商会もただで納得するとは思えません。下手に刺激する必要もないでしょう」

 

 知っての通り、イスカと商会は”博闢の門”の詳細を巡って長らく対立、というより一方的にイスカが商会を目の仇にしている。そんな状況で、俺たちが”博闢の門”を使って国家間を移動したとなれば、イスカが”博闢の門”の術式情報を盗んだと疑われるのは確実だろう。

 今回の任務は秘密裏に行わなければならない。下手に目立つ手段を取るのも悪手か。

 

「我々はメノウ国のどこへ運ばれる予定ですか?」

「サギ島と呼ばれる島ですが……地名で分かりますか?」

「……申し訳ありません。メノウの土地についてはあまり明るくなく」

「あの、メノウの端の方にある小さな島です」

「……ああー……」

 

 メノウ国。大陸の極東に存在する、四つの島に分かれた多島海国家。

 正確には、一つの巨大な陸地が四つに分断された国、と言うべきだろう。

 メノウ全域を上空から俯瞰した際、そこには巨大な爪痕と思しき三つの海峡が確認できる。

 一説によるとそれは遥か昔、壑陵を裂く赫爪(ヘリオルト)が刻んだものだとされている。

 故にメノウは大地の信奉者にとって、聖地とも呼べる場所となっていた。

 そしてエンデルガストが今しがた口にしたサギ島は、メノウ国の最東端に存在する島。

 覚えている限りでは、国土の二割にも満たないような小さな島だったはずで。

 

「つまり我々はこれから、ド田舎に飛ばされると」

「そうなります」

 

 ……まあ、これが秘匿任務だと考えればおかしな話ではないか。

 

「メノウ国に到着してからの行動は一任します。あなたも黎明の解剖学者について探ることは本懐でしょうから、そこは信頼します。くれぐれも私の信頼を裏切るような真似はしないでください」

「ありがとうございます」

「それと、定期的な連絡は必ずお願いします。あそこは魔術学会の支部はおろか、主要な研究機関の支部も少ないような場所です。あなた方の身元の保証としても、怠らないように」

「……仮に自分からの連絡が無かった場合は?」

「称号が凍結されたとはいえ、第四階梯の立場を持つ人間の身元が不明になった、という事態に発展し、学会はメノウに対し大規模な捜査を行うことになるでしょうね。場合によっては戦闘行為が起きる可能性すらあります」

 

 学会がそんな強硬手段を取るとは思えな……。

 ……いや、どちらかというとメノウの国民性を危惧しての発言か。

 どちらにせよ連絡を取らなければ、大事になると解釈しておくべきだろう。

 

「他にお聞きしたいことは?」

「……ありません。とにかく今は、奴を探し出すために尽力します」

「そうですか。では、報告は以上となります」

 

 そこでエンデルガストは深く息をついたかと思うと、座っているイスに大きく凭れ掛かり、

 

「…………なるべくゆっくり帰ってきていいですからね。お願いします……」

「それは……善処……いや、その。……いい具合で帰ってきます」

 

 イスカがここを離れることは、エンデルガストにとって凄まじく望ましい状況なのだろう。

 疲れ切った顔でそんなことを言い出す彼に、俺は曖昧な言葉を返すことしかできなかった。

 

 

 そして昨日の夜に出航するこの船に乗り合わせ、一夜明けたあとの、今日。

 俺とイスカは船室に保管されていた竿を持ち出し、船の後方にある作業甲板へと訪れていた。

 荷下ろしに用いられるこの区画は海面との距離も近い。糸を垂らすくらいならできるだろう。

 

「え、餌は……なかった、ね」

「ああ。だからちょっと倉庫の方に行って、虫をいくつか取ってきた」

「えっ」

「温暖な気候でよかったな。大量に湧いてたぞ」

 

 手ごろな紙に包んだ数匹の蛆虫を見せると、イスカは茫然とその場に固まってしまった。

 イスカには刺激が強かっただろうか。いやでもこいつの生活環境の方がよっぽどおぞまし……。

 ……うねうねと蠢く虫の中から一匹を摘まんで、その先端に針を通してやる。

 そうして調子を確認している俺の横で、イスカは口元を両手で抑えながら目を震わせていた。

 

「お前、そんな虫苦手だったか……?」

「う、ウネウネしてるやつは、嫌いっ! 小さくて、た、たくさんいて……気持ち悪い……!」

「……俺が小さい頃はこういう虫をたくさんかき集めて、一つの大きな玉にして……」

「ひぃぃぃいいっっ!!」

 

 ああすると食いつきが格段に良くなる。幼い頃の得意技だった。

 だがイスカにとってはかなり残酷な話に聞こえてしまったらしく、彼女は顔を真っ青にしながら甲板にへたり込んでしまった。どうやら相当なダメージをくらってしまったらしい。

 

「悪かった。もうこの話はしない」

「ろ、ローレンス……いじわる…………!」

 

 あのイスカが珍しく怯んでいるのを見て、俺も思わず気が乗ってしまった。

 いつもの仕返しと言うか、何というか。とにかく、やりすぎてしまったのは反省する。

 甲板の縁に腰を下ろし、竿を振りかぶって海面に向けて糸を落とす。

 言及することは特にない。糸の位置を調整しつつ、のんびりと潮風を浴びるだけだ。

 

「つ……釣れる、かな?」

「一匹ぐらいかかればいい方だな」

 

 そもそも目的はメノウへ到着するまでの暇潰しだ。特に食料に困っているわけでもない。

 もちろん釣れたら釣れたで、それが食べられる魚であれば今晩の食事にしてもいいが。

 基本的には釣り上げても針を取って、そのまま海に返すつもりだ。

 

「くぁ……」

 

 海に針を落としてから五分と経たないところで、ふと欠伸が漏れた。

 温暖な気候に、天候は雲一つない快晴。心地よい潮風に、定期的に揺れる船体。

 これだけ眠くなる条件は揃っていれば、欠伸が漏れるのも仕方ないだろう。

 

「ろ、ローレンスっ!」

「? ……どうした?」

「い……糸、引いてる、よ!」

「え?」

 

 慌てて視線を戻すと、イスカの言う通り海面から伸びた糸がぴんと張っているのが見えた。

 それと同時に竿に強烈な負荷がかかり、先端がぐいっとしなる。

 

「お、もっ……!? 何だこれ!? 本当に魚か!?」

「ローレンスっ、だ、大丈夫!?」

「大丈夫だ! 釣り上げられない重さじゃない! 悪いイスカ、手伝ってくれ!」

「う、うんっ……!」

 

 イスカは俺の腰あたりに抱き着いて、そのまま後方へと俺の身体を引いていく。

 本人の膂力ではなく浮遊魔術の術式出力のため、その力は竿を引く力よりも遥かに強い。

 これだけの力があれば、今掛かっている獲物が釣りあげられるのも時間の問題だろう。

 

「あ、あと、ちょっと……じゃない?」

「ああ、もう少しで……!」

 

 海面に大きな影が見えたのを確認して、俺とイスカが同時に力を込める。

 果たして水面を突き破り、姿を現したのは。

 

『アッ、ドウモ』

 

 この船に搭乗するゴーレムとおそらく同じ規格をした、球体状のゴーレムだった。

 

「は?」

『イヤー、落ッコッチャッタノヨ』

「え……?」

『アリガトウネー』

 

 針を自分で外したゴーレムは、ごとんと重たい音を立てて甲板に着地する。

 そのまま何事もなかったかのように、そいつはごろごろと転がりながら船内へ消えていった。

 

「え……な、なに、今の……?」

「……まあ、船の上だからな。そういうこともある」

「え、そ、っ……それで済ませて、いいの!?」

「今度はちゃんとした魚が釣れるといいな」

「ローレンスっ!!?」

 

 先程までの事態はなかったことにして、もう一度針に虫を通し、糸を水面へと投げ入れる。

 

「くぁ……」

 

 海に針を落としてから五分と経たないところで、ふと欠伸が漏れた。

 温暖な気候に、天候は雲一つない快晴。心地よい潮風に、定期的に揺れる船体。

 これだけ眠くなる条件は揃っていれば、欠伸が漏れるのも仕方な――。

 

『アーッ、デカイ波ガ来ル!』『イ”ヤ”ー”ー”!”!”』『アブナーーイ!!?』

『ゴロゴロー!!』『ウボボボボボ!!!』『押サントイテ!』『ウニャア!!』

 

 ……なんで船上活動を目的としてるのに、あんなに転がりやすい設計をしてるんだ……。

 

 

 結局、魚は一匹たりとも釣れなかった。

 そして一時間が経過し、船も航行を再開したので釣りは終了。

 暇潰しにもならない無為な時間を過ごしたあと、俺とイスカは船内を散策することにした。

 とはいえこの船は貨物船。見るべき場所も少なく、早々に退屈が襲い始めてきたが。

 

「あ……あそこに、いる、の……アーロン、じゃない?」

 

 ふと、船内の通路に差し掛かったところで、イスカがそんな声を上げる。

 その視線の先、通路の奥には確かに球体状のゴーレムに囲まれているアーロンの姿があった。

 

『クソガキガヨ』『ナンデ飛ンデンノ~?』『ナマイキ!』

『ヤメテネ! ヤメテネ!』

『オマエモゴロゴロシナサイ』『シナイト海ニ落ッコトスゾ』『ゴロゴロー』

『ウエ~~~ン!!』

 

 いじめられている……。

 

「あ……あたしたちの、子供に、何してるのっ!!」

『イヤーッ!』『ヤバッ!』『逃ゲロー』『ゴロゴロー!』

 

 すぐさまアーロンの状況に気づいたイスカが飛び出し、ゴーレムたちを追いかけ回していく。

 その一方でアーロンはけろっとした様子で浮かび上がり、俺の隣へとやってきた。

 

「何したんだお前」

『知ーラナイッ』

 

 小生意気なアーロンのことだ。どうせあいつらを刺激するようなことを言ったんだろう。

 アーロンを囲んでいたゴーレムたちは全てイスカに捕えられ、順番に蹴りを入れられていた。

 その勢いで遠くに転がっていったゴーレムは、しかし波によって起きた船内の揺れによって、また順番にこちらへ転がってくる。なんとも間抜けな絵面に、思わず眉間を抑えてしまった。

 

「お前ら、明らかに船内活動には不向きだろ……」

『ショウガナイジャンネ』『ネー』『ゴロゴロー』

「も……もしかして、派遣されてきた……とか?」

『ソンナ感ジデス』『ホントハ陸地ノ方ガイインダケドー』『クジ引キデネッ』

 

 ……そもそもの話、こいつらは何なんだ?

 別に、船内作業をゴーレムにさせること自体は不思議な話じゃない。俺の出身村でも簡素な造りのゴーレムが漁業を手伝っていたし、親父の持っていた船にもゴーレムを一台積んでいた。

 だが、この規模の貨物船で、しかも乗組員全てがゴーレムというのは異様すぎる。

 それにこいつらの話を聞いた限り、本来の活動範囲は陸地なのだろう。

 

「ね、ねえ……あ、あなたたちの、創造主って……誰、なの?」

 

 イスカも同じ疑問に行き当たったらしく、俺が渡そうとした質問をゴーレムたちへ投げかけた。

 だが、ゴーレムたちは一瞬だけ間を置いた後、首(?)を傾げるように小さく転がってから、

 

『ア、ボク野良ノゴーレムデスヨ』『ボクモー』『ボクモネ』

 

 はあ…………?

 

「野良って……いや、ゴーレムである以上、お前らを設計した人間がいるだろ」

『言ワレテモネエ』『知ラナイモンネエ』『ミンナ勝手ニ産マレテキタノ』

「そんなわけないだろ」

 

 基本的にゴーレムという存在は、創造主(マスター)の存在が不可欠になる。

 小鳥は産まれて始めて目にした生命体を親と認識する、という話に近いものだ。

 媒体に論理機能――シミュラクラム・クラウンの術式を刻んだ時点でその核には自意識が宿り、周囲の情報や状況を認識することが可能になる。そこで核は周囲に存在する術式構築が可能、つまり自身に付与された魔力と同じ魔力を持つ存在を創造主として認識する。

 アナトリアの元で働いていた時に呼んだ記録では、完全な閉鎖環境で制作されたゴーレムへ同時に三人の人間を見せた際、ゴーレムはちゃんと核を作成した人間を主人として認識したという。

 それだけゴーレムという存在にとって、核と創造主は密接な関係性を持つ。

 

「……アーロン。確認だが、お前の創造主の認識はどうなってる?」

『論理機能ヲ設計シタノガパパ、実際ニ術式ヲ刻ンダノハママ』

「だよな」

『ソンナ感ジナンデ一応、命令トカ指示ノ優先度ガ、パパトママデ同列ニナッテマス』

 

 このようにアーロンですら、ゴーレムとしての認知はきちんとあるわけで。

 これらの話を踏まえると、野良ゴーレムというのは言葉から破綻しているのが分かる。

 

「お前ら……全員そうなのか? その、創造主を認識してる個体はいないのか?」

『タブン?』『本土ノ奴ラモソウダヨネ?』『ウチノゴーレムハ全部ソウダヨネ』

「全部? ちょっと待て、お前らこの船以外にもまだ仲間がいるのか?」

『サギ島ニタクサンイルヨ』『テカ島民ホトンドゴレームダヨ』

 

 ……冗談も大概にしてほしい。

 こんな鉄球が蔓延る孤島に俺たちは送り出されるのか?

 

「さ、さっき……野良って、言ってた、よね?」

『ハイ!』『ソウデス!』『野良デス!』

「じゃ、じゃあ、あなたたちの、一番最初の記憶、って……どうなってる、の?」

『……?』『??』『? ……?』

 

 ゴーレムたちはイスカの質問に上手く答えられないようだった。

 挙動的には彼らの論理機能に莫大な負荷がかかっているようにも見える。

 出生に関する記録が欠落しているか、あるいは外的要因によって抹消されたか……。

 

『ア、デモ開発者登録ハアリマスヨ』『アリマスヨ』『アリマスヨォー……』

 

 転がっていくな!

 

「それで開発登録者……? 設計に携わった人間は認知してるのか」

『二人イルノ』

「……そ、それは、誰と、誰、なの?」

『知ラナイ』『分カンナイ』『教エナーイッ』

「こい、つら……っ!!」

『ア”ァ”ー”-”-”!??』『イヤーーッ!』『ウボボボボボ!!!』

「やめてやれ、イスカ」

 

 振動の術式を起動し、ゴーレムたちを微細に振動させるイスカの手を止める。

 

「とにかく、お前らが意味の分からん存在だということはわかった」

『ソレハドウモ』

「こ……こんなのが、まだたくさんいるなんて……信じられない……」

『タクサンイルヨ』『ゴロゴロシテルヨ』『ゴロゴロー』

 

 どうやらサギ島というのは、想像を絶するような環境らしい。

 ……先が思いやられる。メノウでの活動は一体どうなってしまうのだろう。

 

『アノー、モウ行ッテイイ?』

「ああ。引き留めて悪かったな」

「つ、次……アーロンにあんなことしたら……身体を、粉々にしてやる、から……ね」

『ゴメンナサイデシタ』『スイマセーン』『ゴロゴロー』

 

 全くもって誠意の感じられない謝罪の言葉を吐き捨てながら、ゴーレムたちはごろごろと廊下の奥へと消えていく。なんとも言えない感情でそれを見送った俺は、隣のイスカへ声をかけた。

 

「……メノウは一体、どうなってるんだ?」

「わ、わかんない……」

 

 メノウ国。大陸の東端に位置する、世界でも有数の武器輸出国家。

 島国ということもあり、かの国では独自の文化や技術体系が発展している。

 また、その国民性は過激なものであり、イスカ曰く”野蛮”な人間が多いのだとか。

 ……だが、こんな野良ゴーレムが蔓延っているという話は一度も耳にしたことがない。

 

『ゴロゴロノ練習シナイトダメ?』

「お前は浮いてるだろ」

 

 呑気にメノウへの上陸を心待ちにしているアーロンに、俺は溜息と共にそう答えた。

 

 

 同日の午後、メノウ国東部、サギ島の港にて。 

 

『シャバダァ~~!!』『イヤッタァ~~~!!!』『ゴロゴローーー!!!!』

 

 船から伸びる荷下ろし用の通路の上を、我先にと大量のゴーレムたちが転がり落ちていく。

 途中で転がり方を間違えた何体か海にぼちゃぼちゃと落ちているが、多くはそれに見向きすることもなく、久しく降り立ったであろう陸地を嬉々としてごろごろと周回していた。

 ちなみに荷下ろしはまだ終わっていない。というより、始まってすらいない。

 本来の仕事そっちのけで、このザマである。

 

「なんて間抜けな……」

「あ、あれ、さ……ほんとに、論理機能がちゃんと……動いてるの、かな?」

『地ベタ這イズリ回ッテルバカ共ニソンナ知能アルワケナイッスヨ』

 

 お前の親機も地べたを四脚で這いずり回ってるだろうが……。

 

「あ、あたしたちも……行こう……」

「そうだな」

 

 先を行ったゴーレムたちに続いて、俺たちも荷下ろし用の桟橋を渡っていく。

 途中、視界の端に海で溺れているゴーレムが何体か見えたが、無視することにした。

 

「……ここが、メノウ……サギ島か」

 

 陸地を踏み締めて改めて感じた風土の違いに、思わずそんな今更な言葉が漏れる。

 まず初めに気づいたのは、建築様式の違いだった。大陸の国家――ノールドベルトやエストレアは基本的に石材を用いた建造物が多いが、メノウは木材を主体とした建築が圧倒的に多い。

 おそらくメノウの温暖な気候に合わせ、放熱性や通気性を重視しているのだろう。よく言えば自然資源をふんだんに用いた素朴な、悪く言えば火災の被害が尋常ではなさそうな街並みだった。

 

「ろ、ローレンス……これから、どうする?」

「そうだな……」 

 

 今後の動きを考えるため、改めて港周辺の風景へと目を馳せる。

 港の雰囲気は、俺が覚悟していたよりもいくらか賑わっているようだった。

 島民の往来もまばらというわけでもなく、他の船へ荷物を積んでいる数名の作業員や、あるいは港付近の商店へ人が集まっている様子も見受けられる。少なくとも、島についてもゴーレムしかおらず生物と呼べる存在が見当たらない、という展開にはならなかった。

 総じて、存外にも普通の街だ。確かに田舎だが、その中でも人は多い方だろう。

 

「まずは宿を探すか。港街だし、これだけ人の往来もあれば小さい宿屋も見つかるはず」

「う、うん……そうだね……」

 

 頷いたイスカを引き連れて、サギ島の港街へと繰り出す。

 予想通り街の規模は小さいながらも人々は活気に満ち溢れており、俺たちが外から来た人間ということもあってか、歩いているだけで何度か声をかけられた。

 

『アッ、ドウモ』『エッ、浮イテル!』『ナンダコイツ!』

『ドウモー』

『ナンデ浮イテルノ?』『イイナー』『ゴロゴロー』

『ドウモネー』

「………………」

 

 もっとも、声といっても人間からではなく、道端を転がるゴーレムからだが。

 

「よ、よかったね、アーロン……人気者、だよ?」

『イヤマア、ソノ、エヘヘ』

「……こいつら、自分以外のゴーレムを知らないのか?」

 

 技術の進んだ昨今では、浮遊型のゴーレムなんて珍しくも何ともないはずだ。

 それこそ船上作業を主としたゴーレムは、基本的に浮遊するように設計されている。

 ……こういうところは田舎らしいというか、何というか。

 

「この際だから、こいつらに聞いた方が早いか」

『エ?』『ナニナニ』『ドウシタノヨ』

「泊まれる場所を探してるんだ。この街にないか?」

『アルヨー』『コッチヨー』『ゴロゴロー』

 

 近くでごろごろとしているゴーレムたちに問いかけると、彼らは案内をしてくれるつもりらしく、ごろごろと半ばこちらの歩調に合わせるくらいの速度で転がり始めた。

 そうしてサギ島の港街をのんびりと歩くこと、しばらく。

 

『ココデス』

 

 やがて彼らが足(?)を止めたのは、一軒の平屋の前だった。

 やはりこちらも木造で建てられており、出入り口のすぐ傍には古い看板が立てかけられている。

 風化しているせいで判読しにくいが、どうやら宿屋であることは確からしい。

 

「ありがとう」

『イイッテコトヨ』『ジャ、ソウイウコトデ』『ゴロゴロー』

 

 礼を言うと、ゴーレムたちはごろごろと宿屋の裏手へと転がっていった。

 ……ここに所属しているゴーレムだったのだろうか。偶然にしては出来すぎかもしれないが。

 

「きょ、今日はここに……泊まるの?」

「部屋が空いていればな」

 

 寂れた田舎とはいえ、ここは港街。そこそこの量の利用者はいるだろう。

 くぐもったガラス戸の玄関に手をかけると、がたがたと歪んだ音と共に扉が開いていく。

 すると扉についた鈴が、妙に落ち着いた音色を奏でた。

 

『リンリンリーン!!』

「あれはゴーレムじゃない」

 

 鈴の音色か、はたまたアーロンの鳴き声を聞きつけたのかは分からないが、玄関から続く廊下から急ぎこちらへ向かってくる足音が聞こえてくる。

 果たして少し時間が経った後に現れたのは、メノウの民族衣装に身を包んだ妙齢の女性だった。長い髪は頭の後方で纏められており、こちらに向けられる藍色の瞳には若干の嫌疑が宿っている。

 

「いらっしゃい。……見ない顔だね? メノウは初めてかい?」

「ああ、はい。観光で少し。今日泊まれる場所を探しているんですが……」

「そうかい。なら丁度よかった。うちに泊まっていきな」

「ありがとうございます。二人とゴーレムが一台なんですが、構いませんか?」

「問題ないよ。しっかし……」

 

 そこで初めて彼女の視線が、俺の後ろに立つイスカとアーロンへと向けられる。

 アーロンはどうでもいいがイスカはやはり初めて会う人間ということもあってか、少し怯えているようだった。元よりメノウの人間を野蛮人と称するような奴だ。警戒しているのだろう。

 だが、宿の主人はイスカの顔を眺めたあとに、顎に手を当てながら少し唸ったあと、

 

「……そっちの子、どっかで見たことあるような顔だね?」

「気のせいでしょう」

 

 あの白いローブを身に着けていないとはいえ、イスカの顔は魔術界以外にも何かと割れている。

 俺もそこは承知で、ある程度の嘘を織り込んだ事情を伝える予定ではあった。

 だが見る限り、少なくとも彼女はイスカを第四階梯だとは認識していないらしい。

 ……田舎で助かった。

 

「まあいいさ。それよりもあんたら、金はあるのかい?」

「最低限の金品であれば……」

「でも観光ってことは、これから使うんだろ? いいさ、宿代は少し負けてあげる」

「本当ですか」

「その代わりと言っちゃなんだがね」

「?」

 

 妙に引っかかる物言いをする彼女に、首を傾げると。

 

「今ちょうど人手が欲しかったんだ。少しあたしの手伝いをしてくれないかい?」

 

 

 店主、もとい女将のキサラギから頼まれたのは、ゴーレムの補給液の補充だった。

 どうやらサギ島内部に生息するゴーレム――この表現には未だに違和感しか覚えないが――の管理は、このサギ島に存在するいくつかの店舗、そして行政の協働のもと行われているらしい。

 俺たちが訪れた民宿、『潮の宿』もその共同管理組合に加盟しているとのことで。

 

「この島の人間は、本当にゴーレムと生活を共にしているんだな……」

「う、うん……。こ、ここまで、生活に入り込んでる、なんて、ね」

 

 バケツになみなみと注がれた補給液を片手に、イスカとサギ島の各所を巡っていく。

 指示されたゴーレムの補給栓は全部で四つ。一つは民宿の裏手にあり、手順の説明がてらキサラギに付き添われつつ補充を完了させた。それから二つの補給所は船着き場と市場にあり、特に問題が起きることもなく、補給を待つゴーレムたちに見守られながら作業を完了させた。

 

「で、最後は……この山の中腹にある、降龍院の中か」

 

 港街を抜けた先にある、小さな山。

 その中にある古くに建てられた降龍院は、今ではゴーレムたちの憩いの場となっているらしい。

 人は滅多に訪れないらしく、降龍院へと続く山道も荒々しい状態になっていた。

 

「階段すらないなんてな」

「……あ。か、階段がある、と……ゴーレムたちが、登れないから、じゃない?」

「あいつら欠陥品にも程がないか?」

『ワオ! スッゲエバカ!』

 

 文句だけで構成された会話を繰り広げながら、キサラギに指定された地点を訪れる。

 おそらく建設されてから三桁の年月が経っているのであろう、俺たちが発見した大地の降龍院はひどく寂れていた。メノウでは珍しい石材を用いた建築だが、その外壁には至る所に苔やツタが生い茂っており、全体的にも損傷が大きく見られる。

 そしてその周辺では、当然のように球体状のゴーレムたちが転がっていた。

 

『ゴロゴロー』『ゴロゴロー』「ご、ごろごろー……」

 

 それらを無視しつつ、指定された補給栓へと足を進めていく。

 

「そ、それにして、も……補給液なんて、使ってるんだ、ね?」

「田舎だからだろ」

 

 ゴーレムの活動に必要な魔力は、現代では術式内に刻まれた循環魔力回路を用いて補給される。

 この循環魔力回路は全てのゴーレムに標準搭載されている、シミュラクラム・クラウンの研究が進んだ近年においてようやく解明・実用化された機能であり、比較的歴史が浅いものだ。

 それ以前に制作されたゴーレムはこのようにして補給液による外部補給や、創造主による直接の魔力補給が必要だった。それを考えると、こいつらの設計者はエルネスタが存在した当初、あるいは彼女が失踪してからまだ年月が経っていない時代の人間だと見るのが妥当だろう。

 

「なんなんだ本当に……」

『ドウモドウモ』『ナンデスカ?』『文句アルンデスカ?』

『オマエラハ”ガラクタ”ッテコトデスヨ!』

『ハアー!?』『ウルセエクソガキ!』『浮イテンジャネー、ヨッ!』

「なっ、ナユタもガラクタなんですかあ……!?」『泣イチャオウカナー!!!』

 

 もはや聞き慣れてきたゴーレムたちの声を適当に流しながら、補給液の補充作業に移る。

 といっても、空になった樽にバケツを傾けるだけの簡単な作業だった。

 あとは樽から伸びる管を、ゴーレムたちが勝手に操作して補給してくれる。

 

「こ、これで終わり……だよね?」

「ああ。さっさと宿に戻ろう。今日は精神的に疲れた」

 

 空になったバケツを肩に担ぎながら、イスカにそう答える。

 作業も完了したので、ここにもう用事はない。

 再びゴーレムたちにいじめられているアーロンを救出し、降龍院に背を向ける。

 背後からは、補給液に群がるゴーレムたちの声が聞こえてきた。

 

『ヤッター!』「こ、これでお水が飲めるんですね……!」『ウワーイ!』

 

 ………………。

 ?

 

「イスカ、ちょっと待て。なんか今、人間の声がしなかったか?」

「え?」

「いや、絶対いたような……」

 

 不意に聞こえた少女らしき声に、思わず振り返る。

 

『チュルチュルー』『ゴクゴク』『ングングー』

「ずぞぞぞぞぞぞぞ!!」

 

 果たしてそこには、ゴーレムたちに紛れて補給液の管を口に咥える一人の少女が――。

 

「おい腹壊すぞ!!」

「むぐっ!??」

 

 ゴーレム用の補給管を咥える少女というあまりにも過激な絵面に、反射的に大きな声が出た。

 少女も驚いた勢いで管を喉に詰まらせてしまったようで、咳き込みながらその場に膝をついてしまった。慌てて駆け寄ると、彼女は口の端から補給液を垂らしつつ視線を送ってくる。

 

「大丈夫か?」

「げほ……っ、げほ……だ、大丈夫ですけどぉ……」

「な……何こいつ……ご、ゴーレムの補給液、ものすごい勢いで、飲んでた……?」

「だ、だってぇ……ここ三日間、なにも飲まず食わずでしたのでぇ……」

 

 ゴーレムの集団からずるずると抜け出してきた少女が、ふらふらとした様子で立ち上がる。

 背丈は低く、容姿から考えるに十代の半ばほどだろうか。メノウ特有の黒い髪は肩口あたりで綺麗に切りそろえられており、弱々しく震える黒い瞳は、怯えたようにこちらを覗いていた。

 服装もメノウ特有の羽織る形の民族衣装で、その全てが若草を感じさせる緑で彩られている。

 だが、港で見たサギ島の人間たちやキサラギの身に着けていたものとは種類が違うようで、腰に吊るした鞄や頭に被った笠を見る限り、どうやら旅人の類だと推測できる。

 そして何よりも特徴的なのは、腰から吊るされた刀。

 

「……お前もメノウの人間か?」

「ずぞぞぞぞぞ!!!」

「吸うな!」

 

 どうやら俺たちの話を聞いている余裕は、この少女にはないらしい。

 俺やイスカ、アーロンなどに目もくれず、彼女は一心不乱に補給管から液体を啜っていた。

 

「ろ、ローレンス……こいつ、正気じゃない……っ!」

『ヤバスギ!』

 

 あのイスカがそんなことを言う時点で、眼前の少女の状況は察するに余りある。

 すると彼女はイスカの方へ視線だけを向けたかと思うと、ふと手にした管を差し出して、

 

「ど、どうぞ……?」

「なん、っ……は、はあ?! い、いらないっ!!」

「あうぅ!!」

 

 叫ぶイスカが少女の差し出してきた手を振り払う。

 ……なんなんだ、本当に。

 

「や、やっぱりメノウは野蛮人の国だ……! こ、こんな、ゴーレム用の補給液を、こ、子供がそのまま飲んでるなん、て……っ! あ、アーロン、あんなの見ちゃダメっ……!」

『遅クナイッスカ?』

「お、おいしいですよぉ……? 舌がぴりぴりするくらいで……」

 

 イスカはアーロンを抱きしめて視覚装置代わりの蒼鱗石を塞いでいるが、しかし少女はそれも気にすることもなく、再び補給液を啜り始める。若干の粘度のあるそれを足元に零しながらも、わき目もふらずに頬を萎ませる姿は、とても正気とは思えなかった。

 ……見ていられない。このまま放置すると、夢にまで出てきそうだ。

 

「おい」

「ずぞ?」

「俺たち、この近くの宿に泊まってるんだ。よかったらそこで食事でもしないか?」

「ずぞぞ……?」

「……宿の女将は、今日の飯をとびきり豪華にしてくれるそうだ」

「ずぞ!」

「あといい加減それから口を離して喋れ」

「あうぅ……!」

 

 面倒になって管を無理やり少女の口から引き抜くと、彼女はなんとも儚い声を上げた。

 見ているだけで不安になる。

 

「ご、ごはん……食べさせてくれるんですか……!?」

「ああ。代金はこちらで持つ。満足するまで食べていい」

「おふとんもありますかあ……?」

「今日は客もいないから、好きな部屋を使ってくれと言われた」

「じゃ、じゃあいきます! ついていきますよぉ!」

 

 みるみるうちに明るい表情へ変わっていく少女の姿を見て、ふとイスカが。

 

「ろ、ローレンス……ほんとに、こんな得体の知れないやつ……拾っちゃう、の?」

「ああ。だって見てられないだろ、こんなの。放置する方が害になる。それにこいつは見たところ旅人だ。メノウにも詳しいだろう。カルトロードを探すため、今はできるだけ情報が欲しい」

「……じょ、情報源として信頼できるような、知能が……感じられない、よ……?」

「……その時はその時だ」

 

 耳打ちしてくるイスカに答えていると、再び少女が不安そうにこちらへ首を傾げてくる。

 

「あ、あのう……?」

「悪かった。俺はローレンスだ。メノウには観光に来た」

「あ、あたしは……イスカ……」

『アーロンデス』

 

 俺たちが簡単に自己紹介を終わらせると、彼女はゆっくりとその場から立ち上がる。

 そして軽く居住まいを正してから、改めて俺たち三人のことを見据えたかと思うと。

 

「ナユタといいます! ローレンスさま、イスカさま、アーロンさま、よろしくお願いします!」

 

 ぺこりと頭を下げた拍子に、少女――ナユタの被る笠は、はらりと地面に落ちた。

 




新章開幕ということでね いつも通りやっていきます
とりあえずこの章は大地の話をやるつもりなんで、よろしくお願いします
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