メンヘラヤンデレキショすぎ幼馴染魔術師   作:宇宮 祐樹

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06 第四階梯魔術師、『託宣』のエルネスタ(上)

 

 第四階梯魔術師、『託宣』のエルネスタ。

 史上三人目の第四階梯魔術師である彼女の功績は、”奕者(えきしゃ)の足跡”と呼ばれる多くの魔術的難題をこの世に残したこと。それらはどれも当時はもちろんのこと、現代においても未だ解明されていないものばかりで、その一つ一つが人類の技術の革新的な発展をもたらす謎だとされている。

 たとえば因果律に関わる魔術推論や魂に関する基底現実の外の存在を示すもの、俺の身近で言えば、イスカの時間遡行の元となった難題、ゴーレムの基礎理論も”奕者の足跡”に存在する魔術的難題が元となっている。

 

 それらの解読に挑戦した者達の創設した組織が、今の魔術学会の前身になったと言われている。故に”奕者の足跡”は魔術学会内において最も重要な研究課題として挙げられており、エルネスタがこの世を去った今も尚、多くの魔術師がその足跡を辿り、この世の真理に至ろうとしていた。

 

 人類史の発展の種を撒き、後に続く者を信じその種を託した者、エルネスタ。

 しかしその一方で、エルネスタ本人にも難題に引けを取らない多くの謎が残っている。

 どうして齢三十二にして、謎の失踪を遂げたのか。

 なぜ彼女は難題を授けるだけに留め、自らその難題に挑むことなくこの世を去ったのか。

 そして何より、現代でも解読不可能な難題を、エルネスタは当時どのようにして発見したのか。

 彼女に纏わる謎は尽きることがなく、そしてその答えもまた、現代まで明かされていない。

 

 魔術史の楔となる数々の難題をこの世に残し、そして忽然と姿を消した第四階梯魔術師。

 故に、彼女は『託宣』という称号を後世の人々から授けられている。

 

 

 この研究所の資料保管庫は、想像を絶する混沌の形相を呈している。

 もちろん、それなりの覚悟はしていた。イスカが管理しているということで、まあ散らかっているだろうな、とは思っていた。だが蓋を開けてみると、そこは散らかっているという程度を越え、災害か何かが起きた後の荒地のような惨状になっていた。

 ここには書類だけではなく、何らかの部品や試験的に作成した魔動器、果てには食べ終えた携帯食料の包装や衣服の残骸までもが無惨に転がっている。

 一体何をどうしたらこんなゴミ山のような状況になるのかと疑問に思っていたが、先日イスカが扱い終わった資料を扉からそのままこの部屋へ適当に投げ入れていたのを見て、納得と失望、そして思わず頬をぶん殴りそうになる衝動を覚えた。

 

「か、核は……これに、しよ」

 

 変わり映えのしない資料保管庫の惨状に辟易していると、イスカがゴミ山を漁って謎の構造物を持ってきた。

 

「これは?」

「あ、あたしが、時間遡行の魔術式を刻もうとして、失敗したヤツ……よ、容量が足りなかった、の。でも、論理機能くらいなら、入る……む、むしろ、余っちゃうくらい、かも?」

「なら、それにするか」

 

 よく見るとそれは、一般的な魔導器にも使われる、魔術式を刻む媒体だった。

 大きすぎて媒体と認識できなかった。媒体でこの大きさなら、本体は家程の規模になるだろう。あくまで核は魔術式を刻む容器なので、程よい用量さえ確保できれば何でもいいんだが……。

 まあ、後から何か機能を追加するかもしれないし、容量があるに越したことはないか。

 

「論理機能はある程度頭の中で組み立ててある。今から書き起こすから、二重確認だけしてくれ」

「え、お、覚えてるの……あんな面倒なの、いちいち……?」

「アナトリアの元で働いていたら、自然と」

 

 壊れたゴーレムを延々と修理していた時期がある。なので自然と頭に叩き込まれた。

 とはいえ基礎的なところだけなので、アナトリアが造るような高密度の論理機能はまだ頭に入っていない。今から書き起こすものも、あくまで自分が造ったり、修理の際に見たことがあるものに依存した形になる。

 適当な紙に論理機能を書き出して、イスカに渡す。

 

「……う、ん。大丈夫、かも。これならたぶん、動く……」

「じゃあ核に刻むか」

「あ、あたしがやるよ……その方が、早いだろう、し」

「なら、頼めるか?」

 

 確かに俺よりもイスカが行った方が効率がいいだろう。

 手にしていた核を、イスカへと手渡した。

 

「ん……。はい、どうぞ」

 

 速っ。

 ……核に術式を刻む作業は、かなり精密な魔力操作が要求されるはずだ。ある程度ゴーレムの扱いに慣れているアナトリアだって、作業中に話しかけられたら不機嫌になってしまう。

 受け取って確認すると、俺の書き上げた論理機能が、きちんと正確な位置に刻まれているのが見えた。これなら概ね問題なく機能してくれるだろう。

 改めて彼女が第四階梯であることを思い知った。

 普段がアレなのでたまに忘れる。

 

「核はこれでいいな。……これからよろしく頼む」

 

 完成した核にそう声をかけてから、机の上に置く。

 ゴーレムの意識――正確には論理機能を実行する演算領域は、核が完成したこの時から機能する。

 つまり、このゴーレムは今この瞬間に意識が芽生え、論理機能の演算を始めたことになる。

 たかがゴーレムとはいえ、愛着くらいは持って接した方がいいだろう。

 

「次は身体をどうするかだが……」

 

 形状としては、乱雑に散らかった保管庫――つまり悪路を想定しているので、四足にする。

 浮遊させることも考えたが、アレはダメだ。バランスが取りにくいし、不慮の事故に対応しにくい。

 腕部も複数あった方が便利だろう。とはいえいくつもぶら下げるのは邪魔だし、普段は収納しておくことにする。それに研究所という環境で動く手前、紙に触れる機会が多いだろうから、それを破損させないような構造にしたい。

 大きさは俺の胸元より下、イスカの首あたりに届く程度にする。

 研究所内での活動を想定しているので、あまり大きくしすぎても邪魔になるだろう。

 頭に浮かんだ設計図を、そのまま適当な紙に書き起こした。

 

「く、クラゲさんみたい……だね?」

「これくらい丸みのあった方が、可愛げがあるだろ」

「う、うんっ……♡ かわいいよ、ローレンス……♡」

 

 イスカからも好評だったので、設計を続ける。

 

「材料はお前の研究に使った端材が有り余っているだろうから、それを使おう」

「う、うん……。ざ、材料の成形は、する? あ、足とか腕の長さは、さすがに揃えるけど……その、関節部分とか、もう、魔力で繋げちゃおうかな、って。か、核をちょっと書き換える必要は、ある、けど」

「……まあ、その方が手間も省けるか。接地していればなんでもいい」

「わかった……」

 

 イスカが少し核に触れてから、俺の持ってきた材料の成形を始める。

 ほどなくして、四足のゴーレムの部品たちが、設計図通り地面に並べられた。

 かなりガラクタめいた見てくれになりそうだが、機能的には問題ない。

 いいんだ。これくらいの手作り感があった方が愛着が湧く。

 

「あ、あとは……何か、いる? この段階なら、核に追加できる、けど……」

「……なら、発声機能だな。何も言わないのは可愛げがない」

「うんっ……♡ そうだね、その方が、ぜったい、いい……♡」

 

 元より無理だと諦めていたが、大容量の媒体と第四階梯という、あまりにも高度な環境が用意されているなら、むしろ要求しない方が無粋だろう。

 それに声は重要だ。こちらからの一方的な指示よりも、向こうからの反応があった方が事故も少なくなる。それに返事をしてくれる相手がいると、心に余裕ができて作業効率も捗る。

 追加する機能の術式を紙に書いてみると、意外とすっきりと纏まった。

 机の上に置いた核を手に取って、最終調整を任せるためにイスカに渡す。

 

「……うん。調整、できた。発声機能もつけといた、から」

「なら、嵌め込むか」

 

 頭部に据えた部品へ核を嵌め込むと、そこから魔力の筋が部品へと伝播していく。

 思いのほか静かな音を立てて、地面に並んだ身体が魔力を介して繋がった。

 やがて体を得たゴーレムの頭が、俺とイスカを認識すると、

 

『オキタ!』

 

 ……想定していたよりも、かなり元気な声だな。

 とにかく、ゴーレムが起動は成功した。

 

「おはよう。身体に不具合はないか?」

『ナイヨー』

「試しに少し歩いてみてくれ」

『アイ!』

 

 指示を渡すと、ゴーレムがかたかたと四つの足を動かしてその場から進む。関節を全て魔力で接続しているため、見た目に反して動きがふわふわとしているが、きちんと接地しているので安定性に問題はなさそうだった。

 歩いている間にも俺たちに核を向け続けていたので、視覚情報も問題は無いだろう。

 先程の指示も取っていたので、聴覚情報も問題は無し。

 

「次は論理機能の確認がしたい。お前が腕と認識している部位を一つは俺と握手、一つはイスカとの握手に、もう二つで今足元に落ちている書類を回収して、俺に渡してくれ。腕の順番は問わない。自分の身体構造の把握ができているか、やってみろ」

『アイ!』

 

 多少、複雑な身体構造をしているので、それらの間で齟齬が起きないかの指示を渡す。

 ゴーレムは俺の指示通り、今展開している両腕をそれぞれイスカと俺に突き出し、そして身体に収納してあった二本の補助腕で足元の書類を回収した。握手をしながら書類を受け取ってみたが、強く掴みすぎて破損させてしまうようなこともしていない。

 どうやら論理機能も問題なく動いているようだ。

 

「あ、握手できる……そ、それに、歩いてるし、声も……!」

「そうだな」

「よかったね、ローレンス……あ、あたしたち、完成させた、よ……♡」

 

 するとイスカが俺の方に身体を寄せて、腕へと抱き着いてくる。

 

「ふ、ふたりの共同作業で、完成させたから……こ、この子は、あたしたちの子供だね……っ♡」

 

 今すぐ解体(バラ)して一人で作り直そうか。

 

『エ、ウソ、モウ解体サレルンスカ?』

「そうじゃない」

 

 身振りだけで不安だと分かるようにこちらを見つめてきたので、すぐに訂正を入れる。

 

「な、名前はどうする……?」

「アーロン」

 

 元より名前を考えるのは苦手なので、俺の作成したゴーレムには全て同じ名前をつけている。

 なので正確に言えば、こいつは九台目のアーロンということになる。アナトリアの元にいた時は重複するので後ろに番号をつけていたが、ここに他のゴーレムはいないので特に問題はないだろう。

 

「アーロン……ふ、ふふっ。いい名前つけて、もらったね……」

『アイ!』

「あ、あたしはイスカ……あ、あたしのことは、ママ、って呼んで、ね? こっちは、ローレンス、で……あなたの、パパ……あ、あなたは、あたしたちの、子供だよ……♡」

『ソウナンスネエ』

「変な情報を入れるな」

 

 俺たちの認識は、事前に埋め込んだ論理機能や構造内に流れる魔力特性、それに核の起動時点の会話も聞いていただろうから、特に教え込む必要もないはずだ。なのでこのイスカの戯事がアーロンの論理機能に刷り込まれることはないと信じたい。

 

「べ、べつに、今のままでも、ちゃんとあたしたちの子供、だけど……ゆくゆくは、あたしたちの遺伝情報とか、血液とかを、核に流し込んで……♡ ふふっ……そ、そうすれば、ローレンスも、あたしたちが子供を作ったって事実を、認知してくれる、よね……♡」

「しないからな」

『ニンチシテヨー』

「お前も自覚するな」

 

 イスカの流した魔力で構成されているからなのか、アーロンはイスカの言うことをある程度反芻しているようだった。こんなことならやはりイスカに頼らず、一人で組み立てるべきだったかもしれないが、もう既に手遅れだと諦めるしかなかった。

 核に頬ずりをしながらアーロンを抱きしめるイスカを退けて、指示を渡す。

 

「起きて早速で悪いが、この資料保管庫の整理を頼めるか? 分類ごとに纏めて、書架に振り分けてくれ。分類順は任せる。不明なものは一つに纏めておいてほしい。後でこちらで確認する。できるか?」

『アイ!』

「それと、俺とイスカはしばらくしたら留守にする。その間、この研究所の警備を任せたい。俺たち二人以外の人間がこの研究所に入ってきたら、追い払うか拘束。その工程が終わったら騎士団へ通報。できるな?」

『ヤルコト多クナイスカ』

 

 生意気な……。

 

「やる気がないなら解体するぞ」

『スイマセンデシター』

 

 よろしい。

 

「す、少しずつで、いいからね……。時間も、たくさんあるから、ゆっくりで、いいよ」

『アイ!』

 

 やはり発声機能を搭載してよかった。指示が通っているかどうか判断しやすい。

 多少人間味がありすぎるのは気になるが、第四階梯が直々に調整した論理機能と考えれば不思議じゃない。できればもう少し素直というか、文句を垂れないでほしかったが、それも個性だと割り切ることにする。

 イスカが母親面を譲らないことも、もう今更なので口を挟まないことにした。

 

「頼んだぞ」

『アイ!』

 

 俺の指示に元気よく返答したアーロンが、そのまま四足で歩き出す。

 その様子を見送ってから、俺とイスカは外出の準備をするべく部屋を後にした。

 

『ア”ァ”ー!!』

 

 去り際に書架の崩れる音と、そんな悲鳴が聞こえた気がする。

 ……まあ、諸々の調整は今後、時間をかけてすればいいか。

 

 

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