メンヘラヤンデレキショすぎ幼馴染魔術師   作:宇宮 祐樹

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間に合ったので更新しておきます


08 第四階梯魔術師、『灯路』のオルトライズ(上)

 

 第四階梯魔術師、『灯路』のオルトライズ。

 四人目の第四階梯魔術師である彼は、歴代の第四階梯の中でもかなり特殊な立ち位置にいる。

 というのも彼はもともと魔術師ではなく、むしろ魔術とは縁のないただの商会の人間であった。

 ある日、商会の輸送路について問題を抱えていたいた彼は、自らの商品である複数の古書へと目をつけた。それは最初の第四階梯魔術師、アルバトラが残した魔術記録で、彼はそこから魔術の知識を会得、物体を指定した位置へ瞬時に転送する魔術式の設計と開発を全て独学で成し遂げた。

 この魔術式は当初、彼の商会内でのみ扱われていたが、ほどなくして魔術学会から声がかかる。

 当時の学会はエルネスタの失踪による混乱が長引いており、また学会の構成員も選民意識の強い者で構成されていたため、階梯を持たずに魔術を行使するオルトライズを強く非難していた。

 しかしながらオルトライズは学会の声には一切耳を傾けず、独学で魔術式への改良を施した。

 やがて”博闢(はくびゃく)の門”と名付けられたその魔術式は、大陸全土に敷かれることになる。

 

 この”博闢の門”により大陸各地の貿易は飛躍的に拡大し、当時オルトライズが所属していた商会は、大陸有数の大商会へと発展した。また、彼は”博闢の門”を競合する無数の商会へ提供、それと時を同じくして”博闢の門”は人体の転送をも可能にし、大陸の経済発展に多大な貢献を果たした。

 これにより彼を否定していた学会もこの功績を認め、四階梯魔術師の称号を授けることになる。

 その際、オルトライズは”博闢の門”の魔術式を学会へ公表する代わりに、その使用料金を彼の所属する商会が独占する権利を要求。当然ながら学会は猛反発したが、結果的に彼の所属していた商会は現在、大陸で最も巨大な商会へと成長した。

 現在、その商会は彼の功績を称え「オルトライズ商会」と名乗っている。

 

 第四階梯魔術師の称号を授かった時、彼は初めて商人ではなく、魔術師として言葉を残す。

 曰く、「僕が成したのは開拓ではない。僕は万路へ至る門、その鍵を開けただけさ」と。

 

 ”博闢の門”を使用した数名の人間が、とある事件に巻き込まれたことがある。

 その被害者たちは「”博闢の門”の先で、龍を目撃した」という共通の証言を残した。

 この事件を受け、魔術学会は現在”博闢の門”の術式解析と再定義に着手している。 

 

 

 市場でシュヴァリエとのやり取りを行ってから、二日後。

 

「あ、あたしの時間遡行にはね……オルトライズの開発した魔術式が、結構関わってる……の」

『ヘエー』

 

 イスカの言葉に、アーロンが理解しているのかしていないのか分からない相槌を返す。

 その説明を受けて、俺も手元の報告書へと目を落とした。

 

「だから、ここまで詳細な”博闢の門”についての報告書があるのか」

「そういう、こと」

 

 未だに終わらないイスカの報告書作成に取り掛かっていると、数件の報告書が四人目の第四階梯魔術師であるオルトライズの遺した功績、”博闢の門”についてのものだということに気が付いた。

 それ自体は特におかしなことでもない。時間遡行という未開拓の分野を取り扱うにあたって、他の魔術師が考案した魔術式を利用するのは当然のことだ。実際、イスカの報告書には時間遡行以外のものも多く含まれており、多角的な視点から時間遡行について研究していることが伺える。

 だが、今回の報告書に関して、”博闢の門”の知識が多少必要なところがあった。

 なので一度、イスカにその概要について聞いてみたところ、アーロンも交えて話が始まった。

 

「オルトライズの魔術式……確か、物体の転送を可能にするものだったよな?」

「そ、それは、ちょっと違く、て……。彼の魔術式は厳密に言うと、二つの構造に別れてる、の。ひとつは、物体の転送で……もう一つが、その転送路の架設。その、橋をかけることと、橋を渡ることは、別でしょ? ”博闢の門”は、その二つの工程を、同時に実行できるようまとめた、もの」

「なるほど」

『フーン』

 

 イスカの例えは分かりやすかった。

 確かに現実でも、橋を架設する工程とその橋を渡る工程は別で行われているものだ。それら二つの作業を同時に実行する――現実で例えるなら、橋をかけながらその橋を渡り、あらゆる場所への行き来を可能にしたのが、”博闢の門”ということらしい。

 ”博闢の門”は歴代の第四階梯が残した功績の中でも、特に日常に溢れ、人々が日々利用している見慣れた魔術だ。しかし、こうして改めて概要を聞いてみると非常に合理的な魔術だと言える。

 だが、それが時間遡行に関連していることには、未だに疑問が残った。

 

「概要は分かった。それで、この魔術式が時間遡行にどう関係してるんだ?」

「そ、それは、ちょっと踏み込んだ話に、なるんだけど……あたしは、”博闢の門”に含まれてる二つの構造のうち、転送路の架設のほう……橋をかける工程の方を、参考にしてる。というか、もっと言うなら……架設する座標を決定する部分を、応用してる、の」

「応用?」

 

 未だに納得がいかずに聞き返すと、イスカが少し考える素振りを見せた。

 

「たとえば橋をかけるときって、渡したい場所の始点と終点に、釘を打つよね?」

「そうだな。そこに設置すると決めれば、まずは基礎から作ると思う」

「なら、その釘を時間に打ってみると……その時間へ繋がる橋をかけることに、なるよね?」

『アー』

 

 その話をされてようやく、大まかな想像がついた。

 要は目的地の決定だ。時間遡行という行為において前提となる、遡行する時間を指定するために、イスカはオルトライズの魔術式を参考にしているらしい。場所と場所を繋ぐ橋ではなく、ある時間と時間を繋ぐ橋だと考えれば、今までの曖昧な認識も幾分かはっきりした。

 だが。

 

「可能なのか?」

「余白が、ある」

 

 余白?

 

「オルトライズの魔術式には……わずかだけど、まだ拡張できるほどの余白が、ある。それが、意図的に残したものなのか、それとも生涯をかけても埋められなかったのか、あるいはただのミスなのかは、本人にしか分からない、けど……その余白を使えば、空間上の座標だけじゃなくて、時間軸上の座標も指定できるかも、しれない」

『ヘーエ』

 

 ……さっきからこいつ、適当に返事してるだけだな。

 

「それが可能なのかどうかは、研究しないと分からない……。理論はある程度、できてるけど……検証が、まだ。その、”博闢の門”のいろいろな権利は今、オルトライズ商会がほとんど独占してる、から……学会じゃなくて、そっちの方に、一度、掛け合わないといけなくて……」

「接触は試みたのか?」

「い、一回、あたしが直接、商会の方に出向いたんだけど……ダメだった。その、第四階梯の権限で、無理やり使おうとしたんだけど……オルトライズも生前、第四階梯の権限を使って”博闢の門”についての色々な権利を、商会が独占できるようにして、て。……あいつら、ただの跡継ぎのくせに、生意気だった……っ!」

 

 そうか、第四階梯の権限を用いた決定は、同じ第四階梯の権限でも上書きできないのか。

 何かあればすぐに第四階梯の権限を濫用するイスカにとって、この上なく厄介な仕組みだろう。

 それとも、自らが去った後も商会のことを考えていたオルトライズが優秀と言うべきか。

 

「と、とにかく、”博闢の門”についての報告書は今後、あたしが預かる……よ」

「そうしてもらえると助かる」

 

 手にしていたいくつかの報告書をイスカに手渡したところで、会話が終わる。

 ふと時計を見ると、ちょうど昼時になっていることに気が付いた。

 

「せっかくだから、食事にするか」

「うん……! きょ、今日も楽しみに、してる……♡」

 

 ついにキッチンへと移動する意思も見せず、イスカは上機嫌になってそう答えた。

 ……まあ、いちいち場所を移すのが面倒なのは分かるが、それにしても、こいつは。

 言いたいことが色々と湧いて来るが、それを何とか抑えてイスカに背を向ける。

 

「アーロンも手伝え」

『アイー』

 

 アーロンには資料保管庫と警備に加え、簡単な家事も手伝わせるようにしていた。

 そんなことがあるか分からないが、俺が不在でイスカが研究所に在籍している際、彼女の世話を任せるため一通りの家事を教えている。ゴーレムなので手順を覚えるのは早いが、なにぶん人間性がありすぎる論理機能を組み込んでしまったため、教えるのに色々と骨が折れる。

 まあ、山積みの報告書の処理の合間に触れ合う分には、いくらか息抜きにはなる。

 

『ソウイエバナンデスケドー』

 

 キッチンへ向かうため研究室を出た矢先、ふとアーロンが声をかけてきて。

 

『ココニ掛カッテキタ通話ノ応対モシタ方ガイイデスカ』

「……いや、そこまではいい。俺かイスカが対応した方が手っ取り早いだろうし」

『アイ』

「でもどうして急にそんなことを聞いてきた?」

『イヤ、サッキカラ魔動器ガ鳴ッテルンデ、ドウシヨッカナーッテ』

「そういうことはもっと早く言えお前」

 

 踵を返して、資料保管庫の方へと足を運ぶ。

 資料の二重請求にならないよう倉庫を参照できること、研究所の奥にあるので通話の際に声が漏れにくいこと、そして何よりイスカが基本的に通話に出たがらないことから、この研究所の魔動機は資料保管庫に置かれていた。

 扉の前に立つと、確かに魔動器の鳴る音がくぐもって聞こえる。

 ……これの設置場所も、今後考えた方がいいな。

 

「誰からだ?」

 

 基本的に、ここの研究所に連絡を入れようとする者は少ない。

 いや、正しくはイスカとマトモに話をしようと考える者が少ないと言えばいいのだろうか。とにかく俺がこの研究所で仕事をしている最中も、この魔導器が反応しているところは見たことがなく、通話に出るのはこれが初めてのことだった。

 扉を開け、より一層強くなる魔導器の着信音を耳にしながら、その連絡先を確認すると。

 

「……アナトリア?」

『ドナタデスカ』

 

 魔導器上に映った彼女の名前を見たところで、ふと通話に出ようとした手が止まる。

 今ここで通話に出れば、間違いなくアナトリアと対話することになるだろう。もちろんそれは歓迎する。彼女には魔術的器官を持つ人間の捜索を依頼しているので、向こうから連絡が来るのは寧ろ喜ばしいことだ。

 しかし、ここでアナトリアと対話をしたら、確実にイスカが黙ってはいない。

 最悪、密会をしていたと捉えられて、またアナトリアの工房を襲撃する可能性だってある。

 それはアナトリアにとっても避けるべき事態だろう。

 

『出ナインスカ?』

「……出たいが……出たくない」

『コワクナーイ』

「怖い」

『ジャーア、ママニオ願イシヨ』

「あっ」

 

 それだとお前、本末転倒に……!

 だが俺の制止も待たず、アーロンはひょいと器用に魔導器を抱えて来た道を戻る。

 慌ててその後を追ったが、あいつの走破性が高いせいで咄嗟に追いつくことができなかった。

 そして一歩先に研究所の扉を開け放ち、イスカと対面した。

 

『ママー』

「うん……っ! もう、食べる準備は、万全……!」

『連絡キテルヨー。アナトリア、ッテ人カラ』

「………………………………」

 

 一瞬で目を昏くしたイスカが、アーロンから魔動器を奪い取った。

 

『イスカ? ようやく出た……あのねえ、あなた通話くらい早く……』

「……どうして」

『え?』

「どうして……! あんたはいつも……あ、あたしと、ローレンスの邪魔、ばっかり……!!」

『ひぃっ! なんでもうキレてるのよお!?』

 

 魔導器の先から、もはや聞き慣れたアナトリアの悲鳴が聞こえてくる。

 

『ナンデ寝テルンスカ?』

「……せめてもの同情を送っている」

 

 こちらを見上げるアーロンに返すと、イスカがまた叫び声を上げた。

 

「あ、あたしはこれから、ローレンスといっしょに、ランチなの……! それなのに、なんであんたと話なんかしないと……っ! あたしとローレンスの時間を奪うなっ! こ、の、アバズレ……っ! そんなにすり潰されたいの?!」

『私だってあなたに連絡なんかしたくないわよ! 怪獣の檻に手を突っ込むほどバカじゃないわ、私!』

「じゃあ何!? 要件があるならさっさと、言って、っ! 今すぐ! 言え! さっさと言え!」

『ちょ、待っ……ローレンスに頼まれた件! ローレンスに頼まれた件!』

 

 その言葉に、イスカの怒号が止まる。

 同時に俺もイスカの隣に立って、アナトリアに話しかけた。

 

「アナトリア?」

『ろ、ローレンスぅ!』

「例の件についての連絡ということは、進展があったんですか?」

『そう! じゃなきゃこんなところに連絡なんてしないわよ!』

 

 アナトリアの言葉に、思わずイスカと目を合わせる。

 彼女も状況は理解したようで、頷きながら俺とアナトリアの会話を促してくれた。

 

「それで、進展というのは?」

『まず初めに、実際にあなたの探しているような人間を見つけたわけじゃないの。ついさっき、うちの工房に騎士団の人が来てね。その人から例の件について相談を……ええと、ごめんなさい。お名前は何だったかしら?』

『はい。ノールドベルト騎士団第八特務小隊所属、シュヴァリエ・クロードです』

「……シュ、ヴァリエ?」

 

 魔導器の先から聞こえてきたもう一人の声に、イスカが反応した。

 

『あら? 二人とは知り合いなの?』

『はい。先日、お二人には市場で捜査にご協力いただきました』

「……シュヴァリエがそこにいるということは、何か絡んでいるんですか?」

『お察しの通りです。現在、街市場で起きている連続窃盗事件についての件について、アナトリア第二階梯魔術師に相談したいことがありまして。いくつか具体的な話をしたところ、この件を取り扱っているローレンス氏に連絡していただける運びになりました』

 

 つい二日前にも聞いた、淡々とした口調でシュヴァリエが続ける。

 

『街市場で起きている事件については、ご存じの通りだと思いますが』

「魔術的物品に関する連続した窃盗事件だと記憶していますが」

『その通りです。あの後からしばらく、我々は被害にあった店舗や市場をよく利用する市民の方々に、犯人についての証言を集めていました。すると、ある一つの共通点がありまして』

「共通点?」

『はい。犯人は、通常の人間には存在しない器官を有していた、と』

 

 やはりか。

 アナトリアからの連絡と言う時点で薄々察してはいたが、どうやらシュヴァリエたちが追っている犯人は、俺がここ数年探している、魔術的器官を持つ人間らしい。

 イスカと目を合わせながら、シュヴァリエへと問いかける。

 

「具体的には?」

 

 だが、帰ってくる言葉は、彼女らしくない曖昧なものだった。

 

『ええと、その……通常の人間には存在しない器官でした』

「? いえ、ですから、その器官の具体的な特徴を」

『そうではなく、魔術的器官に関する証言は共通していましたが、その細部が一致しないのです』

 

 ……つまり。

 

「つ、翼とか、尻尾とか、角、とか……いろいろある、ってこと?」

『そうなります』

 

 イスカの言葉を、シュヴァリエが肯定した。

 

「複数人による犯行だったということですか?」

『いえ、被害状況や犯行時刻からして、同一人物である可能性が高いです』

『つまり、犯人が複数の魔術的器官を持っていたってこと?』

『部分的には、それも正しいかもしれません。証言はどれも単一のものでした。鳥類に似た翼の羽音を聞いたという証言もあれば、去り際に猫の尻尾のようなものが見えたという証言もあります。可能性として、幻覚を引き起こす魔術を用いたという線もこちらで考えましたが、それらしき痕跡は発見できませんでした』

「……なるほど」

 

 魔術的生命学の観点から言えば、ありえない話だ。

 犯人が人間だという前提だが、通常、魔術的器官は人間の体に一つしか存在できない。

 そもそも魔術的器官について、元から身体に存在していたか、何らかの要因で外付けされたかの話もあるが、それでも人間の体に一つしか存在できないことには変わりはない。

 その詳細はここでは省くが、要は人間の脳が適応できないのだ。

 魔術的器官の定義は幅広く、翼のような身体機能に関わるものから、角といった魔力生成に関わるものまで確認されている。それが二つ以上宿った人間は、脳の容量不足により死に至るか、あるいは適応しても身体機能に大きな影響を与えるとされている。

 だが、今回の犯人は窃盗という行為が可能なほど、正常な身体機能を保っている。

 それが既存の研究結果を大きく塗り替える革命的な存在なのか、あるいは。

 

『アナトリア第二階梯魔術師が、以前から魔術的器官を持つ人間の捜索を行っていたことは知っていました。なので、今回の証言についてお伺いしたかったのですが……まさか、ローレンス氏がその主導をされていたとは。こうしてみると、勘というのも信じてみるものですね』

「私自身も不可解でしたが、まあ、幸運でしたね」

 

 そこに関してもやはり違和感が残るが、今は都合がいいので掘り下げないことにした。

 こうなってくると、シュヴァリエを招いて詳しい話を聞いてみた方がいいかもしれない。

 それが俺の探しているものなのかは、話を聞かないと分からないが、それを抜きにしても俺なら力になれるだろう。俺の元を訪ねてきたのに、探しているものと違うから手伝わないなんて、そこまで冷徹な人間になった覚えはない。

 考えを纏めて、イスカに声をかける。

 

「イスカ」

「……いいよ。呼んで」

 

 肯定は思っていたよりもずっと早く返ってきた。

 確かに、元々シュヴァリエには手を貸すと約束していたからだろう。

 それにこの件については、イスカも自分で対応するべきだと思っているらしい。

 魔導器へ向き直って、シュヴァリエへと話しかける。

 

「シュヴァリエ、このあと研究所に来られますか?」

『もちろんです。私もお伺いしたいと思っていたところでした。ありがとうございます』

「アナトリア……あんたも、来て」

『わ、私? なんでよ! あなた私のこと嫌いなんじゃないの!?』

「当たり前。でも、もしかすると……あんたのオモチャ箱の、使いどころ、かも」

『私の”箱庭”を私物化しないでよお!』

 

 ……アナトリアには申し訳ないが、確かに”箱庭”も使えるなら使いたい。

 というか、やはりイスカも”箱庭”のことはある程度評価しているのか。

 

『また後ほど、アナトリア第二階梯魔術師と共に、そちらへ伺います』

「分かりました。それでは」

 

 通話が終了し、一息つく。

 

『オ客サンデスカ』

「そういうことだ」

 

 イスカと視線を合わせると、彼女もどこか浮かない表情になって、俺の方に寄ってきた。

 

「あたしも……手伝う、から」

「……最低限でいい」

「でも……っ!」

「本当に必要になったら呼ぶから。お前のことを信頼していないわけじゃない」

 

 その言葉を聞いても、イスカは俺から離れなかった。

 不安そうに俺のことを見上げる彼女の頬を、できるだけ優しく撫でてやる。

 イスカは俺の手に自分の手をそっと重ねたが、それでも心配そうに声を上げていた。

 

「ローレンス……」

「昼食にしよう。作ってくるから、いつもみたいに待ってろ」

「……うん」

 

 今度こそイスカは大人しく頷いて、俺の元から離れた。

 

「アーロン」

『ナンスカ?』

「客が来る。茶の淹れ方を教えてやるから、覚えろよ」

『アイ!』

 

 元気に返事をするアーロンを引き連れながら、俺は研究室を後にした。

 

 




思いのほか、反応をいただいて嬉しい限りです いや本当に思いのほかで
今後は不定期(でも月一でいけたらいきたい)にはなります
また思い出した時でいいので、そういやあの岩の裏のダンゴムシどうなったんだろ?うわキッショいねえ!みたいな感じで戻ってきてくださると嬉しいです
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