ふと目が覚めると僕は心の中で舌打ちした。もう他の部員は布団だけ残して外に行ってしまったらしい。
夏休み前に僕らは深夜に合宿を抜け出して花火をすること約束していた。それは何らかの秘密の協定のようで僕らはワクワクした。普段真面目で抜け出すことに迷っていた部長でさえ、ジュースのおごりの前には勝つことは出来なかった。
まだ彼らは外にいるだろうか。悔しさのあまり顧問が寝ている階のドアを乱暴に開け、ふと思い直してそっと閉めた。外はまだ暗く、むせるような潮風の生暖かい風が吹き付けていた。寝る前に用意していた靴をつっかけ、柵をよじ登って外へ出ると当たり前ながら人はいなかった。夜というだけで別の世界に来たようで、この世の物体が全てバラバラにされて再構成されたようだった。
不意に僕は走った。走りたくなった。この夜の中、走って明確には言えない曖昧な何かを放出させたかった。海岸に近いせいで砂を被ったアスファルトと靴が擦れあってギュッという音を立てる。坂を上り、下り、海岸に出ると部員はいなかった。今度はもっと大きな舌打ちを心の中でした。何か引き裂きたくなるような苛立ちだった。
「もしもし」我慢できずに僕は後輩に電話した。歯ぎしりでもしないと気がおかしくなりそうだった。
「今どこ?」思わず僕は後輩ににもしもしに対する返事を与えずに回答を強制した。
「今?駐車場の下」僕のイライラに対して冷静に回答を貰った。
「ありがとう」即座に僕は電話を切ってスマホも手に持ったまま駆け出した。砂ははっきり言ってうざったかった。踏み込む度に靴を飲み込もうとし、口の中にじゃりじゃりした砂が入ってきて、息のせいで口の奥がからからになって砂と一緒に唾液を適当に吐き出した。それでも腕や足を縄のように前に振って僕は走った。長かった。死ぬ思いで走っているのに、駐車場の下までそう遠く無いのに、寝坊した悔しさが時間を引き伸ばしていた。スマホが邪魔であることに今更気づいてポケットに放り込んだあたりで駐車場が見えた。
「田中先輩来ました」さっき電話した後輩が他の部員に伝えると僕に向かって手を振った。
冗談半分で痛罵の一つでも浴びせてやろうかと思ったけれども、喉の乾きが声を出させなかった。
「先輩も花火やります?」血の味がする中、僕は震える手で線香花火を受け取った。部長がライターをこっそり持ってきており、火をつけた。パチッパチッパチパチと弾けるような音が生まれ、放射状に火の線が現れる。たんぽぽに綿毛ができ、次々と飛び去って綿毛が少なくなってしまったようだった。不意に暗がりに玉が落ちた。その瞬間、僕は煙臭くなっていたことに気づいた。記憶の中の花火は一瞬で、それでいて長かった。
「また花火やろうな」僕は誰に言うともなく、でも、大きな声でそう述べた。