【トリコ夢】赤い宇宙へ   作:らぴ=どらみ

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初対面の人に、考え無しに付いて行ってはいけません。
とんでもねぇモンスターパニックの幕開けですからね。


01めぐり逢い

最初に感じたのは、濃い緑の香り。

若い女性―――ユキが(まぶた)を開くと視界は薄暗く、辺りは木々が()(しげ)っていた。

最期に覚えているのは、極彩色(ごくさいしき)閃光(せんこう)

 

明るい場所を目指して上り坂を歩いて行けば、(じき)に視界が晴れた。

―――空は快晴。

切り立った断崖に囲まれた川には小さな滝がいくつか流れ込むが、本流はずっと上流だろう。

崖ふちで太い鉄筋にワイヤーを巻き付け釣りをしている、大柄な若い男性が居た。

ワイヤーの先にはとても抱えきれない程のトノサマバッタのような虫が(くく)り付けられ、水面に浮かんでいる。

「ええっと・・・釣り、だよね?あんなでっかい虫が(えさ)って、なにが釣れるの?」

ユキは驚きのあまり心の声がそのまま出てしまい、しまったと思った。

「―――さあ、なにが釣れるかな」

(・・・良かった。言葉は通じた)

言語は同じだが、浮いているバッタの大きさがユキの知る常識とはかけ離れており、ここが別の世界なのだとハッキリ突き付けてくる。

男性が腰かける岩に通常サイズのトカゲが()っているのを見付け、普通の生き物も生息しているのだなとぼんやり考える。

ユキは深く考えるのを止めて崖ふちにしゃがみ込み、釣りの行方(ゆくえ)を見守った。

 

ガサガサと草木をかき分ける音が響き、先程ユキも通った場所から小柄なスーツ姿の男性が顔を見せる。

彼は小松と名乗り、美食屋の仕事の依頼で来たという。

国際グルメ機関、IGO(International Gourmet Organization)主催のグルメパーティで出す食材の調達をして欲しいと話す小松に、釣りをする男性は返事をしない。

「って聞いてらっしゃいます?トリコさん!」

(えさ)の巨大バッタが水面に消えた瞬間。

トリコと呼ばれた男性が立ち上がって竿(さお)を振ると、全長10mを軽く超える巨大魚―――に甲殻(こうかく)類の腕が生えた生物が崖の上まで跳ね上がった。

甲殻(こうかく)類だか魚類だか(わか)らぬ生き物より更に一回り大きな怪鳥も出現し、魚を爪で鷲掴(わしづか)む。

怪鳥はヘビのような尾を5本(たずさ)えていた。

獲物を横取りされまいとトリコと呼ばれた男性は竿(さお)を振り下ろし、2体を地面に叩き付けねじ伏せる。

五ツオオワシ、ザリガニフィッシュの捕獲を目の当たりにした小松は、改めてガララワニの捕獲を依頼すると、トリコは想像で口元によだれを()らした。

「出発だ!」

即断(そくだん)即決(そっけつ)の彼らに、ユキは便乗するように提案する。

「―――それ、付いて行ってもいい?」

「別に構わねぇけど?」

「あ、ボクもお願いします!」

 

*********

 

美食丸という小型の船で向かいながらトリコは「つーかよ、なんでお前まで来るんだ」と魚を(なま)かじりしながら小松に問う。

船を出してくれたのは、トムと呼ばれるグラサンの男性。

卸売(おろしうり)(けん)、運び屋のようだ。

「上司が、ガララワニの生態を調査してこいと」

「料理人のお前が?」

トリコは確信をもって尋ねているが、小松は職業まで話してはいなかったはずだ。

五つ星ホテル『ホテルグルメ』で料理(コック)長をしているという小松の手から高級食材の香りがすると言うトリコの事を、トムは警察犬を(しの)ぐ嗅覚の持ち主だと語った。

 

「誰も見た事がない食材を探して食べる、食の探究者―――美食屋。その中でも世界の約30万種の食材の内の2%―――約6千種を見付けたグルメ時代のカリスマ、美食屋トリコ。凄すぎる」

「小松めっちゃ説明してくれるね」

「ユキさんはどうして同行を?」

「―――この世界に興味があって」

「え?世界??確かにグルメ時代において美食屋はその中心的存在ですが、(とら)え方の規模が大きいですね」

 

やがて(とが)った岩礁(がんしょう)に囲まれたバロン諸島に近付くと、海辺の岩肌に不気味な生き物が姿を見せる。

警戒心が強く臆病だというフライデーモンキーの姿は、どこか半魚人を彷彿(ほうふつ)とさせた。

唯一の入り口とされるマングローブのトンネル、通称‵鬼の口′からゴムボートに乗り継いでバロン諸島最南端のババリア島上陸を目指す。

汽水域(きすいいき)であろう川の中を泳ぐ捕獲レベル1のバロンシャークの背びれを見て(おび)える小松の腕には猟銃が握られている。

IGO―――国際グルメ機関規定では、プロのハンター10人でやっと仕留められるレベルだという。

水面下にはそんな獰猛(どうもう)なサメの影がいくつも泳いでいた。

 

マングローブのトンネルを進んでいくと、数多(あまた)の猛獣の鳴き声が響いてくる。

バロン諸島に存在する約5万種の生物の王者に君臨(くんりん)するというガララワニは、(とし)と共に獰猛(どうもう)になるそうだ。

ボートを降りてジャングルを進む途中、ヒルに噛まれた小松にマングローブの葉を(しぼ)って塩分で追い払うトリコの博識ぶりに、ユキも小松も感心しっぱなしだった。

「はあ~、トリコ物知りなんだね~」

「なるほど・・・メモっとこ」

 

夕日が山に差しかかり始めた頃、トリコが追い払ったのは本来バロン湿原の奥地に()む猛獣バロンタイガー。

「やはりなにかおかしい。フライデーモンキーにしたってそうだ。一生を洞穴(どうけつ)で過ごすほど臆病なアイツらが岩礁(がんしょう)に居るなんて。()くる場を追われたとしか考えられねえ。レベル5のガララワニどころじゃねえ。それ以上の食物連鎖の頂点に立つ、圧倒的捕食者によって」

「・・・そ、その捕食者って?」

「トリコ、ホラーを語る才能あるよ絶対・・・っ」

トリコの語り口に、小松とユキは息を()んだ。

 

日も完全に落ち、沼で捕らえたヘビガエルを夕食に火を囲む3人。

妙な()で立ちの鳥獣達がおこぼれを狙って辺りをウロウロとしていた。

(あの生き物・・・修正される前のハルキゲニアの復元図に似てる・・・)

ヒルに噛まれた小松の首には大きな絆創膏が貼られているが、未だ血は止まっていない。

その理由についてヒルジンという物質が原因だと話すトリコ。

吸血時に痛みを感じにくくし、出血を長く持続させる。

血栓(けっせん)の形成を防ぐ、(こう)血栓(けっせん)薬として医療にも応用されてる物質じゃない?トリコってば知識の幅広いねー。小松、傷口は洗ったし、もう少し圧迫して止血してみる?」

「うぅぅ、お願いします」

ユキの提案に、小松は情けない声を出した。

 

直後、3人の前に沼から()い出てきたのは、300年は生きているであろう推定捕獲レベル8のガララワニ。

バロンヒルと共生し獲物を探し当てていたガララワニを、トリコはナイフとフォークという技で地面に沈めた。

仕留めた巨体を小分けにし、肉塊を木に刺して直火で焼き上げるトリコ。

加えて小松は、石焼きにして仕上げる調理工程を踏む。

そうして2人の口に運ばれていく肉を見守りながらユキは思った。

(・・・味付け、しないのかな・・・)

 

食事をしながら小松は一流の料理人になる夢を、トリコは人生のフルコースを作るという一生を()した夢を語る。

それぞれの夢を描く2人の姿は、頭上に輝く星明かりのように(まばゆ)く映る。

「トリコさん、またこういう機会があったら付いて行ってもいいですか」

「私も一緒に行っていい?」

小松とユキの希望に、トリコは好きにすればいいと了承する。

「ユキさんはなにか夢ありますか?」

「―――私は・・・よく、わかんないなぁ・・・」

小松の純粋な質問に、ユキは夜空を見上げて静かに答えた。

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