【トリコ夢】赤い宇宙へ   作:らぴ=どらみ

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やはり影があると謎の色気も増す気がします。
バトルウルフ…っ、創造神に、人の心はあるのですか…?
神だから…?そうですか。。。


09闘技場の哀歓

哀歓(あいかん)・・・表面には見えない深い感情、悲しみや喜び。

「哀」・・・切なく胸がつまる。「歓」・・・打ち解け喜ぶ。

悲喜(ひき)・・・悲しみと喜び。一つの出来事に喜びと悲しみが同時に存在する。

 

 

絶滅種の複製(クローン)や動物をかけ合わせて作った新種、束縛された動物たち(チェインアニマル)の実験室を抜け、マンサムに付いて行った先に待っていたのはグルメコロシアムと呼ばれる闘技場。

国際グルメ機関(IGO)加盟国のVIP達の道楽の場で、1日で国家予算並みの金が動く賭博の場でもある。

(えっと、これって・・・合法?)

元居た国ならば法で認められた公営ギャンブル等の場合は違法とはならないが、どうも伝わってくるニュアンスからユキはそこはかとなくアウトな気配に気後れする。

 

「これも組織には必要なんだ。裕福な連中からバトルで金を(しぼ)り取り、飢えで苦しむ貧しい国に回す」

「寄付をするってことですか?」

マンサムの説明を聞いて受け入れる姿勢を見せる小松に、ユキは感覚の違いを感じた。

(・・・小松、なにに対しても寛容(かんよう)過ぎな?)

クローン技術についても小松は「だから見た事のない生き物ばかりなんですね」と軽く流していた。

 

対するトリコは実験室でもここ闘技場に(いた)っても、ずっと渋い表情をしている。

ヨハネスが口にした『(おおやけ)にできない研究』とやらに趣味が悪いと(こぼ)し、実験室では『グルメ研究という大義(たいぎ)(かか)げてはいるが倫理的な観点からトップシークレットの場所』だと語っていた。 

飢えや貧困への対策に必要だと理解しても、己の信条から納得は出来ないのだろう。

グルメ時代において、食材の発見数からも恐らく最も貢献(こうけん)しているだろう内の1人。

そんなトリコの考え方が、世界から見ればもしかしたら異質なのかもしれないとは、なんという皮肉だろうか。

 

「―――必要なのは安全確保の為の危機管理(リスクマネジメント)なんじゃ・・・?」

「さっきのマッスルクラブ脱走の件か?」

思わずつぶやいたユキの言葉を拾ったマンサムが反応する。

「あっいえ、出迎えてくれた腕のないスタッフが居たので・・・事故ですか?」

「事故っちゃ事故だが・・・ここでじゃないぞ?(はな)という研究員なんだが、余所(よそ)で酒に酔って電車に引かれ、左腕を失ったんたんだ」

「そ・・・れは、不幸な事故でしたね・・・」

マンサムの説明に仰天したのは、ユキだけではなかった。

「えぇっ!?そうだったんですか?!」

「マジかよ!オレもてっきり実験室での事故かと・・・」

同じように誤解していた小松とトリコに、マンサムが謝罪する。

「驚かせてスマンな。本人は、グルメ研究所では適度な緊張感が必要だと、出迎えによく立候補(りっこうほ)しているんだが・・・」

そうだったのかと納得しかけた矢先、マンサムが申し訳なさそうに付け加える。

「ありゃヤバそうな雰囲気作りを楽しんどるだけだと思う・・・」

(((・・・おいおい・・・)))

3人は物言いたげな視線をマンサムへ向けた。

 

「またグルメTV・・・。一体どこから入った」

コロシアムで、ヨハネスが複数の職員と共にTVキャスターのティナを囲もうとしていた。

第8ビオトープの時のように不法侵入したであろうティナを観客達の手前、ゆっくりと追い詰める。

「入口からです!」

「んなわけあるかぁ!!VIPしか入れない完全シークレットの闘技場だぞ!」

しかし複数人で取り囲む前に、一瞬の隙をついてティナは観客達の中に身を隠してしまった。

 

コロシアム本日の目玉イベントは、古代の伝説バトルウルフとデビル大蛇(おろち)のバトル。

1対1ではなく複数の猛獣を同時に戦わせるスタイルで開幕した戦い。

取り囲まれたバトルウルフは、避けるでもなく幾多(いくた)の攻撃をただ受けるだけで微動だにしない。

バトルウルフの匂いの異変に気付いたトリコが、アクリルで(おお)われた闘技場に乱入。

トリコの姿に目の色を変えたキャスターのティナが、カメラを構えて客席の最前列まで飛び出して来た。

「ティナさん?なんでここに・・・ティナさーん」

小松が呼びかける先を見て、ユキは首を(かし)げた。

(ここってIGOのVIP達ばかりだって・・・コネがあるとも思えないけど)

仮にテレビ局側に闘技場に入れるコネクションがあったのなら、取材スタッフが他に見当たらないのは妙だ。

フグ鯨の時のような周辺の危険がある訳でもないのにと、ユキは不審(ふしん)に思う。

「ん?兄ちゃんの知り合いか?」

「あ、はあ・・・」

マンサムに肩を抱かれて問われた小松は、曖昧に(にご)していた。

 

厚さ2.5m特殊超強化アクリル板がトリコによって破壊され、観客達が逃げ惑うなかでバトルウルフが出産を果たした。

「驚愕だな。クローンが単為生殖とは」

マンサムの発言を耳にしたユキは、信じられないと目を見開く。

(つがい)との子供じゃなく、哺乳類の・・・単為(たんい)生殖!?」

自然界で確認されているのは自家生殖(オートミクシス)(2本の染色体の1つが卵子に、残った細胞が極体と呼ばれ、本来受精に関与しない極体が卵子と結合して子をなす事)と、無融合生殖(アポミクシス)(親と同じ遺伝子をもって生まれるクローン)。

それも一部の虫や魚類、爬虫類などに限られる。

「・・・確か単為(たんい)生殖が確認されているのは、脊椎動物でもヘビやトカゲにサメまで・・・」

哺乳類がなんて、実験下での成功例はマウスなどの小さな生物だけのはず。

クローン(ゆえ)のバグがあったのだろうか。

 

グルメコロシアムに、洞窟の砂浜で遭遇した全身毛むくじゃらの人型の存在が人間に化け侵入していた。

遠隔地の情報をリアルに体感出来る、一種のバーチャルリアリティシステムを()ね備えたGTロボの攻撃によってマンサムが深手を負い、バトルウルフの親が命を落とす。

GTロボを送り込んだのは、食材入手に手段を選ばず、世界の食材を牛耳ろうとしている美食(かい)という危険な組織。

トリコは皮膚がえぐられ、おろし金で身を(けず)られるような攻撃に血塗(ちみど)ろになりながらも、GTロボの破壊に成功した。

 

「所長さんとトリコが、血肉飛ん(スプラッター)残酷描写(グロテスク)なホラー映画みたいなことに・・・」

ユキは2人が大怪我の割にケロリとしている姿に、ドン引きながら映画を例えに出すことで冷静さを保とうとしていた。

「所長はウォッカかけたら傷が(ふさ)がっちゃった、摩訶(まか)フシギ体質ですけどね・・・」

小松が言うようにマンサムは血を流した跡が残るだけで、GTロボによって喉元(のどもと)と腹部に空けられたはずの風穴は完全に閉じていた。

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