【トリコ夢】赤い宇宙へ   作:らぴ=どらみ

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フグ鯨を捕獲した帰り道。
ココとオリ主のやり取りがメイン。


07帰路

「フグ鯨の産卵時期が10年に1度って事は、ココは10年前に調理を成功させてるって事だよね。すごいなぁー」

「改まって言われると照れるな・・・」

後片付けをしながらユキが話を振ると、気恥ずかしそうに答えるココ。

「小松に代わった時の口振りからして、当時は砂浜(ここ)に狩りに来たわけじゃないんだよね?捕獲されて市場(しじょう)に出回ったものにチャレンジしたの?」

「・・・いや、IGOが用意したものをね・・・」

「調理前で1億ですから、個人では簡単に手が出せませんよね」

コックコートを脱ぎながら話の間に入る小松だが、バックパックにコートや包丁を片付ける為にすぐに背を向けた。

「・・・ごめんココ。言い(づら)いことなら、もう聞かないから」

「―――え?」

声を(ひそ)めるユキに、ココは(めん)食らう。

「表情が(くも)って・・・声が硬くなった気がしたから」

「そう・・・見えたんだ・・・?」

ココにとって予想外だったのか、歯切れが悪い。

「ホントごめんね。会話の延長で根掘り葉掘り聞き過ぎちゃって・・・」

ユキが向けた両の手のひらを、そっとココに握り込まれた。

「―――?ココ・・・?」

「いや、大丈夫。そうやって細かいところに気付いて、気を配ってくれる優しさに救われてるよ」

握った手に視線を落として、穏やかに笑うココ。

視線は合わなかったが、十分な破壊力だった。

「お、オーバーだなぁ・・・」

「それに、ボク自身について興味があって聞いてくれたんだろう?」

「ぉ・・・おぅ、ふ・・・」

(い、イケメン(こえ)え~~~・・・。なにタラシなの?それとも天然?)

「ユキさんココさーん!」

「おーーい、帰るぞー」

帰り支度を終えた小松とトリコが2人に声をかける。

「―――行こう」

「う、うん・・・」

 

行きで下った100m程の竪穴(たてあな)まで戻って来た。

懸垂下降(けんすいかこう)に使用したケービングロープで、再び上を目指すわけだが。

トリコは巨大な大蛇(オロチ)の肉と小松を(かつ)いでいる。

となれば当然だが、ユキはココと一緒に上に登る事になるわけで・・・。

(~~~なんっで帰りはココにくっ付かないのさ小松~~~っ!!)

先程のココとの意味深なやり取りの手前、なんだか非常にこそばゆい。

「ユキちゃん、準備出来たよ」

ロープを体に回し、登る準備を終えたココが手を差し出してくる。

「えっと・・・私、小松と違って重いから・・・」

重みが直接が伝わってしまう事態を避けるべく、もういっそ術を使って登ろうかと考える。

小柄で華奢(きゃしゃ)な小松を背負ったココに、体重やら肉付きやらを(いや)(おう)でも比較されてしまうのは、かなりの抵抗を感じる。

(トリコも虹の実の時に小松背負ってたけど、大雑把だからきっと忘れてるだろうし)

少々トリコに対し失礼なことを考えつつ、どうやって断ろうか悩むユキ。

「重い?大丈夫、トリコくらいでも上まで運べるよ」

「別にココの力を信用してない訳じゃなくてね?」

どう言ったものかと伝えあぐねているユキに、ココは急に(さみ)()な顔を向ける。

「それとも毒があるし、体を密着させるのは抵抗があるかな・・・」

「っ、ぜひ一緒に登らせて下さいっ!」

「そ?なら早くおいで?」

コロッと一瞬で悪そうな笑みに変わるココ。

(・・・なんだか、急に(したた)かになった・・・?)

 

膝をついたココの背に、おずおずと体を預けるユキ。

(ううぅ~っ、はずかしい・・・。あ、これ・・・首に腕回したら胸が・・・)

「危ないから、ちゃんと首に手を回してね」

肩に手を置き、自身の腕を間に挟んでクッション代わりにしようと考えたが無駄だった。

「・・・はい」

「――――――っ・・・・・・・・・」

ココはハッと息を()んだが、ユキに悟られることはなかった。

(よかった、なんの反応もない。・・・けど感触伝わってない?服()しだし平気かな?)

背でユキがハラハラとしながらも、ココはスルスルと竪穴(たてあな)を登っていく。

「「・・・・・・・・・」」

無言のままで、生きた心地がしなかった。

なぜだ・・・行きは海蛍(ウミホタル)が飛んで神秘的な光景に、小松は目を輝かせていたというのに。

 

 

(ちょっと卑怯なやり方だったかな)

ユキを(うなが)す為とはいえ、ココは己のやり方に内心自嘲(じちょう)した。

躊躇(ためら)いがちに体を寄せてくるユキを、片手を後ろに回して迎える姿勢を取ったまでは良かった。

「――――――っ・・・・・・・・・」

(・・・ハッ・・・!これは―――)

背中に押し当たる柔らかなふくらみと、片腕にかかる(もも)の弾力。

同じように小柄でも、男の小松とは全く違うその感触に、ココは意識が遠のくのを感じた。

(―――・・・やわっっ。え?全身柔らか過ぎない?え、なに、マシュマロかなにかなのか!?)

動揺を悟られないよう、ココはすっくと立ちあがる。

(それになんだ・・・っ、この(ほの)かに鼻孔(びこう)をくすぐるあまい(かお)り・・・っ、クラクラする)

脳内のドコかで『邪念はやめて下さいココさんっ。危ないので意識をしっかり保って!!』という小松のツッコミが聞こえた気がした。

なぜそこはもう1人の自分ではないのか、ココ自身も謎だった。

ココは片腕でユキの足を抱えつつ、ロープを(たく)みに操り深い穴を垂直に登る。

(店に来る多くの女性客はキツイ香水の匂いを振りまいているのに、ユキちゃんから(かお)ってくるのは、自然でとろけそうな甘さ・・・)

『だからっ、ダメですよぉココさん!!』

(ちょっと黙って小松くん)

脳内で作られた小松に、ココはセルフツッコミを入れた。

暗く長い竪穴(たてあな)に恐怖しているのか。

ユキの心音は早く、呼吸も浅く体は強張(こわば)っている。

(ボクの心音や緊張が伝わってしまう心配より、早くユキちゃんを上まで連れて行かないと・・・!呼吸を整え、素早く丁寧に。登ることに集中するんだ!)

 

 

長い竪穴(たてあな)をなんとか無事登り切ると、心労からひっそりと息を弾ませるユキとココ。

「ん?どうした2人とも。匂いに疲れが出てるぞ?」

トリコに指摘されて、ユキとココは不自然でたどたどしい笑みを返した。

「そ、そう・・・?」

「・・・ハハ・・・。―――ふぅ」

残りの道のりも2人はぎこちなさ全開で言葉数少(かずすく)なに進む。

けれど滑って足を取られるユキの手を、今度はココから繋ぎギクシャクと出口に向けて歩いた。

 

ある程度進んで、ドギマギとした感覚の(とうげ)を越えると、ユキはある事に気が付いた。

「あれっ?そういえば・・・行きはメチャクチャ小松を心配してたのに、帰りは落ち着いてるねココ」

「えっ!?そ、そうかな?」

ユキからの指摘にココは狼狽(うろた)える。

「そうだよ。(そば)を離れるなとか、トリコ以上にずっと(あん)じてて・・・。小松に対してだけ発動するフェミニストな部分っていうか・・・異常なほど気にかけてた感じ」

ユキの率直な感想に、ココは笑顔が硬くなる。

「あっはは・・・フェミニストって・・・男に向ける態度でもないだろう?」

「それくらい紳士というか・・・ココは小松に注力してたんだよ。なのに帰りは、行きの様子がウソみたいに平然としてる。なんで?大蛇(オロチ)を倒してるから?」

だとしても他にも猛獣は沢山いる。

ココの態度は明らかにおかしい。

「・・・これは小松くんには()せていて欲しいんだけど・・・彼にはずっと死相が出ていたんだ」

「えっ・・・ホントに!?出てたって、過去形?それじゃ今は―――」

ユキは、少し前をトリコと一緒に歩く小松を見やる。

「もう消えているよ。占いが外れてくれて良かった」

「だから必要以上に心配しなくなったと・・・――――――待って?」

この件に関して、ユキには引っかかることがあった。

「―――・・・小松、言ってたでしょ。一回死んで助けられたって。アレって比喩(ひゆ)でも大げさでもなく、ホントの事だったんじゃない?」

「まさか―――いや・・・確かにあの時、嘘は言ってなかったけど。小松くん自身がそのくらいの経験をしたからだと・・・」

否定しかけてから、ココは徐々に表情を(かげ)らせる。

「砂浜で待ってた時、小松から少し話を聞いたんだけど・・・」

小松が覚えていたのは爆弾のようなクラッカーの衝撃が最後で、気が付いたら命の恩人を名乗る次郎が目の前にいて『2度目の人生噛みしめて生きるといい』と言い放ったらしい。

仮にデビル大蛇(オロチ)に殺されたのだとしたら大怪我を負っているか、一度は食べられているだろう。

そんな形跡も無かったことから、考えたくはない可能性が浮上する。

「クラッカーの衝撃で、ショック死したところを蘇生(そせい)されたんだとしたら・・・ココの占いは当たってたってことじゃない?」

「・・・・・・・・・――――――マジか・・・」

ユキの推論を聞いて、自身でも状況を振り返ってから思わず素で呟いたココ。

(もしそれが事実だとしたら・・・)

「・・・そりゃ、いくら温厚な小松くんでも」

「トリコに蹴りを入れるくらいするわな・・・」

苦笑い、この事は2人の内に秘めておこうと静かに約束を交わした。

 

洞窟の出入り口に立った4人は、その惨状に驚愕した。

「―――っ!!ぅ、そ・・・全員死んでる!?」 

点々と、ほぼ一直線上に並んだ何人もの遺体を前にユキは足がすくむ。

その先には1人立ち尽くすティナの姿があった。

「ティナさん!大丈夫ですかっ」

「あたしは大丈夫、けど・・・」

小松に声をかけられたティナが顔を向けた先を、痛まし気に見やるココ。

「フグ鯨目当ての、強盗や殺し屋たち・・・」

「あいつのフグ鯨を奪おうと襲ったんだろう」

「・・・なんてことを・・・」

無残に転がった遺体の1つに残っていた死相が消えていくのをココの目が捉える。

眉を吊り上げ厳しい視線を向けるココの目元が、(つら)そうに震えていた。

(―――っ、・・・ココ・・・?)

ユキが声をかけようとすると、夕空に短くエンペラークロウの鳴き声が上がった。

 

救護のヘリが3機やってくるのを見て、ココは迎えに来たキッスの背に飛び乗る。

「じゃあ、ボクは行かせてもらうよ。沢山の人は苦手だからね」

行きで女性が苦手なのかとユキが聞いた答えを、(たま)さかとはいえ洞窟を出て聞くことになった。

 

「ユキちゃん、小松くん。短い旅だったけどキミ達に会えて本当に良かった」

「ボクもとても勉強になりました!」

(イケメンのリップサービス()ぇー・・・)

砂浜で見た得体のしれない存在とは別の(そら)恐ろしさを感じて、ユキはそっと震えた。

「じゃあな・・・トリコ。またすぐ会うことになりそうだが・・・」

(・・・え。意味深~。なんなの、予知なの?)

「ユキちゃん。・・・ありがとう」

「えっ、なにが!?」

改まってなんのお礼だと驚くユキに、曖昧(あいまい)に微笑んで見せるココ。

「・・・フフフッ」

「いや、ふふふじゃなくてっ。なんのっ、なんのお礼?!」

礼を言われて落ち着かなくなるという初めての経験に、ユキは戸惑い(どお)しだった。

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