ウッドウーマン 作:アマ(甘)
色々な、色々な事があった。
「………」
「………」
空気が湿って感じる朝の事だった。
向かって右にいつもの白のワイシャツタイ無しに黒いスーツの青東タツキ。
向かって左に白い生成りのワンピースを着た裸足の木の悪魔。
二者共に何を口にしたものか分からなかった。
「飲む?」
「いらない」
「そう」
青東は冷たく甘いコーヒークリームのような飲み物を戻して飲み出す。
「願い」
何を見ずに。
「なんかあんの?」
隣席する相手に顔を向けて。
青東は言った。
「悪魔なんてやめて、ただの木として死にたい」
思いの外、すぐに木の悪魔は答えた。
「そっか」
青東に、それを叶える力は無かった。
「………」
気付けば、視界のどこにも木の悪魔はいなかった。
「………」
座っていた、木板で作られ、金属で止められ、コンクリートに支えられたベンチ。
その背に一本の棒が立てかけられていた。
「………」
背丈程あるその棒を片手に担いで。
青東はそこそこ広く、そこそこ緑広がるこの公園を後にした。
「マキマはん」
「キミか」
そこは開けた一面に墓標が立ち並ぶ、墓場だった。
「自分がはじめてあなたと会った時「その顔ぐちゃぐちゃに叩きのめして潰したら愉快そう」だと思ったって話したじゃないですか」
「初耳だよ」
初耳だった。
青東がそう思っていた事は。
「そうでしたっけ?しますね」
そう言って青東は担いでいた棒──、棍をマキマの頭に振るう。
「……日本人みんなならこれで死にません?」
「世界中全ての木々の重さと等しい、か。やっぱりキミとはやりたくないね」
大地に接さなければその重さを発揮する棍をことも無げに振るい、ことも無げに受け止めていた。
ちらりとマキマは視線を逸らす。
「先約があるんだ。みんなとやっててよ」
視線の先は、頭と腕がチェンソーになった悪魔。
──地獄のヒーロー、チェンソーマン。
「ま」
──青東の眼前に巨体が降り立つ。
燃え盛るその姿は「地獄の悪魔」。
「っ」
銃撃の雨を青東がかわす。
天に浮かぶは「銃の悪魔」。
「………あーあ、ネコババかぁ」
木の悪魔の意識が抜けた残骸は、悪魔と戦うにも、悪魔を呼ぶにも便利な材料となる。
軍団を作るは「人形の悪魔」。
それを青東そっくりにしてるのは「皮の悪魔」。
上空に渦巻くのは「台風の悪魔」。
いつしか青東を閉じ込めるのは「永遠の悪魔」。
腐った異臭を放つのは「ゾンビの悪魔」とゾンビにされてぼこぼこ膨れ上がる「筋肉の悪魔」。
「あっ」
青東の動きを止めたのは「幽霊の悪魔」。
青東に少しダメージを与えたのは「呪い「石「罰「爪「ナイフ「天使の悪魔」など種々の悪魔と「暴力「サメの悪魔」など種々の魔人。
それに爆弾、刀、弓矢、剣、槍、火炎放射器、ムチ………、頭やら腕やらがチェンソーマンのように道具ないし武器に入れ替わった何者か達。
「………キミら契約してないの?」
木の悪魔の残骸は便利なものだ。
マキマの力と合わされば、他の誰かと契約していたり、地獄に居たりする悪魔でもこちらに呼んでマキマの言う事を聞かせられる。
──そのほぼ全てが、腕を半ばで切り落とされた。
いつしか辺りは真っ暗だった。
「………。………契約してないかー」
青東が薄く傷の入る腕から手放した木々の棍は真っ黒に染まっていた。
ころころころ、と、木々の棍は転がって行く。
足元に転がったそれを拾い上げたのは、マキマが入手した木の悪魔の残骸その九割九分四厘をただ使って呼び出された、──地獄に座す森の悪魔の盟友、「闇の悪魔」。
「……こりゃ大変だぁ」
悪魔の軍勢が苦痛の叫びを上げる。
人間としては前代未聞、地獄のヒーローチェンソーマンくらいならもしかしたらしたかもしれない戦いに、青東は臨まされた。
青東
勝った。
全員ブチのめせたかは分からない。
少なくとも闇の悪魔は殺せなかった。
木の悪魔
悪魔なんてやめたい。
自称「闇の悪魔とはマブダチ」
ホントかは分からない。