ウッドウーマン 作:アマ(甘)
「やっ」
「………おーす」
住まいにいつも通り額にサングラスをかけてやって来た青東に、デンジは微妙な顔をした。
「表情固いぞー?」
「………うーす」
青東は美人かカワイイ、どちらかには分類される女だ。
モテたいと切望するデンジにとって彼女が度々家に来るこの状況は望ましいもののはずだが………。
………疲れ過ぎてる。
「あ、これあげるねー」
「………うーす」
今こうしてなんかよく分からない、恐らく悪魔の羽を置いて行く事とか、公安時代、頭を粉微塵に殴り吹き飛ばして喉に血を流し込まれて訳も分からず復活したデンジに「ごめーん、手加減できなかった」と宣った後、地球がぶつかって来たようなパンチでボコボコにし続けた事とか………、………色々あって………、………思い出が疲れ過ぎてる。
なのでデンジの中では青東を女として見れない。
なんか………、………こちらにじゃれてくっさい粘液を擦り付けてくる珍獣みたいなものと思ってた。
「学校どー?」
「………ボチボチっすね」
「デビルハンターは?」
「………ボチボチっすね」
「チェンソーマンは?」
「………ボチボチっすね」
「これからアメリカ行かない?」
「………ボチボチっすね」
「そーかそーか、二日後に車呼んどくね!」
「………ボチボチっすね」
「ボチボチ」というフレーズを覚えてからこの………、………感知するだけで疲れる………、………話が通じてるんだか通じてないんだか分からない先輩との会話の大半を「………ボチボチっすね」でデンジはやり過ごしていた。
それが正解かは分からない。
そもそもこの先輩相手に正解があんのか分からない。
「とれるなら睡眠食事娯楽戦闘はちゃんと取りなよー?」
「………うーす」
………無碍にもできないし、なんだかんだ心配して世話焼いてくれてる………、………はず、だろうか………?な先輩なので取りあえず家に上げる事にはしている。
「はいこれぼた餅」
「………あざーす」
「5000円ね」
「………………、………⁉︎」
………油断すると理不尽を押し付けられるが。
「………ちょっと待ってくださいっす」
「はーい」
「基本、「あげる」と付けないで渡されこちらが受け取ったものは対価を要求される」という原則を忘れてたデンジは慌てて財布を確認しに行く。
「………お釣り、お願いするっす………」
「まいどー、次来た時渡すねー」
………そこそこ大金である5000円が無かったのでより大金である大事な大事な1万円を断腸の思いでデンジは渡した。
こうしないと冷蔵庫なり制服なり持ってかれるので苦渋の、苦汁の決断だった。
「………はあ………」
………疲れたので受け取ってしまったタッパーを開ける。
──すると秋が広がった。
しっかりこした小豆餡の確かに甘く、素朴で、微かでありながらしっかりとした香り。
形は整えられ、産毛程のずれも無く列を成している。
そしてその表面は黒紫から赤紫へと、美しいグラデーションで彩られている──。
「………あのこれ」
「んー?」
「………1万円より高くないっすか?」
知らないものの方が多い、贅沢な品とはほぼほぼ無縁なデンジにも分かる、否分からせる、超高級ぼたもちがタッパーに詰められていた。
「そーかそーか、はい、10万円」
「え、………………あざーっす」
………こういう事もある。
この先輩は理不尽を押し付けて来るが、何がしか指摘すると今回の10万円のようにすげーものをくれる事がある。
くれない事もある。
………そもそもこの先輩が来る疲労感には似合ってないが………。
「行って来ます」
「おう、行ってらっしゃいナユタ」
「行ってらっしゃいナユタちゃん」
………くれるものはナユタと二人暮らしのデンジには、結果的にありがたい結果のものばかりだ。
「じゃ、私も行くね」
「………はい」
「それじゃーまた」
「気ぃつけて」
………イカれてるけど。
いい先輩だ。
──ドゴゴゴゴーン‼︎と太鼓を爆発させたかのような轟殴打音が轟いた。
「………………」
そういえば昔は時場所構わず悪魔殴ってたな、ナユタの前では控えてるな、うるせえな、と種々の思考が脳内を巡り。
………そもそもクソ忙しい朝っぱらに来やがったなあの先輩、と。
デンジは微妙な顔をした。
「きぃ先生だ!」
「おはよー!」
「ケツカッチン!」
「誰ですかぁ、ケツカッチンなんて言ったのはぁ!」
国語のきぃ先生はナメられてる。
「じゃあ授業を始めますよぉ………」
「せんせー!かれしできたー⁈」
「せんせー、トイレー」
「………せんせー、カンチョーッ!」
「ひあぁあぁっ⁈」
それは反応が面白く、弱く、どんくさいからだ。
「
「ひーっ!」
──ただし。
「………。みんなちょっと待っててくださいねぇ」
きぃ先生は廊下に出る。
そしてドアを閉める。
ドッ。
………とにぶい音が鳴る。
「………お待たせしましたぁ、教科書の46ページを開いてくださぁい」
「「「はーい!」」」
──授業崩壊はしていない。
「それじゃあ終わりですぅ。宿題やるんですよぉ」
「「「はーい!」」」
「おい、はやく見よーぜ!」
「まったまったー!」
「おいてかないでー!」
「またやりのあくまかなー?」
「とげじゃねーの?」
「うにかなー?」
──それはきっときぃ先生が授業中に外に出ると、次の授業まで校庭の木にこわーい悪魔がボロボロで吊るされるのと無関係ではない。
娯楽を提供するからこそきぃ先生はナメられ、慕われているのだ。
チェンソーマン教会というものがある。
少し前から悪魔を殺してるヒーロー・チェンソーマンを祀り上げる宗教団体だ。
「ぐあああぁあ⁉︎」
その支部の一つが、集会を襲われ壊滅していた。
瞬く間に殴られ、殴られ、殴られ………、今支部長も殴り飛ばされた。
「なぜ………、貴様がここに………。アメリカに行ってるはずだ………!」
「んー?」
その姿はチェンソーマン教会の宿敵だった。
「青東タツキぃ!」
「そんな似てるんだー!よかったよかった」
「ぼくは「青東タツキの悪魔」です。よろしくお願いします!」
また、新たな悪魔が、この世界に胎動した。
ベース設置。
青東
ちょっとだけイメチェンした。
フル漢字なら「
鳥みたいな悪魔を半殺しにした。
きぃ先生
メガネ。
両メカクレ。
ケツが堅いからケツカッチン。
青東タツキの悪魔
戦後サハラ砂漠の10%を緑化させた「森の悪魔」とその暗がりに集う種々数多の悪魔と激戦を繰り広げ、五体満足で勝利し切り抜けた青東への恐れが高まったので悪魔が生まれた。
地獄はブチ抜いて来た。
強い。