宇宙世紀に生まれ落ちて20と数年。私は、一年戦争をジャブローのモグラとして乗り越えるため、懸命に出世コースに乗る努力を続けていた。
私の生まれは親ガチャを外した根無し草である。そんな私が必死に努力してようやく乗ることの出来た出世コースは、微妙なものであった。
私が所属するのはジョン・コーウェン少将の派閥だ。あのコーウェンである。彼はUC0083に大失態を犯し失脚する。
とはいえ、4年後のことは考えても仕方がない。UC0079を乗り越えることが先決だ。一年戦争を生き延びるために、私はコーウェンの忠実な部下をやっているのである。
いつものようにテストパイロットとしての業務を終えると、声が掛けられた。声の主はジョン・コーウェン少将だった。
「セラー大尉。受け取れ」
「これは…?」
コーウェン少将が嬉しそうに私に紙束を押しやる。
「喜べ出世だぞ」
彼はニコニコしながら私に辞令を渡してきた。心の底から嬉しそうである。邪悪なものはそこから感じ取れない。
「拝見します……こ、これ、私のポストが……ホワイトベース隊のMS部隊長ですか…!?」
「うむ。レビル将軍に無理を言ってねじ込ませてもらった。この簡単な仕事で君の実績が増えるのだぞ」
げ、という声が出なくてよかった。ホワイトベース隊は思いっきり囮任務だ。少なくとも原作知識のある私はそう思う。連邦軍の新型MS計画であるV作戦。分かりやすい餌だ。本命のジャブローでのGM量産を秘匿するためのスケープ・ゴート。それがホワイトベースなのだ。
コーウェン少将の心底嬉しそうな顔を見るに、彼は良い案件としてこれを持ってきたのだろう。私をスケープ・ゴートにしようと考えているわけではないはずだ。
少将の心証を悪くはしたくないが、こんな見え見えの罠に乗るわけにはいかない。断るしかない。
「非常に申し訳有りませんが、お断りします。私はジャブローに愛着が有りますので」
コーウェン少将は、ムッとした表情を隠さなかった。大方、自分の顔に泥を塗られたと思ったのだろう。
「では、命令となる。マリー・セラー大尉、君をホワイトベース隊のMS隊長に任ずる」
「…………謹んで拝命しました」
軍組織において命令は絶対だ。だから従わなければならない。従えないなら軍を抜けろと言われるだろう。
ホワイトベースだって…? 冗談じゃない。私は安全な後方で出世したいのだ。だからコーウェン派に入って大尉まで成り上がったのに……
まだ人が少ないから出世できると考えてMS分野に進んだのが間違いだったのか?? もしくは上司にコーウェン少将を選んだのが間違いだったのか??
考えても答えは出なかった。とりあえず為せば成る。やってみれば良い感じになるだろう。うぅ。死にたくない。
さて、そんな風に回想をしているが今のホワイトベースはひどい有様だ。ほとんどの士官が死亡。パオロ艦長は虫の息である。
新兵器のガンダムには民間人のアムロ・レイが乗っている。まさに青息吐息といった様相だった。
ブリッジクルーがほとんど民間人。もう終わりだよこのフネ。
「艦長。私は、ジオン軍は条約を守らない軍組織であり、ムサイ級がコロニーへの攻撃を辞さないと警告しましたが」
「ごほっ……すまない……セラー大尉。……私の判断ミスだ」
「あなたを責めても仕方ありません。今後こういうことを起こさないようにしましょう」
そう言ったが、私の腸は煮え繰り返っていた。未来を知っていたのにコロニーに穴が開く事態を招いてしまったのだ。私の部下だったパイロットもほとんどが死亡した。残ったのはジョブ・ジョン伍長やリュウ・ホセイ軍曹だけだ。
パイロットや2機のガンダムを一箇所に詰めさせ、スクランブル発進の準備をさせていたのが悪かった。ムサイの初撃で港湾ごと吹き飛んでしまったのだ。
私がホワイトベースの外に出て、階級を押し通し作業員を夜通しこき使っていたというのに、碌な成果を得られていない。
ホワイトベースには整備を完了した3機のガンキャノン。2機のガンタンク。そして潤沢な予備部品が載っている。だがそれだけだ。搬送途中のガンダムにはアムロ・レイが乗り込んでいる。まだ、シャアが乗っていないだけマシだ。
おのれシャア! お前が砲撃するから! 私のガンダムが吹き飛んでしまったじゃないか!
「セラー大尉。艦の指揮をお願いします」
「んぁ? ブライトくん。私はパイロットだよ。MSの操縦しか出来ない。指揮と言われてもねぇ……」
「しかし、パオロ艦長の容態が優れない今、この艦の指揮が出来るのは大尉しか居ません」
ブライトの目を見て、私はしっかり言った。
「ブライト少尉候補生。命令だ。君が艦の指揮を執れ。なに、心配するな。敵は倒す」
「はっ」
「励めよ」
ブライトの肩を叩いて、ブリッジから格納庫へ向かう。コロニーから出ると同時に仕掛けてくることは予想できた。
「どちらへ?」
「ちょっと戦争をしにね」
セイラの問いに答える。コイツも厄ネタだ。あー面倒くさい。
格納庫では、私服姿の少年がいた。アムロ・レイだ。ガンダムごとホワイトベースに収容されたのだろう。これから頑張れ少年。
「あの、あなた正規の軍人ですよね?」
「そうだけど」
「どうして、こんなことになったんですか!? フラウのお父さんもお母さんも死んだ。みんな殺されたんです」
「端的に言えば、ムサイが条約を破ってコロニーに攻撃を仕掛けたからだ。それを防げなかったのは私が無能だったから。これで十分かな?」
「そんなの…! おかしいでしょう!」
アムロは、拳を握りワナワナと手を震わせている。
「君には私を糾弾し殴る権利はある。ほら。やりな。一度くらいなら許すよ」
「女の人に出来るわけないでしょう…!」
「君の憤りは分かるが敵にぶつけようとは思うなよ。冷静さが重要だ」
アムロは少し気を削がれたような顔になっていた。サイド7を出たらおそらく戦闘が起きるだろう。私自身は初陣だ。アムロの方が実戦経験がある。
冷静になれと、自分にも言い聞かせる。
「ガンダムにはシールドとライフルを装備させておくようメカニックに言っておく。少年。君は、英雄になるんだ」
アムロは狐につままれたような表情を浮かべていた。
私は自身の愛機となるガンキャノンに向かった。戦闘に向けた整備やセッティングを行わなければならない。
メカニックと共に整備をしていると、軽い振動があった。多分、ホワイトベースが動き出したのだろう。流石は新造艦だ。かなりスムーズな動き出しである。
ジャブローからの打ち上げ時よりもぎこちない。まぁ、急編成されたクルーによるものだから仕方がない。
「ホワイトベース、サイド7より離脱します。モビルスーツ隊は出撃準備を!」
ホワイトベースが、サイド7のベイから出た。敵も当然それをキャッチしているだろう。
「アムロ・レイ。ガンダム、出ます」
「マリー・セラー。ガンキャノン。出る」
アムロのガンダムが先発した。私のキャノンはホワイトベースの直掩だ。ガンダムの方が硬いし、近接装備も持っている。キャノンは中遠距離用の機体だ。前に出るなんてあり得ない。
「私はロングレンジビームライフルで援護する。アムロくん。君は敵を引きつけろ。引きつけた敵は私が撃つ」
「は、はい」
ガンダムに装備させようとジャブローから持ってきた試作型のロングレンジビームライフル。これをキャノンに装備させた。
キャノン砲は邪魔だから外した。私は小隊指揮官でありスナイパーだ。前衛は部下がやって、美味しいところを私がもらうのだ。
「高熱原体複数確認。ミサイルです。ガンダム、ガンキャノン、迎撃を」
「だそうだ。アムロくん。落とせ。外したら私がやる」
「分かりました」
アムロが、ミサイルを見事に撃ち落とす。流石はニュータイプだ。外したら私が落とすとか言ったが、当たるかは知らん。
「ザクが出てくるな」
「敵のモビルスーツ……マリーさん。やれるんでしょうか?」
「作戦どおりに、やれば良い」
通常カラーのザク、そして赤く塗られたザク。合わせて2機のザクがこちらに向かってくる。
「アムロくん。前に出てくれ。しばらく耐えて欲しい」
私は、ホワイトベースの格納庫上に着艦し、ロングレンジビームライフルをホワイトベースのケーブルに接続した。
ガンダムが2機のザクに弄ばれている。シールドは切り裂かれ用を為さない。
シャアザクがトドメを刺そうと、ヒートホークを振りかぶった。無防備だった。
「くたばれ! シャア・アズナブル!」
赤いビームの光が、宇宙の闇を拓く。赤いザクはその光に巻き込まれていった。
「やったか…?」
霧が晴れると、そこには頭部と振り上げた右腕が溶け切った赤いザクがいた。一目散に逃げている。
「逃げ足が早いな! アムロくん。退いて良い」
敵のザクが、負傷したシャアを庇うようにガンダムに相対する。だが、こちらに対しては無防備だ。
ロングレンジビームライフルで、吹き飛ばす。
「うっ、人が入ってくる……気持ちが悪いッ゙!! クソ! ジオン星人のくせに人間ぶるな!!」
敵兵士の記憶が流れ込んできた私は、嘔吐していた。コロニーに毒ガスを流し込んだゴミカスのくせに。地球にコロニーを落とした非人間のくせに。どうして、そんなに人間ぶるんだ。
私が悪いことをしたみたいになってしまう。
「落ち着け。これは、戦争なんだ。殺さなければ殺されていた。そう。私は正しいんだ」
胃酸のツンとした酸っぱい臭いが、私を現実に引き戻す。
「マリーさん。大丈夫ですか!?」
「大丈夫……いや、大丈夫ではないな」
「私は職業軍人だ。戦争がはじまって人を殺すことは覚悟していた。大事な人たちを、連邦政府の市民を守るために敵を殺すんだ。でも、実際に殺してみて敵にも心があるし、守りたいものがあるって感じてしまったんだ。敵ではなくて人間じゃないか。私は人間を殺したんだ……」
「大尉は、優しいんですね」
「臆病なだけだよ……」
ホワイトベースに戻った私は、ノーマルスーツを脱いで内部を洗浄した。それからシャワーを浴びたんだ。そこまでは、確かだった。
だが、どうして私のベッドにアムロが寝ている!? 何があったんだ!!??