なんで、私がホワイトベースに!?   作:むにゃ枕

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10 私の方が先に好きだったのに……

 人類の半分が死のうと、巨大人型兵器で殺し合いをしていようと、歓楽街は依然としてそのままであった。人間のプリミティブな欲求は、戦争によって萎縮するどころか膨張するようだった。

 特に連邦軍の総本山であるジャブローは、戦前の賑わいを保っている。それどころか、開戦以降の方が賑やかなくらいだ。

 ジャブローの歓楽街の中でも、カジノは隆盛を極めていた。

 

 1人の金髪の青年が、連邦軍の軍服に身を包みカジノに入ってきた。カジノの客は、青年を一瞥するとすぐに興味を失った。青年の肩には少尉の階級章が有った。よくいる戦後急造品の少尉だと、大抵の客は判断したのである。

 

「シロウズ少尉、勝算はお有りですか?」

「全くないな。ラル曹長こそ、こういう場所は得意では無いのか?」

「余り好きでは有りませんね」

 

 シロウズと呼ばれた少尉には、お目付け役か付き人のような雰囲気の1人の男がいた。ラルと呼ばれた彼には、歴戦の風格が有った。

 

「カードか。運任せでも良いな」

 

 シロウズは、ブラックジャックが行われている台に付いた。ディーラーの女は幼さを残していた。浅黒い肌は、ある種の宝石のような艷やかさが有った。

 

「あなたは…シャア・アズナブル?」

「……人違いだ」

「じゃあ、キャスバル?」

 

 ディーラーの少女がシロウズに尋ねる。彼は、このやり取りに奇妙なデジャブを感じていた。

 

「君は?」

「私は、ララァ・スン」

「ララァか。良い名だ」

 

 シロウズは、全くララァ・スンと名乗った少女に興味がなかった。彼をこっ酷く振ったマリー・セラーのことが思い出させれて、不愉快でも有った。

 

「シロウズ少尉、彼女は何者ですか?」

「単なるニュータイプだろう」

「単なる!? それは、大事なのではないですか??」

「マリーも、ニュータイプだった。珍しいことではない」

 

 目の前で行われた会話から、ララァ・スンは目の前の王子様の心が全く別の人物に囚われていることを知った。夢で見たのとは大違いだ。

 自らの夢を辿り、ララァ・スンはジャブローの建設現場に渡り、幾つかの修羅場をくぐり抜けてカジノのディーラーとなったのである。

 

 現在の生活に満足しているわけではないが、絶望のあまり、死を選びたいと思うほどの環境でも無かった。

 いつか、シャア・アズナブルという白馬の王子様が現れることを夢見ていた乙女だった。

 

 しかし、シャア・アズナブルの心は、ここには無さそうであった。はっきり言ってララァ・スンはシャアのこのザマに失望していた。

 

「ララァ、君は私に何の用かな?」

「いいえ。何も。ただただ可哀想な人だと思って」

 

 不愉快な存在だ。ズケズケと心に入ってきて、シャアを哀れと断言する。

 

「このカジノのディーラーは、接客態度がなっていない。ラル、行くぞ」

 

 シャア・アズナブルは、愛機のザクを撃破され、ヅダという欠陥機を寄越されてから、運命の悪戯に翻弄されっぱなしだった。

 

「うわっ……なんかいる……」

「マリー!?」

 

 連邦憲兵隊を引き連れて現れたのは、マリー・セラーだった。シャアの姿を視界に入れるなり、害虫を見るような眼差しを投げてきた。

 

「セラー大尉、彼女がターゲットです」

 

 憲兵が、セラーに耳打ちをする。セラーは邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「なるほど確かにララァ・スンだ。流石はグレイヴ閣下の諜報網。間違いない」

 

 彼女の目的はララァ・スンであるらしい。シロウズにとっては、ララァ・スンはどうでも良い存在である。彼は、未だにセラーのことを諦められそうになかった。

 

「そこの少尉と曹長。不審な動きをすれば拘束する」

「奇遇だな、マリー。私は、君のことをずっと…」

「憲兵、黙らせろ」

 

 鳩尾に痛烈な一撃を喰らったシロウズは、床に這いつくばった。

 

「シャアが可哀想よ。マリー・セラー(イレギュラー)さん」

「なるほど。これはこれは……世界崩壊とかそういう危機じゃないのかな?」

「私は、ここでの暮らしが気に入っているの。ジークアクス(来訪者)が現れたりはしないわ」

 

 ララァ・スンの瞳は蒼く輝いていた。彼女の心象風景を映し出すような、蠱惑的な色だ。

 

「セラー大尉、あなたの中を見せてちょうだい」

「……嫌だな」

「見せてくれれば、少し協力してあげても良いわ」

 

 ララァ・スンから蒼い光が広がっていく。カジノの喧騒はいつの間にか消えていた。

 

「みっ、見るな…! 私を見透かすな!! やめろ!! 私は、失敗したんだ。未来を知っておきながらむざむざと! やめ、やめてください……嫌だ。いや。いや、いや、いや」

 

 ララァはセラーの瞳の奥を食い入るように覗き込んでいた。

 

「セラー大尉。あなた、とても面白いわ」

 

 彼女が、そう言って視線を外すと、セラーは蹲り嘔吐しはじめた。

 

「契約よ。私が、あなたを魔女にしてあげる。世界を滅ぼす魔女にね」

 

 ララァ・スンの笑みは吸い込ませれそうなほど蠱惑的だった。憲兵が、ララァに対して拳銃を構えるが、セラーはそれを制止した。

 

「…ぅぇ……やめろ。撃つな」

「あー、セラー大尉、大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃぁなぃ」

「肩を貸します?」

「頼む」

 

 憲兵の肩を借りセラーはよろよろと子鹿のように立ち上がる。ララァは、その様子を愉しそうに見ていた。

 

「もうすぐ、戦闘が始まるわ。私の機体は無いのかしら?」

「ジオンか……これも揺り戻しか……ガンダムNT-01(アレックス)がある……好きに使って良い」

 

 マリー・セラーはもう10年も老け込んだような気持ちだった。人類で一番、刻に近い人間であるララァは、異次元の怪物であった。

 怪物を人間が御せるわけがない。マリー・セラーは自ら爆弾を背負い込んだのである。

 

「セラー大尉、この少尉と軍曹はどうします?」

「はぁ………どうでもいい……任せる……」

 

 セラーはもう、精神的に参っていた。

 

 

 

「ララァ・スン、ガンダムNT-01(アレックス)出るわ」

「セラー大尉、あの子は誰なんです?」

「…………化物だよ」

 

 アレックスは、マリー・セラーがオーガスタ基地からジャブローに取り寄せた機体だった。アムロ。もしくは、彼女自身が乗ろうと思っていたのだ。ララァが乗っているのは全くの想定外である。

 

 ジャブローに侵入したジオン軍のモビルスーツは、ララァとアムロ、そしてセラーの3人のニュータイプの前にはあまりにも無力だった。

 赤い彗星はジャブロー内部へのジオン軍の侵入を手引きしただけで、戦場にはその姿を見せていない。そのまま逃げ帰ったのかもしれない。

 

「なんなんですか……あの機体と彼女は…?? あれは、普通じゃない」

「だから、悪霊だよ」

 

 セラーは、げんなりした顔でララァを悪霊だと断じた。

 

「あら、そんな酷いことを言うの?」

「事実を言ったまでだ」

「つれないのね」

「……金でも、コネでもなんでもするから、刻の向こうに行ってくれませんか、ララァさん? 同じ空間に居たくない」

「そう。ならそうしてあげる」

 

 ララァ・スンは、アムロ・レイの頬を押さえつけると、彼の唇に舌を捩じ込んだ。そして、そのままアムロの口内を蹂躙していく。ララァの舌は甘く、そして熱かった。

 

「アムロ、私はあなたが好きよ」

「いっ、いきなり何を…!」

「キス。私、こういうことを無理やりさせられていたの。あなたで上書きしてくれない…?」

 

 アムロ・レイは、ララァ・スンの誘惑に下半身を硬くしていた。マリー・セラーはアムロの初恋であったが、彼女はアムロを単なる庇護の対象としか見ていなかった。

 自身を対等な存在と見てくれないセラーに対して、アムロの心は冷めつつあった。

 

「…………???」

 

 セラーの脳は、よく分からない感情に押しつぶされそうだった。アムロに対して恋愛感情があったわけではない。けれど、自分を慕ってくれていることは嬉しかったし、悪くは思っていなかった。

 アムロとそういう関係になることを、全く想定していなかったわけではないのだ。

 

「…セラー大尉?」

「いや、何でもない。恋愛は個人の自由だ。ただし、艦内の風紀を壊さない程度にしてくれ」

「そうですか…!」

 

 アムロにとっては、セラーがララァとコトを進めるのを止めてくれるのだろうという期待があった。

 しかし、セラーは特に止めはしなかった。その淡泊な反応が、アムロの反発心をより強く掻き立てる結果となった。

 

「行きましょう。アムロ」

「ああ…」

 

 結局、アムロとララァは、お互いを粘膜越しに愛し合った。

 

 

「ブライト、愛など粘膜が作り出す幻想だ、という意見をどう思う?」

「それは、アムロとあなたの関係のことですか? でしたら、私は何も」

「違う……いや、違くはないのか?」

「セラー大尉、休息を取られてはいかがです?」

「宇宙に上がればすぐにソロモン攻略戦だ。そう気は抜けない」

「だからこそです」

「それも、そうだな」

 

 ホワイトベース内では、恋人関係であったアムロとセラーが破局し、アムロとララァが恋人となったという噂が、公然と事実のように語られていた。

 

「別に、私はアムロに恋愛感情を持っていたわけではないんだ。だから、アムロがララァとくっつこうとも何も思っていない」

「セラー大尉、邪魔です。業務に支障が出ます」

 

 セイラ・マスに邪険にされたセラーは、ノロノロと自室に戻っていった。

 

 ソロモン攻略戦は、特に問題なく進んでいった。連邦軍は数倍の戦力とソーラー・システムにより、ソロモンのジオン軍を押し潰した。

 

「悪夢だ。ソロモンの悪夢……ホワイトベース隊、奴を排除してくれ!!」

「宙域が違う。こっちは、便利屋じゃないんだが」

「エルラン中将の命令だ。さっさとやれ!」

 

 アナベル・ガトーは、ソロモン攻略戦の最中、連邦軍に多大な打撃を与えた。けれど、それは戦術レベルの話であり大局に影響を与えるものではなかった。

 ホワイトベース隊の尽力はあったが彼はまんまと逃げおおせた。

 

「アムロ、これ、御守り。無事に生きて戻ってきてね」

「ありがとう。ララァ。愛してるよ」

 

 ララァ・スンはアムロ・レイに()()()を渡していた。とは言え、アムロ・レイが戦死する可能性は微塵もない。なぜならガンダムNT-01(アレックス)に乗ったララァ・スンという存在が側にいるからだ。

 

 ジオン公国の敗北の日はもう間もなくだろう。

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