ホワイトベースにミデア隊がやってきた。このミデア隊はレビル派の輸送部隊である。輸送機だけでジオンの勢力圏を掠めるようにここまでやってきたのだ。非常に勇気のある部隊と言える。
「ミデア隊、指揮官のマチルダ・アジャン中尉です。よろしくお願いします、セラー大尉」
「マリー・セラー大尉だ。非常に困難な輸送任務を成し遂げてくれて大変感謝している」
「いえ、セラー大尉と会えて光栄です」
マチルダ中尉は、私と熱烈に握手した。熱量が…熱量がすごい。
「……その、買い被りすぎじゃないかな?」
「セラー大尉こそ御謙遜が過ぎます。あなたは女性士官でありながら幾度となく敵や敵のエースを退けたのです。私、あなたに憧れていました」
それは、どこのセラー大尉なんだろうか? 少なくとも私ではない。
「仕事の話に戻っても?」
「あら、私ったら……申し訳ありません」
マチルダ中尉から、物資の内訳について説明を受けた。彼女が苦労して持ってきてくれただけあって、ホワイトベースに不必要なものは何一つない。
「これで、ホワイトベースは飛べるだろう。ジャブローからは何と?」
「ヨーロッパに入れと。こちら詳細です」
マチルダ中尉から命令書を受け取る。書かれていた内容は端的に言えば囮任務の続行だった。
「大西洋を横断しヨーロッパに入ると……その後、オデッサでの攻勢に参加ねぇ。上はホワイトベース隊を何でもこなせるロボットか何かだと思っているのかな?」
「まさか。あなたがニュータイプだからこそ期待しているのです」
ニュータイプか。正直に言うと、今まで少しだけ自覚してはいたものの自分がそうだとは思いたくなかった。
ジオン・ズム・ダイクンが唱えたニュータイプ論によると、ニュータイプとは人類の革新であり、人類を未来に導く存在だ。
翻って今の私はどうだ? アムロ・レイをはじめとする子どもを兵器に乗せて、殺し合いをさせている。人の革新が聞いて呆れる。
子どもを戦わせている醜悪な大人である私がニュータイプであって良いはずがない。
ニュータイプとは、もっと高尚なものであるはずなのだ。未来を、希望を人類にもたらすものでなくてはならない。
「私は、ジャブローのモグラ志望だよ。そんな、卑劣な人間がニュータイプであって良いはずがない」
「セラー大尉が卑劣ですか? そんなはず、ありません!
マリー・セラー大尉は、孤児院から独力でジャブロー工廠のテストパイロットを務めるまで努力したのです。そして、ホワイトベースで民間人を守り抜きました。
セラー大尉は、自己評価が低いようですけれど、私はあなたのことを心から尊敬しています」
マチルダ中尉が見ているのは、私の一面に過ぎない。私は、原作知識というズルをしているのだ。私が、努力すれば戦争は起きなかったのかもしれない。
私が、あの時何かしていれば、より沢山の人が助かったのかもしれない。その後悔と重圧はいつまでも消えない。
「もし、もし仮に未来を知っていたとして、その未来を変えるために足掻いて悪い結果を導き出したら……マチルダ中尉は、どうする?」
「やってみなければ分からないでしょう。挑戦せず諦めるよりも挑戦するべきです。あくまでこれは個人的な意見ですけど」
「なるほど。参考になった。ありがとう」
それもそうだ。大体、くよくよしていても仕方ないのだ。遠慮する必要なんてない。私がやりたいようにやれば良いのである。当たり前のことがようやく分かった。
「マチルダ中尉、ミデアで前に出るなんてことはしないでくれよ。オデッサ後のウッディ大尉との結婚式には私も呼んでほしい」
「……!? セラー大尉、どうしてそれを…!?」
「どうやらこんな私でも、ニュータイプみたいだからね」
どうも私のニュータイプ能力はなかなか強いらしい。人の記憶だったりが読めるのだ。
人の心に土足で入り込むことは、人権の蹂躙だと私は思う。あまりやりたくない。今回、マチルダ中尉の心を覗いたが、罪悪感がある。
「あの、セラー大尉。僕の心に入り込むのやめて貰えませんか? ずっとファミチキくださいっていう思念が伝わってきていて、気持ちが悪いです。ファミチキってなんなんですか? 作戦上必要なものなんですか?」
「アムロくん。ほんの悪戯だよ。ファミチキくださいというのは、旧世紀のスラングさ。意味はない」
「なんなんですか!!」
アムロがご立腹である。ファミチキください。
「ニュータイプ能力の試運転だ。自分の思念を相手に伝えることが疲れるって分かった。人と分かり合うのはしんどいな……」
「こっちは、急にセラー大尉の声が聞こえてきたんですよ! そこのところどう考えているんです?」
「正直、済まなかった。ごめん」
自家発電中のアムロに繋げちゃって、こっちもかなり気まずかったんだよね……すぐ切ったけど、多分アムロも気が付いているんだろうな。
そもそも私でヌくなよ……他に、いるだろフラウ・ボウとか。それはそれでどうかと思うが。
「もう、あんなことやめてくださいね」
「ああ。もうしない」
さて、戦況分析に戻ろう。ホワイトベースは敵中で孤立している。敵はガルマ・ザビという指揮官を失ったため混乱し、散発的な攻撃を仕掛けてくるだけだ。
この戦力の逐次投入をしては、莫大な損害を出している奴らはどうも現地部隊らしい。
近くの町で、赤い彗星やら黒い三連星。そしてランバ・ラル隊がいたため、今後は奴らが仕掛けてくるのだろう。
敵が強すぎる。ホワイトベース隊だけで迎撃出来るか分からない。
マチルダ中尉は、多少の援軍は期待できると言っていた。しかし望み薄だろう。
「ブライト、敵襲だ。正面からホバーが4機。後方から、ザクとその他が来ている」
「オスカー、マーカー! 確かか…?」
「今やってます! セラー大尉のことだから合ってますよ!」
索敵は得意だ。間違っているかもしれないが、その時はその時である。
「カイ、ジョブ・ジョン。今回が初陣だ。私の誘導に従って撃て。ガンタンクは、間接射撃で後方の敵を足止めしろ」
ホワイトベースが擱座している間、単に休暇を取っていたわけではない。周辺の地形を把握し、間接射撃が可能なように測量を行なっている。
ミノフスキー粒子により、間接射撃の正確性は低下したが、依然として有効な方法ではあるのだ。
「アムロくん、敵はホバータイプだ。ザクとは違う。けれど、ガンダムの性能ならやれるはずだ」
「分かりましたよ。やれば良いんでしょう!」
囮役は勿論ガンダムが行く。ガンキャノンは中遠距離メインの機体であり、ガンダムより鈍重だ。ガンダムが前に出てガンキャノンが支援するのは、適材適所と言えるだろう。
「赤い機体……シャア…」
「ガンダムか。貴様に用はない。ガイア、オルテガ、マッシュ、ジェット・ストリーム・アタックを仕掛けるぞ」
「へっ、やってやるよ」
「お前の腕は認めているからな」
「待て、様子がおかしい…!」
赤いドムを先頭にして黒い三連星が、ガンダムへ襲い掛かる。
「カイ、ジョブ・ジョン撃て!」
アムロは良い囮になってくれた。ホバー機は強力だが、その特性上、平地を走ろうとしてしまう。
突撃路に対戦車地雷を埋め込み、支援機で座標を砲撃すれば潰せるはずだ。
「チッ、やってくれる……」
「オルテガ?? マッシュ?? おい、返事をしろ!!」
これだけ入念な準備をして、メタを取ったというのにやれたのは黒い三連星の2機だけだった。シャアのドムとガイア機であろうドムは無傷だ。
「セラー大尉!! 助けてください!! リュウさん!!? リュウさん!!」
「ハヤト、ここは俺に任せ…」
「戦車風情が、このグフに勝てると思うなよ!!」
何かが斬り裂かれる音がして、ガンタンクとの通信が途絶する。
「クソ!! 馬鹿野郎!! 私が甘かった。アムロ! 正面は任せた! カイ、ジョブ・ジョン、後方に向かう!」
前後から挟撃されていることは分かっていた。私は、黒い三連星と赤い彗星のドム4機をより高い脅威と判断したのだ。だが、それは間違いだった。
「キャノンが……おい! ハヤト! 無事か!?」
「カイくん、下がっていてくれ。あとは私がやる。ジョブ・ジョン、援護を」
グフのモノアイがこちらを捉える。ロングレンジビームライフルを即座に発砲するが、機体を捉えることは出来なかった。
「む? ヒートナイフか。やるな連邦のパイロット」
「そっちこそ」
速い! 咄嗟に仕込んでいたヒートナイフで、ヒートソードを受ける。
ヒートソードとヒートナイフでは、こちらの方が不利である。ガンキャノンみたいな鈍重な機体で軽量近接機のグフとやり合ってはいけない。
ビームライフルは、ヒートロッドで絡め取られ鉄屑になっている。
「ドム2機を撃破した。こちらは部下を殺された。この状況で手打ちにしてくれないかな?」
「ほざけ。木馬を沈める好機をみすみす逃すか!」
「そりゃ、そうだよね」
数合、斬り合ったが機体がもう保たない。
「セラー大尉、助けてください!!」
「……クソ、死にたくねぇ」
そして、味方のキャノン2機が敵のザクに人質にされている。足手まといだったか。
「よく健闘したな。連邦のパイロット。名は?」
「マリー・セラー大尉だ。私のことは殺しても良いからさ、部下の命は助けてくれないかな?」
「良いだろう」
ヒートナイフを捨てる。あー、クソ。これで終わりか……やっぱり私ってニュータイプと言うには能力不足だな。
あとは、
「むっ!? 不意打ちだと!!」
「セラー大尉、無事ですか?」
「アムロくん、少し遅かったんじゃないか?」
「赤いヤツが思いの外粘って。逃げられました…」
ガンキャノン2機を人質にしていたザクが、ビームライフルで撃ち抜かれていた。
私を庇うように、サーベルを構えたガンダム。グフもガンダムを警戒しているようだ。
「その白い奴が本命か…戦いたいものだが、カーゴをやられたくはない。楽しみは取っておくとしよう」
低空ギリギリを2機の連邦カラーの戦闘機が飛ばしていく。コア・ブースターだ。あれが、敵のギャロップに攻撃を仕掛けたのだろう。
「スレッガー、楽しんで来いよ」
無線から聞こえた男の声には、ジャズのノイズが乗っていた。
「スレッガー・ロウ少尉。只今着任しました」
「最高のタイミングだよ少尉。もっと早く来てくれれば部下が死なずに済んだ」
「そいつは運がなかった。悲しいけど、これ、戦争なんですよ」
ガンタンクの残骸から少し離れた場所で気絶しているハヤト。それを見つけたカイが泣き崩れる。リュウ・ホセイがガンタンクから脱出させたという。 リュウの死体はほとんど原型を留めていなかった。
戦争だから仕方がない。そう片付けてしまうことなんて出来ない。この世から戦争が無くならない限り、きっとこの光景は続くのだろう。