ホワイトベースは甚大な被害を被った。まず、リュウ・ホセイ軍曹が戦死した。経験を積んだ貴重なパイロットを失ったのだ。
死んだのはリュウ・ホセイ軍曹だけではない、ホワイトベースの一般クルーにも被害が出ている。
人命だけでなく、モビルスーツやホワイトベースの各種兵装もダメージを負っている。カイとジョブ・ジョンのガンキャノンが大破。私のガンキャノンもオーバーホールが必要な状態だ。ガンタンクは撃破されている。
「ブライトキャプテン、主機の調子は?」
「不良です。敵のザクにやられました」
整備したホワイトベースのエンジンもボコスカ叩かれてしまい調子が悪い。
「失ったものを数えるな。そう一般的には言われている。けれど、私には割り切れそうもない」
「大尉さんよぉ、あんた、そんなんじゃ潰れちまうぜ」
「指揮官の責任だ。そう割り切れないさ」
軽口を叩くスレッガー少尉が羨ましい。そんな余裕が私にも欲しいものだ。
「黒い三連星を全部やったんだろ? 味方の被害はこれっぽっちだ。普通に考えて大戦果だぞ。おっと怒るなよ。部外者の俺だから言えるんだ」
「スレッガー少尉、無神経過ぎます」
アムロがスレッガーをたしなめる。スレッガーの発言にも確かに一理ある。敵のエースパイロットを少ない犠牲で撃破したのだ。
「感傷的になっていても仕方がないな……ブライトキャプテン、進路をオーガスタ基地に向けろ。オーガスタ基地に協力してもらう」
「よろしいのですか…?」
「少し話をすれば、分かりあえるだろう。彼らは友軍なんだ。だから、無茶をしても助けてくれるはずだ」
ブライトは納得していない様子だ。ブリッジクルーも不審がっている。
「他に選択肢はあるかな? 私の決定に異存のある者は?」
「…このまま、ベルファスト基地を目指すことも、可能では? マチルダ中尉のミデア隊が補給をしてくれます」
「ブライトくん。実現可能性が低いことは君自身も分かっているんじゃないか? マチルダ中尉に危険を冒させることになるぞ」
「ええ。そうですね」
このまま無策で大西洋に突っ込んだら海の藻屑だ。ミデアによる補給も万能ではない。ミデアの航続距離の限界もあるし、そもそもホワイトベースがボロボロである。これ以上は無茶だ。
補給が来ないならある場所から貰えば良い。私のニュータイプ能力でオーガスタ基地司令を洗脳し、物資やモビルスーツを供出させる。
失敗したら…? もうどうなっても良いや。
これにて、ホワイトベースの今後の方針は決定した。カルトハゲに出来たのだ。私に出来ないはずがない。
冷静になって、あとから考えるとこの時の私は狂っていた。多分、部下を失ったストレスが判断能力を奪っていたのだろう。
ホワイトベースは、主機に不調を抱えている。そして、オーガスタ基地に差し掛かる空域で、不運なことに主機が停止してしまった。
それから、ホワイトベースはオーガスタ基地への軟着陸に成功した。奇跡的だ。ブラボー!
「…セラー大尉、当基地にどういった用件ですか?」
「なに、ちょっとお願いを聞いて欲しくてね」
私だけを呼び出し、初対面のようにしらばっくれる大佐。彼はグレイヴの犬だ。オーガスタ基地司令ということは、オーガスタ研究所の存在も知っているのだろう。
悪人ならばどうなっても問題はない。
「ホワイトベースに全面的に協力してもらいたい。勿論、拒否権はない」
「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
「当然、理解しています。ニュータイプを知っていますか? ニュータイプって、他者を支配することも出来るんですよ。そして、私ってそのニュータイプだそうです」
ニュータイプのプレッシャーを目の前の大佐に向けて収束させる。それから、脳を侵すように私のオーラを流し込んでいく。
「……ひっ」
「さて、
大佐は、涎を垂らし、口をパクパクと動かしている。瞳には正気の色は見られない。
「マ…
「ありがとう。では、オーガスタ研究所とグレイヴ閣下について知っている情報を全て教えてください」
「……それは、それだけは出来ません」
「本当に出来ませんか??」
お前の精神を破壊するぞと睨みつける。
「い、いえ、是非とも提供させてください」
私の支配下に置いた大佐が、せっせと書類を掻き集めてくる。
オーガスタ研究所の開発機体や、強化人間のリストをパラパラと捲る。
オーガスタ基地司令の彼は、アーレント大佐と言うらしい。脳内を覗くとなるほど真っ黒だ。悪い人間だから、洗脳しても私の良心はあまり痛まない。
「グレイヴ閣下を呼び出してくれ。これは命令だ」
「はい…」
大佐が大尉に頭を下げているのは、非常に面白い絵面だ。
180度方針転換して、非常に協力的になったオーガスタ基地が、ホワイトベースをせっせと修理してくれている。
モビルスーツの調達もしてくれるようだ。なんとも助かる話だ。
ノコノコやってきたグレイヴ閣下は、私の洗脳下にある。彼には、スレイヴ・レイス隊などの余計な部隊は作らせない。
グレイヴ閣下は、オーガスタ研究所やオーガスタ基地を担当させる。出世はしないだろう。私の駒だから仕方ないね。
考えているオーガスタ基地の利用法としては、ジオン軍人クローン量産施設だ。ジオン軍最強のニュータイプであるララァ・スン。彼女をなんとか確保し、クローンをじゃんじゃか量産し強化人間を作れば間違いはないはずだ。ついでにシャア・アズナブルのクローンも作れれば良い。
アムロ・レイの強化人間という魅力的な選択肢も頭に浮かんだが、アムロ本人が知ったらすごく嫌がりそうなのでやめることにする。大体、民間人や連邦軍人に非道な手段を取るわけがない。ジオン? あいつらは人じゃないし……
ララァ・スンはジオンであるため問題はない。将来的に味方のサラミス級を何隻も沈める奴だ。グレイヴ閣下に早めに確保してもらって、クローンの母体にした方が有効活用出来る。
「セラー大尉、何か危ないことをしました?」
「したと言ったら?」
「少しだけあなたを嫌いになります」
「アムロくんに嫌われるのは嫌だな。それに、私は悪いことはしていない。連邦に巣食う寄生虫を有効利用しただけだ」
「心からそう言い切れますか?」
アムロに真っ直ぐ見られると、そうは言い切れない。私の人形になってもらったアーレント大佐やグレイヴ閣下にも人生というものがあるのだ。それを私は蹂躙した。とても悪いことだ。
「私は、悪いことをした。けれど仕方なかったんだ。だって戦争なんだ」
「あなたが、僕たちを本当に心配してくれたのは分かりますよ。でも、相談くらいしてくれても良かったんじゃないですか?」
やけにアムロがしつこい。
「大人には、言えないこともあるんだよ」
適当に言い包めてアムロから逃げた。結局、私も汚い大人の一員だ。
お酒を飲んだので、面倒なことは全て忘れた。アムロごめん。許してくれ。
「ペイルライダーか、青はあんまり好きじゃないんだ。ジムカラーに塗り直してくれないか?」
「……いや、それはこの機体のアイデンティティが」
「アーレント大佐、精神を破壊されたいのですか?」
「滅相もない。是非とも通常のジムカラーにさせていただきます」
アーレント大佐のご厚意で、ホワイトベース隊はペイルライダーを受領した。また、ガンキャノンの修理なども行ってもらった。
ホワイトベースのエンジンもようやく快調になり、大西洋を越える準備は万全だ。
ちなみにペイルライダーのOSであるHADESは消した。なので、ペイルライダーは単なる高性能なジムである。
専属パイロットであるクロエ・クローチェは、今はオーガスタスクールという学校に通っている。
ペイルライダー・キャバルリー?? コストが高すぎる量産機はいらない。ジム系の機体で十分だ。
「ブライトキャプテン、なんだその顔は? 私は正当な手続きを通してオーガスタ基地からモビルスーツを受領しただけだぞ! 犯罪じゃない! 軍法会議にも査問会にも掛けられないから大丈夫だぞ!」
「何をしたんです? オーガスタ基地が突然、方針転換したように見えたんですが」
「コーウェン少将の威光だよ。話をしたら分かり合えた。流石はコーウェン少将だ」
ブライトがめっちゃ疑ってくる。ニュータイプ能力で洗脳したなんてことを言えるわけがない。
なのでジョン・コーウェン少将が、めちゃくちゃ政治的に有能で、素晴らしいカードを持っていたと誤魔化した。コーウェン少将はすごいなぁ……!
「セラー大尉、この機体ってなんなんですか?」
「アムロくん、これは
「なるほど、スナイパー機なんですね」
ペイルライダーからHADESをアンインストールして通常のOSを入れた機体だ。しかも私用にロングレンジビームライフルを持っている。オーガスタ製だし、ジムスナイパーⅡですね。間違いない。
ペイルライダーの尊厳が破壊されている。でも、お前は単なるジムスナイパーⅡなんだ。
「どういう手品を使ったんです?」
「
「大人って汚いですね」
アムロの好感度がぐんぐん下がっている気がするが仕方ない。これはコラテラルダメージという奴だ。
それとなくララァ・スンを捕縛するようにグレイヴに伝えたが、果たして捕まるのだろうか? ララァシリーズのクローンは絶対に強いはずだから作りたい。
「進路、ベルファスト基地。ホワイトベース出撃する」
ホワイトベースはオーガスタ基地を無事に離脱し、大西洋に向かった。トラブルが起きる要素はない。そのはずだった。
「レーダーに感あり。これは、民間機です」
「メイデイ! メイデイ! メイデイ! こちらUS-0800便。エンジン故障により支援求む!」
「支援を行う。着艦デッキ開け!」
ブライトは即座に、民間機を収容することを決定した。善性の塊だ。ちなみに、私は罠っぽいと思ったし、撃墜したいと思った。
「救援いただき感謝する。私が機長のシロウズだ」
シャアじゃん!! 頭がマッシュになってるけどシャアじゃん!!